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連奏恋歌〜歌われぬ原初のバラード〜

川島晴斗

/16/:商人

颯爽と走るキィの動きは流麗で夕陽に輝く金髪が目についた。
傭兵もドレトスも視線は俺に釘付けで足音も爆音で掻き消されるもんだから気付く様子もない。

(あの野郎……飛び出してどうするつもりだ……!?)

キィがドレトスと距離を詰める。
彼女の魔法は見たことないが、ナイフを持っているし脅すも殺すも可能なはず。
飛び出して何をする?
俺は昼に集まって、できるだけ殺すなとは言った。
しかし、この状況では俺が殺されたっておかしくはない、とも見える。
可能が殺すかどうかは定かではない。
だから――。

「【無色魔法(カラークリア)】、【音響サウンド】――」

唇に魔法を宿す。
キィがドレトスの元に着くまであと2秒もないだろう。
俺は息を吸い、精一杯の叫びで言った。

『殺さないでくれ!!!』
『!!?』

耳鳴りがする程の声量で放った声はこの場の全ての行動を止めた。
一瞬ひるんだキィのあし、魔法を止めた傭兵、腰を抜かして倒れたドレトス。
誰がどう考えても、ただの命乞いにしか聞こえなかっただろう。
しかしその時、立ち止まったキィが俺を見た。
真摯な眼差しで青い瞳が俺を映す。
わざわざ音響サウンドを使った意図も、俺の言いたいことも察してくれたようだ。
俺はただ黙って頷きを返した。
それを合図に、キィは再び砂を蹴る。

「――!?」

攻撃が止んでたからか、砂を蹴る音にドレトスが気付いて顔をキィに向ける。
だが、もう遅い。
キィはドレトスの頭を掴み、袖口から出したナイフを首元に突き付けた。

『――っと』

その様子を見ていると、下から火の玉が飛んできて頭スレスレで木の葉に当たる。
火が燃え移り、この足場も使い物にならなくなった。
音響サウンドを解除し、木を蹴って【無色魔法】で宙に浮かぶ

「お前ら後ろを見ろ! 雇い主がどーなっても良いのか!?」
「なっ!? いつの間に!」
「チッ!」
「あのジジイ、何してやがる!?」
「ひ、ひぃぃぃいいい!!」

自分の雇い主の情けない姿に文句を垂らす傭兵たち。
ドレトスは悲鳴をあげるだけで何もできずにいた。
まぁ、普通なら首元にナイフを突きつけられて正気じゃいられないわけだ。

「雇い主が死んだらお前らは報酬を貰えねぇだろうし、多分この大陸からも出られねぇ。殺人がいつどこで起きてもおかしくないこの大陸から出られなくなったら、困るだろ? 攻撃を止めろ。そしてここから3000歩、北に向かって歩け。全員だ。そうすれば、ドレトスもじきに向かわせる。文句があるなら言えば良いが、ドレトスの命の保証はない。いいな?」

返答は誰もしなかった。
けれど、この状況では傭兵達も手の打ち様がないのは明白で誰とも言わずに北に向かって前進を始めた。
ドレトスとキィは、ただ動かずその様子を見ている。
傭兵達全員の姿が見えなくなると、俺は砂の上に降り立ってキィの元へと歩いた。

「サンキューな、キィ。助かった」
「いや。にしても、ヤラランよえーんだな」
「うっせーよ。今日は両腕筋肉痛で動かなかったんだよ」
「言い訳とは、男らしくないね〜」
「あーはいはい。悪かったよ」

こいつもこいつで女らしくない。
しかし、応援は嬉しかった。

「……ナイフはもう下げてくれ」
「いいのか?」
「あぁ、いい。その代わり、お前といた奴らを呼んできてくれ」
「……わかった」

スッとキィがナイフを引き、袖に収める。
すぐにきびすを返して海岸に向かって行った。

「……さて、ドレトス。どうするよ?今なら1対1だ。戦うか?」
「……バカが。ただのジジイが、勝てるわけないだろう……」
「……そうかもな」

諦観している模様で、最早戦闘になることもないだろう。

「……お前が単に勘違いしただけだけど、それでも交渉材料としてレーノスくんとの出来事を出しちまったのは、悪かったよ」
「……ハッ。今更謝られたってどうしようもない」
「そうだな。商人ってのはそんなこと言う奴ばっかりだ」

静かに黒魔法を発動する。
夕陽に伸びた影から俺の背丈程の麻袋が出現し、袋に気付いたドレトスが首を傾げる。

「……なんだ、それは?」
「中には1億フラ入ってる」
「!?」
「俺の私財の一部だ。欲しい分だけ包んで構わねぇ。全部でもいいさ。それで今回のことは手打ちにしてくれよ」

目前の男は口を開いたまま動かない。
それもそうだ。
1億フラといえばそれは、東大陸で一生遊んで暮らせる額だ。
そいつを持ってけと言われても、頭がパニックになるだけだろう。

「……お前、頭どうかしてるぜ。さっきまで殺そうとしていた人間に、金払って仲直りしようだ?」
「そうだけど、嫌だったか? まぁ仲直りで金を渡すなんてのはおかしな話だしな。でも原因は金だろう? ならいいじゃねぇか」
「……後で返せっつっても知らねぇぞ?」
「言わねぇよ。ほら、さっさと持って行け」
「…………」

ドレトスは立ち上がった。
そして砂に唾を吐き捨て、俺の目を覗く。
俺の至って平然とした顔はどう映っただろう。
ドレトスは口元を吊り上げて笑った。

「ハハッ。こりゃあ確かに、善魔力の多い男かもなぁ」
「疑ってんのかよ?」
「そりゃオメェが此処に居るからな」
「自分から来たんだよ。やることがあってな」
「へぇ、そりゃ俺と同じだ。大事な商売があるだから、お前にこれ以上時間を使ってらんねぇんだ」

言って、ドレトスは後ろを向いた。
北の方へと、背筋良く――。

「……持ってかねぇのか?」
「俺にも俺の誇りってもんがある。貰わねぇよ。そんでもって、お前よりも金持ちになってやる。今に見てやがれ、このクソガキが」
「……あぁ、期待してるぜ」

日が暮れ行く。
紫に染まる空は月を出し、美しい光を世界に浴びせる。

ドレトスのおっさん、ただの感情的な奴かと思えば良い所もある。
東大陸に戻った時に、コイツの名を聴く事を期待しよう。

「おーい村長〜」
「ヤララン、まだ話してんのかよ」
「おーお前ら。あの岩からここまで100mやそこらぐらいだろ? もっと足早に来いよ」

索敵の奴らがやっとここまで歩いて来た。
男女問わず若い奴総勢7名、おじいちゃんじゃないんだからもっと早く来い。

「ん……?」

その時、ドレトスが振り返った。
俺たちの様子を見て一言、こう言った。

「ヤララン、そいつ等はお前が連れて帰る奴隷達か?」

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