連奏恋歌〜歌われぬ原初のバラード〜
/14/:知人
昼食を取ってからは作戦を変えて出た。
とにかく死なない為に団体行動を取るように、そしてできれば敵を殺さずに説得するようにと言い聞かせ、森に動物を獲らせる班と索敵班を行かせた。
畑作りの所は家を作らせている。
そして俺は、フォルシーナに連れられて先ほど来た無人の小屋に戻っていた。
中に入るとすぐにフォルシーナは紙を拾い集め、白紙の書類を俺に見せつけたる。
見せつけられたってわかるわけがないし、そして邪魔だ。
紙を奪い取り、取り敢えず眺めてみる。
「こいつは?」
「魔力痕を保存する紙です。東大陸の役所にも似たようなので住民登録が行われてるでしょう?」
「まぁ、そうだな」
「村内で犯罪が起きて、それが魔法によるものなら犯人の特定もできますし、役に立ちます。これを全員に触れさせてください。触るだけで魔力を識別してくれますから」
「はーん……」
紙の束をぴらぴら揺さぶる。
ふむ、イマイチ現実味が無い話だ。
「では任せましたよ。私はとにかくお手洗いを作らなくては……」
「あ? ここは見た感じ、元は村だろ? あるんじゃねーの?」
「詰まってるに決まってるでしょうが。数も足りませんしね。フフフフ、私の神楽器でさっさと作ってやりましょう」
「そうかよ……まぁ、頑張れや」
「フフフフ、やってやりますよっ」
目を光らせるフォルシーナを置いて、俺は小屋を後にする。
紙を触れさせるのは夕食の時に集まったらで良いだろう。
まだ食料が集まってないから誰かが全て持ち出せないように、全員揃って食べるという決まりを作っておいたのだった。
どちらにしても料理できる奴も限られているため、仕方ないのだが。
もっと人数が増えれば、色々な作業も楽になるのだが、仲間を探す当てもないのが現状。
俺たちは今、自分のできることをするしかないのだ。
「……魚獲り行くか」
魚獲りの2人が居なくなったので、その代役を俺は務めよう。
再び俺は海へと向かった。
釣りではなく素潜りで魚を見つけては赤魔法で強化した拳によって即死させる。
魚を手に収めると影の中にしまってまた潜る。
顔周りに結界を張れば何分でも潜っていられたので1回で数匹捕まえることもあった。
そんなことを何時間続けたか、海面がオレンジ色になって来た頃に海から浜辺に上がる。
「いててて……。うおー、筋肉痛だ……。商会じゃ身体動かさねーから、結構柔になってんな」
海だと沈んでしまうメイルだけを脱いで泳いでいたが、裸になった上体は所々筋肉痛で動かせなかった。
……暫く休んで行こう。
俺は岸辺に1人座り、服装を整えてヴァイオリンも背負う。
重い。
やっぱり楽器は下ろしてオレンジ色の海を眺めた。
こちらは東側、太陽は無かった。
けれど白の雲がピンクに染まり、潮の満ち行く海も、ザザーンと波打つ音も綺麗だった。
世界は広い、綺麗な景色もたくさんある。
だから冒険というのは辞められないと実感する。
4年の行商でも幾つもの景色を見た。
こういうものは心に染み渡るものだろう。
願わくば誰かと一緒に同じ光景が見れれば良いのだが、それはまたの機会に。
「……戻るか」
ヴァイオリンを影に仕舞い、立ち上がる。
すると筋肉痛の腕が悲鳴を上げた。
「……いって〜。今日は、もう休んでるか……」
「おぉ、ヤラランじゃねぇか!」
「……あん?」
最近は急に呼ばれることが多いなと思いながら振り向く。
夕日を背にした男達が数人立っていた。
男のうち殆どが鎧を身に纏い、剣や槍を携えている。
その中央にいるのはワイシャツにセーターを着込んだ男……。
円型ハゲにふっくらとした顔にはちょび髭がある。
ふむ……誰だか全くわからん。
「……誰、お前?」
「……誰……だと……?」
「知らねぇよ。それに、俺は名前覚えんのが苦手なんだ。許せ」
「……まぁいい。だがおまいださせてやらんと気が済まんなぁ……!」
「そうか。じゃ、自己紹介頼む」
「ケッ!」
砂に唾を吐き捨てる中年親父。
印象最悪だな。
こんなの知り合いにいたっけ?
フォルシーナがいりゃわかるんだがなぁ……。
「本来ならば貴様に名乗る名も無いが、特別に教えてやる! 私はリオ・ドレトス! ドレトス商会の会長だ!」
「……そうなのか」
「貴様! ドレトス商会と言ってもわからんと言うのか!?」
「実際俺は、あんま商会に興味ねーしなー」
善意盛りだくさんの俺が金儲けしようなんざ思わねぇ。
大体の事はフォルシーナが勝手にやったし、そりゃ俺もやることはやってたが、商会云々の事情なんてのもよくわからない。
だけど、契約した商会なら大体憶えてる。
ドレトス商会は知らん。
「ならば昔、貴様達が我が息子を誑かし、商品をぶんどったことも忘れたのかっ!?」
「はぁ? そんなことしてねーよおっさん。こちとら世界一善意の多い男だぜ?」
「黙れクソガキめ! この法も秩序もない島で成敗してくれるっ!! 傭兵達よ、アイツを殺せっ! 報酬は弾むぞっ!!」
『うおおおおおぉぉ!!!』
「…………」
どうやら聞く耳持たないらしい。
傭兵達は剣を抜き、俺を殺さんと迫ってくる。
仕方がない、ならば俺も剣を抜こうーー。
「ーーッ」
抜こうとして、腕が軋んだ。
筋肉痛――。
全くこんな時に――。
「ふんっ!!」
「チィッ!!」
迫り来る傭兵の1人が槍を横薙ぎに振るう。
咄嗟にしゃがみ込んで躱し、右に転がる。
――ドン。
「うぉ!?」
追撃は物理攻撃ではなく魔法だった。
【赤魔法】による火炎弾が砂を荒らし、俺の体を吹き飛ばす。
地面が砂場だからか、ゴロゴロと転がる体にはダメージが無い。
だが、炎、水、光の弾幕が後に続いて襲い来る。
「クソが――! 【無色魔法】!」
体制を立て直すと共に重力操作で飛び上がり、魔法弾を避ける。
空に闇雲に撃つ事は無駄と判断したのか、一度攻撃は止んだ。
「……ったくよー。こちとら手を動かしたくねーのに、お前らのせいで大変じゃねーか!」
両手を敵に向かって翳す。
俺の構えをどう捉えたのだろうか、傭兵達は何人かが此方に手を構え、何人かは剣を盾にし、中でも――1人は笑っていた。
何をしていようが関係はない、とにかく黙らせる。
「【力の――」
「落ちろ!!」
「ッツ!?」
力の四角形を発動する直前に俺の体は砂浜へと垂直落下した。
どさりとうつ伏せに落ち、腕が完全に言うことを効かなくなる。
どうやら向こうに、【無色魔法】を使う奴が居たらしいーー。
「クソッ! 面倒くせぇなぁああ!!!」
「死ねぇええ!!」
「報酬は俺のものだぁあ!!」
なんとか起き上がるも腕はダラリと下がり、傭兵達が迫り来る。
足は動く、もう逃げるしかないのか――。
いや、【赤魔法】を使える奴がいる。
筋力増強しても追って来る奴はいるだろう。
引いて村に戻るよりも、此処で俺1人居なくなる方がマシだが――。
「誰が死ぬかよぉおおお!! 【緑魔法】っ!!」
足元より枝がが絡まって出来た巨木が出現する。
木は俺の体を押し、空高くまで枝を伸ばした。
頂部に俺は座り、1度休憩を取る。
直径3mはある木を出した、流石にこれを切ったり燃やしたりするには暫し時間がかかるはずだ。
「……ハッ……ハッ……」
息遣いが荒い。
海に何時間も潜ってて体力も無く、戦闘になるとはかなりの災難だった。
「汚い男めっ!! 1度ならず2度までも高い所に逃げるなど、まるで猿だ!! 忌々しい!! そこでお前が見下ろしてると思うと吐き気がする!!」
商会のおっさんが喚き散らす。
そんなことはどうでもいい、俺は作戦を考えるために頭をフル回転させる。
この状況を打開できる作は正直ある。
物質創造をする黒魔法で剣をたくさん生み出し、ここから無色魔法で落としまくれば全滅させるのは容易い。
だが、できれば殺したくない。
どうにかしてこの諍いを収めたいのだが……。
「ドレトスだったな。お前、俺になんの恨みを持ってるんだよ?」
とすると、会話しかない。
俺は商人の男に話しかける。
「恨み? お前が憶えてないのなら教えてやろう! 傭兵、一旦手を止めてくれ!」
ドレトスの指示を聞いて木を滅多打ちにする傭兵の手が止まる。
誰かが魔法で放った火が付いているが、まだここまで登ってくるには時間がいるだろう。
「心して聞け! お前のした傲慢な行為を……!」
そしてドレトスは語り出す――。
とにかく死なない為に団体行動を取るように、そしてできれば敵を殺さずに説得するようにと言い聞かせ、森に動物を獲らせる班と索敵班を行かせた。
畑作りの所は家を作らせている。
そして俺は、フォルシーナに連れられて先ほど来た無人の小屋に戻っていた。
中に入るとすぐにフォルシーナは紙を拾い集め、白紙の書類を俺に見せつけたる。
見せつけられたってわかるわけがないし、そして邪魔だ。
紙を奪い取り、取り敢えず眺めてみる。
「こいつは?」
「魔力痕を保存する紙です。東大陸の役所にも似たようなので住民登録が行われてるでしょう?」
「まぁ、そうだな」
「村内で犯罪が起きて、それが魔法によるものなら犯人の特定もできますし、役に立ちます。これを全員に触れさせてください。触るだけで魔力を識別してくれますから」
「はーん……」
紙の束をぴらぴら揺さぶる。
ふむ、イマイチ現実味が無い話だ。
「では任せましたよ。私はとにかくお手洗いを作らなくては……」
「あ? ここは見た感じ、元は村だろ? あるんじゃねーの?」
「詰まってるに決まってるでしょうが。数も足りませんしね。フフフフ、私の神楽器でさっさと作ってやりましょう」
「そうかよ……まぁ、頑張れや」
「フフフフ、やってやりますよっ」
目を光らせるフォルシーナを置いて、俺は小屋を後にする。
紙を触れさせるのは夕食の時に集まったらで良いだろう。
まだ食料が集まってないから誰かが全て持ち出せないように、全員揃って食べるという決まりを作っておいたのだった。
どちらにしても料理できる奴も限られているため、仕方ないのだが。
もっと人数が増えれば、色々な作業も楽になるのだが、仲間を探す当てもないのが現状。
俺たちは今、自分のできることをするしかないのだ。
「……魚獲り行くか」
魚獲りの2人が居なくなったので、その代役を俺は務めよう。
再び俺は海へと向かった。
釣りではなく素潜りで魚を見つけては赤魔法で強化した拳によって即死させる。
魚を手に収めると影の中にしまってまた潜る。
顔周りに結界を張れば何分でも潜っていられたので1回で数匹捕まえることもあった。
そんなことを何時間続けたか、海面がオレンジ色になって来た頃に海から浜辺に上がる。
「いててて……。うおー、筋肉痛だ……。商会じゃ身体動かさねーから、結構柔になってんな」
海だと沈んでしまうメイルだけを脱いで泳いでいたが、裸になった上体は所々筋肉痛で動かせなかった。
……暫く休んで行こう。
俺は岸辺に1人座り、服装を整えてヴァイオリンも背負う。
重い。
やっぱり楽器は下ろしてオレンジ色の海を眺めた。
こちらは東側、太陽は無かった。
けれど白の雲がピンクに染まり、潮の満ち行く海も、ザザーンと波打つ音も綺麗だった。
世界は広い、綺麗な景色もたくさんある。
だから冒険というのは辞められないと実感する。
4年の行商でも幾つもの景色を見た。
こういうものは心に染み渡るものだろう。
願わくば誰かと一緒に同じ光景が見れれば良いのだが、それはまたの機会に。
「……戻るか」
ヴァイオリンを影に仕舞い、立ち上がる。
すると筋肉痛の腕が悲鳴を上げた。
「……いって〜。今日は、もう休んでるか……」
「おぉ、ヤラランじゃねぇか!」
「……あん?」
最近は急に呼ばれることが多いなと思いながら振り向く。
夕日を背にした男達が数人立っていた。
男のうち殆どが鎧を身に纏い、剣や槍を携えている。
その中央にいるのはワイシャツにセーターを着込んだ男……。
円型ハゲにふっくらとした顔にはちょび髭がある。
ふむ……誰だか全くわからん。
「……誰、お前?」
「……誰……だと……?」
「知らねぇよ。それに、俺は名前覚えんのが苦手なんだ。許せ」
「……まぁいい。だがおまいださせてやらんと気が済まんなぁ……!」
「そうか。じゃ、自己紹介頼む」
「ケッ!」
砂に唾を吐き捨てる中年親父。
印象最悪だな。
こんなの知り合いにいたっけ?
フォルシーナがいりゃわかるんだがなぁ……。
「本来ならば貴様に名乗る名も無いが、特別に教えてやる! 私はリオ・ドレトス! ドレトス商会の会長だ!」
「……そうなのか」
「貴様! ドレトス商会と言ってもわからんと言うのか!?」
「実際俺は、あんま商会に興味ねーしなー」
善意盛りだくさんの俺が金儲けしようなんざ思わねぇ。
大体の事はフォルシーナが勝手にやったし、そりゃ俺もやることはやってたが、商会云々の事情なんてのもよくわからない。
だけど、契約した商会なら大体憶えてる。
ドレトス商会は知らん。
「ならば昔、貴様達が我が息子を誑かし、商品をぶんどったことも忘れたのかっ!?」
「はぁ? そんなことしてねーよおっさん。こちとら世界一善意の多い男だぜ?」
「黙れクソガキめ! この法も秩序もない島で成敗してくれるっ!! 傭兵達よ、アイツを殺せっ! 報酬は弾むぞっ!!」
『うおおおおおぉぉ!!!』
「…………」
どうやら聞く耳持たないらしい。
傭兵達は剣を抜き、俺を殺さんと迫ってくる。
仕方がない、ならば俺も剣を抜こうーー。
「ーーッ」
抜こうとして、腕が軋んだ。
筋肉痛――。
全くこんな時に――。
「ふんっ!!」
「チィッ!!」
迫り来る傭兵の1人が槍を横薙ぎに振るう。
咄嗟にしゃがみ込んで躱し、右に転がる。
――ドン。
「うぉ!?」
追撃は物理攻撃ではなく魔法だった。
【赤魔法】による火炎弾が砂を荒らし、俺の体を吹き飛ばす。
地面が砂場だからか、ゴロゴロと転がる体にはダメージが無い。
だが、炎、水、光の弾幕が後に続いて襲い来る。
「クソが――! 【無色魔法】!」
体制を立て直すと共に重力操作で飛び上がり、魔法弾を避ける。
空に闇雲に撃つ事は無駄と判断したのか、一度攻撃は止んだ。
「……ったくよー。こちとら手を動かしたくねーのに、お前らのせいで大変じゃねーか!」
両手を敵に向かって翳す。
俺の構えをどう捉えたのだろうか、傭兵達は何人かが此方に手を構え、何人かは剣を盾にし、中でも――1人は笑っていた。
何をしていようが関係はない、とにかく黙らせる。
「【力の――」
「落ちろ!!」
「ッツ!?」
力の四角形を発動する直前に俺の体は砂浜へと垂直落下した。
どさりとうつ伏せに落ち、腕が完全に言うことを効かなくなる。
どうやら向こうに、【無色魔法】を使う奴が居たらしいーー。
「クソッ! 面倒くせぇなぁああ!!!」
「死ねぇええ!!」
「報酬は俺のものだぁあ!!」
なんとか起き上がるも腕はダラリと下がり、傭兵達が迫り来る。
足は動く、もう逃げるしかないのか――。
いや、【赤魔法】を使える奴がいる。
筋力増強しても追って来る奴はいるだろう。
引いて村に戻るよりも、此処で俺1人居なくなる方がマシだが――。
「誰が死ぬかよぉおおお!! 【緑魔法】っ!!」
足元より枝がが絡まって出来た巨木が出現する。
木は俺の体を押し、空高くまで枝を伸ばした。
頂部に俺は座り、1度休憩を取る。
直径3mはある木を出した、流石にこれを切ったり燃やしたりするには暫し時間がかかるはずだ。
「……ハッ……ハッ……」
息遣いが荒い。
海に何時間も潜ってて体力も無く、戦闘になるとはかなりの災難だった。
「汚い男めっ!! 1度ならず2度までも高い所に逃げるなど、まるで猿だ!! 忌々しい!! そこでお前が見下ろしてると思うと吐き気がする!!」
商会のおっさんが喚き散らす。
そんなことはどうでもいい、俺は作戦を考えるために頭をフル回転させる。
この状況を打開できる作は正直ある。
物質創造をする黒魔法で剣をたくさん生み出し、ここから無色魔法で落としまくれば全滅させるのは容易い。
だが、できれば殺したくない。
どうにかしてこの諍いを収めたいのだが……。
「ドレトスだったな。お前、俺になんの恨みを持ってるんだよ?」
とすると、会話しかない。
俺は商人の男に話しかける。
「恨み? お前が憶えてないのなら教えてやろう! 傭兵、一旦手を止めてくれ!」
ドレトスの指示を聞いて木を滅多打ちにする傭兵の手が止まる。
誰かが魔法で放った火が付いているが、まだここまで登ってくるには時間がいるだろう。
「心して聞け! お前のした傲慢な行為を……!」
そしてドレトスは語り出す――。
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