連奏恋歌〜歌われぬ原初のバラード〜

川島晴斗

/12/:不問

 後ろから短剣で脅しているのは見えないだろうが、男の両腕を縛っていることから女性は子供を庇うように身を乗り出していた。
 おそらく、家族なのだろう。
 男は所々赤い衣服を身に纏っているが、女性の方は汚れ一つない水色のドレスを着ている。
 推察するに、最近この大陸に連れて来られたのだろう。

りぃ、しくじった……」

 男がポツリと呟く。
 その言葉を聞いて母親らしきその金髪の女性は俺に睨みを効かせた。
 俺はひるむことなく、ただテキトーに短剣を放り投げる。
 カランカランと音を立て、やがて魔力の塊でできたそれは静かに消え去る。

「……え?」

 その呟きは誰のものだったか。
 そんなことは気にせず、俺は背にある大剣を抜き、地面に突き刺して腕組みをする。
 戦意が無いと言いたかったが、これで伝わるかはわからない。

「別に俺はお前らを殺すつもりなんてない。少し話がしたいだけだ。だが、お前ら次第で俺はお前らをどうとでもできる。その事を念頭に入れて話をしてくれないか?」
「…………」
「…………」

 男と女の目が交差する。
 男の気難しそうな顔を見て何を感じたのか、女性の方は肩を落として首を縦に振った。

「今すぐに命を奪われないだけでもありがたいです。どうか、その話というのを聞かせてはくれませんか?」
「あぁ、わかった」
「……あっ」

 束縛リストレイントによる拘束を解除すると、男は驚きから間抜けな声を出した。
 怪しげに俺を見たが、笑顔をくれてやるとなんとも言えない表情を作り、気まずそうに近くの岩に座った。
 俺はそれを確認すると、立ったまま発言する。

「単刀直入に問うが、お前らかその仲間は、海で魚を捕る半裸の男を殺したか?」

 もう答えはわかりきった質問だった。
 女の近くにある魚はどうやって取ったのか、そんなのはわかりきってるんじゃないだろうか?

「……殺した。お前の仲間だったのなら、すまない」
「!  あなたっ!」
「…………」

 旦那の方は素直に答えてくれた。
 殺した、という言葉に嘘はないだろう。
 なぜ自分に都合が悪くなる嘘を吐くのだ。

「……あぁ、お前が殺したのは俺の仲間だ。刺殺か?」
「……そうだ。背後から、斬った……」
「……そうかよ」

 魚を手にしてた所を後ろからバッサリやったのが目に浮かぶ。
 ネルビィスは自分の仕事を最後までこなしてくれていた。
 ……後でしっかりと弔ってやろう。

「殺した理由は、食料調達か?」
「……そうだ。とにかく何かが食いたかった。そのためなら狂って人を殺せた。高貴じゃいられねぇ」
「……貴族だったのか?」
「そうだ。だが政府に嫌われ、失墜し、この様だ……。あぁ、別に同情を買おうってんじゃない。お前の仲間を殺したのは悪いと思っている。俺だって……家族を殺されたくない」
「…………」

 俺は一度目を閉じた。
 誠実な男だ、と思う。
 でも俺はナルスの事もあって、言葉がどこまで本当か、表情がどこまで本物なのかわからなくなっていた。
 どこまでが嘘か、そう疑うように。
 だけど、俺が人を疑うようではいけない。
 今は言葉を全て信じよう。

「お前らの事情はわかった。今度は俺の事情を聞けよ」

 そこでようやく、俺は腰を下ろした。
 動けば視線は全てそこに集まるから。

「俺の名前はヤララン。貴族なら聞いたことぐらいあんだろ?」
「!  ヤララン商会の――!?」
「商会長だ。まぁ肩書きなんざここでは関係ない。俺の今が重要なはずだ。その話を聞け」
「……あぁ」

 俺も同じ様に連れて来られたと予想したのか、男に同情の目を向けられる。

「……俺は自分からこの大陸に訪れた。と言ってもクソ野郎共みてーに奴隷を見つけに来たわけじゃない。此処で国をおこす」
「!?  国を!?」
「そのために、まずは村作りから始めている。人口は32人だった。なのにお前のせいで1人居なくなった。人手が足んなくて大変だってのに、どうしてくれるんだって言うやつだ」
「…………」
「…………」

 親2人が冷や汗つたう顔を見合わせる。
 苦境なのが目に見えているからな。
 だが、終わったことに目を向けていたらどうしようもない。

「そこでお前らには村人になって欲しい。悪い話じゃないだろう? 俺の目の届かないところで殺しでも起きない限りは俺がお前らの命を保証する。食料が不足すれば俺が東から持ってくるし、奴隷狩りからも防げる可能性は協力関係を結んでる方が高い。奴隷になりゃ家族が離れ離れになるかもしれねぇからな。それは嫌だろ? 別に全部の話を鵜呑うのみにしろとは言わねぇが、どうだ? 俺達の仲間にならねぇか?」
「……仲間って……俺の罪を、不問にするというのか?」
「そうだ。本当は嫌だがな。けどお前らは村人じゃない。俺の村のルールに縛られてない以上、俺の仲間が殺されようと文句は言えねぇ。それに、誰にだって事情はあるだろう。それがわからねぇほど俺はガキじゃねぇよ」

 話は終わりだと言わんばかりに立ち上がる。
 だって、こいつらが話を振る理由が無いのだから。
 殺し合いが頻繁で、いつまで男は母と子を守れるのだろうか――?

「おい旦那。お前の名前は?」
「……カズラ・レ――。いや、旧姓はもうない、か。カズラだ」
「そうか。女房さん、アンタは?」
「……フリュウ」
「娘っ子、お前は?」
「……カラウ……です」
「……そうか」

 全員の名前を頭に入れる。
 まぁ俺は物覚えが悪いし、忘れるかもしれないが――今覚えられればそれで十分だ。

「カズラ、フリュウ、カラウ。俺に協力してくれ。どうせいつかは死ぬその命、世界のために使ってみないか――?」

 両手を広げ、俺は訊ねた。
 まだ幼いカラウはともかくとして、親の2人は快く頷いたのだった。

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