連奏恋歌〜歌われぬ原初のバラード〜
/9/:未来像
その後は幾つかルールを決め、全員で確認してから別れた。
残ったのは俺とフォルシーナ、そしてキィ。
「キィは帰らねぇのかよ?」
「私は家に住んでねぇんだよ。どう見ても家の数と人間の数が合わねぇだろうが」
キィの言うように、ここら辺に建っている家の数は20前後。
30人を超える人間が1人ずつ住んでいるとしたら、数が足りない。
「私みたいな雑魚は野宿しながら、家に住んでる奴らの暗殺を目論んでたんだ。もうその必要もないだろうけどな」
「家ならヤラランが建てますよ」
「おいクソ従者。あんまり適当言ってるとぶん殴るぞ」
腕組みをしてフォルシーナを睨む。
銀髪の少女はフッと小馬鹿にするように笑い、1枚の紙を俺に向けて広げた。
描いてあるのは建物の設計図、大きさは大体10m四方といったところだった。
「設計図があれば、後は【緑魔法】か【黒魔法】で作れるでしょう? お願いします」
「よし、そこに直れ。全身脱臼させてやるからよ」
「ヤララン、できないのかい?」
「…………」
キィが不思議そうに訊いてくる。
できるかできないか、と聞かれたら俺はできると答える。
だけれど、何でもかんでも俺がやればいいってもんじゃないだろう。
「これからは村で協力してやっていくんだ。俺がやったらみんなラクしたがって協力なんかしなくなるだろ?」
「そういうもんか?」
「そういうもんだ。みんなで家づくりやら食料調達限の確保で明日からは忙しくなるぞ」
「ヤララン、お前ケチなんだな」
「…………」
近くにいる女性は酷い奴ばかりだ。
そんなことを思いながら、俺たちは適当な場所に結界を張って眠りについた。
目が覚めたのは日の出たばかりの早朝のこと。
空がピンク色になっている光景をのんびり見ながら木に凭れ掛かり、暇を持て余していた。
「……平和なもんだな〜」
結界は探知能力があった。
侵入を阻むのはもちろんのことだが、触れられれば俺は起きる様な仕組み。
だが、俺は起きなかった。
誰も俺の暗殺を目論んでいないという風に見てもいい。
それは反抗的だった奴は捕らえているからだが、にしても俺を殺そうと考えている奴は少なくとも32人の中にはいない。
これは良いことだ。
捕らえている人の数は7人。
奴らも改心して演技でも村人をやってくれれば幸先が良いが、その辺はぼちぼちやるとしよう。
今は最低限やるべきことに手を尽くそう。
「……そういや、風呂も作りてぇなぁ……」
目を閉じ、浮華なことを考える。
人の体臭なんてそんなに気にもしないが、湯に浸かるというのはこの上ない体の癒しだ。
大陸は広いし、機会があれば温泉でも掘り当てたいものである。
「……ぼちぼちだなぁ」
なんにしてもぼちぼちやって行くことだろう。
住民は大人ばかりで子供は5人程度と少ないこの土地、なんとか興していこう。
「おーい、ヤララン」
「んあ?」
名前を呼ばれ、首だけを動かして呼んだ相手を見る。
結界が反応しないから中の人間、そしてこの男みたいな口調。
「起きたか、キィ」
「お前より遅起きとは……私もまだまだだと痛感したよ」
「もう毎日ビクビクして生きなくても良いから、それでいーんだよっ」
「まだ不安だけどねぇ」
言いながらキィが俺の横に腰を下ろす。
隣に座るあたり、こいつは大分俺の事を信頼してきたな。
「にしても、アンタ大陸を往来できんのか。どういう原理だよ? 凄い金持ちだったりするのか?」
「金持ちだし、ここには魔法で飛んできただけだ。例の神楽器で魔力40倍にしたらここまで来れるさ」
「……それで国を作りに来たって、アンタとんでもない馬鹿だな」
「馬鹿だが、面白いだろう?」
「確かにっ、それは納得だよ」
ニヤリとキィが笑う。
これからの事は俺にも想像のつかないこと。
でも、きっと楽しめる。
みんなで一緒にやるんだから。
「キィ、ちょっとどうでもいい話を聞いてくれないか?」
「?  どうでもいいなら話さなきゃいいだろ?」
「まぁこれからのことに少し関係あるんだよ。暇潰しだと思って聞けっ」
「はいはい、今は暇だし聞いてやるよ」
「おー。そりゃあどうも」
俺は、空を見上げた。
そして独り言のようにポツリと呟く。
「これは東大陸のとある王様の推測らしいんだが、この世界の善意と悪意のバランスは平等らしいんだ」
「……善意と悪意が平等? 善魔力と悪魔力の量が同じってことか?」
「端的に言えばそうなる。だからな、誰かの善意が増えれば誰かの悪意が増えるんだ」
「…………」
キィはこれでいて頭の切れる奴だ。
何が言いたいかわかったのだろう。
しかし、あえて俺は自分の口で言った。
「この大陸を平和にすればどっかしらで内乱が起こるだろう。嫌なことにな。そして次に行われるのは、善魔力の多い人間が殺される」
「は!? なんで――」
そこまで予想できてなかったのか、キィは声を荒げた。
だが、これも少し考えればわかることだ。
「世界全体で善意が減れば、悪意も減る。ひでぇもんだと思われるかもしれねぇが、そのときは俺も誰かしらに殺されるだろう。それまでにはなんとか国を作っておきたい」
自称世界一善魔力の多い男。
実際に魔力が多いし、それが悪魔力によるものだとは俺は思えず、善意の量がきっと多いと信じている。
だからこそ、時がくれば死ななくてはならない。
「……そんで、俺が死んだらお前が女王でもなんでもやってくれ」
「は? 私なんかにできるわけがないだろ?」
「どうだかな……。協力してもらう手前、お前は俺と殆ど共に行動してもらおうと思ってる。そしたらお前の善意はおそらく跳ね上がる。今は想像つかなくても、未来のお前なら良い国作れると思うぜ?」
「…………」
キィは目を閉じた。
何を考えているのかはわからないが、すぐにそれは口に出るであろう。
「……なんで私なんだ?まだ会って2〜3日だろ?それに、フォルシーナでもいいだろ?」
「あのバカ従者は生産職しかできねぇよ。お前を選ぼうと思ったのは……勘としか言えねぇ」
「なんだそりゃ……。ほんとにバカなんだな」
「どうとでも言えばいいさ。俺は頭が悪りぃ。なんの考えもなく平和になりゃいいと思ってる」
頭の後ろに手を回し、木に凭れ掛かる。
取り敢えず飛びだしゃいい、なんてわけにもいかないはずだった。
もし本当に善意と悪意が平等という世界の仕組みがあるとするなら、壊滅的な大陸が無くては成り立たないんだから。
「まぁ、今の話はまだまだ先の話だ。何年後かもわからないから頭の隅にでも置いとけ」
「はいはい。精々そんな未来が来ないことを祈っとくよ」
膝に手をやり、キィが立ち上がる。
「どこか行くのか?」
「取り敢えずな。まったく、清々しい朝に変な話聞かせやがって」
「そら悪かったなっ。また後で」
「おう」
金髪を振りながら立ち去って行く。
その後ろ姿を、俺はのんびりと頬杖を着きながら眺めていた。
「……軽率なんじゃないですか、ヤララン?」
「うっせーよ。起きてんなら声掛けろ」
すぐ後ろから新たに声がする。
声の主は勿論我が従者のもので、俺は顔も向けなかった。
「空気読んでたんです、察してください」
「どんな空気だよ。お前なんてハゲてしまえ」
「意味わかんないですよそれ……」
キィの座っていた位置にフォルシーナが座る。
キィは胡座をかいて座っていたが、フォルシーナは体育座りだ。
座り方とは性格が出やすい。
そんなことはどうでも良いのだが。
「でも、ほんとになんでキィなんですか? まさか惚れたとか?」
「んなんじゃねーよ。俺はただ、あいつがいい奴だと思った。それだけだよ」
最も、それは信じたいというだけの話。
実際に良い奴か悪い奴かなんてのはどこまで行ったって本当のことはわからない。
まぁあの豪胆な性格だ、良い奴だったなら王に向いてるだろう。
それに、俺とファーストコンタクトを取ったのだから、これから先なにかと一緒に行動することが多いとは思う。
俺達と共にたくさんのことを学んでくれれば、或いは、な……。
「それにしても、ヤラランも死ぬのですか」
「時が来れば、その時には死ぬさ。だけど、死なない為にお前にも作って欲しいものがある。何年かけても良い。こればっかりは作れるかわからないからな」
「……また魔力増幅とか無茶言うつもりですか?」
「いや、もっと難しい」
「……左様ですかっ」
がっくりとフォルシーナが項垂れる。
まぁ気持ちもわからんでもないが、俺の生き死にが掛かってるから一応頑張ってもらいたいところだ。
「で、そいつは一体なんですか?」
「善意と悪意を変換を行う物だ。できれば剣が良い」
「そうですか。勝手に死んでてください」
「見捨てる気かよ!?」
立ち上がるフォルシーナの裾を掴み、引き止める。
掴まれた腕を鬱陶しそうに睨みながらも、渋々と座り直してくれた。
「……善意と悪意の変換?v善意が世界一多い男が、悪意が一番多い男になるんですか?」
「そうだ。神楽器で40倍になった俺の悪意と善意が変換されれば、世界全体では善意が足りなくなって世界中の人に善意が宿る。そこで頑張って俺を封印してくれ。これが成功すれば、世界全体の善意の比率が増やせるだろ?」
「…………」
「……なんだよ?」
「結局死ぬってことじゃないですかっ……」
またフォルシーナが項垂れた。
しかし、今回は呆れたからでは無く、愕然としたからだろう。
「死ぬんじゃねぇよ。封印だからな。封印はそのうち解いてくれ。そしたら万事解決だろ?」
「いやいや、そんな簡単に行くわけが……」
「そこをなんとかするのがお前の役割だ。まぁこれもまだ先の話、胸にとどめる程度にしておけ」
「……わかりました」
ここまで聞くと、フォルシーナはすっくと立ち上がる。
「どこ行くんだ?」
「海でも見て来ます。清々しい朝が台無しですから」
「……そら悪かったなっ」
それだけ残して、フォルシーナが遠くに消えて行く。
如何せん俺は人の朝を台無しにするのが得意らしい。
なんとか直したいものだ。
残ったのは俺とフォルシーナ、そしてキィ。
「キィは帰らねぇのかよ?」
「私は家に住んでねぇんだよ。どう見ても家の数と人間の数が合わねぇだろうが」
キィの言うように、ここら辺に建っている家の数は20前後。
30人を超える人間が1人ずつ住んでいるとしたら、数が足りない。
「私みたいな雑魚は野宿しながら、家に住んでる奴らの暗殺を目論んでたんだ。もうその必要もないだろうけどな」
「家ならヤラランが建てますよ」
「おいクソ従者。あんまり適当言ってるとぶん殴るぞ」
腕組みをしてフォルシーナを睨む。
銀髪の少女はフッと小馬鹿にするように笑い、1枚の紙を俺に向けて広げた。
描いてあるのは建物の設計図、大きさは大体10m四方といったところだった。
「設計図があれば、後は【緑魔法】か【黒魔法】で作れるでしょう? お願いします」
「よし、そこに直れ。全身脱臼させてやるからよ」
「ヤララン、できないのかい?」
「…………」
キィが不思議そうに訊いてくる。
できるかできないか、と聞かれたら俺はできると答える。
だけれど、何でもかんでも俺がやればいいってもんじゃないだろう。
「これからは村で協力してやっていくんだ。俺がやったらみんなラクしたがって協力なんかしなくなるだろ?」
「そういうもんか?」
「そういうもんだ。みんなで家づくりやら食料調達限の確保で明日からは忙しくなるぞ」
「ヤララン、お前ケチなんだな」
「…………」
近くにいる女性は酷い奴ばかりだ。
そんなことを思いながら、俺たちは適当な場所に結界を張って眠りについた。
目が覚めたのは日の出たばかりの早朝のこと。
空がピンク色になっている光景をのんびり見ながら木に凭れ掛かり、暇を持て余していた。
「……平和なもんだな〜」
結界は探知能力があった。
侵入を阻むのはもちろんのことだが、触れられれば俺は起きる様な仕組み。
だが、俺は起きなかった。
誰も俺の暗殺を目論んでいないという風に見てもいい。
それは反抗的だった奴は捕らえているからだが、にしても俺を殺そうと考えている奴は少なくとも32人の中にはいない。
これは良いことだ。
捕らえている人の数は7人。
奴らも改心して演技でも村人をやってくれれば幸先が良いが、その辺はぼちぼちやるとしよう。
今は最低限やるべきことに手を尽くそう。
「……そういや、風呂も作りてぇなぁ……」
目を閉じ、浮華なことを考える。
人の体臭なんてそんなに気にもしないが、湯に浸かるというのはこの上ない体の癒しだ。
大陸は広いし、機会があれば温泉でも掘り当てたいものである。
「……ぼちぼちだなぁ」
なんにしてもぼちぼちやって行くことだろう。
住民は大人ばかりで子供は5人程度と少ないこの土地、なんとか興していこう。
「おーい、ヤララン」
「んあ?」
名前を呼ばれ、首だけを動かして呼んだ相手を見る。
結界が反応しないから中の人間、そしてこの男みたいな口調。
「起きたか、キィ」
「お前より遅起きとは……私もまだまだだと痛感したよ」
「もう毎日ビクビクして生きなくても良いから、それでいーんだよっ」
「まだ不安だけどねぇ」
言いながらキィが俺の横に腰を下ろす。
隣に座るあたり、こいつは大分俺の事を信頼してきたな。
「にしても、アンタ大陸を往来できんのか。どういう原理だよ? 凄い金持ちだったりするのか?」
「金持ちだし、ここには魔法で飛んできただけだ。例の神楽器で魔力40倍にしたらここまで来れるさ」
「……それで国を作りに来たって、アンタとんでもない馬鹿だな」
「馬鹿だが、面白いだろう?」
「確かにっ、それは納得だよ」
ニヤリとキィが笑う。
これからの事は俺にも想像のつかないこと。
でも、きっと楽しめる。
みんなで一緒にやるんだから。
「キィ、ちょっとどうでもいい話を聞いてくれないか?」
「?  どうでもいいなら話さなきゃいいだろ?」
「まぁこれからのことに少し関係あるんだよ。暇潰しだと思って聞けっ」
「はいはい、今は暇だし聞いてやるよ」
「おー。そりゃあどうも」
俺は、空を見上げた。
そして独り言のようにポツリと呟く。
「これは東大陸のとある王様の推測らしいんだが、この世界の善意と悪意のバランスは平等らしいんだ」
「……善意と悪意が平等? 善魔力と悪魔力の量が同じってことか?」
「端的に言えばそうなる。だからな、誰かの善意が増えれば誰かの悪意が増えるんだ」
「…………」
キィはこれでいて頭の切れる奴だ。
何が言いたいかわかったのだろう。
しかし、あえて俺は自分の口で言った。
「この大陸を平和にすればどっかしらで内乱が起こるだろう。嫌なことにな。そして次に行われるのは、善魔力の多い人間が殺される」
「は!? なんで――」
そこまで予想できてなかったのか、キィは声を荒げた。
だが、これも少し考えればわかることだ。
「世界全体で善意が減れば、悪意も減る。ひでぇもんだと思われるかもしれねぇが、そのときは俺も誰かしらに殺されるだろう。それまでにはなんとか国を作っておきたい」
自称世界一善魔力の多い男。
実際に魔力が多いし、それが悪魔力によるものだとは俺は思えず、善意の量がきっと多いと信じている。
だからこそ、時がくれば死ななくてはならない。
「……そんで、俺が死んだらお前が女王でもなんでもやってくれ」
「は? 私なんかにできるわけがないだろ?」
「どうだかな……。協力してもらう手前、お前は俺と殆ど共に行動してもらおうと思ってる。そしたらお前の善意はおそらく跳ね上がる。今は想像つかなくても、未来のお前なら良い国作れると思うぜ?」
「…………」
キィは目を閉じた。
何を考えているのかはわからないが、すぐにそれは口に出るであろう。
「……なんで私なんだ?まだ会って2〜3日だろ?それに、フォルシーナでもいいだろ?」
「あのバカ従者は生産職しかできねぇよ。お前を選ぼうと思ったのは……勘としか言えねぇ」
「なんだそりゃ……。ほんとにバカなんだな」
「どうとでも言えばいいさ。俺は頭が悪りぃ。なんの考えもなく平和になりゃいいと思ってる」
頭の後ろに手を回し、木に凭れ掛かる。
取り敢えず飛びだしゃいい、なんてわけにもいかないはずだった。
もし本当に善意と悪意が平等という世界の仕組みがあるとするなら、壊滅的な大陸が無くては成り立たないんだから。
「まぁ、今の話はまだまだ先の話だ。何年後かもわからないから頭の隅にでも置いとけ」
「はいはい。精々そんな未来が来ないことを祈っとくよ」
膝に手をやり、キィが立ち上がる。
「どこか行くのか?」
「取り敢えずな。まったく、清々しい朝に変な話聞かせやがって」
「そら悪かったなっ。また後で」
「おう」
金髪を振りながら立ち去って行く。
その後ろ姿を、俺はのんびりと頬杖を着きながら眺めていた。
「……軽率なんじゃないですか、ヤララン?」
「うっせーよ。起きてんなら声掛けろ」
すぐ後ろから新たに声がする。
声の主は勿論我が従者のもので、俺は顔も向けなかった。
「空気読んでたんです、察してください」
「どんな空気だよ。お前なんてハゲてしまえ」
「意味わかんないですよそれ……」
キィの座っていた位置にフォルシーナが座る。
キィは胡座をかいて座っていたが、フォルシーナは体育座りだ。
座り方とは性格が出やすい。
そんなことはどうでも良いのだが。
「でも、ほんとになんでキィなんですか? まさか惚れたとか?」
「んなんじゃねーよ。俺はただ、あいつがいい奴だと思った。それだけだよ」
最も、それは信じたいというだけの話。
実際に良い奴か悪い奴かなんてのはどこまで行ったって本当のことはわからない。
まぁあの豪胆な性格だ、良い奴だったなら王に向いてるだろう。
それに、俺とファーストコンタクトを取ったのだから、これから先なにかと一緒に行動することが多いとは思う。
俺達と共にたくさんのことを学んでくれれば、或いは、な……。
「それにしても、ヤラランも死ぬのですか」
「時が来れば、その時には死ぬさ。だけど、死なない為にお前にも作って欲しいものがある。何年かけても良い。こればっかりは作れるかわからないからな」
「……また魔力増幅とか無茶言うつもりですか?」
「いや、もっと難しい」
「……左様ですかっ」
がっくりとフォルシーナが項垂れる。
まぁ気持ちもわからんでもないが、俺の生き死にが掛かってるから一応頑張ってもらいたいところだ。
「で、そいつは一体なんですか?」
「善意と悪意を変換を行う物だ。できれば剣が良い」
「そうですか。勝手に死んでてください」
「見捨てる気かよ!?」
立ち上がるフォルシーナの裾を掴み、引き止める。
掴まれた腕を鬱陶しそうに睨みながらも、渋々と座り直してくれた。
「……善意と悪意の変換?v善意が世界一多い男が、悪意が一番多い男になるんですか?」
「そうだ。神楽器で40倍になった俺の悪意と善意が変換されれば、世界全体では善意が足りなくなって世界中の人に善意が宿る。そこで頑張って俺を封印してくれ。これが成功すれば、世界全体の善意の比率が増やせるだろ?」
「…………」
「……なんだよ?」
「結局死ぬってことじゃないですかっ……」
またフォルシーナが項垂れた。
しかし、今回は呆れたからでは無く、愕然としたからだろう。
「死ぬんじゃねぇよ。封印だからな。封印はそのうち解いてくれ。そしたら万事解決だろ?」
「いやいや、そんな簡単に行くわけが……」
「そこをなんとかするのがお前の役割だ。まぁこれもまだ先の話、胸にとどめる程度にしておけ」
「……わかりました」
ここまで聞くと、フォルシーナはすっくと立ち上がる。
「どこ行くんだ?」
「海でも見て来ます。清々しい朝が台無しですから」
「……そら悪かったなっ」
それだけ残して、フォルシーナが遠くに消えて行く。
如何せん俺は人の朝を台無しにするのが得意らしい。
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