連奏恋歌〜歌われぬ原初のバラード〜

川島晴斗

/8/:これから

 家を訪ねると玄関先でナイフを構える人間もいたが、大抵の奴は協力に応じてくれた。
 俺たちをどこまで信用して行動してくれているかはわかりっこないが、一先ずは協力に感謝して握手を交わし合った。
 反抗した人たちや戦った大男とその屋敷に居た女達は【黒魔法】で拘束し、村はずれの住居にまとめておいた。
 取り敢えず、簡易な独房と言ったところだろう。
 だが、みんながみんな痩せこけている。
 独房にずっと拘束されていてはストレスも溜まるし辛いはず。
 そのうち反省して、協力的になるだろう。
 自分が生きるためにも――。

 夜、昼間倒した男の家にあった主に肉や魚などの食料を出して取り敢えず決まった住民候補を集めて皆で食べあっていた。
 風の無い暗い村で、焚き火を全員で囲んでいる。
 囲んではいるが、全員距離を取り合っている。
 これから同じ村人になる、と一概に言われても信用できないだろう。
 俺だってこの中で全員が俺に忠誠的とは思っていない。
 誰かが裏切ることがあるだろう。
 だが、その警戒心をを掌握するためにおきてを作るのだ。

「皆、一旦手を止めて聞いて欲しい」

 パチパチと火が音を立てる。
 総勢32人と少ないが、全員に目を向けるとみんなが俺の顔を見ていた。

「これから村でのルールを決める。東大陸から流れて来た奴なら、法律を決めると思ってくれていい。これがないと、村でみんなが不安になるからな。そして、こればっかりは俺1人で独裁的には決めない。仕事とかは俺が決めさせてもらうけどな。いいな?」

 背後に立つフォルシーナ以外が曖昧ながらにも頷く。
 キィなど村が想像もつかない人はわからないのだから頷くしかなかったのだ。
 結果的に独裁的なのかもしれない。
 でも、それは今だけだ。
 これから村を作って、慣れれば皆意見を言ってくれるだろう。

「ただ、ルールについてはこれだけは決めさせてくれ。まず絶対条件として、人間は殺しちゃいけない。殺した者は禁固刑……まぁ閉じ込めるって事だ。食事は出すが、外には出させない。殺して村から逃げたら俺が場合によっては殺しに行くだろうな。反対意見がある奴はいるか?」
「禁固刑って罪軽くないか? 腕を切るぐらいしたら……」

 1人の男が疑問を口にする。
 罪が軽い、か。
 今の村人の人口は32人、1人死ぬだけでも痛手なのはそうだし、軽いかもしれない。
 だが、

「人は反省できる。俺はそう信じたい」
「反省したフリならいくらでもできるだろ。危険だ」
「確かにな。でも疑ってたらキリがない。疑いだけで腕を切るなんて、そっちの方が酷くないか?」
「…………」

 男は顎に手を当てて考え始めた。
 腕の細い、痩せこけた印象の男だ。
 村作りに積極的な印象で、中々良い奴っぽい。

「お前、名前は?」
「ん? 俺か?」

 名前を訊くと、パッと顎から手を離してこちらを見る。
 大きく開いた目だが、縦長の瞳が猫っぽい印象を与える。
 俺はお前に訊いてるんだと頷いた。
 住居を回った時に訊いてはいたが、いかんせん覚えていない。

「……俺はタルナだ」
「そうか。お前らには一度言ったが、俺はヤララン。タルナ、お前には色々相談とか頼めそうだ。よろしく頼むぞ」
「……あぁ、よろしく。西大陸で村起こそうなんていう馬鹿な話に乗れて光栄だよ」
「なにが馬鹿だっつーのっ」

 俺は苦笑いを浮かべた。
 軽口を叩く辺り、タルナは村作りをかなり面白がっている。
 頼りになりそうな男だ。

「ヤララン、脱線してんぞ」
「わーってるっつーの。キィ、お前も黙ってねーでなんか言え。取り敢えず言えよ」
「は? じゃあ、食事は1日2回?」
「その辺は自分で勝手にしてくれ……」

 キィに意見を訊いても、まともなものは出なかった。
 まぁそりゃそうか。
 しかし、たくさん食べたいというのはわかるし、それも1つの意見だろう。

ちなみに、食事の材料は一箇所に管理するが、持っていくのは書留かきとめを残してくれれば好きに持って行って良いようにしたい。字は俺や東大陸から来た奴で教えたい。この点で意見はあるか?」

 全員の顔色を伺う。
 特に反対はなさそうだった。

「じゃあ決まりだ。肝心の料理だが、そんなもん俺は作れん。今度東大陸から引き抜いてくるからそれまで各自で頑張ってくれ」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」

 言い終えると、1人の女性が声を張り上げた。

「なんだ?」
「東大陸から引き抜くって、貴方は東大陸と行き来ができるの!?」
「あぁ、できる」
「!」

 隠すことなく素直に答える。
 答えられた女性は驚きのあまりに口をあんぐりと開けた。

「ちょっと、ヤララン……」
「良いんだよ。どうせすぐ知られることだ」

 フォルシーナが耳元で囁くが、あえてここは喋らせてもらう。
 フォルシーナのため息が後ろから聞こえたが、気にせずに行こう。

「じゃあ、東大陸に連れてってよ! 村なんて作らないで!」
「住民登録って言葉を知ってるか? 身元不明の奴を連れていく訳にはいかないんだよ」
「でも……でも……!」
「お前らが安心、安全に暮らしたくて東大陸に行きたいっつーのは理解できる。でもな、これからここを安全にしようっつってんだよ。そしてな、俺はこうも考えてる」
「……なに、よ……?」
「俺は大陸全土をまとめ上げ、一つの国を作る」
『!?』

 これには全員が驚いたようだった。
 大陸をまとめ上げる。
 非行、殺人が日常と聞くこの西大陸でだ。
 誰もが不可能と思う筈なんだ。
 でも、非行をやりたくてやる悪い奴だけで、本当にこの大陸は構成されてるだろうか――?

「人には善意が誰にでもある。お前らの善魔力が多いか少ないか、そんなのは知ったことないが、善い心はある。ならまとめ上げることができる。俺はそれがやりてぇんだ。だから、まずはみんな、俺に協力してくれ」

 真摯な瞳で全員を見やる。
 声を出すものは、誰もいなかった。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品