光を待ち望むひと
光を待ち望むひと
 先日、ハムスターの餌と、マット用のおが屑等を買いにいった時に、一目惚れした子がいた。
 名前を読むと『ベルジアン・グリフォン』とあり、生後半年の女の子だった。
 一目惚れしたのには、訳がある。
 フワフワくるんくるんの毛並みと、つぶらな瞳…そして、想像していただけると良いのだが、黒くて小さなトイプードルの体にパグの顔。
 かなりのインパクトと共に、そのしぐさが可愛かった。
 ゲージに顔をくっつけるようにして見つめていたのが異様だったのか?
 すると時々、ハムスターの用品を購入するついでに、シュナウザーばかり抱かせてもらっていたので覚えていたのか…、店員さんが、
「そちらのベンチに座られて、だっこしますか?」
「良いんですか!?」
 何時もなら、少し躊躇うのだがどうしても欲求に負け、抱かせてもらうことにした。
 実家にはジャック・ラッセル・テリアがいて、6キロくらいあるが、この子は小さく華奢だった。
「軽い!!それにこしがあって柔らかい毛並み!!」
呟くと、
「小型犬ですから」
と言われ、つい、
「いえ、家の実家に、ジャック・ラッセル・テリアがいて、その子、病院では大丈夫と言われるぐらい元気で、太ってはないんですけど、6キロあるんです」
「えっ!?」
「あ、本当は、その子の兄弟犬をこの前見たら、もっと大きかったです」
 子犬の背中を撫でながら答える。
「そちらは太って…?」
「いえ。二回り大きかったです。体重12キロあるそうなので。体高もこんな感じですか?もう、中型ですよ!!って感じです」
「でしょうねぇ…」
と感心される。
「実家の子もその子も毛が長くて、ほっておくともさもさボウボウです。お兄さん犬はウェーブないんですけど、実家の子は放置しておくと、かなりの確率でジャック・ラッセル・テリアとシュナウザーの雑種だって言われます。やんちゃなんですよね…ジャック・ラッセル・テリアは」
「そうですね。運動量が小型犬でも多くないといけませんしね」
「やっぱりそうなんですね。朝晩散歩に行くんです。父が忙しくなければ二回とも長時間、早くて一時間位長いと二時間は行っています。父がいけないときには母が。雨の日も連れていってます。じゃないと家中を走り回って、色々なところに隠しておいたおもちゃを持ってきて『投げて?』って催促しますね」
 肌触りが…気持ち良い。
「この子も…必要ですか?」
「いえ。適当…と言うか、ジャック・ラッセル・テリア程は必要ないですね」
「そうなんですね…素敵だなぁ…こんなに可愛い子がいたんですね。私は犬が好きで、知ってるつもりでしたけど…こんな可愛い子知らなかったです!!」
「そうなんですよ。この子は、図鑑に…」
 置いていた犬図鑑をめくると、
「この子と同系列異種です。愛嬌があって、いい子ですよ」
 その言葉通り、名前はあった。
 同じ図鑑を持っている私でも、思い出せるはずはなかった。
 ブリュッセル・グリフォンの同型異種…。写真は、ブリュッセル・グリフォンの明るい色の写真。そして、簡単な略歴と、一行くらいに名前があった。
 いくら、脳内引き出し持ちの私でも、引っ掛からなかったはず…名前しかない。
 余りにも可愛く、愛おしい…一目惚れだった。
 元々、自分は、結婚できないだろうな…と思っていた。
 性格に、難があるからだ。
 自分について言うのもなんだが、表向きは黙っている振りをしているものの、納得がいかないと食って掛かる。
 我慢強さもあるとは思うが、様子を…状況を見ていて『ばっかじゃないの!?』と、あきれるだけしか思えない、一方的に自分が正しいとしか言わない…いいや、それ以外、自分の非を認めようとしない、勝手気ままな親族を持っているからである。
 祖父が死んだときも、自分はこんなにやったんだ。これだけやったんだから、できるほど偉いんだから、その分を寄越せだの祖父の遺骸の横で怒鳴りあう叔母たちのののしりあいに、長女の母はおろおろするだけ。祖母は泣くだけで叱ることもない。
 この通夜の席の騒動に…親類は呆れ返り、父や私たち孫が手分けして葬式の準備をしたと言うような家であり、未婚の叔母が3人もいれば…兄が結婚しても、兄嫁に辛い思いをさせると思っていたし、妹と弟は結婚しても良いし、独立させて…兄嫁と生まれてくる甥姪を守るのが役目だと信じていた。
 それに、神経質で警戒心が強い性格である。
 慣れる…他人と一緒に暮らす…?そんなのは考えられなかった。
 結婚に夢を持てなかった。
 どうせ、親戚付き合いだの、挨拶回りだの…しなければならないし、どうせ金銭面で揉めて葬式で恥をさらすなら、結婚なんてしたくないし…子供は欲しいが、旦那はいらないと思った。
 それに、見合いをしても、話題がない。
 私はアウトドア派ではないし、車を自慢されても…ふーん…としか言えない。
 煙草が基本駄目なので、煙草を吸う人の車には乗れない。
 車酔いも酷いので、移動は寝て移動…その自分に次々と見合いをセッティングした人と、付き添いで来た兄達が、問いかけても、返答できることがない。
あったとしても、こうだった。
 本人はアウトドア派で、何かをしているのが面白いのかと聞くと話すが、専門的なことを問いかけると黙り込んでしまう。
 向こうは多分、普通のお嬢さんとしか思えなかっただろうし、野暮ったい黒縁の眼鏡の女が、その人がいった川の近くに、ある歴史上でも知られている場所なんですが、行かれました?などと聞くのだから向こうもムッとすると思う。
 しかし、女にとって、車を数百万円で改装して、川の中を走れる…凄いでしょう?そのエンジンに車のかたちにと自慢されても…思うのは、
『勿体無い。まぁ、趣味はそれぞれだけど、散財して、借金作るよりも、それを貯金すれば良いのに…』
と思うだけで、ニコニコと接客業の笑みを張り付け微笑む。
 と、いつのまにか、結婚したらと言う話にまで飛んでいる。
『はぁ…!?誰がうんと言った?車に乗ることが出来ないのは兄貴も知ってるだろうに!!』
 慌てて、兄の方を見るが、兄は面白そうに、
「行ってみたいですねぇ!!楽しそう」
と言っている。
 こりゃ駄目だ…全然こっちの事を考えない。
 一応、好きでもなく嫌いでもないラインから一気に落ちる。
『 で、毎週末は友人たちと分乗して、テントを張って遊ぶのが趣味で…川釣りに山菜獲りに、夏は海で…やりましょうよ!!』
と言われても、
『じゃぁ…週末潰れるの?はぁ!?何で。私にだって用事あるのに無視?じゃぁ友人と結婚すりゃ良いじゃん。めんどくさい…』
となる。
 紹介してくれた人には申し訳ないけれど…、断ろうと思っていたら、向こうから断られた。
 それはそれで、あぁよかった。なのだが、紹介してくれた方が不憫がり、紹介してくれたが、その人物がくせ者だった。
 一言目には、
『前の女は…』
と繰り返し、
『はぁ!?お前、その年になって、資格ひとつも持ってねぇの!?馬鹿だろ!?前の女は、仕事しつついくつも取ってたぞ!!お前、車の免許から取りに行け!!』
と、勝手に契約しようとして、
「カード出せ」
「持ってないよ。契約社員だし…」
「はぁ!?お前馬鹿だな!!」
と罵られる。
 会うたび会うたび、苦痛の、精神的な疲労が増す。
 でも、一回断られたからと我慢し…9か月後ブチキレた。
 ストレスと不眠と、逆流性胃腸炎で、ドクターストップがかかり、仕事をやめたときも、
「はぁ!?俺に連絡もなく辞めた!?何考えてんだよ!!」
と電話口でさんざん怒鳴られ、萎縮する…。病気で辞めたから、失業保険を貰えることになったというと、
「俺、お前みたいに何にも出来ない女のために保険払ってるわけ?お前何様?」
 そして、身体を治しつつ主治医に許可をもらい、職業訓練に行くことになったと報告すれば、
「ふーん。仕事もしないで、金もらい続けるのか?じゃぁ、貰った金で髪形服、化粧品全部揃えろよな!!お前、なんなの?その格好。一応彼女にしてやったんだ。それなりにしろよ」
…で、キレた。
「何様のつもり!!この自意識過剰男!!あんたなんて、前の女前の女って言いながら二股かけてんじゃない!!紹介してくれた人に言ってやる!!死ね!!この人でなし!!」
 何時も黙っているか、ボソボソと言い訳している女の激怒にひるんだように、
「な、何いって…」
「うるさいわ!!この!!資格がなんだって!?使えてこそ資格だろ!?使えもしない資格を通信でやって通ったって、意味ないだろうが!!それくらいわからんのか!!そんな馬鹿に何で私が付き従わないけんのや!!お前なんか…死ね!!クズ!!」
 そういって、電話を切ると即座に番号を消し、メルアドも消去した。
 それ以来、友人としてカラオケにいく男性はいるが、他の友人もいるので気にならない。
 でも、独り暮らしを選ばざるを得ず…移った家は寂しい…。
 病の治癒を目的にしているとはいえ、狭くとも一人は孤独である。
 だから…動物を飼うことで癒しが欲しかったのだ。
 病院は3つ通っている。
 幼い頃から通う内科と、体の節々が痛む、しびれる、ひきつる…それを治すための理学療法の病院、そして…心療内科。
 不眠と電話が怖いし、外に出るのも本当は怖い。
 携帯は持たないといけないのだが…怖くて、普段は持ち歩いても、夜は押し入れの奥にしまう。
 なぜなら…昔…毎日のように夜中にメールをかけてきた友人がいた。
 こちらも不眠症のため、薬を飲んでいるのに、『起きてる?』と入る。
『今薬飲んで寝てるから…明日にして…』
と送ると、『私が眠れんのに、何で真剣に聞いてくれんのよ!!』とキレられ、目をショボショボさせながら必死に薬による強引に墜落するような睡魔と戦いつつメールを返す。
それが、早朝の4時まで続き、最後に、
『もう、悪いけど私寝る。起こさんといて。うるさいから』
と言う文言で終わる。
 こちらは、もう、完全に目が冴えている。
 昼間も、怖い。
 ずっと向こうからメールが途切れることなく続く。
『お風呂に入ってくる』
とあり、ほっとするが、5分もしないうちにメールが入る。
『出たよ。私が入ってる間、テレビ見たでしょ?何があったの?』
『これがこうなって…』
とメールに打ち込み、説明していると、その間に録画していたものを確認していたらしく、
『違うじゃない!!嘘つき!!これくらい覚えてよ!!』
 になる。
 で、こちらが、
『私は、お風呂に入ってくるね~?下着とか洗うから、遅くなると思うけどごめんね?』
と送り、それでも自分では急いで入ったつもりだった。
 15分…その間にメールが10通入っていた。
 最初は『いってらっしゃい』だったが、次第に『もう何分経ったら出るのよ!!』になり、最後には『無視してるのか!?私を!!無視する前に、返事寄越せやこらぁ!!』となって…蒼白になる。
 何で?ちゃんと、お風呂はいるってメールしたよね?もうちょっと待っててって…なのに、これは何?私は、この子に何をしたの?無視?そんなことしてないのに!!
 慌てて、びしょびしょのままメールを返すが返事はない。
そして、30分位して、
『これで分かった?あんたがしたのはこれだよ!!』
と、返されたとき、絶望と失望しかなかった。
 見ているテレビの内容が同じテレビを見ているのに、内容のメールが入ってくる。
 遊びに行くと言うのに、10時の約束の時間にしていても、7時過ぎに、
「もう、着いてて、近くのファーストフードの店で待ってるから来て」
と、メールが入り、慌てて飛び出し、向かうと、
「何で?もう食べちゃったのに、注文するのよ!!出掛けるよ」
「お店の開店は10時からでしょう?もうちょっとここでゆっくりしようよ」
「人が多くて嫌なの!!」
と食って掛かられる。
 何度も言ってもこちらが謝罪しなければ、駄目…。
 それだけでなく、突然朝7時に家にやって来た。
「朝御飯持ってきた。食べよう」
 「えぇぇ!?どうしたの?始発は!?バスの時刻は、繋がりにくくない?大丈夫だったの?」
「眠れなかったから、家から歩いて、で、電車できたよ」
 一応、片付け案内すると、
「お金」
と言われ、お金を払い、朝御飯を食べるが、そのまま彼女は横になり寝てしまう。
 何をすることもできず、そのまま起きるまでごそごそしていると10時ごろに目を覚まし、
「じゃぁ、帰る。じゃぁね」
と、帰っていった。
 そういう日々が繰り返され…次第に人に会うのが怖くなる…。
 携帯が鳴らないように、音を消しても、チカチカランプが着くかもしれないと、メールを返さないと、前のようなメールが来る!!
 怖くて、電話を遠くに隠した。
 でも、連絡先として必要で、でも、怖くて…となり、病院で先生にその人との交友関係を絶ちなさいと言われる。
 でも、あの子を一人にしたら、薬を一気に飲むこともあるし、リストカットをしたらどうしよう…と考えた。
 怖かった…絶望したし苦しいし、でも見捨てられずに、何ヵ月も悩んだあげくに、別の県に住んでいる友人に相談する。
『えぇぇ!?』
と驚かれ、
『もう!!何でもっと早く、言わなかったの!?』
と説教を受けるが、優しい。
『もういいよ。頑張ったんだから…肩の荷を降ろしなよ』
と言われ号泣した。
 それ以来、遠すぎず近すぎない関係で保てる友人が数人のみ…。
 会うことはほとんどない。
 私が怯えるからである。
 怒鳴り声が聞こえるとパニックになる。
 電車も怖い…家の回りは暗くて物騒で…寂しかった。
 親にも先生にも、犬を飼いたいと言ったが、皆首を振った。
 それはそうだ。
 自分のことで精一杯なのだから…面倒を見られなくなり、実家に放置することになる…。
 それでも…欲しかった…自分は迷っている…永遠の暗闇にさ迷っている。
 小説の登場人物は皆私の分身だ。
 特に孔明さんは私を写し取った、存在で…悩み惑い、苦しむ…。
 でも、孔明さんは家族がいる…一人の私が動けない代わりに、まっすぐ進んでいけるように、弱すぎて…何度も絶望を味わっても、未来を見られるように…そう願っている。
 最近、調子が悪いのは…不眠と迷っているからである。
 心残りが多すぎる…自分に何かもっとできたはずだと、過去を振り返り謝罪と祈ることを繰り返す。
 先生は、考えすぎると良くない、楽しいことを考えましょうと言ってくださっているが、むなしく、虚無感に、苛まれる。
 家族とも距離を置いている。
 特に父は、壊れた私を見守ることに決めたようだ。
 でも、私には何があるのか…よく考える。
 勉強したいと言うこと…小説を書くこと…他は思い付かない。
 本当に…自分は生きるのか…迷っている。
 名前を読むと『ベルジアン・グリフォン』とあり、生後半年の女の子だった。
 一目惚れしたのには、訳がある。
 フワフワくるんくるんの毛並みと、つぶらな瞳…そして、想像していただけると良いのだが、黒くて小さなトイプードルの体にパグの顔。
 かなりのインパクトと共に、そのしぐさが可愛かった。
 ゲージに顔をくっつけるようにして見つめていたのが異様だったのか?
 すると時々、ハムスターの用品を購入するついでに、シュナウザーばかり抱かせてもらっていたので覚えていたのか…、店員さんが、
「そちらのベンチに座られて、だっこしますか?」
「良いんですか!?」
 何時もなら、少し躊躇うのだがどうしても欲求に負け、抱かせてもらうことにした。
 実家にはジャック・ラッセル・テリアがいて、6キロくらいあるが、この子は小さく華奢だった。
「軽い!!それにこしがあって柔らかい毛並み!!」
呟くと、
「小型犬ですから」
と言われ、つい、
「いえ、家の実家に、ジャック・ラッセル・テリアがいて、その子、病院では大丈夫と言われるぐらい元気で、太ってはないんですけど、6キロあるんです」
「えっ!?」
「あ、本当は、その子の兄弟犬をこの前見たら、もっと大きかったです」
 子犬の背中を撫でながら答える。
「そちらは太って…?」
「いえ。二回り大きかったです。体重12キロあるそうなので。体高もこんな感じですか?もう、中型ですよ!!って感じです」
「でしょうねぇ…」
と感心される。
「実家の子もその子も毛が長くて、ほっておくともさもさボウボウです。お兄さん犬はウェーブないんですけど、実家の子は放置しておくと、かなりの確率でジャック・ラッセル・テリアとシュナウザーの雑種だって言われます。やんちゃなんですよね…ジャック・ラッセル・テリアは」
「そうですね。運動量が小型犬でも多くないといけませんしね」
「やっぱりそうなんですね。朝晩散歩に行くんです。父が忙しくなければ二回とも長時間、早くて一時間位長いと二時間は行っています。父がいけないときには母が。雨の日も連れていってます。じゃないと家中を走り回って、色々なところに隠しておいたおもちゃを持ってきて『投げて?』って催促しますね」
 肌触りが…気持ち良い。
「この子も…必要ですか?」
「いえ。適当…と言うか、ジャック・ラッセル・テリア程は必要ないですね」
「そうなんですね…素敵だなぁ…こんなに可愛い子がいたんですね。私は犬が好きで、知ってるつもりでしたけど…こんな可愛い子知らなかったです!!」
「そうなんですよ。この子は、図鑑に…」
 置いていた犬図鑑をめくると、
「この子と同系列異種です。愛嬌があって、いい子ですよ」
 その言葉通り、名前はあった。
 同じ図鑑を持っている私でも、思い出せるはずはなかった。
 ブリュッセル・グリフォンの同型異種…。写真は、ブリュッセル・グリフォンの明るい色の写真。そして、簡単な略歴と、一行くらいに名前があった。
 いくら、脳内引き出し持ちの私でも、引っ掛からなかったはず…名前しかない。
 余りにも可愛く、愛おしい…一目惚れだった。
 元々、自分は、結婚できないだろうな…と思っていた。
 性格に、難があるからだ。
 自分について言うのもなんだが、表向きは黙っている振りをしているものの、納得がいかないと食って掛かる。
 我慢強さもあるとは思うが、様子を…状況を見ていて『ばっかじゃないの!?』と、あきれるだけしか思えない、一方的に自分が正しいとしか言わない…いいや、それ以外、自分の非を認めようとしない、勝手気ままな親族を持っているからである。
 祖父が死んだときも、自分はこんなにやったんだ。これだけやったんだから、できるほど偉いんだから、その分を寄越せだの祖父の遺骸の横で怒鳴りあう叔母たちのののしりあいに、長女の母はおろおろするだけ。祖母は泣くだけで叱ることもない。
 この通夜の席の騒動に…親類は呆れ返り、父や私たち孫が手分けして葬式の準備をしたと言うような家であり、未婚の叔母が3人もいれば…兄が結婚しても、兄嫁に辛い思いをさせると思っていたし、妹と弟は結婚しても良いし、独立させて…兄嫁と生まれてくる甥姪を守るのが役目だと信じていた。
 それに、神経質で警戒心が強い性格である。
 慣れる…他人と一緒に暮らす…?そんなのは考えられなかった。
 結婚に夢を持てなかった。
 どうせ、親戚付き合いだの、挨拶回りだの…しなければならないし、どうせ金銭面で揉めて葬式で恥をさらすなら、結婚なんてしたくないし…子供は欲しいが、旦那はいらないと思った。
 それに、見合いをしても、話題がない。
 私はアウトドア派ではないし、車を自慢されても…ふーん…としか言えない。
 煙草が基本駄目なので、煙草を吸う人の車には乗れない。
 車酔いも酷いので、移動は寝て移動…その自分に次々と見合いをセッティングした人と、付き添いで来た兄達が、問いかけても、返答できることがない。
あったとしても、こうだった。
 本人はアウトドア派で、何かをしているのが面白いのかと聞くと話すが、専門的なことを問いかけると黙り込んでしまう。
 向こうは多分、普通のお嬢さんとしか思えなかっただろうし、野暮ったい黒縁の眼鏡の女が、その人がいった川の近くに、ある歴史上でも知られている場所なんですが、行かれました?などと聞くのだから向こうもムッとすると思う。
 しかし、女にとって、車を数百万円で改装して、川の中を走れる…凄いでしょう?そのエンジンに車のかたちにと自慢されても…思うのは、
『勿体無い。まぁ、趣味はそれぞれだけど、散財して、借金作るよりも、それを貯金すれば良いのに…』
と思うだけで、ニコニコと接客業の笑みを張り付け微笑む。
 と、いつのまにか、結婚したらと言う話にまで飛んでいる。
『はぁ…!?誰がうんと言った?車に乗ることが出来ないのは兄貴も知ってるだろうに!!』
 慌てて、兄の方を見るが、兄は面白そうに、
「行ってみたいですねぇ!!楽しそう」
と言っている。
 こりゃ駄目だ…全然こっちの事を考えない。
 一応、好きでもなく嫌いでもないラインから一気に落ちる。
『 で、毎週末は友人たちと分乗して、テントを張って遊ぶのが趣味で…川釣りに山菜獲りに、夏は海で…やりましょうよ!!』
と言われても、
『じゃぁ…週末潰れるの?はぁ!?何で。私にだって用事あるのに無視?じゃぁ友人と結婚すりゃ良いじゃん。めんどくさい…』
となる。
 紹介してくれた人には申し訳ないけれど…、断ろうと思っていたら、向こうから断られた。
 それはそれで、あぁよかった。なのだが、紹介してくれた方が不憫がり、紹介してくれたが、その人物がくせ者だった。
 一言目には、
『前の女は…』
と繰り返し、
『はぁ!?お前、その年になって、資格ひとつも持ってねぇの!?馬鹿だろ!?前の女は、仕事しつついくつも取ってたぞ!!お前、車の免許から取りに行け!!』
と、勝手に契約しようとして、
「カード出せ」
「持ってないよ。契約社員だし…」
「はぁ!?お前馬鹿だな!!」
と罵られる。
 会うたび会うたび、苦痛の、精神的な疲労が増す。
 でも、一回断られたからと我慢し…9か月後ブチキレた。
 ストレスと不眠と、逆流性胃腸炎で、ドクターストップがかかり、仕事をやめたときも、
「はぁ!?俺に連絡もなく辞めた!?何考えてんだよ!!」
と電話口でさんざん怒鳴られ、萎縮する…。病気で辞めたから、失業保険を貰えることになったというと、
「俺、お前みたいに何にも出来ない女のために保険払ってるわけ?お前何様?」
 そして、身体を治しつつ主治医に許可をもらい、職業訓練に行くことになったと報告すれば、
「ふーん。仕事もしないで、金もらい続けるのか?じゃぁ、貰った金で髪形服、化粧品全部揃えろよな!!お前、なんなの?その格好。一応彼女にしてやったんだ。それなりにしろよ」
…で、キレた。
「何様のつもり!!この自意識過剰男!!あんたなんて、前の女前の女って言いながら二股かけてんじゃない!!紹介してくれた人に言ってやる!!死ね!!この人でなし!!」
 何時も黙っているか、ボソボソと言い訳している女の激怒にひるんだように、
「な、何いって…」
「うるさいわ!!この!!資格がなんだって!?使えてこそ資格だろ!?使えもしない資格を通信でやって通ったって、意味ないだろうが!!それくらいわからんのか!!そんな馬鹿に何で私が付き従わないけんのや!!お前なんか…死ね!!クズ!!」
 そういって、電話を切ると即座に番号を消し、メルアドも消去した。
 それ以来、友人としてカラオケにいく男性はいるが、他の友人もいるので気にならない。
 でも、独り暮らしを選ばざるを得ず…移った家は寂しい…。
 病の治癒を目的にしているとはいえ、狭くとも一人は孤独である。
 だから…動物を飼うことで癒しが欲しかったのだ。
 病院は3つ通っている。
 幼い頃から通う内科と、体の節々が痛む、しびれる、ひきつる…それを治すための理学療法の病院、そして…心療内科。
 不眠と電話が怖いし、外に出るのも本当は怖い。
 携帯は持たないといけないのだが…怖くて、普段は持ち歩いても、夜は押し入れの奥にしまう。
 なぜなら…昔…毎日のように夜中にメールをかけてきた友人がいた。
 こちらも不眠症のため、薬を飲んでいるのに、『起きてる?』と入る。
『今薬飲んで寝てるから…明日にして…』
と送ると、『私が眠れんのに、何で真剣に聞いてくれんのよ!!』とキレられ、目をショボショボさせながら必死に薬による強引に墜落するような睡魔と戦いつつメールを返す。
それが、早朝の4時まで続き、最後に、
『もう、悪いけど私寝る。起こさんといて。うるさいから』
と言う文言で終わる。
 こちらは、もう、完全に目が冴えている。
 昼間も、怖い。
 ずっと向こうからメールが途切れることなく続く。
『お風呂に入ってくる』
とあり、ほっとするが、5分もしないうちにメールが入る。
『出たよ。私が入ってる間、テレビ見たでしょ?何があったの?』
『これがこうなって…』
とメールに打ち込み、説明していると、その間に録画していたものを確認していたらしく、
『違うじゃない!!嘘つき!!これくらい覚えてよ!!』
 になる。
 で、こちらが、
『私は、お風呂に入ってくるね~?下着とか洗うから、遅くなると思うけどごめんね?』
と送り、それでも自分では急いで入ったつもりだった。
 15分…その間にメールが10通入っていた。
 最初は『いってらっしゃい』だったが、次第に『もう何分経ったら出るのよ!!』になり、最後には『無視してるのか!?私を!!無視する前に、返事寄越せやこらぁ!!』となって…蒼白になる。
 何で?ちゃんと、お風呂はいるってメールしたよね?もうちょっと待っててって…なのに、これは何?私は、この子に何をしたの?無視?そんなことしてないのに!!
 慌てて、びしょびしょのままメールを返すが返事はない。
そして、30分位して、
『これで分かった?あんたがしたのはこれだよ!!』
と、返されたとき、絶望と失望しかなかった。
 見ているテレビの内容が同じテレビを見ているのに、内容のメールが入ってくる。
 遊びに行くと言うのに、10時の約束の時間にしていても、7時過ぎに、
「もう、着いてて、近くのファーストフードの店で待ってるから来て」
と、メールが入り、慌てて飛び出し、向かうと、
「何で?もう食べちゃったのに、注文するのよ!!出掛けるよ」
「お店の開店は10時からでしょう?もうちょっとここでゆっくりしようよ」
「人が多くて嫌なの!!」
と食って掛かられる。
 何度も言ってもこちらが謝罪しなければ、駄目…。
 それだけでなく、突然朝7時に家にやって来た。
「朝御飯持ってきた。食べよう」
 「えぇぇ!?どうしたの?始発は!?バスの時刻は、繋がりにくくない?大丈夫だったの?」
「眠れなかったから、家から歩いて、で、電車できたよ」
 一応、片付け案内すると、
「お金」
と言われ、お金を払い、朝御飯を食べるが、そのまま彼女は横になり寝てしまう。
 何をすることもできず、そのまま起きるまでごそごそしていると10時ごろに目を覚まし、
「じゃぁ、帰る。じゃぁね」
と、帰っていった。
 そういう日々が繰り返され…次第に人に会うのが怖くなる…。
 携帯が鳴らないように、音を消しても、チカチカランプが着くかもしれないと、メールを返さないと、前のようなメールが来る!!
 怖くて、電話を遠くに隠した。
 でも、連絡先として必要で、でも、怖くて…となり、病院で先生にその人との交友関係を絶ちなさいと言われる。
 でも、あの子を一人にしたら、薬を一気に飲むこともあるし、リストカットをしたらどうしよう…と考えた。
 怖かった…絶望したし苦しいし、でも見捨てられずに、何ヵ月も悩んだあげくに、別の県に住んでいる友人に相談する。
『えぇぇ!?』
と驚かれ、
『もう!!何でもっと早く、言わなかったの!?』
と説教を受けるが、優しい。
『もういいよ。頑張ったんだから…肩の荷を降ろしなよ』
と言われ号泣した。
 それ以来、遠すぎず近すぎない関係で保てる友人が数人のみ…。
 会うことはほとんどない。
 私が怯えるからである。
 怒鳴り声が聞こえるとパニックになる。
 電車も怖い…家の回りは暗くて物騒で…寂しかった。
 親にも先生にも、犬を飼いたいと言ったが、皆首を振った。
 それはそうだ。
 自分のことで精一杯なのだから…面倒を見られなくなり、実家に放置することになる…。
 それでも…欲しかった…自分は迷っている…永遠の暗闇にさ迷っている。
 小説の登場人物は皆私の分身だ。
 特に孔明さんは私を写し取った、存在で…悩み惑い、苦しむ…。
 でも、孔明さんは家族がいる…一人の私が動けない代わりに、まっすぐ進んでいけるように、弱すぎて…何度も絶望を味わっても、未来を見られるように…そう願っている。
 最近、調子が悪いのは…不眠と迷っているからである。
 心残りが多すぎる…自分に何かもっとできたはずだと、過去を振り返り謝罪と祈ることを繰り返す。
 先生は、考えすぎると良くない、楽しいことを考えましょうと言ってくださっているが、むなしく、虚無感に、苛まれる。
 家族とも距離を置いている。
 特に父は、壊れた私を見守ることに決めたようだ。
 でも、私には何があるのか…よく考える。
 勉強したいと言うこと…小説を書くこと…他は思い付かない。
 本当に…自分は生きるのか…迷っている。
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