てっちゃんについて。

ノベルバユーザー173744

てっちゃんについて。

 とある方にも伝えたのだが、刹那にとって、てっちゃん先生は、高校時代の恩師である。

 もう一人の恩師は担任だが、今回はてっちゃん先生について。



 てっちゃん先生は、正式な呼び方はテッサイ先生。

 テッサイ大先生とも言う。

 元々は県立高校の歴史の教師で、教頭か校長をされ、定年退職後に私の高校の講師として招かれたらしい。

 とても変わった先生だった。

 表向きは品のいい、シンプルだが素敵な似合う格好をしていて、しゃべり方も柔らかい素敵なお祖父ちゃんのようだが、授業にはいると、途端にキリッとした顔つきになる。

『わしは解っとるぞ!!何年…何十年教師をやっとると思っとる』

と自信を見せただけあってとても博識だった。

 でも、威張ってるとかはなく、ただ授業がとても面白かった。

 普通授業は、教科書を読み、歴史上に起こった事件や、憲法…平安時代だと文章について…と教科書をさらりと流す。

 でも、大先生は、授業の一番最初に、右の一列の生徒に、自分の知らないこと、習っている時代でも、その前でも後でも良いので、『大先生ノート』の内容と教科書の違いだのが分からない部分を教えて欲しいなどと言う質問から始まる。

 質問が出来ないと、

「お前なぁ…もうちょっと考えてこいや…先生は泣くぞ」

と拗ねる。

 逆に、難しい、習ってない質問を言うと、目を見開いて、

「おぉ!!お前どうしたんぞ?勉強したんか!!」

と笑顔になり、嬉々として質問に答えてくれる。



 しかも授業も面白い。

 教科書は一種の単語帳で、ノートと歴史資料集が主に使われる。

「ほい!!良いかぁ?お前たちに解るように、この時代の分類はこうなっている。重大な事実は5つで、ひとつめは~の変に、次はなんとか事件…。これを1~5章とする。で、この中でも一章はいくつかの分類に分かれている。それを一つ一つ教えるぞ~!!でも、宇宙人!!お前は口を出すなよ~。わしの出番がない!!」

その声に、必死になっていた周囲は笑う。

「えぇぇ!?先生!!ずるい~!!」

と私は返す。

 そう、宇宙人とは、私のあだ名である。

 最初、大声でキッパリと話す先生を皆緊張しつつ見つめていた。

 でも、刹那は基本情報量の多い人が好きであり、奇抜な授業は初めてで新鮮で…歴史の授業なのに、ビッグバンから始まる授業は面白かった。

 そして、質問もどんな時代でも、どんな話でもポンポンと途切れもなく返ってくる。

 当時から、自分は周囲から浮いていると言うことに自覚があった刹那だが、先生にとっても普通の生徒だったはずだが、知識の幅が広すぎた。

「ねぇねぇ…先生は何言ってるの?」

 こそっと問いかけるクラスメイトに、

「うん?えっと、長屋王の変の時代上の背景、あの頭に手足のついたのが、長屋王で、どうして長屋王が死んでしまうのか、権力者争いや他にも…」

と答えていると、

「こりゃ!!わしの授業を奪うな~!!わしの独壇場だろうが!!」

「あ、すみません!!」

「ばつとして、いまの説明を言ってみろ」

「はぁ…」

 立ち上がり、時代背景、長屋王の周囲の血縁関係に、立場…あれこれを説明し、その結果がこうなって、最終的には藤原氏の台頭を招くことになったと言うことを説明し、 似たような話題で、聖徳太子の息子が死んだのにも、権力争いであり、この時代は特に、母親の違う兄弟や、叔父姪の婚姻…様々が絡み合う時代のため、それが正しいとか言い切れない。それに、聖徳太子の両親は解っているが、聖徳太子の偉業である様々な憲法などは、本人ではなく周囲がすすめた結果であり、本人の偉業は、それを容認したことによるものと結論付ける。

と説明すると、周囲はシーン…となる。

 ヤバイ!!やった…引かれる!!

と、先生は、

「凄いの!!お前はよく調べた!!どこで調べたんぞ?」

「図書館です」

「他には、面白いものはあるか?」

「そうですね。私が知っているのは…聖徳太子二人説…とか、蘇我蝦夷そがのえみしは、本当の名前ではないと思います。蝦夷とは、朝廷に帰属しない、土着民を蔑んで読んだ言葉ですし、他には、気になるのは大海人皇子が、曖昧なこと…ですか?他は、当然ですけど義経とチンギス・ハーンは別人とか…」

 ちらっと見ると、頷く。

「よし!!お前は火星人と呼ぼう!!」

と、言われるようになった。



 進学クラスにいたものの、致命的な部分が、本当に苦手な刹那の成績表について…何度も呼ばれる。

 それは、日本史だけが98点で、国語、古文、漢文は70点以上はあるが、英語が欠点かギリギリ…。

 頭を抱える担任に、

「すみません…一応頑張ってはいるのですが…、苦手意識が消えず…」

と謝るが、余りの悪さに何度も呼び出され、何とか点数をあげなさいといわれ、

「はぁ…」

と返すしかない。

 でも、無理なんだよなぁ…特に文法。

 文章を読むのは良いんだけど、主語述語に、変化形って何なんだ!?

 と考え込んでいると、大先生がいて、

「どうしたんぞ?あ、成績表のことか!?悪かった!!」

「はい?」

 悪かった…か?あぁ。クラスの人の成績が落ちていて、全体に、ちゃんと授業を受けていると言うことで追加したことだろうか?

「すまん!!おまえの成績表だけは、点数減らした」

「はぁぁ!?」

 突然の反対発言に、

「え、ちょちょっと待って下さい!!増えてないんですか!?」

「お前だけ、テストの点数が101点あって、前の学期の成績でもあまっとったから、合計20点くらい引いとる」

 ガーン!!

 そんなにでしゃばりすぎたのか!?

 そういえば、質問ストックを10問は作って、メモに書き込んでおいて、質問を見つけ出せなかったクラスメイトに教えていたのがばれたか!?
 それともそれとも…日本史が苦手なクラスメイトのために、範囲を公表する先生が、出しそうな質問をピックアップして、放課後友人たちに、コピーして…これは、絶対に人には見せないようにして?と言っておいたが、他のクラスメイトが勝手にコピーしてクラス中に広まって、テストも似たような問題がでて点数が上がったことと、代わりに作った私が学年主任に呼び出されたからか!?

「聞こえとるわ。違う。お前はちゃんと授業を受けとるが…幾らなんでも111点は出せんだろう…前の学期にのを足せばもっと行く」

「まぁ…そうですね」

「それにの~すまん。お前には98点しかやれんのじゃ」

「98点?」

 100点くれとは言わないが、どうしてだ!?

と、先生は、

「実は一回だけ、いままでの教師人生で一人100点をあげたんだが…で、二人が99点。お前は本当は99点でもいいんだが、もう二人にやっとるし…お前は98点!!」

「えぇぇ!?でも、前の学期には次につけるって…」

「111点出せるか。今度に回す」

「じゃぁ、今度も成績がよかったらどうするんですか!?」

 尋ねると、

「う~ん…担任に言っておく」

 で、話し合いがついたのか、自習時間の特別授業の項目の点数が後日上がっていた。



 時々ジョークをいったり、どう見ても黒板には人間に見えない○をぐるぐるしたものを示しながら、

「これは有名やけんの~!!覚えておけよ!!」

「それなんですか?」

「義経と頼朝」

「わかりませんよ~」

「解るもんにはわかる!!」

 日々、素敵な授業だった。

 元々基本的に調べることは好きだったが、それをまとめると言うことができず溢れていた情報が、『大先生ノート』のお陰で、まとまり、そして、時系列で、時代背景に出てくる人物に、原因になった出来事、それがこういうことになり、結果勢力争いとなり、最後には、この時代のこう言うものが、次の時代を作っていく…と言う風にノートでも、脳内引き出しにも丁寧に残されたのだった。



 その時が2年生だったので、3年も大先生が受け持ってくれると思っていたが、別の先生であり…テッサイ大先生が教えてくれた最初からやると言う。

 一応進学クラスで、もし出来たら、県外の史学部に進学したかった私にとっては、大先生が教えてくれたあとの部分を勉強したかった。

 しかし、受けた授業はとてつもなくつまらない…教科書に蛍光マーカーで線を引き、それをノートに写す…その繰り返しにうんざりした。

 しかも、進学クラスである。

 受験に必要な知識を教えてくれるのならともかく、一学期で平安初期には参った。

 夏休みの補習が授業になり、二学期になると鎌倉初期から始まり、江戸時代初期で終わる。

 受験が迫っているのに、試験には江戸後期以降明治大正昭和が出るはずなのに、と焦るのに進まない。

 思い余って、テッサイ大先生に解りにくくて…覚えられないと尋ねると、

「う~ん…わしは担当じゃないし…契約の講師やけんのぉ…」

と言いつつ、いくつか要点を教えて貰った。

「すみません!!ありがとうございます!!」

「試験頑張れよ!!」

 そういって貰ったが、家庭の事情と、親族が、

「お兄ちゃんは働いてるのに、女が大学?何いってるんだ」

「しかも県外!?図々しい!!」

と言われ断念。

 仕方なく、県内の大学を受験することになったが、その当時、二種類のインフルエンザが蔓延しており、ふたつ続けてかかり、寝込む。

 で、フラフラのまま、受けに行き不合格。

「ほら、あんたはその程度だったのよ」

と叔母に言われ泣いた。



 でも、思うのは…もし叶うなら、大先生の授業をもう一度聞きたい。

 それと、『宇宙人!!』と言って笑って欲しい。

 そう思うのは、私にとっては大先輩で、恩師であり、歴史の授業を面白く、楽しいものだと思わせてくれた大先生に、今の私の得点は何点ですか?と聞いてみたい…そんな毎日である。

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