それはきっと、蜃気楼。

些稚絃羽

58.イベントにて、信じられる事

その週末は予定通りジュエリー企画のイベント。予想外だったのは。
「立花さんのおかげですよ!!
 いやぁ、正直こんなに集まるとは思いませんでした。」
今日のイベント担当者が言う様に、ライフの効果か開場してすぐから一般客の入りがすごくて、会場内は記者やカップル、女性のグループでひしめき合っている。
夏依ちゃんが控え室の窓から外を眺めて興奮気味に話す。
「外、雪降ってきましたよ!会場が中で良かったですね。
 しかし、まだまだ集まってますね。
 やっぱり女性達は立花さん目当て、」
「天馬?」
「ごめんなさい。」
途中で立花さんに睨まれてしゅんとした夏依ちゃん。でも多分言ってる事は正しいんだよね。既に数人ライフを手にしている人を見たし、女性達の会話の途中に「立花さん」というフレーズを耳にした。
記事の影響力と無意識に人を惹きつける立花さんの集客力は凄まじいな、と苛立ちを通り越してしまった。
担当者と司会者の元に近付く彼の背中に、吸い寄せられる様に視線を送ってしまう私も同じなのかもしれない。
「始めますんで、皆さん集まってくださーい。」
その声に誘導されて控え室から地続きの舞台袖へと移動する。
このイベントを終えたら、ジュエリー企画も私達の出番は終わる。今年の仕事も大詰めだ。まずは今日を無事乗り切ろう。1つ深呼吸をして、歩き出した列に並んだ。


私達の紹介がなされて本題へと移っていく。
モデル達が輝くジュエリーを身に纏い、場内を歩く。舞台上では大きなスクリーンがジュエリーを映しだす。今この会場では全てが引き立て役へと変わり、誰もがその美しさに息を飲んだ。
「―――『愛を繋げるクリスマス』をコンセプトに、
 今年のクリスマスが多くの方々にとって
 より大事な日となる様願って考えました。」
まだ余韻の残る会場に立花さんの声が響く。司会者が後に続く。
「より大事な日、と言いますとプロポーズでしょうか?」
「それも勿論あります。
 ですが他にも友人同士で、又ご両親へのプレゼント等、
 様々なシチュエーションにお使いいただきたいですね。」
私達が誠心誠意心を込めたジュエリー。意味はたった1つではなく、手にした人の数だけ生まれるから。
愛はその人を大切に思う気持ち。それを伝えるためのツールとして多くの人の手に渡る事を願っている。
私はこの企画を通して大切な事を学んだ。それは私達が生み出すのは物ではなく思いだって事。売れる物をつくる事も当然大事だけど、そこに一致する思いがなければ誰の心も震えない。多くの人の心に触れる様な、そんな思いを詰め込んだモノヅクリを私は続けていきたい。

「―――では続いて、皆様からのご質問を承ります。
 ご質問のある方は挙手をお願い致します。」
その言葉に促されて記者やリポーター達が我先にと手を挙げる。前半で説明された点を補足する形で進んでいく。順調な運びにこのまま終われば、ときっと誰もが思っただろう。
「―――立花さんに質問ですが、宜しいですか?」
それまでとは違い、なぜか立花さんが指名される。リーダーであるという以外に何かありそうな予感がして胸の辺りがざわつく。
「愛を繋げる、という事で企画段階でやはり
 ご自身の大切な方を思い浮かべられたのしょうか?」
そう言った記者のしたり顔に思わず顔を顰める。これもライフの影響だろうか。曖昧に答えて伏せられた部分をどうしても暴きたいらしい。
「そうですね。大切な友人達が沢山いるので。」
「ご友人、」
「ご質問はお一人につきお一つでお願いします。」
立花さんは明らかに平然を装って遠回しにそう答える。記者は更に続けようとしたけど、すかさず司会者が止めに入った。渋々諦めた記者が納得いかないという顔で座る。終わった筈なのに胸のざわつきは収まるどころか激しさを増していく。これはもしかして。
「―――ご自身のプロポーズの際にも、
 このジュエリーをお使いになるご予定ですか?!」
「―――お渡ししたい方はもうおられるのですか?!」
「―――女性のタイプは!?」
そんな風にジュエリーの事を絡ませる様にしながらも、結局質問のターゲットは立花さん自身で。やっぱり予感が当たってしまった。何もできない自分がもどかしく、でも自分がこのイベントを壊す訳にもいかなくて結局最後まで見守るしかなかった。
「し、質問をこの辺で終了したいと思います!!
 イベントは以上になります。参加者の皆様には、
 お帰りの際にプレゼントがございますので、
 是非お受け取りになってください。
 ありがとうございました!!」
強引な司会者の終了の挨拶に対する場内の不満げな雰囲気を背に、足早に袖へと入っていった。

控え室に戻ると、皆の顔から初めの覇気がない。
「あれで、伝わったんですかね?」
夏依ちゃんは初めて携わった企画なだけに、ショックは大きそうだ。それを見ていたら私は落ち込んでいる場合じゃないって気付いた。
「大丈夫だよ。そんな事に負けちゃう様な半端な気持ちで
 つくってないでしょう?」
本当に伝えたい事は皆の心が感じ取ってくれると信じてる。不確かで未熟だって笑われてしまうかもしれないけれど、そういうものだと思うんだ。
「……そうですね!」
嬉しそうに頷く姿に私は再度思う。どんなに上手に語るかじゃなくどれだけ思いが伝わるか。大丈夫、ちゃんと届いているよ。
視線を移すと立花さんが項垂れる様にテーブルに手を付いている。私はそっと近付いた。
「大丈夫ですか?」
「ありがとう。もうちょっとだから頑張るよ。
 ……悪いけど、背中叩いてくれる?
 気合入れたいから。」
突然の意外なお願いに少し驚いてしまう。でも弱々しくも乗り切ろうとしている立花さんを私も応援したくて、両手で力いっぱい広い背中を叩いた。
う、という小さな呻き声と手にじんと響く痺れに、予想以上の力が入ったと分かる。
「ごめんなさい!思いっきりしすぎました!」
「いや、大丈夫。気合入った。」
歯を見せて笑うその表情にほっとする。少しでも和らぐ様に、もうちょっとです、と優しく背中を摩ってみた。

「ありがとうございました。どうぞ。」
「ありがとうございます。」
「お気を付けてー。」
参加者用の出入り口に立って、一般の参加者にお土産を渡しながら見送る。
30代位のカップルにお土産を差し出すと、ありがとう、と受け取ってから女性の方が、
「すごく素敵なジュエリーでした。」
と言ってくれた。
「ありがとうございます。」
「私も欲しいわ。まぁ、くれないだろうけどね。」
男性の方を見ながら拗ねる様な仕草をする。暗にプロポーズを要求しているのだろう。男性も分かっている様でおいおい、と言いながら困り顔。でもその様子が微笑ましくて小さく笑ってしまう。
「来て良かったです。さよなら!」
駆ける様にして出て行った女性。取り残された男性はバツが悪そうに眉を顰めたけど、
「発売されたら、すぐ買いに行きます。」
とはっきり告げて、女性を追って行った。その後ろ姿に小さくお幸せに、と声を掛けた。
やっぱりね、伝わるんだよ。込めた思いが繋がるんだよ。こうして幸せがまた、生まれていくんだね。
ふと視線を感じて顔を上げた。じっと見つめる彼に微笑む。やっぱりこの道を進んでいく事、間違ってなんかないですね。優しく微笑み返してくれる彼に、私はまた確信した。

 

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