分解っ!

ノベルバユーザー194919

Ⅲ‐6

次の日。予想外のスピードで回復したフィナによって、少女はその日から勉強を教わるようになった。
「まぁ、魔法理論はしっかり覚えられてるみたいだね。だけど…」
「数字ですか…」
「うん」
簡易的なテストを即座に作って少女に解かせると、
一番重要とされる魔法理論を完全に解ききるものの、三桁以上の計算はあまり解けていないようだった。
「重点的に計算をやっていこう。
魔法理論は実践に切り替えていくとして…他も解けてないところはあるし、ドンドン行くよ―」
「お願いします」
スカイは、主に問題を解かせることに重点を置いた。
やはり基礎の計算は数を解くのが一番だからだ。
そして、分からない問題を少女はフィナの様子を確認するスカイに質問するのだった。
そんな中の一時である。
少女が何回目かの質問の時―――。
「フィナ、歩けるか?」
「大丈夫…」
グラリとふらつくフィナ。
「っく…支えるから、まずは立つところからだな」
そう言いながら後ろからフィナを持ち上げるスカイ。
と、そこで少女が覗いているのが見えた。
「ああ、質問かな?」
少し嫉妬を覚えたのは気のせいではなかった。と思う少女。
少しでも追いつきたい、彼女の集中力は高まっていった。

勉強を教え始めて三日目。
「うん。全部解けるようになったね。答えもあってるし、よく頑張ったと思うよ」
「ありがとうございます!」
少女はそこで言葉を発しようとした。
ズドンッと激震が地下を襲う。
ぼろい家も振動に耐えきれずミシミシと軋みだした。
「フィナっ!」
「ん。問題ないよスカイ」
すでに武装済のフィナ。この三日間で彼女は体調を完全に戻していた。
呼び方だけはスカイから元に戻らなくなったが。
「脱出するぞ。たぶん今の衝撃で魔法結界発生装置が完全に壊れた」
先ほどまで飛び交っていた情報が完全に遮断されていることから、スカイはそう導き出した。
すでに状況は少女の理解できない領域になっていた。
「…今なら地上に出れる。もう君ならどこかで生活することもできるだろう。一緒に来るか?」
「行きますっ!」
この地獄を抜け出せるなら、と少女は選択した。

町は混乱していた。家は壊れ、人々は泣け叫び、怒り、戸惑っていた。
「フィナ、一気に突破する」
「分かった」
スカイは少女を抱き上げ、壊れた屋根を伝って中央へと進んでいく。
状況はさほど変わらなかった。
中央へと進んでも混乱は続いている。
むしろ中央へと進むほど混乱は大規模になっている。
彼らは才能によって選別されていた。
だが、その才能は平時における才能であって
―――非常事態の中で行動できる才能とはかけ離れているのだ。
中央に行くほどその危機管理能力は薄れていき、混乱は助長されていく。
そして彼らはついに地上への出口を見つけた。
―――その壊れた姿と共に。



「ちっ…壊れたか」
「エレベーター…とは行かないけど…どうするのスカイ」
「まぁ…魔法が使えるようになれば話は別だ…分解っ!」
そう言って近くにあった魔法禁止装置を分解し、機能を停止させた。
「これで問題ない。掴まれ」
2人の手を握り、上昇するスカイ。
「いいか、地上に出ると同時に宿屋はぶち抜く。一応防御魔法を発生させてくれ」
「ん、分かった」
「後少し…!?」
天井には円盤が張り突いていた。
「チイッ!一回落ちるから気をつけろ!分解っ!」
飛行魔法を中断し円盤を粉々にする。
再度飛行魔法を発動し―――彼らは地上へと脱出した。
だが、宿屋をぶち抜いた衝撃はなく…ただ、ひたすらに瓦礫が散乱していた。
「ひどい、な」
「ああ。だが…とりあえず問題ない。…ここでお別れの方がいいだろう」
すでに疲れている少女。
「あの壊れていない建物に保護を求めればいい。それだけでお前の世話をしてくれるはずだ」
そう言ってスカイとフィナは立ち去った。
「…そう、ですよね。私…荷物…ですもんね…」
悔しさと惨めさが地面に滲みる。
「だけど…今度会う時は、ついていきますから…っ!」
拳を握りしめた少女は壊れていない建物―――探索者ギルドの建物へと歩き出した。
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ワールドストーリー:【浮遊大陸】
『序章【日常】最終節:落下編』が完了されました。
『第一章【反乱】』が開始されました。
メインストーリー:【死神】
『序章【日常】最終節:地下王都編』が完了されました。
『第一章【胎動】』が開始されました。
サブストーリー:【フィナ】
『序章【家出】最終節:支えたい彼編』が完了されました
これに伴い、メインストーリー:【死神】に吸収されました。
称号【ヒロイン】が付与されました。
サブストーリー:【クラシアス・ミュア】
『序章【日常】最終節:悔しさと惨めさの涙編』が完了されました
『第一章【保護】』が開始されました。

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