分解っ!

ノベルバユーザー194919

Ⅱ-7

二十五階層。
二十階層から一階層ごとにボスが現れることで、探索者達の体力を奪う。
そして仕上げと言わんばかりに広大なフィールドを練り歩かせる森の迷宮。
が、エルフの耳の良さとスカイの目の良さによって
通常は一日以上をかける必要のある階層は約一時間程度まで短縮されてしまった。
そして今、2人は最深探索地点を更新しようとしていた。
二十五階層ボス
【星狼】
この迷宮でしか見ることのできない限定種だ。
毛皮に小さな光が点滅することから星狼と呼ばれる。
爪が発光すると同時に目に見えない波動攻撃が襲いかかるなど、強敵と言えるだろう。
…そう、目が守られていれば。

「よーしサクッと倒すぞ」
「なんで弓だけなのだ主人…」
二十階層以降からそうだけど…と疑問しか感じないフィナ。
「大丈夫だ。全自動追尾式?らしいから。目を狙えれば終わりだ」
言うと同時にボスの部屋の前で弓を引くスカイ。
「おっけー後はねらうだけー」
「あとこの子は誰だ?」
「スカイの相棒にして弓の精霊、ボウだよ!」
「…主人こんなに幼い精霊見たことないんだけど」
「やめろ、機嫌が悪くなる」
すでに頬を膨らませている精霊を見てスカイは焦る。
「頼むから、あんまりそういう身体的な特徴を言うな、こっちに矢が飛んできたときには死が待ってる」
「…それはお断りだぞ主人」
「とりあえず扉を開けてくれ、俺は手が離せないからな」
「わかった」
緊張した面持ちで扉をゆっくり開くフィナ。
星狼の顔が見える。
「照準固定」
「じどうついびおっけー」
部屋に入ると同時にスカイは矢を放った。
光をまとった矢は一直線に星狼の目に吸い込まれるように進む。
が、バチイッと障壁が現れる。
星狼特有の障壁だ。矢は障壁と競り合い、バチバチと閃光を放つ。
矢には障壁貫通魔法が付与してあったにもかかわらず、競り合いを続けるばかり。
「主人…追加の矢を…」
「無理だ。基本的に矢は一本しか打てない。
次の矢が打てるのは今撃った矢が効力を持たなくなった時だ」
「…主に暇になったぞ主人」
「ははは…まぁもう少し成り行きを見守るしかないな」
「はぁ…」
延々と五分間閃光を放つ矢にいい加減飽き始めた2人だったが、
パリンッという音と共に障壁が破れ、目に突き刺さった。
「なんだか精神的に疲れたな」
「仕方ない。なんだか味気ない攻略だったな…」
2人は少し落胆しながら水晶に手を置いた。
スカイ、フィナ両名の最深探索地域の更新。
入り口に設置してあった調査装置が反応し、
地上にも即座に伝わったことはまだ彼らは知る由もないことだ。
二十八階層。
破竹の勢いというほどの速さで2人は次々に階層を攻略した。
が、ついに二十八階層。
捕食関係の頂点に君臨する魔物。
【竜】
その鱗は剣を通さず、矢を通さず、魔法おも弾き返す堅牢な砦。
目は弱点にあらず、鱗以上の堅さを誇る。
伝説などでよくある腹が弱点とされるのはドラゴンの話であって、竜ではない。
倒す方法は竜がどこかに持つ竜玉を割ること。
が、竜玉自体が障壁の発信源である以上、”割る”どころか傷さえつかない。
よって今までで討伐記録は一つもない。

が…スカイの目はボス部屋に入ると同時に的確に竜玉を見つけていた。
元々竜と竜玉は同じ生命体ではない。
竜が胎児の時に栄養供給用の媒介として竜玉が存在するのだ。
竜が生まれると同時に竜玉も生まれ、竜は竜玉から魔力や養分を空気中から吸い取っている。
よって、魔力の集中する部位―――目、手以外―――が分かればそこが竜玉といっても差し支えない。
もちろん例外も存在するが、その話はまた今度にしよう。
スカイは魔力の偏り傾向から竜玉が喉の所にあることが分かった。
となればあとは―――竜の口が開くと同時に矢を竜玉に撃つだけである。
「だけ」とはいうものの、通常ならば竜の口を開くのにさえ数百人規模の犠牲を伴うことだろう。
竜の首付近にあるということは竜特有のブレスが最大威力で吐きだされることを意味しているのだ。


討伐時間五秒。
スカイとフィナは竜に勝った。
「初っ端にブレスとかやっぱり頭悪いな」
「普通は爪の攻撃とかあったと私も思うぞ主人」
「じゃあ今回はなんだ?」
「…たぶん初陣だから興奮してたんじゃ」
「トラウマだな。スルーしよう」
「え…ええ」
部屋に入るや否や部屋手前での相談通りに弓を引いた。
竜だと視認した後竜玉が喉にあることを確認―――と同時に作戦の変更を行おうとした瞬間である。
いきなりブレスを溜め始めたのだ。
最初に隙のあるブレスを吐こうとする時点で竜は戦略的に負けていた。
矢はドスッと竜玉に突き刺さると同時に爆発を起こして竜玉を内部破壊した。
老年な竜であればその体に巡る魔力だけで数分は動けただろうが、なにせ今回は若い竜である。
竜玉が砕かれた瞬間に魔力は枯渇し、体は動かなくなる。
体内の抵抗力が下がると同時に矢は自動追尾システムによって心臓に突き刺さり、竜は撃破された。
フィナは何一つ仕事をせずに戦闘が終わってしまったのだった。
「まだ奥があるのか…面倒だな」
「あと二十くらいあってもおかしくないぞ主人」
「はぁ…とりあえず二十九階層だな。いい加減雑魚は必要ないと思ってしまうのは俺だけなのか?」
すでに「竜」などという伝説的な魔物を倒した人間に雑魚など必要ないだろうと思うスカイ。
「主人…普通迷宮は六人で挑むのだ。竜で半数削られたら雑魚でもやられるようになると思うぞ」
「…そうか。2人だと気付かないこともあるものだな」
やっと納得するも、やはり弓だけで魔物を倒していくのは面倒だ…と思うスカイだった。

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