分解っ!

ノベルバユーザー194919

Ⅱ-5

第十五階層。
迷宮の休憩所とまで呼ばれるそこは
五階層ごとに居るはずのボスどころか通常モンスターさえいない安全地帯。
ただ記録のための珠が置かれているのみだ。
よって、小さなテントがいくつも置かれている。
九割は冒険者が寝泊まりするテント。あと一割は何とどこかしらの商会のテントだ。
そう、ちいさなテント街が出来上がっているのである。
フィナを展開したテントの中に残し、スカイは一つのテントに向かう。
バサッとテントの入口を開く。
「…いらっしゃいませ」
幻影魔法によって岩と見せかけたテントの中に入っていくスカイ。
あまりしゃべらない感じの漂う幼女が一言客であるスカイに行った後、奥へと引っ込んでしまう。
まず幻影魔法の時点で客を制限しているうえに、
これが彼女なりの歓迎方法だと分からない限りこの店は使えない。
スカイの数少ない知人。世界中で五人しかいない魔法道具マギデバイスを作ることが出来る職人だ。
周りに置かれたミスリル製の武器や防具に目もくれず、幼女の後を追うように奥へと入り込む。
すでにお茶を準備して、スカイが席に着くのを待っている幼女。
スカイはすぐに席についた。あまり彼女を怒らせてはいけないことを彼は知っているのだ。
「…お久しぶりね。なんだかミスリルの臭いがするわ」
「今使っているのがミスリル製武器だからな」
「…ついでに言えば女の臭いがする。また女性を引っ掛けた」
「奴隷として買ったな」
「ちっ…エルフ族、若いわね。だけど1人だからまだマシ」
一時期は五人くらい周りに居た…と思いだすと、まだマシだという発言に繋がるというものだ。
リア充は一回死んでから出直してこいと言いたいほどだ。
「あなたが田舎暮らしする時に置いてった剣は全部溶かしたわよ」
「弓は?」
「これよ」
テーブルに置かれる鈍く輝く紫色の弓。
びっしりと魔法文字が刻まれており、
隙間なく敷き詰められた黒の線―――魔法陣の一片―――が照らされる。
「よかった。保管してくれていたか」
すぐに弓をしまうスカイ。相棒とも言うべき弓は少し怒ったように赤くなっていた。
「今持ってるミスリルの剣を出して」
「重いぞ?」
「このテーブルは超魔導性金属で、できているのだけれど?」
少しムカッとした表情を見せる幼女。
「悪い。これだ」
慌てて巨大なミスリル剣を取り出すスカイ。
「ふーん…どれ」
ヒョイッと剣を持ち上げる幼女。完全に怪力の領域だ。
幼女の種族は鍛鬼と呼ばれる鍛冶だけに特化された鬼系の一族だ。
余談だが、鍛冶に必要な力が戦場で発揮された時、
――――――山が吹き飛んだという記録が王国の公的記録に残っている。
本気で彼女を怒らせると、先ほど自慢したテーブルなど粉々になる。
ミスリル剣を振ると、幼女は少し考える。
「十点だな」
「へーまんt―――」
「百点満点中の」
「…」
珍しく彼女が満点を上げるのかと思いきや、とてつもない低評価である。
が、それも仕方ないのだろう。グッと幼女が拳に力を入れると同時に剣は粉々に砕け散る。
「柔い。こんなものは田舎の鍛冶師でも作れる」
「いやそれはないでしょ…」
これでも王都の職人が作ったものなのだから…と素人ながら思ってしまうスカイ。
「知らん。それにこんなもの振り回しても下層モンスターにはかすり傷すらつかん。
…ふむ。とりあえずこれでも使っていろ」
スカイが反射的につかんだ物体は…刀だった。
「刀かぁ…まぁ使える方かな」
「何を言っている。超万能性機械野郎め」
「どういう罵倒だよそれ…」
「武器は全部使えるわ、敵とみなせば殲滅するわ、王国の言いなりだわ」
「あーほら、今は違うから」
「はっ。とりあえずそれは持っていけ。魔法触媒としても最高レベルだ」
「じゃあ主にそっちメインで使う―――」
「馬鹿もの。とりあえずこの迷宮の二十階層までは敵を切り刻めたぞ。あとはまだ試していないがな」
この幼女、ただ武器の性能を調べるために迷宮にこもっているのだ。
そんなことを聞いた夢見た若者は憤ることだろうが、彼女にとっては重要な案件なのだ。
「まぁ弓とこの刀も貰っていく。悪いな」
「フンっ…まぁ頑張るがよい」
スカイは幼女の店から出て、フィナの元へと戻った。
「なんか女性の臭いがするぞ主人…奴隷が居ながら夜渡りか?」
誤解を解くのに一時間ほどかかったスカイだった。

二日後。足りなくなりそうだった食糧や水を補充し終え、十六階層へと向かうスカイとフィナ。
遠くで幼女が見送っていたことには2人とも気づかなかった。
「心配…弓が拗ねてた…」

が、そんな心配は不必要といったところで。
刀の切れ味の良さからそこまでうまく扱えないスカイでも、
十六階層のモンスターを倒すのは比較的容易だった。
幼女の言うとおり、二十階層のボス手前まで、スカイとフィナは順調に進んでいた。
刀ばかり戦って、弓がドンドン機嫌が悪くなっていることに気づかないまま…。

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