分解っ!

ノベルバユーザー194919

Ⅱ-1

「うっうっ…主人は獣か悪魔の類かっ!」
「はいはい。それよりも防具だ防具」
朝から何十回と文句を聞き、完全にスルーし始めるスカイ。
防具屋で防具を買うまで延々と愚痴を言われ続けた。
ちなみに最後の愚痴は「んぐぅぅぅ…この○○○○!」と街中でとても喚き散らしてはいけない言葉だった。
彼女の威厳のためにも伏せるべきだろう。
次に武器屋で武器を買うまでは不機嫌そうな顔のまま無言でスカイに手をひかれていた。
彼女は否定するが、その時微妙に顔が赤かったのは見間違いではないだろう。
「で、主人。迷宮に潜るのだろう?さっさとしようではないか!」
「そんなハイテンションで行くような場所じゃ…ちょ、まっ…」
ズリズリと主人を引きずる奴隷。なかなかない光景がそこにはあった。
フィナを何とか引き留め、探索者ギルドでフィナの登録から身体強化までをやった後、
どこら辺に準迷宮があるのかを調べる。
露天の並ぶ通りで一通りの探索アイテムを買って、二十分ほどで小さな迷宮へとやってきた2人。
「よーし探索だ!」
「そんなにはしゃぐほど大きくないからね…」
少し前の自分を見ているようで恥ずかしいスカイだった。
前の迷宮とは違って高大な平原をボスやモンスターが歩き回るような迷宮だった。
せっかく買ったランタンが無駄になったのは言うまでもない。
少しイラッときたスカイの視力でボス―――猪が巨大化したような―――は瞬時に発見され、
矢による攻撃で頭を貫かれ光の粒子となって消え去った。
『王都平原の寄り道迷宮を攻略。
【分解】による迷宮改変スキルがレベルアップしました。
固有魔法【分解】:迷宮改変スキル(Ⅱ)』
そう言えばこの迷宮を分解とかしてみるの忘れてた…と思いだすスカイ。
ついでだしちょっとやってみよう。と
「分解」
と言い放つスカイ。
ゴオッと草や木が全てバラバラとなくなり、ただの平らな台地に様変わりした。
「…主人」
フィナにジト目をされるスカイ。
額に冷や汗が浮かぶのも仕方ないだろう。
『攻略パーティーメンバー:スカイ、フィナに財宝【猪の金牙】、金貨一枚が授与されます。
フィナがスカイに隷属していることを確認。
スカイに財宝【猪の金牙】、金貨一枚が教授されます』
ちゃんと隷属関係とか分かるんだ…迷宮、頭いいなと思うスカイ。
『迷宮攻略につき、侵入者全員を転送します』
そして迷宮の外に放り出される2人。
「…あんまりおもしろくなかった」
「準迷宮だから仕方ないってやつなんだけどな」
「ついでに言えば私も財宝とか欲しかった」
「お小遣いは今度な。大体、銀貨10枚位だな」
「はーい」
両者の納得のいく形で収まる口論。
「明日から本格的に迷宮に侵入だ」
「やっと私にも出番が来たか!」
グッと拳を握るフィナ。
だが、スカイの頭の中では階層ごとの仕掛けを全部分解していこうとたくらんでいた。
その後、探索者ギルドで迷宮攻略の報告と財宝を売り、宿での食事。そして就寝。
次の日。
大きな口を開けている王都平原ノ迷宮。
大勢の探索者―――夢を見る若者から生活のために潜る熟練者―――が列をなしていた。
「うーん、二時間は覚悟するか」
そんなスカイの予想とは裏腹にどんどんと迷宮の口の中に吸い込まれていく探索者の列。
「探索者ギルドの者です。チームでお入りになる際は横に並んでお入りください。
最大六人までですので、注意してくださーい」
と職員が呼び掛けて回っている。
スカイとフィナの順番が来る。横一列に並んだ2人は同時に穴へと吸い込まれる。
グッと引き込まれる感覚。そしてドサリと地面にあたる感覚。
どうやら迷宮に侵入したようだ。
「フィナ」
「なんだ主人。魔法を使えば痛くなかったぞ?」
「そういうものか。…それにしても暗い…ランタンは必要だな」
と持ってきたランタンに火をつけ、フィナ用のランタンにも火をつける。
「分解」
ゴオッと風が吹き荒れる。スカイの目には変わらない壁。だが、足元が平坦になっている。
「戦闘しやすくなった…?」
「さすがにそううまく迷路が壊れるわけがないのか…」
それともただ【分解】のレベルが足りないのか。
スカイは少し悩むも、今考えても答えは出ないな、と考えを断ち切る。
「まずは進もう。…右に寄るとかは意味ないな。戦闘の間に感覚が狂う。…そのための地図…か?」
雑貨屋で買った少し高めの地図をランタンの光で照らすと、光る点と周りを囲う黒い線。
これがあるだけで迷宮の探索ははるかに楽になる。
「魔法の地図ってところか。とりあえずこの線が途切れている場所からいくべきだな」
「魔物は任せろ!」
「いや、俺暗闇でも100m位先なら見えるから」
迷宮においてスカイの強さはその弓の巧さでも固有魔法【分解】でもなく目の環境適応能力なのだ。
「…私、買われた意味があるのだろうか」
「野営の時とか火をつける手間が無くて助かると思うが」
「そ・れ・は私の本来の用途じゃなぁーい!」
喋りながら迷宮を歩いていると、魔物に気づかれたようだ。
が、トスッとスカイが放った矢によって瞬殺されたのだった。
「なんだろう。凄く悔しい」
元々あまり弓が得意ではなかったフィナは
開き直って槍を振るうことですでにエルフ族の槍技を極めたのだが、
やはりエルフ族として弓で人間に敗北しているのは本能的に悔しいらしい。
そんな他愛ない会話を続けながら一時間かけて二階層に降りる階段を見つける2人。
魔法の地図がペラッと剥がれ、Ⅰ-1という文字が刻まれる。
「やっと一階層クリアか。さぁ二階層だ」
「まだ私の出番は水の確保だけか…」
気を引き締めるスカイと、どよ~んとした空気を纏うフィナは二階層へと降りて行った。

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