満月の美しい夜に…

ノベルバユーザー173744

引っ越し先は春の国です。

琉璃りゅうりは容態が安定するのとほぼ同時に、そのまま公国の用意した特別機で公国に旅だった。
残務処理を放置して、琉璃に付き添ったりょうと妹の珠樹しゅじゅ、婚約者の子明しめいきんもである。
本当なら瑠璃るりも行きたかったのだが、その前に挨拶をと言うことで、義兄になるロウディーンと、婚約者の承彦しょうげん、義理の息子になる月英げつえいと、若いながらに公国の大学の学長となる瑾瑜きんゆたち兄弟が、会見を開く。

穏やかそうな仮面を被り、ロウディーン公主が微笑む横で、清楚なドレス姿の瑠璃の横の承彦は、口を開く。

「本日は、お集まりいただき、ありがとうございます。本日は、私的ではありますがお伝えしたいと思っております」

世界中のメディアの前でも怯まず、微笑む承彦は、瑠璃と視線を合わせた。
瑠璃は、頬を赤く染めつつ、そっと左手を見せる。

ブルーサファイア程深い青でもなく、アクアマリンよりも淡い、しかしブルーの大きな石のついた指輪に、周囲はざわめく。

「そ、それは……」
「ブルーダイアモンドの婚約指輪です。承彦さまに戴きましたの」

頬にもう片方の手を添えて、照れて見せる。

「このようなものは必要ないとお伝えしたのですが……」
「気持ちは形にして、貴方のように美しい人に身に付けて戴けるほど、美しさが増すものですよ」
「まぁ!!恥ずかしいですわ」

婚約者を見つめ微笑むと、

「あら、承彦さま……貴方。少し、よろしいですか?」
「ん?どうしたのかな?」

承彦のネクタイを直しつつ、ネクタイピンを見えやすい位置にずらす。
すると、同じような青い石の収まったピンが、姿を表す。

「あぁ、ありがとう。直してくれるとは、助かるよ。瑠璃」
「いいえ、構いませんわ。承彦さま」
「いい加減、さま付けは辛いものがあるね」

その言葉に、しばし考え、

「旦那さまがよろしいですか?それとも……」

楽しげな瞳の瑠璃に、承彦は、

「ダーリン、ハニーにしようかな?」
「まぁ!!」

頬を赤らめるが、すぐに、

「じゃぁ、ダーリン?私、月英さんと琉璃のお洋服についてお話をしたいですわ。お願いですわ。琉璃は可愛いものを、素敵な夢を与えてあげたいのですわ」
「そうだねぇ。琉璃には可愛いものを与えてあげたい。それは、美しいドレスだけではなく、最高の教育に、マナー、そしてハニーと同じ声楽の道を」

甘々オーラを放つ義妹を放置して、ロウディーンは、微笑む。

「先日、ご報告させていただいたのですが、私の義妹である瑠璃と申します。そして瑠璃が育てていた、私のもう一人の妹、麗月れいげつの娘が、琉璃と申します。琉璃は、私と同じ金色の髪と青い瞳の8才の娘です。我が公国の唯一の後継者が琉璃です」

ざわざわとざわめく。

「琉璃さまとは……こちらには?」

ロウディーンはうっすらと微笑む。

「一昨日、この国の少女に襲われて、十数ヵ所切りつけられ、100針程縫いました。傷の痛みとショックで泣き続けておりましたので、落ち着き医師に納得確認させ次第、先程国に帰らせました。婚約者の諸岡亮もろおかりょう君たちと共に。とても怯えていて、亮くんにしがみついて、少し離れただけでも号泣、ばたんです。亮くん自身が連れていきますと行ってくれました」
「少女に!?襲われたと言うのは!!」
「誰です!?こ、国際問題に発展する重大事件ですが!!」

静かに姿を見せたのは、ロウディーンの親友と言う有能な外交政務官、瓊樹けいじゅとその夫で、警察庁のエリートの夏侯元譲かこうげんじょう

「取り調べさせていただいた。備産業株式会社の副社長、関雲長かんうんちょうとその娘が、公国の唯一の後継者である琉璃姫を暴行し、顔は奇跡的に傷はないが、手のひら、腕には十数ヵ所、腹部にも一ヶ所の傷があった。全治二月はかかるだろうと診断書はあった」

淡々と答え、腕を組む。

「捜査のために、凶行が行われた福祉施設は、血が飛び散り、子供たちが怯えていた。令嬢を止血する青年に、凶行を行った少女は暴れまわり、取り押さえられ、その父である関雲長はうろたえていた。『私は悪くない!!私は悪くない!!悪いのは嫁と、嫁が育てたこの愚か者!!私は悪くない!!』としか言わないので、保護責任者遺棄容疑で、連行。その娘は、保護している。で、黒河くろかわどの?どうしてこちらに?」

元譲の視線をたどり、ロウディーンも瑠璃も、承彦も嫌悪の表情を浮かべる。
元をたどれば、この男が、麗月を殺したようなものであり、琉璃を苦しめる元凶である。
黒河は、人懐っこい表情で微笑み、

「実は、うちの副社長の娘が傷つけたのではなく、そちらのお嬢さんが刃物を持っていたと聞きましたので」
「嘘をつくな!!琉璃には亮以外にもしっかりと守る者がいた。そんなものを持たせる意味はない!!」
「その娘は素行が悪いと、福祉施設を転々としていて、最後には面倒を見る気はないと放り出されたのではないですか?」

一瞬激昂しそうになった承彦に、そっと手を置いた瑠璃は微笑む。
大丈夫ですよと言いたげに微笑んだ瑠璃は、とどめの一撃を告げる。

「黒河さま?」
「何でしょう?貂蝉ちょうせんどの」
「知っていまして?貴方の片腕である雲長どのは、貴方に内緒で株を売ってお金にして豪遊しておりましたのよ?その株は、こちらにございますの。ご本人とあなた様の株、合計50%。残りは張田さまが持っておられる分と私の分と、麗月が琉璃に残した株と合わせて90%……いかがでしょうか?」

元直げんちょくと共に、月英は株を見せる。

「そして……気になることがある」

元譲が口を開く。

「詳しく、先日の会見の状況を確認すると、福祉施設は、とある会社の社長の命令で、令嬢を追い出すことになったと言っていた。ためらいがちに会社名を伝えると口を揃え、同じ会社名を名乗った。どこかお分かりか?」
「さぁて……私には」

微笑む黒河に、瓊樹が、

「備産業株式会社どの。貴方のやり方には礼儀も何もありません!!他国の公女を傷つける、外交問題にまで発展させるずさんな経営。法を持って処罰致します!!」
「連れていけ」

元譲の一言に、部下が捕らえ連れていった。

「では、大事な会見の途中に失礼した。あとで、謝罪の……お嬢さんの好きそうなお菓子を送ります」
「じゃぁ、私は、可愛いお人形を!!」
「瓊樹……いや、政務官どの、公私混同は……」
「いいんですのよ!!瑠璃は親友ですもの!!それに、亡くなった麗月もそうですわ!!許せませんわ!!」

プンプン怒っている瓊樹の可愛らしさに苦笑する。

「分かった。友人の子供さんにあげるお人形を作らせよう。では、ロウディーン公主、皆さん、失礼を」
「瑠璃!!連絡先教えてね!!それと琉璃ちゃんにもよろしくね!!」
「ありがとう、瓊樹」

ちなみに、瓊樹も昔、モデルをしていたのだが、それよりも仕事を選び、モデルを辞めたのである。
しかし、夫である元譲とは学生結婚であり、今でも新婚夫婦のように仲がいい。

去っていった二人に、

「では、話ですが……」

と話し始めたのだった。

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