満月の美しい夜に…

ノベルバユーザー173744

大人になれなかった子供と子供のままの大人に……

数日後、結納が行われる。

りょうは全く気にかけていないというより、自分は貯めるよりも、慈善事業等をおこしてその運営は得意だが、金銭関係を運営するのは好きではない。

そのため、先輩である月英げつえいや、投資が趣味の姉たちの夫によって公表された亮の財産の目録に目をく兄の瑾瑜きんゆ

「こんなに貯めて!?何に使うの!?」

「いえ、兄上や姉上に何かあったときとか、きんの将来必要になったときとか、珠樹しゅじゅのためにもとコツコツと特許をとって……」

「はぁ!?お前、見た目と違って金持ち!?」

士元しげんの一言に、

「ちゃんとある程度の生活をできる程度に貯蓄しているだけだよ!!失礼な。じゃないと、琉璃りゅうりを嫁に迎えますって宣言できるわけないでしょ!!それでなくとも、兄弟の中で一番凡才なのに!!」

身だしなみを整え、固い髪をした兄弟の中で一人、酷くはないが、軽いウェーブの明るめの髪をしばり肩に流す姿に、士元は、

「お前、姿かたちは本当にムカつくがそう言う格好似合うんだよな!!くっそ」

「背が高いからですよ。仕方ないでしょ」

180を優に越えた…細身の青年は上品なスーツ姿である。

ちなみに元直げんちょくは、亮の補佐として、幾つかの運営を任されており、それなり……以上の収入があったりしている。

「それに、株……!?株の数が半端ねぇ!!しかも、あのちいひめのテーマパークの持ち株の40%持ってる!?」

「まぁ……琉璃が可愛いから」

先日行ったときのはしゃぐ姿を思い出したのか頬を緩める。
光来こうらい家でも完全に株を握ることはしておらず、その為に、琉璃の持ち株を補足するために取得していた。

「他にも、はぁ!?外国のぬいぐるみメーカーやあれこれ!!」

「琉璃には可愛いものを!!」

「……やべぇ。目が真剣になっている!!」

士元は呆れる。

普通にしていると、周囲に紛れると思い込んでいるらしいが、それでなくても目立つ!!この男に、普通を名乗るな!!と心の中で叫ぶ士元である。

「で、ちいひめは?」

「にーしゃまぁ!!」

ててて!!

姿を見せた少女は、優しい淡いピンクのワンピースに、髪は二つに結い上げ細かい編み込みをいくつも作り丸く纏めている。

「こら~。琉璃。あともう少しを我慢しなさい!!」

月英が顔を出す。

月英も上品な衣装を纏っている。

「でも、でも……」

「だから、あと少し。だよ?おいで。そうしたら、あの可愛い亮が贈ってくれたネックレスと、髪飾りと、ピアスをつけてあげるから」

「は、はーい!!い、いってきましゅ!!に、にーしゃま、待っててね?」

必死に背伸びをして訴える少女に、亮は微笑む。

「大丈夫だよ。待っているよ。今も可愛いけど、もっと可愛くなった琉璃に会えると嬉しいね!!」

「本当?じゃぁいってきましゅ!!」

ててて…走り去っていった可愛い少女を幸せそうに見送る亮に、

「家の姪は元気かな?」

姿を見せた青年は、ゆったりと微笑む。

「公主殿下!!」

亮は慌てて近づく。

微笑むのはロウディーン公主殿下こと、ブルーデール公国公主ロウディーンと、その側近の政務官ヴァーセル、そして口は悪いが外交交渉が得意なヨージュである。

「お久しぶりです。亮どの。お元気そうで何より」

穏やかに微笑むロウディーンは、表情はいつも笑顔だが、腹の内は本人いわく、
「腹黒です」
とのことだが、先年、奥方と公子、公女に襲った暗殺事件や流行り病によって、現在は独り身。
親族は、麗月れいげつとモデル名で呼ばれていた妹のディアナの遺児、琉璃しかいない。

「所で、お忍びですか!?大丈夫ですか?」

亮の問いかけに、微笑み、

「仰々しい行動よりも、この方が楽なんですよ」
「でも、ヴァーセルどのは……大丈夫ですか?何時もの胃痛なら、薬をお出ししますよ!?」

ちなみに、亮は医師の資格も、薬剤師の資格も持っている。

「……それは、いつも済みませんね。ヴァーセルは、弱くて」
「お前が、いつも脱走するからだろう!!」
「あの程度の護衛、要りませんし。それに、備産業そなえさんぎょうの送り込んできたアホがいましたよ。絞めておきましたから、帰ったらいないでしょうね」

その言葉に、

「はぁぁ!?お前、又泳がせていたアホを絞めたのか!?くっそぉ!!逆に情報を奪おうと思っていたのに!!」

悔しがるヨージュに、ロウディーンは、

「大丈夫ですよ~(*^^*)情報は色々頂いてますからね。他にも……」
フフフ……
楽しいと言うより、目が笑っていない公主に冷や汗の周囲の中、

「にーしゃまぁ!!」

重い扉をほんの少し開けて滑り込んだ琉璃は、ててて…と駆け寄る。

「にーしゃまぁ!!似合う?似合う?」

「似合うよ?琉璃。そうだ。琉璃?琉璃の亡くなったお母さんのお兄さん。ロウディーン伯父様だよ」

琉璃を振り返らせる。

ロウディーンは、食い入るように琉璃を見つめ、瞳を潤ませる。

「ディアナに似ているね……優しい眼差し、顔立ちもそっくりだ……。初めまして、琉璃。伯父様のロウディーンだよ。会えて嬉しい……探しきれずに、今になって会いに来る伯父様を許して欲しいとは言わないが……会えてよかった」

「お母さんのおにいしゃん?一回だけ、瑠璃おかあしゃまに聞いたの!!おじしゃま、琉璃のこと、探してくれてありがとうございます。琉璃は、光来琉璃こうらいりゅうりです。お年は8しゃいでしゅ!!おじしゃまだいしゅきでしゅ!!」

最初は必死に話していたものの途中から舌ったらずになり、それでもちゃんと挨拶をした姪に、ロウディーンは抱き締める。

「私も大好きだよ。琉璃。あぁ、会えて嬉しい」

笑顔が緩む公主に、側近二人が唖然とする。

「あんな顔、できたっけ?あいつ」
「あ、あぁ……奥方やお子様たちと一緒だと……」

側近とはいえ、幼馴染みであり、表も裏も戦禍を逃れてきた同士でもある二人が驚くほど優しい顔をしている。

「亮どの。頼むよ?琉璃には本当の幸せを、本当に……」
「はい。必ず!!」



つつがなく執り行われた結納の後は、リムジンで移動する。

義理の兄弟となった、公国公主と、世界的な財閥の当主は、月英と側近の二人、瑾瑜と6人で何やら話し込んでいる。

そして、琉璃は亮の膝の上で、うとうとしていた。

「まぁ……琉璃がお昼寝。気持ち良さそうね」

ふふふっと嬉しそうに微笑む瑠璃るり

コンサート用のドレスは後ろに納めており、一応、結納に義理の母として出席したため、ドレスアップしている。

しかし、舞台上ではとても凄烈なまでの美貌で、壮絶な長時間のオペラをこなすのに、薄化粧の今の方が美しいと正直に思う……。
と、

「どうなされたの?」
「いえ、ただ、舞台上の『貂蝉ちょうせん』さまは本当に『女神ディーヴァ』ですが、今のお姿も『母神ディーヴァ』と呼ぶに相応しいなぁと思ったのです。私には母の瑶樹ようじゅが『母神』ですが、琉璃の『母神』は瑠璃さまなのだと思いました」

その言葉に目を丸くして、そして、くしゃっと笑う。

「ありがとう……亮さん。私は……母であることを捨てた人間なのに……優しい言葉を、ありがとう」
「捨てた?違いますよ。瑠璃さまは、琉璃のお母さんです。琉璃がこんなに素直に、こんなに可愛らしく、人のことを考えられる優しい子に育ったのは、瑠璃さまがいたからですよ。瑠璃さまが途中で琉璃のことを投げ出したら、琉璃は、こんなに素敵なレディにならなかったでしょう。それに、琉璃は本当に大好きだから、瑠璃さまが大好きだから、必死に声楽を短期間であそこまで……普通じゃ考えられませんよ」
「……そうね」

瞳を潤ませる。

「私は琉璃の母であることを誇りに思うわ」

瑠璃はこの事を、生涯誓い続けたのだった。

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