満月の美しい夜に…

ノベルバユーザー173744

出会いと旅立ちです!!

  琉璃りゅうりは、光来琉璃こうらいりゅうりと言う。
 8才の少女である。



  母は生まれてすぐ事故で亡くなり、父は琉璃を育てることなく施設に預けた。

  それを知った母の親友の瑠璃るりが、度々施設に来てくれては可愛がってくれていたが、

「本当はね?お家に連れて帰りたいのだけど……あの子がね……」

と柳眉を寄せた。

  あの子……それは何度か名前を聞いた、琉璃の一つ上の瑠璃の娘で驪珠りしゅのこと。

  詳しくは知らないが、瑠璃の夫はとある企業の専務らしく、社長とは兄弟のように仲が良いらしい。

  その為か、子供のいない社長に可愛がられ、母親譲りの美貌もあってちやほやされて、ワガママお嬢様であるらしい。



  その日、瑠璃が連れてきたときには、母親と同じ石の名を持つ琉璃が気に食わないと言いたげに、髪を引っ張り、泥団子を投げた。

「何よ!!こんなの!!可愛くないじゃない!!ふんっ!!黄色の髪に青い目!!不細工!!」

と言われ、髪をわしづかんだ驪珠に、琉璃は泣きじゃくった。

  痛みだけではなく、コンプレックスの髪と瞳の事を言われたからである。

  泣き声に気がついた瑠璃と施設の園長が、何があったのと問うと、その前にささっと手を離していた驪珠が、

「何も。急に泣いちゃったの。私のせいじゃないもん!!」

と言うが、瑠璃は即座にパーンと娘の頬を叩く。

「嘘をつくものじゃないわ!!驪珠!!その手に絡まっている髪は何?貴方……琉璃の髪を引っ張ったのね!!」
「御母様!!何で……何で、信じてくれないの?私は……」
「信じる信じないもないわ!!琉璃の髪はぐちゃぐちゃ、さっきは綺麗にウサギさんみたいに可愛く縛っていたのに、それがここまでなるには……嫌がる琉璃を苛めたからでしょう!!」

  瑠璃は続ける。

「琉璃に謝りなさい!!いじめは駄目だと何度言ったら理解するの!!」
「……お、御母様の馬鹿ぁ!!大嫌い!!そんな子ばっかり可愛がって!!御父様と伯父様に言いつけてやる!!」

  泣きながら逃げ出した少女の恐ろしさを思い知ったのは、その日の夜……。



  施設の園長が、

「御免なさいね?貴方がここにいると、寄付を止めると言われたの。申し訳ないけれど……」

と、別の施設に移ったが、そこでもすぐ同様になり、最後には追い出されたのだった。

  雨の日……そして、叔母がくれた馬のぬいぐるみを抱き、傘もなくさ迷っていると、

「どうしたの?」

  かなり上から声をかけられ、雨が頬を打たなくなる。

  ビクッと怯えていると、

「あぁ、ゴメンね?お兄ちゃん大きいから怖いね?」

と言いながら、しゃがみこむのは痩せた男の人。

  眼鏡をかけて、膝の上に大事なものらしいバッグを乗せ微笑む。

「どうしたの?迷子?」
「……お家が……ないのれしゅ……」

  俯くと、ボロボロと涙が零れた。

「い、苛められたのれしゅ…死んじゃったお母しゃんのお友だちの瑠璃叔母しゃんの子供に」
「えぇ!?苛められた!?なのに何で!!」
「叔母しゃんがらめれしょって叱ったら、仕返ししてやるって……しょ、しょの日の夜に、ししぇちゅの園長しぇんしぇいが、寄付金を止められるから、出ていってって……他に移っても一緒れ……今日、他に受け入れしゃきはにゃいから、しょ、しょのまま……」

  しゃくりあげる琉璃に、お兄ちゃんは、

「じゃぁ、お兄ちゃんの下宿先にいこう。そこなら大丈夫だよ?」
「れ、れも……しょの、しぇき家の……」
「しぇ……関家せきけ?あぁ、あの。平気平気。お兄ちゃんの下宿先の伯父さんはもっとすごいから。ほら。お兄ちゃんと行こう」

  大きな手が差し出される。
  恐る恐る手を乗せると、優しく握ってくれた。
  ゆっくりと歩きながら、

「お兄ちゃんは、諸岡亮もろおかりょう。君は?」
「琉璃……名字は知らない。教えてくれにゃかったの……」
「ふーん……でも。琉璃……いい名前だね?ラピスラズリの石の日本名。その古称だね」

  見上げる。

「あにょね……琉璃は、死んだお母しゃんとしょっくりなんだって。れもね、お母しゃんのお友だちの瑠璃叔母しゃんのおにゃまえを貰ったの」
「あぁ、瑠璃。うんうん。お母さんは、琉璃の瞳の色とそのお友だちの瑠璃さんの名前を付けたんだね。素敵だね」
「れも……こんにゃ髪と瞳……変らって皆言うし……しょ、しょの驪珠って言う子は二ちゅにね、こうやって結んでたのを引っ張って、こうやってガシッて……痛くて……にゃいたの」

  眼鏡の中の黒い目が細くなる。

「酷いことをするね!!その子!!お仕置きしなきゃ!!」
「れも、瑠璃叔母しゃんが、パーンってほっぺた叩いたや、仕返ししてやるって……もうやら…叔母しゃんもいない……お父しゃんは、育てられないって……行くとこよないんらもん……だりぇもいないんらもん!!琉璃にはいないにょ……」

  号泣する琉璃を抱き上げた亮は、急いで歩いていった。



  いつのまにか寝てしまったのか、目が覚めると、見たこともない豪華な部屋のフカフカのベッドに寝かされていた。

「ここ……どこ?」

  目を何度もこすり、キョロキョロするものの、さっきのお兄さんもいない……その上……。

光華こうか!!」

  大事なぬいぐるみもない……顔を歪め、泣き出しかけた琉璃の右手の扉から何かの箱と、ぬいぐるみを抱いた先程の亮と言う名のお兄さん。

「あれ?起きたの?あ、ごめんごめん!!」

  近づいてきた亮は、目を潤ませている琉璃に近づき、

「ゴメンね?あのね?この子、濡れてたから乾かしてたの。そうしたら、ほら、こことここ」

  琉璃に近づけ示す。

「ほつれてるでしょう?だからね、綺麗に直そうと思って裁縫道具持ってきたんだよ。それと……」

  トントンっと先程の扉が開き、わぁっと4人がなだれ込む。

「亮よ!!その子が……」

  近づいてきたのは、白髪混じりだが、スーツ姿がさまになっているダンディーな伯父様(と言うようにと後で教えられた)と、金髪に緑色の瞳の美人なお姉さんと、物静かな印象のお兄さんと、亮お兄さんよりも年下のお兄さん。
  琉璃が怖がったら困ると思ったのか、少し離れて立ち、微笑む。

「琉璃かい?」

  叔父さんの声に、頷く。

「あ、あい。琉璃れしゅ」
「良かった……探しておったのだよ!!私は光来承彦こうらいしょうげん。お前のお母さんの遠縁に当たる。正確には私の亡くなった妻の縁戚……。お前のお母さんは、名前を聞いてるかな?」
「れ、れいげちゅ……れ、麗月れいげつれしゅ。れも、これは本名じゃにゃくて、本当はフェリシアって言いましゅ」
「やっぱり!!」

  金髪の美女が少し低めの、でも綺麗な声で呟く。

「フェリシア姉さん!!姉さんは私の母の従姉妹よ。貴方は姉さんに似てるわね!!私は母だけど」
「お姉しゃん?琉璃の……かじょく?」
「そうよ。私は月英げつえい。月の花びらって言う意味だけれど、ちょっとねぇ……」

  顔をしかめる月英の横から顔を出した少年が、

「じゃぁ、英国名のジェ……」
「言うんじゃないの!!きん!!」
「ヤッホー。琉璃。僕は均。均等の均。亮兄さんの4才下の弟だよ。大学生」

  手をヒラヒラさせた愛嬌のある少年に見えるのだが……。

「あ、あにょ……琉璃のお歳は8しゃいれしゅが、お、お兄ちゃんは……幾ちゅれしゅか?」
「8才!?えぇぇ!?ちっちゃい!!舌ったらずでしゃべり方も顔も全部可愛い!!」
「やめろ、均!!」

  慌てて抱きつこうとした弟を引き剥がし、

「琉璃。均は16。飛び級で大学生だ。因みに英国の名門大学に通っている。今は長期休暇だよ。で、この人が」
「はじめまして、琉璃」

  甘い声が響く。

「私は庄井元直しょういげんちょく。歳は22歳。教員免許を取得したのだけど、教員は過剰だって……で、承彦さんのお手伝いをしてるんだ」
「謙遜してるけど秘書だよ、秘書。元直兄さん、有能なんだよ」

  均は示す。

「それに、兄さんはもっと凄いんだよ!!小さい頃から神童って呼ばれてたんだよ?兄さんは世界の研究所から、大学の研究室あらゆるところから引き抜き話があるんだよ。今度は米国?仏国?独国?アジアはほぼ制覇だよね?印国とか、韓国、中国……」

  指を折り数えるのを呆然と見る。

「しゅごい……れしゅ、ね」

「……いや、兄弟が皆突出した才能があって……兄が諸岡瑾瑜もろおかきんゆ。姉が紅瑩こうえい・バーナード、もう一人の姉が北条晶瑩ほうじょうしょうえい、妹が諸岡珠樹もろおかしゅじゅ
「し、しってましゅ!!おにいしゃんは、有名にゃ文学者れ、紅瑩しゃまは、有名にゃアーチェリーと、弓道の……しょえと、晶瑩しゃまは、柔道と空手に女性でしょ、しょう、総合格闘技の……珠樹しゃまは、有名にゃハープしょうしゃれしゅよね?こととか、琵琶とかも……」

  いくら世間に疎くとも解る。

  その凄さを……。

と、均は兄を示し、

「兄さんは兄と姉にあれこれ叩き込まれたの。それに、元々楽器全般得意なの兄さんで、兄さんは声楽からヴァイオリンと、チェロ、ピアノにハープや琵琶に琴も上手いんだよ?最初の留学先、音楽の都の合唱団だったし」
「しょ、しょうにゃにょれしゅか?しゅごいれしゅ!!」
「そんなに凄くは」

  淡々と一人黙々と縫い物をしていた亮は、糸を結び、結び目がじゃまにならないように中に入れ切ると、

「はい、できあがり。琉璃。このお馬さん可愛いね?」

  差し出されたぬいぐるみをぎゅっと抱き締め、

「おにいしゃん、あいがとう」
「どういたしまして。ところで、叔父さん……」
「私の娘にこのようなことするとは…あの馬鹿ども懲りんと見える!!今日こそは許さん!!徹底的に潰してくれる!!元直!!」

  承彦の声に、

「すでに。ご安心を。進めております。役所にも通告。琉璃を追い出した施設の者が、金品を受け取っていることは明白、そして備産業そなえさんぎょうが、娘のワガママを許した上、琉璃に嫌がらせをしたことや、金品をちらつかせ、寄付を止めると脅すなど言語道断!!許さないと曹操業にも通告しております」
「他には……琉璃や?」
「あ、あいっ!!」

返事をする。

  すると、承彦は、

「琉璃?伯父さんは琉璃の伯母さんの夫。本当の血の繋がった伯父さんではないが、伯父さんの娘にならんかのぉ?そして、この街ではおりたくなかろう?伯父さんは、貿易会社を経営しておって、各地を転々としている。しばらく休暇をと思っておったが、急に仕事が入り、月英と均と元直と英国に行くことになったのじゃが……琉璃や?伯父さん……お父さんと、お兄ちゃんたちと一緒に行かぬか?」
「英国!?」
「そうじゃ。そして、お父さんの田舎の小さな屋敷ではあるが、半年勉強して英語が出来るようになったら、学校に編入して、新しい友達と遊ぶといい。どうかな?お父さんと一緒は……」

  目を大きく開けた琉璃は、頷く。

「あ、あい!!琉璃はお勉強してお友だちと仲良くします!!」
「良かった……では、大きなものは向こうで揃えるとして……数日ゆっくりしなさい。お父さんがあれこれ準備しておこう」
「お父様!!私も!!」

  手を上げる月英に、苦笑しつつ、

「お前は全く昔から、言い出したら聞かんの……よしよし。そのぬいぐるみも一人じゃ寂しかろう……友達や家族も探そうな?」

と承彦は微笑んだのだ。

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