-Tuning-希望の妖精物語
/26/最後の願い
地上で気がついた時、私は高層ビルの屋上の上だった。
小さい体でヨタヨタと歩き、外の景色を眺めたのを今も忘れられない。
大都市の夜景というのが美しいということを、この身に焼き付けられたのだから。
「……凄い綺麗な景色……こんなの初めて見た……」
街に輝くネオンの光、イルミネーション、建物の灯り。
科学の発展してる所がこんなに凄いなんて――。
――ファァアアアン!
「うるさっ!?」
突如聴こえた機会の鳴るような音。
何かと思って見てみると、鉄の塊が物凄いスピードで動いていた。
一瞬で目を奪われた。
だって、あんなものは元の世界で見たこともなかったから――。
「……凄い!凄い凄い!!うぉおおおおおおお!!」
大興奮だった。
意味もなく地団駄を踏み、脇を締めて腕に力を込めた。
なんでこんなに凄いのだろう。
凄いなんて言葉じゃ済まない、でもこれ以上の言葉が私にはわからない。
でもとにかく凄かったのだ。
「――降りよう!」
降りて、もっと近くで見たい。
けれど降り方がわからない。
どうやってこの高い所から降りたものか。
「あ、なんか羽ある」
その時、羽の存在に気付いた。
妖精なんだから羽もあるだろうと自嘲し、すぐに羽をはばたかした。
動く、飛べるのがわかる。
「よし、行こう!」
自由にはばたく翼を使い、私は高くから飛び降りたのだった。
1つ目の願いは、“言語を共有できるように”と使った。
2つ目は、“実体化とサイズ調整”に使った。
言語がわからなければなにに困っているのかもわからない。
実体化は実質いらなかったけど、人間と同じサイズぐらいになれるのは私にとって都合が良かった。
踏み潰されたりなんてしたらたまったもんじゃないから。
「……“同調”」
地上に来て1ヶ月、私の目は死んでいたと言っていい。
1ヶ月、人と話していない。
ただただ“同調”とだけ呟いている。
行き交う道先では必ずと言っていいほど悲しい人が居た。
そういう人にすれ違った時には感情の共有をして癒して行く。
体の悪そうな人を見かけたら、場所を覚えて、臓器提供の死体と私の体を媒体に交換する。
ひたすらにそれだけを繰り返していた。
疲れる。
でも誰も癒してくれない。
否。
大丈夫、そんなのは3年前から同じじゃないか――。
「く、あはははははっ、私はテンションが高い!大丈夫!」
辛い時は、テンションを底上げする薬を服用した。
自分で開発したもので、前世から持ち込めた数少ないもの。
これがなかったらと思ったが、この薬はこちらでも作れたのでなんとかなった。
1年が経つと、“同調”は記憶を見て、精神に解消法を教えたりするようにもなった。
たまに夢で会う神様には無理をするななどと寝言を言われたけど、これをやめたら私は存在すらない。
人を救うことに全てを捧げて来た。
誰にも崇められたりしなくても、やろうと決めて来た。
今これをやめたら、私には何が残るの――。
希望の妖精。
そう自分を自称する事は大切だった。
だって、私が“同調”した時に、“同調”した人が嫌な思いをしてはいけない。
だから、“同調”する際は必ずテンションが高い時に限った。
自分で自分がおかしくなっているのに気付いてたのに、それでも、私は――。
だいぶ月日が経った。
きっと、10年くらい。
偶然見えたカレンダーで確認すると、そのくらいだった。
だいぶ力が抜けていたと思う。
投げやりな感じが出てきて、かっこいい人とか可愛い人とか見てた時もある。
電柱に頭をぶつけて耐えた。
それから薬を飲んで、テンションを底上げした。
それからまた落ち込んでる、希望をなくした人を探す。
そして、真和と出会った――。
「……っ?」
ふと開いた瞼。
ぼやけた視界には、なんとなくカムリルが映っているのが分かる。
電光の光と、翳ったカムリルの顔が徐々に映り始めた。
「……起きた?」
「……ああ。寝覚めは、あまり良くないな……」
「……そっか」
体が怠くて動くこともままならない。
ほぼ真上に顔が見えることから膝枕でもされてるんだろうが、気にしないでおこう。
「ちゃんと、私の過去は見れたかな?」
「……ああ、全部見たよ。お前の人生……」
口から出た声はあまりちも生力がなく、冷たいものだった。
友達の人生が寂しいもので、俺が悲しくならないはずがない。
「……なによ、暗い声出しちゃって」
「……今とじゃ、かなり話し方が違うんじゃないか?」
「……そーかもね。自分じゃ、よくわかんないけど」
「…………」
性格そのものは過去と大差がない。
話し方は、今の方が少し楽しそうだ。
それは話せる相手がいるからか――。
いや、詮索はよした方がいいだろう。
楽しそうなら、それでいい。
「……私ね、親切にしてもらったのなんて子供の頃以来だったんだ」
突如始まる彼女の独白。
ポツポツと、瞳を閉じて楽しそうに語り出す。
「幼少の頃はまだ遊びとかしてたけど、8歳ぐらいからはずっと勉強してた。だから、寂しくて……。真和は、なんだかんだいって私に優しくしてくれた。だからね、依存しちゃったのかな。離れたくなくなっちゃった。言葉が通じるだけでも嬉しいのに、優しくされたら、耐えられないよ……」
「……俺が優しいわけねーだろ」
「もー、この後に及んでそんなこと言う〜……」
「いてっ」
両の頬を引っ張られる。
たいして力を込められてるわけじゃないが、反射的に痛いと口から出た。
するとカムリルは微笑み、薄く笑った。
「うふふっ。こうしてると私たち、恋人みたい?」
「……恥ずかしいこと言うんじゃねぇよ」
「私の方が恥ずかしいよーーっだ」
「……知らねぇよ」
恥ずかしいならしなければいいのに、とは言わない。
呆れたような反応をしながらも、俺もその場を動かなかったから。
変な気分だ。
昨日、いや、火曜あたりからか、なんだか体の力がぬけてる気がする。
昨日とかは特にそうだ。
今日なんてもっと酷い。
でも、俺は、それでいい気がした。
別に、気持ち悪い感情ではなかったから――。
「ドロップ病の存在を消して」
深い夢の中、かの幻想的な水の上。
私は開口一番にそう口にした。
今日一日考えてみて、誰かがドロップ病で苦しんでいるのがやはり私は嫌で、この願いを叶えることにしたのだ。
「……いきなり何事かと思えば、君はそんなことを叶えに来たのかい?僕の世界でその病は流行っていないのに……」
いつものように、空から降ってきた“自由”の神がやれやれと言いたげに肩を竦める。
それもそうだ、別に今いる世界でドロップ病に困ってるんじゃないし、まったく自分のための願いじゃないんだから。
「いいのよ、私がしたいんだからっ。それに、貴方の世界のだけの話じゃなくて、全ての世界から消してって言ってるのっ。貴方の世界でドロップ病が無いのは知ってるしっ」
「……ああうん。とりあえず、存在を消す、ということはできないよ。存在を消しても、どうせまた誰かが発見できるからね。そういう輩がいるのさ」
「ふむ?じゃあどうすればいいの?これ以上感染させない、病状を変更とかできないの?」
「病状は変えられないな。特性はその特性でしかあらず、変化はできない。
だから発病しないということもあり得ないが、感染しないといことならでいなくもないな」
「その辺のややこしさなくなればいいのにっ」
「理は理なんだ。無理を言うな……」
神様の癖に無理と言う。
なーんでそんな神様って複数いるのよ、面倒くさい。
「まぁでも、感染しないならそれでいいわ。それ叶えて」
「……本当にいいんだね?もう変えないよ?」
「いいわ。どうせ他に使うことなんてないし」
「……好きな人のために使えばいいものを。いや、これが君らしいと言うべきか」
「そうよ。これが私の生き様なんだもの。残念だったわね」
私はどう足掻いても呪縛のように付きまとう“他人のため”から逃げられない。
寂しさがあっても、それは悪くないだろう。
「……その信念も、果たしてどこまでもつものか……」
「……どーいうことよ?」
「人が考え、行ったことはなにもかもが利己心から出たものだ。別にそれが悪いと言いたいんじゃない。ただ、君“が2つの利己心”を持ったら、君はどちらを選択するのかな?」
「…………」
つくづく意地悪な人だ。
今私の胸にある想いは2つ。
そんなの選択のしようもないのに、訊いてくるんだから。
「くふっ、失礼。あまりにも君が可愛いから悪戯してしまったよ」
「うわっ、アンタに可愛いって言われても微塵も嬉しくないわ」
「はぁ……まったく、つくづく連れないな……。まぁ、精々頑張るがいいさ」
「言われなくたって頑張るわよっ」
嫌味一つ残して神様が姿を消す。
後に残された私は、空を仰いで少し考えていた。
真和の元を離れるか、残りたい意思を優先させるか。
寧ろ私は、残っても良いのだろうか――?
続く
小さい体でヨタヨタと歩き、外の景色を眺めたのを今も忘れられない。
大都市の夜景というのが美しいということを、この身に焼き付けられたのだから。
「……凄い綺麗な景色……こんなの初めて見た……」
街に輝くネオンの光、イルミネーション、建物の灯り。
科学の発展してる所がこんなに凄いなんて――。
――ファァアアアン!
「うるさっ!?」
突如聴こえた機会の鳴るような音。
何かと思って見てみると、鉄の塊が物凄いスピードで動いていた。
一瞬で目を奪われた。
だって、あんなものは元の世界で見たこともなかったから――。
「……凄い!凄い凄い!!うぉおおおおおおお!!」
大興奮だった。
意味もなく地団駄を踏み、脇を締めて腕に力を込めた。
なんでこんなに凄いのだろう。
凄いなんて言葉じゃ済まない、でもこれ以上の言葉が私にはわからない。
でもとにかく凄かったのだ。
「――降りよう!」
降りて、もっと近くで見たい。
けれど降り方がわからない。
どうやってこの高い所から降りたものか。
「あ、なんか羽ある」
その時、羽の存在に気付いた。
妖精なんだから羽もあるだろうと自嘲し、すぐに羽をはばたかした。
動く、飛べるのがわかる。
「よし、行こう!」
自由にはばたく翼を使い、私は高くから飛び降りたのだった。
1つ目の願いは、“言語を共有できるように”と使った。
2つ目は、“実体化とサイズ調整”に使った。
言語がわからなければなにに困っているのかもわからない。
実体化は実質いらなかったけど、人間と同じサイズぐらいになれるのは私にとって都合が良かった。
踏み潰されたりなんてしたらたまったもんじゃないから。
「……“同調”」
地上に来て1ヶ月、私の目は死んでいたと言っていい。
1ヶ月、人と話していない。
ただただ“同調”とだけ呟いている。
行き交う道先では必ずと言っていいほど悲しい人が居た。
そういう人にすれ違った時には感情の共有をして癒して行く。
体の悪そうな人を見かけたら、場所を覚えて、臓器提供の死体と私の体を媒体に交換する。
ひたすらにそれだけを繰り返していた。
疲れる。
でも誰も癒してくれない。
否。
大丈夫、そんなのは3年前から同じじゃないか――。
「く、あはははははっ、私はテンションが高い!大丈夫!」
辛い時は、テンションを底上げする薬を服用した。
自分で開発したもので、前世から持ち込めた数少ないもの。
これがなかったらと思ったが、この薬はこちらでも作れたのでなんとかなった。
1年が経つと、“同調”は記憶を見て、精神に解消法を教えたりするようにもなった。
たまに夢で会う神様には無理をするななどと寝言を言われたけど、これをやめたら私は存在すらない。
人を救うことに全てを捧げて来た。
誰にも崇められたりしなくても、やろうと決めて来た。
今これをやめたら、私には何が残るの――。
希望の妖精。
そう自分を自称する事は大切だった。
だって、私が“同調”した時に、“同調”した人が嫌な思いをしてはいけない。
だから、“同調”する際は必ずテンションが高い時に限った。
自分で自分がおかしくなっているのに気付いてたのに、それでも、私は――。
だいぶ月日が経った。
きっと、10年くらい。
偶然見えたカレンダーで確認すると、そのくらいだった。
だいぶ力が抜けていたと思う。
投げやりな感じが出てきて、かっこいい人とか可愛い人とか見てた時もある。
電柱に頭をぶつけて耐えた。
それから薬を飲んで、テンションを底上げした。
それからまた落ち込んでる、希望をなくした人を探す。
そして、真和と出会った――。
「……っ?」
ふと開いた瞼。
ぼやけた視界には、なんとなくカムリルが映っているのが分かる。
電光の光と、翳ったカムリルの顔が徐々に映り始めた。
「……起きた?」
「……ああ。寝覚めは、あまり良くないな……」
「……そっか」
体が怠くて動くこともままならない。
ほぼ真上に顔が見えることから膝枕でもされてるんだろうが、気にしないでおこう。
「ちゃんと、私の過去は見れたかな?」
「……ああ、全部見たよ。お前の人生……」
口から出た声はあまりちも生力がなく、冷たいものだった。
友達の人生が寂しいもので、俺が悲しくならないはずがない。
「……なによ、暗い声出しちゃって」
「……今とじゃ、かなり話し方が違うんじゃないか?」
「……そーかもね。自分じゃ、よくわかんないけど」
「…………」
性格そのものは過去と大差がない。
話し方は、今の方が少し楽しそうだ。
それは話せる相手がいるからか――。
いや、詮索はよした方がいいだろう。
楽しそうなら、それでいい。
「……私ね、親切にしてもらったのなんて子供の頃以来だったんだ」
突如始まる彼女の独白。
ポツポツと、瞳を閉じて楽しそうに語り出す。
「幼少の頃はまだ遊びとかしてたけど、8歳ぐらいからはずっと勉強してた。だから、寂しくて……。真和は、なんだかんだいって私に優しくしてくれた。だからね、依存しちゃったのかな。離れたくなくなっちゃった。言葉が通じるだけでも嬉しいのに、優しくされたら、耐えられないよ……」
「……俺が優しいわけねーだろ」
「もー、この後に及んでそんなこと言う〜……」
「いてっ」
両の頬を引っ張られる。
たいして力を込められてるわけじゃないが、反射的に痛いと口から出た。
するとカムリルは微笑み、薄く笑った。
「うふふっ。こうしてると私たち、恋人みたい?」
「……恥ずかしいこと言うんじゃねぇよ」
「私の方が恥ずかしいよーーっだ」
「……知らねぇよ」
恥ずかしいならしなければいいのに、とは言わない。
呆れたような反応をしながらも、俺もその場を動かなかったから。
変な気分だ。
昨日、いや、火曜あたりからか、なんだか体の力がぬけてる気がする。
昨日とかは特にそうだ。
今日なんてもっと酷い。
でも、俺は、それでいい気がした。
別に、気持ち悪い感情ではなかったから――。
「ドロップ病の存在を消して」
深い夢の中、かの幻想的な水の上。
私は開口一番にそう口にした。
今日一日考えてみて、誰かがドロップ病で苦しんでいるのがやはり私は嫌で、この願いを叶えることにしたのだ。
「……いきなり何事かと思えば、君はそんなことを叶えに来たのかい?僕の世界でその病は流行っていないのに……」
いつものように、空から降ってきた“自由”の神がやれやれと言いたげに肩を竦める。
それもそうだ、別に今いる世界でドロップ病に困ってるんじゃないし、まったく自分のための願いじゃないんだから。
「いいのよ、私がしたいんだからっ。それに、貴方の世界のだけの話じゃなくて、全ての世界から消してって言ってるのっ。貴方の世界でドロップ病が無いのは知ってるしっ」
「……ああうん。とりあえず、存在を消す、ということはできないよ。存在を消しても、どうせまた誰かが発見できるからね。そういう輩がいるのさ」
「ふむ?じゃあどうすればいいの?これ以上感染させない、病状を変更とかできないの?」
「病状は変えられないな。特性はその特性でしかあらず、変化はできない。
だから発病しないということもあり得ないが、感染しないといことならでいなくもないな」
「その辺のややこしさなくなればいいのにっ」
「理は理なんだ。無理を言うな……」
神様の癖に無理と言う。
なーんでそんな神様って複数いるのよ、面倒くさい。
「まぁでも、感染しないならそれでいいわ。それ叶えて」
「……本当にいいんだね?もう変えないよ?」
「いいわ。どうせ他に使うことなんてないし」
「……好きな人のために使えばいいものを。いや、これが君らしいと言うべきか」
「そうよ。これが私の生き様なんだもの。残念だったわね」
私はどう足掻いても呪縛のように付きまとう“他人のため”から逃げられない。
寂しさがあっても、それは悪くないだろう。
「……その信念も、果たしてどこまでもつものか……」
「……どーいうことよ?」
「人が考え、行ったことはなにもかもが利己心から出たものだ。別にそれが悪いと言いたいんじゃない。ただ、君“が2つの利己心”を持ったら、君はどちらを選択するのかな?」
「…………」
つくづく意地悪な人だ。
今私の胸にある想いは2つ。
そんなの選択のしようもないのに、訊いてくるんだから。
「くふっ、失礼。あまりにも君が可愛いから悪戯してしまったよ」
「うわっ、アンタに可愛いって言われても微塵も嬉しくないわ」
「はぁ……まったく、つくづく連れないな……。まぁ、精々頑張るがいいさ」
「言われなくたって頑張るわよっ」
嫌味一つ残して神様が姿を消す。
後に残された私は、空を仰いで少し考えていた。
真和の元を離れるか、残りたい意思を優先させるか。
寧ろ私は、残っても良いのだろうか――?
続く
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
3
-
-
516
-
-
111
-
-
89
-
-
4503
-
-
1512
-
-
1
-
-
104
-
-
125
コメント