-Tuning-希望の妖精物語

川島晴斗

/14/神様とのお話

妖精が眠ったら必ずこうなるのかは知らないが、少なくとも私は眠る時、2つの選択肢がある。
1つは普通に眠ること。
もう1つは神様と夢の中でお話をすること。
すっかり忘れていたけど、神様に真和の理由を聞こうと思う。
これでもう会うこともないかもしれないし、どんな因果で出会ってしまったのか。
理由くらい聞いておきたかった。

「……神様〜、いらっしゃるー?」

木々に囲まれ、滝へと続く川の上に立って神様を呼ぶ。
半分が夜、半分が昼の空から、太陽と月の間より神様が降りてくる。
私のように水面を立たず、浮遊する。

「いらっしゃるよ。意識の一部がここにいるだけだけどね」

多少疲れているのか、王冠をずらして髪を掻き分ける青年の形をした神様。
今は暇潰しにどっかの王様でもやってるのか、Yシャツの上から赤いマントを羽織り、無駄にでかいベルトが幾重に繋がった長襦袢を履いている。

「ん、それは良かったわ。ちょっと聞きたいことがあってねー」
「あぁ、うん。少年に見えたことか……」

何にも言ってないのに内容を理解される。
うむうむ、話が早くて助かる。

「そうそれ。なんで?」
「運命だよ」
「……運命?」
「そう、運命さ。出会いの一つ一つには何かしらの意味がある。偶然の出会いというのは存在しない。それがどういう因果関係なのかは説明し難いし、神様間のルールで未来を見る行為は禁じられているから説明もつかない」

つまり、今真和と会った中で出会った理由を考えるか、未来に理由があるから考えなくて良いと。
ふむ。

「案外役に立たないのね」
「黙りなよ。情報開示を行っているだけありがたく思え」
「はいはいっと」

真和よりも可愛くない反応。
私は曖昧に返事を返し、もう帰るかどうかを検討する。

「帰るのかい?」
「他に聞きたいこともないしね」
「……そうかい。急に来たもんだから“願い事”が決まったのかと思ったのに」
「私だって緊急の用事が入るのよ」
「……そうかい。やっぱり友達がいると違うかい?」
「あーうん、やっぱり他に妖精いないのね」

友達ができると違うって、つまりは他に友達になるような存在があの世界にいないってことでしょ?
私に対する苛めかこの野郎。

「いるにはいるのさ。しかし、数十人も居ないのだから会える可能性が低いだけ。それに、君は“願い事”の1つに実体化を使ったじゃないか。人間に友達を作ればいいのに」
「あのね、真和とだって友達になるつもりはなかったのっ。私はこれでも忙しいんだから」
「……自由を尊重してるから別に仕事はしなくていいと言ってるのに、君もなかなか頑固だな……。その点だけは崇拝するよ」
「あんまり嬉しくないわっ」

かの世界に魔法はない。
人の心を癒せるのは会話だけ、果たしてこの世に慰め上手がいかほどいようか?
それよりも私の力でたくさん希望を与える方が何万倍も早い。
寝ている間にだって希望を与えれるんだから。

「…… 仕事をするのも、君の自由だったね。好きにするといいけど、勝手に人と腕を交換したりしないでくれ。記憶の改竄が億劫なんだから」
「善処はしますよーっと。まったねー」
「……また、ね」

私の返事がお気に召さないのか、歯切れの悪い青年。
あんまり長居しても仕方ないし、私は夢の中での意識を放棄した。










「清々しい朝にっ!」
「うるせぇよ。お前のせいで汚い朝になったわ」
「真和の心はいつも通り清々しくないねっ!」
やかましいわ」

彼が使っていた枕を投げられる。
落ち着いたツッコミとは違った豪速球で、私は受け止められずにお腹に直撃を食らう。

「うぬおぉおおおっ……」
「およそ女の出す悲鳴じゃねぇな」
「キャー、痛いよー、ふえーん。どう?」
「ちょっとこっち見ないで向こう見ててくれるか?30分くらいな」
「なんでそうなるのっ!?」

朝っぱらからだというのに軽口が止まらない。
いやはや、これはもう友達と読んでもいいのではなかろうか。
私はそう思ってるんだけどねっ。

「そういえば真和、今日寝てる間に神様と話してきたんだー」
「は?……神様?」
「うん。そしたら真和との出会いは運命だったんだって。どう思う?」
「……とてつもない不運?」
「嘘だぁ〜。うふふふふ、知ってるんだから真和さん。私との出会いが僥倖だなんて〜、キャ〜♪」
「今日は一部で35°Cを超えるみたいだ。……よく燃えそうだな」
「何を燃やすつもりなの!?」

きっと私のハートだろう。
メラメラにして恋に発展!
そうだったらいいな、あはははは〜。

「……お前、余裕あるよな」
「真和に言われたくないけどね」
「……そうだな。俺も思ったより余裕らしい」

真和は儚く笑った。
気が重いはずなのに、不思議なのだろう。
ぬははは、私がいるのだから当然である。

「……今日。今日の放課後、メールで2人を呼び出す。いいな、カムリル?」
「合点よ!」
「遅刻すんなよ?」
「大丈夫、今日も1日中一緒にいるからっ」
「そりゃ違う意味でとてつもなく不安だが、やるぞ?」
「おーーぅっ!!」

今日この日の誓いの証に、元気な返事を返す。
仲直りを成功させる。
その期待を胸に秘めて。










学校の授業が早く終わって欲しいという気持ちもあるし、もっと長くなれという気持ちもあった。
できるなら仲直りを、でもあいつらに向き合うのも怖くて長くなれと思っている。
とにかく、今日の俺は勉強が手付かずだった。

「電磁気学ってよくわからないね……」
「おまえはどこからその本を借りてきたんだ」

授業を聞き流す俺の隣には白い着物を着た女が床に座ってまったく見に覚えのない本を読んでいる。
本が浮いてるように見えるだろ?それとも触れていると見えないのか?
まぁ、誰も指摘したりしないから俺も気にしないでおこう。

「図書館だよ〜。折角の機会なので拝借してみました」
「お前、借りる権限持ってねぇだろ」
「え?身分証明書とか必要なの?どっちにしろ持ってないけどね」
「戻してこい。もしくは図書館で読め」
「チッ。仕方ないなー」

わざとらしく舌打ちしてからゆっくり立ち上がり、平然と最前列の前を通って行くカムリル。
ガラッとドアを開け、教室を出る。

『!!!?』

突然の超常現象に、クラス中が突如開いた扉を見た。
マジで勘弁してくれ……。










それほど長い時間を待ったわけではないが、歳月人を待たずとはよく言ったものだと思う。
あっという間に訪れた昼休み、俺は購買で適当に飯を買いあさり、例の如く4階の多目的室に訪れた。
いつものように誰もいない室内で、カムリルにメールを打たせて俺はおにぎりを頬張る。
2人に送るメールなのだが、「ここはプロに任せろっ」と言うので打たせている。

「書いたよー」
「おーぅ……」

戻ってきた携帯の文面を見る。

[貴方の愛しの真和くんよりっ(はーと)
放課後のお呼びだしだよ〜
今日都合が合ったら4階の多目的室に来れる??
来れなかったらまおまおが押しかけちゃうぞっ☆
待ってます〜☆]

他にも色々絵文字、顔文字の入った文面を速攻削除し、[放課後4階の多目的室に来い]とだけ打って2人に送信した。

「送ったぞ」
「えぇっ!!?」
「お前のメールは消したわ」
「ぬ、ぐふぁっ……」

撃沈し、机に組み伏せるカムリル。
なんで俺があんなファンシーな文面を送らなきゃいけねぇんだ。

「これで呼び出しは終わりだ。返信はあるか知らねぇけど、彼奴あいつらが塾とかに通ってるってのは聞いてねぇから来るだろ」
「果たしてそうかな……」
「……なんだと?」

カムリルはススッと懐から“今日のデートスポット一覧!”という雑誌を取り出した。
悪い顔をしながら。

「へっへっへ、こちらの情報が載った文を和子さんに渡しておきましたぜ」
「殴っていいんだな?」
「暴力反対ぃいい!」

拳を振り上げると案の定雑誌でガードを張ったので雑誌を没収する。
そしてカムリルの顔面に押し付ける。

「どうせ図書館のだろ?戻してこい」
「……ふぁい」

ううぅーと泣きながらカムリルが退室する。
…………。
……こんなんで大丈夫だろうか?
信じようと思ったが、だんだん不安になってきた。



続く

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