異世界転移~俺は人生を異世界、この世界でやり直す~

じんむ

久方ぶりの

 ティミーに何故か説教を受けつつ、転移石を使ってディーベス村からとんぼ返りで、使えそうな物を適当に寮へ入れてきた。騎士団入団という事で村では軽いお祭り騒ぎで宴を催してくれるという事だったが、何かとしなくてはならない事があったので断らさせてもらった。明日も少し呼ばれている用事がある。

 そして今は街に繰り出して揃え切れなかった生活用品等を買い出しをしている。ティミーもまた一緒に来ているが、今頃そばの店の中で商品と睨めっこしているはずだ。ちなみに俺と言えば日用品を買えばそれでよかったのが、いつの間にか関係無い物を見だしたティミーに振り回されるのに疲れて近くのベンチに座って待たせてもらっている。ベンチは有り難いほんと。

 しかし女というのはどういう生き物なんですかね? 元の世界であかりとショッピングモールに行った時もそうだったけど、まぁ長い。ティミーも同じでさっきのアクセサリー店じゃ一時間見た挙句結局何も買わず、服の店なんか二時間だよ二時間。まぁさ、確かに服を合わせながらこっちにいろいろ聞いて来たりするのとかなんか凄い可愛いんだけど、可愛いからいいんだけど、昨日の試験のせいか疲労感がやばいのよ。父さんはちょっと体力的に厳しいんだ。

 ……はぁ、そういえばあかりといえば今どこで何をしてるのかな。何事もなければいいけど。ただもしこれでどうにでかなってたりしたら俺の……いや、そりゃ悲観しすぎだな。そもそもそんな事を考えては失礼だろう。あいつの事だ、きっとどっかからひょっこり現れるさ。気長にその時を待とう。そしてその時が来ればきっちりとやることはやる。後ろ向いてても得られる物なんか辛い事だけだよな……うん。そうだ。

「ま、まさかアキなのか!?」

 ぐったりとベンチに腰掛けていると、どこから懐かしい声が聞こえてきたのでそちらの方へ目を向ける。

「あ」

 あまりに予想外でついつい単語だけの発声になってしまう。
 でもそうなるのも無理もないと思う。なにせ視線の先にはアルドの姿があったのだから。

「あ、じゃないだろうアキ!? まさかあれからショックのあまりずっと王都をほっつき歩いてるとかそういうのなのかい!?」
「いやそりゃ無いだろ」
「ほんとかい!? ほんとなんだね!?」

 何をそんな……もしかしてけっこう心配してくれてたのか? 俺ってミアも心配してくれるくらいひどい状態だったらしいし……。ただこの心配のベクトルが若干それてる気がするのは気のせいですかね? いやまぁそもそも全員が俺に向ける心配のベクトルは若干ずれてるわけだけど……。

「まぁなんだ、とりあえずありがとう。別にそんな崩れてないから心配するな」
「ふ、ふむ……ならいいんだ、なら……」

 なんでそんな顔を赤くしてるの? 男の紅潮とか誰得だよ。

「しかしなんだ、お前も変わらないな」

 別にアホではないけどアホっぽいというかなんというか……。

「フッ……」

 てっきりすぐ反抗してくるもんだと思っていたが、何故かアルドは不敵に笑みを浮かべだした。

「なんだよ……」
「変わってない、と言ったな?」
「お、おう」
「どうせアキの事だ、『こいつ、どうせ前みたいに馬鹿な事しかやってないんだろ? 髪染めとかありえなすぎだったわー、爆笑』とか思っているんだろう?」
「いやそれは被害妄想だからな?」

 なに、アルドから見た俺ってそんな酷い奴だったの? てか髪染めけっこう引きずってんだなこいつ……。

「まぁ冗談はさておき」

 冗談かよ……。

「なんと僕は王立魔術研究所で勤めることになったのさ!」

 そう言うとアルドは誇らしげに前髪を払う。
 王立魔術研究所……。確かけっこう凄いところだった気がする。魔術の最先端を研究するだけにかなりのエリートが集まってる場所だとか聞いたっけな。ほう、そこにアルドが入ったっていうのか。

「凄いじゃないか」
「なッ……」

 素直に凄いと褒めたわけだが、何故かアルドはいぶかし気な表情を見せる。

「なんだよ?」
「いや、少し変わったなと思ってな……ここまで手放しに褒められるなんてなかったと思うが」
「いや、そりゃお前が学院時代M属性に調教されてたからだろ?」
「Mぞくッ!? どういうことだいアキ!?」
「まんまだよ」

 これだよなぁ……。この中身の無い会話ってやっぱ好きだな。懐かしい感じというかなんというか。

「アルドさん一体何を……」

 アルドとのアホみたいなやり取りを嬉しく思っていると、またまた懐かしい声が耳に届く。そこには細い三つ編みの眼鏡をかけた知的な少女がうんざりした様子でこちらへ歩いてきていた。

「おお、アリシアか! 丁度良かった」
「何が丁度……えっ……ア、アキさん?」

 アルドに文句を言おうとしたようだが、すぐ俺に気付いたらしく驚きの声を上げる。

「久しぶり、アリシア」

 正直俺自身、この場にアリシアもいる事にかなり驚いていたが、言葉はごく自然に出ていた。

「アキさん……その……」

 目を泳がせ、何か言いたげな様子のアリシアにできるだけ優しく言葉をかける。

「キアラの事ならもう大丈夫だ。一時期確かにショックだったけど、よくよく考えたら死んだわけじゃないしな。心配かけたみたいでごめん」
「い、いえそんな……。その、元気になってるようで良かった、です」
「おう!」

 まだ若干迷いが見られたので努めて元気に返事をしてみる。だがキアラ云々ンよりもっと気になる事がある。

「ちなみに二人は付き合ってたりするのか?」
「なッ……!!」
「アキ、お前何を!」

 二人して顔を真っ赤にさせるのでついつい吹き出しそうになる。

「だってさぁ? こんな商業地区で二人がいるってもう確定かなぁって」

 調子の乗っておちょくると、カチリとかけなおされたアリシアの眼鏡が光る。

「今現在でそれはあり得ません、何を勘違いしたのか知りませんが私は不幸にもこの人と同じ勤務先になっただけであって、学院の名残から行動を共にしているのです。初めて会う人よりは動きやすいだろうとういう効率性を踏まえて調度品の調達におもに雑用係として起用したのです。それがなんですか、あちらこちらへ行っては迷子になって、今の場合アキさんと出会えたからよかったものの、本来は許される問題ではないんですよ? まぁとにかくそういう事はあり得ませんので」

 なるほど、アリシアも魔術研究所に入ってるって事か……。それよりあり得ないとか二回も言ってあげないで! アルド君地面で四肢をつけちゃってるよ!

「僕という者がアリシアになんて窮屈をッ……!!」

 あり得ないとか言われた事よりそっちを嘆いてたの!? いやいいんだけどね? いい奴だよアルド! まぁ俺ならそもそも女の子を置いて一人でどっか行ったりしないけどね!

「それよりアキさんこそ、まさか一人で街に出てベンチで腰掛けるような老けた行いをしているわけではないですよね? もしそうならかなりひきます。気持ち悪いです」

 す、すごい怒ってらっしゃるのもしかして? しかしアリシアの言葉って割と痛烈に響くな……ごめんよアルド、これからはもう少し優しくするよ。

「ま、まぁなんでしょうか、一応一人じゃないです、ハイ。ティミーも一緒です」

 思わず敬語口調になってしまう。

「え、ティミーさんとですか?」
「今そこの店内でいろいろ見てる最中で、そのうち帰ってくるかと思います、ハイ」

 また怒らせたら怖いので、できるだけへりくだりながら言っておく。

「あの……アキさん、その変な話しかたやめてくれます……? もういいので」
「い、イエス、マイマスター!」
「分かりませんか?」
「ごめん」

 これ以上は本当にやばそうだったので、いつも通りに戻る事にした。

「じゃあティミーと一緒に何をしているというんだい?」

 アルドはいつの間にか復活したらしく、平生通りの感じに戻っていた。

「あれだ、実は俺ら最近騎士団に入団が決まってさ。また寮生活だから日用品とか買いに来てたんだ」
「ウィンクルム騎士団ですか!?」

 アリシアが驚いた様子で尋ねてくる。

「うん」
「流石アキ、僕の予想の斜め上を常に走っているな……」

 アルドが何故だか若干頬に汗を伝わらせる。
 そんな大それたことじゃなかろうに……。

「別にそんな大したことないだろ?」
「何を言ってるんですかアキさん。ウィンクルム騎士団といえばエリート中のエリートですよ?」
「お前らも十分そうじゃないのか? 魔術研究所だよな」
「騎士団に比べれば大したこと無いかと。勉強さえすれば入れますので」

 試験とかけっこうぬるかったと思うんだけどな……。俺としたら勉強して努力して研究所に入る方がよっぽどすごいと思う。成り行きで受けたら受かった感じだったからな俺らは。

「アキお待たせー」

 そこに店の中からティミーが姿を見せる。最初、俺らの目の前に知らない誰かが二人いると思ったのか、若干警戒気味にそろそろ近寄っていたが、二人が振り向き顔を見せると、嬉しそうにこちらへと駆けてきた。
 あとはキアラがいれば完璧だったかな。


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