異世界転移~俺は人生を異世界、この世界でやり直す~
再訪
おかしい、なんでこんなティミーみたいな子がむさ苦しそうな騎士団に入らなければならないのか。いやまぁ確かに同年代の人間がいなくなるのは確かに退屈かもしれない、でもそこまでする必要も無いと思う……。まぁそれはいいとして、ヘレナさんもヘレナさんでなんであんな事言っちゃうかね?
俺が命に関わる事になるかもしれないんですよって言ったらさ?
「あら、アキ君が守ってくれるでしょ?」
そんな事言われたら俺も男として頷かざるを得ない……。
と言うわけで久しぶりのウィンクルム王都。
街を見ると、あの時の物々しい雰囲気は既にどこかへいったようで、今ではいつも知るような賑やかな場所へと戻っていた。
ちなみに学院崩壊後、お詫びとして転移石が全生徒に配布され、それでディーベス村に戻ったわけだが、まだ使えたのでそれを使ってここまで来させてもらった。
「さて、ここが騎士団本部だ」
ハイリに連れられ歩く事数十分、目の前には庭園、その先にはミニサイズの西洋の城らしき建造物が建っていた。そしてふと首を回せば騎士団の紋章が刻まれた旗がたなびいている。
「じゃあ入るぞ。試験の登録をしなきゃならないからな」
そう、騎士団に入るには試験に通らなくてはならない。ハイリいわく俺なら余裕と言うが実際のところはどうなのか……。ともあれ、この試験には少しだけ期待をしている。割と競争率が高いらしいので、おのずと不合格者は必ず出る。それにティミーが該当してくれないだろうかと思ってるわけだ。俺だってそこそこやってきたが万能ではない、必ず傷つけないで守り切れるかと言われれば頷くことはできないからな。
「ハイリ……それにアキとティミー!?」
なんとなく懐かしい声がしたのでそちらの方を向いてみると、学院の制服ではなく、肩の所に騎士団のエンブレムがある事から恐らく騎士団の服装を身にまとったミアの姿があった。胸は……相変わらずまだまだだな。まぁ二、三ヶ月で劇的に変化されてもこっちが困る。というか何、ミアって騎士団なのか?
「ミアちゃん!」
疑問が浮かべながらも謎の使命感によりミアの姿を観察していると、ティミーが嬉しそうにその元へと駆け寄るので、俺らもゆっくりとその後に続く。
「おう、ミア。なに、アキとティミー知り合いだったのか?」
俺としてはハイリとミアが面識ありげなのが意外だ。ただよく考えてみると、グレンジャー家は騎士団を統括しているわけだから無理も無い話だと思い致る。
「うん、友達だよ!」
「おお、そうだったのか」
ティミーが満点の笑顔で答えると、ミアはどこか気恥ずかし気にほっぺたを掻く。
「ま、まぁ、そうね……」
あら可愛い。ティミーも大概だけどミアもあれでけっこうシャイなんだよなぁ。
「久しぶりだなミア」
挨拶がまだだったので俺もしてやると、何故だろう、急に口をへの字に曲げてきつい眼をこちらに向けてくる。ちょっと怖いって、え、なんだよ?
「なんなのあの時! 学院の事があってアキが無事だって聞いてわざわざ会いに行ってあげたのに、まともに顔も会わせずにちょっと話してどっかいっちゃって! 確かにキアラがどこかにいっちゃったのは私も悲しかったけど、それでもアキには……その……」
ああ、そういえばそんな事もあったな……。
まくし立てるように言葉をバシバシ飛ばしてきたミアだが急に元気が無くなる。
「元気でいてほしかったんだから……」
若干頬を赤く染め、俯きがちになるミア。
ふむ、そんなにひどい様子だったのか俺は……。ミアもかなり心配してくれていたらしい。
「それはほんとすまなかった。でももう大丈夫だ、ありがとう」
気づけば手がミアの頭の上に乗っかっていた。あ、やば、十五歳って言ったらまだまだ子供のイメージがあったからついやってしまった……。
「……ッ!?」
今声にならないような悲鳴を上げたような気がする。やばい。
「な、な、な、何をっ!? アキの馬鹿!!」
顔を真っ赤にさせたミアに、平手打ちの一つでも覚悟した俺だったが、予想とは反してダッシュでどこかへ走って行ってしまったのでそれは杞憂に済んだ。
でもこれ、場合によっちゃ平手打ちよりやばいんじゃ……しかも昔ネットに書いてたんだよな、そういうことしちゃう男キモいって。たぶんそこら辺の価値観はこの世界でも同じだと思うんだ……ハハ。
「なぁアキ、お前はつくづく罪深い男だよなぁ?」
突然耳元でハイリがそんな事をささやきだすので、咄嗟に飛び退くと、にやけ面のハイリと共にどこか少し不機嫌な様子のティミーも一緒に目に映った。
……やっぱ世論は非難的な態度になりますよね? うん。
「行こうハイリ、試験の登録しなくちゃならないんだよね」
しばしの沈黙の後、ぶっきらぼうにティミーがそう言い放ち門の先へとくぐると、ハイリはこちらに意味ありげな目線を向けながらその後に続く。
なんか俺が極悪人みたいじゃないか……。いや確かに悪かったけどさ?
「なぁハイリ?」
「なんだアキ?」
涼しい顔で聞き返してくるアキに思わずため息が漏れる。
「さっき試験登録したよな?」
「ああそうだな」
「気のせいかもしれないけど、試験明日って言わなかった?」
「おう言ったぞ」
やっぱり聞き間違えじゃなかったですかー……。
「もうちょっと早く言って欲しかったんだけど?」
「え、なんで?」
「俺が悪かった、もういい」
ハイリが何を急にと言った風な訝し気な目線を送りつけてくる。一週間くらい先かなとか思ってたりして、コンディション整えないとなぁとかのんきに思ってたのにさ。
「ねぇ、私思ったんだけどね」
試験が明日と言う事実に若干焦りを覚えていると、不意にティミーが口を開いた。
「私たちってどこに泊まればいいのかな?」
そうだ、確かに。
今まで寮で過ごしてたから泊まる場所には困らなかったが今はそれが無い。
おいおいよく考えればそうじゃないか、試験が一週間後とかじゃなくて良かったなやっぱり。ついくせで軽い気持ちでここまで来ちゃってたよ……。
「ああ確かに……どうすんだアキ?」
いや俺に聞かれても……。まぁ宿を探すしかないよな?
「とりあえず宿くらいあるだろ? そこらへんのとこ案内してくれよ」
「分かった。まかせとけ! ここから近いのは宿屋アラバスタだな!」
「ついて来い」とキアラが颯爽と走り出すのでその後に続く。
だがしかし、現実は甘くなかった。
「そうですか……ありがとうございます」
宿屋アラバスタ、撃沈。
「わ、わかりました……ありがとうございます」
二軒目、宿屋フォルティ、撃沈。
「なんだとてめぇ! ちょっとくらい空いてねえのか!」
「そ、そうは言われましても……!」
「おいやめろハイリ」
三軒目、宿屋アグレシヤ、撃沈。
確かに、確かに宿屋を探す時はもう陽が傾いてたよ? でもちょっと運が悪すぎやしませんかね?
「ここもだめなのかよ!」
ハイリがイライラを隠せない様子で悪態をつく。
「ま、まぁまぁハイリ……落ち着いて」
ティミーが困ったように笑みを浮かべながらハイリをなだめる。
「そうだぞハイリ、別にお前が宿無しってわけじゃないからな」
「だけどよー……」
陽はかなり傾いてきている。傍らにある時計を見ると時刻はもう夕方の五時頃だ。
「でもどうしよう……このまま見つからなかったら」
ティミーも表情にも若干不安の色が見られる。
「くっそ、俺の家にでも泊められたらよかったんだけど絶対休めないから試験に響くだろうしな……野宿の方が断然マシだと思うくらいだろう……」
ハイリの家か……少し気にはなったがそこまで言うからにして何かまずい事があるんだろうか? まぁわざわざ無理に泊めてくれなどと厚かましくて言えない。
「一応他の宿もまだあるんだよな? 場所さえ教えてくれればしらみつぶしで当たっていくからさ」
「いや、そこは最後まで付き合う。最悪野宿になったら俺が一晩中見張っといてやる」
そこまでしてくれるか……。あれだな、そんなまでして家に泊めたくないのって相当ヤバそうだなハイリの家。もしかして母親がすごかったりするのか? 昔聞いたベルナルドさんとの別居の動機もなんかずれてるし……あり得るな。
重い足をなんとか動かしながら歩いていると、通りの一角で、小さな人混みが出来ていた。
「なんだかいっぱい人が集まってるね」
「なんだろな?」
少し気になったのでティミーも俺も足を止める。拍手が起こるが、あいにくの人混みで何をしてるのか見る事ができない。
「おい、行くぞ二人とも。たぶん旅芸人とかだろう、でもけっこう頻繁にこういうのあるからまた今度行こうぜー」
ハイリが少し先で俺達の事を呼ぶので、その場から立ち去ろうとするも、ふと人混みの間の視界が開け、ついでにと中を見てみると、自然と歩み出そうとした足が止まった。
「おーい!」
ハイリがじれったいと言った様子で叫ぶが足がどうしても動こうとしない。
あの銀色の長髪に大きいひさしの特徴的な帽子、緑のコート、まさに吟遊詩人と言ったあの身なりは。
「ダウジェス……さん?」
どうやらティミーもちゃんと覚えていたらしい。
観客の目の前でお辞儀しているダウジェスの姿がそこにはあった。
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