異世界転移~俺は人生を異世界、この世界でやり直す~
脱出
何故俺は止めることが出来なかった。何故キアラを行かせた。ふがいない自分が無性に腹立たしい。
身体の中で急速に魔力が奔流するのを感じる。
うすうす感じてはいた。キアラが少し変わってしまっていた事を。にもかかわらず何も言わなかったのはキアラが変わってしまった事をつきつけられたくなかったからだ。
だが今になって後悔の波が押し寄せる。彼女はもう三人も殺めてしまったのだ。
追わなきゃならない。これ以上キアラには間違えてほしくない。間違えるのは俺だけで十分だ。
「すみません、退いてくれますよね?」
呆然と立ち尽くす騎士団三名に声をかけると、我に返ったか後ろの二名が前に飛び出し剣を構えてきた。
「命を助けた事は礼を言う。しかし貴様も脱獄者には変わりはない。大人しく牢に戻れ!」
イライラが頂点に達し、思わず舌を打つ。
今の俺はお前らを仲間と認識できない。それでも確かに殺したくはない、しかし殺せと心が囁きかけてくる。
ふと、手を誰かに動かされた感覚を覚える。ザラムソラスが騎士団員の方へと向いた。
身体の自制が効かない? その代わり、今の俺ならなんでもできそうだという自信が満ち溢れる。
「クッソ」
悪態と共に大理石を踏み込む。鈍い音が聞こえる頃には剣を構える団員の間に迫っていた。咄嗟に左手で鞘を握ると、真剣を収める。同時、ザラムソラスの斬撃、否、打撃。団員のプレートを砕く。
崩れ落ちる二人の男。戦闘不能を確認し、先ほど剣を折られていた目の前そのの男に視線を移す。
その男は口を開きかけるが、気付けば動いていた俺は即座に間合いを詰め首元に手刀を加えていた。脇でプレートが大理石とぶつかり、ガシャリと耳障りな音を立てる。
「……気のせいか」
身体が意思に関係なく勝手に動いたような気がする。いや、俺の意思で間違い無いけど、俺だけの意思じゃなかったような、なんというか、別の意思も介在していたような妙な感覚だ。
未だに身体を駆け巡る魔力。何を思うでもなく剣を一振りする。想像以上に力が入った。
少し走ってみる。妙に身体が軽い。
この感じ……魔力のおかげか? 筋線維を最大値まで開きでもしたか。人間は通常三割ほどしか筋線維は起きておらず、いざとなった時に残りの筋線維が目覚めるらしい。だからこそ俗に言われる火事場の馬鹿力というものは実は本当に存在するのだと昔誰か言っていた。
もしかしたらさっきの感じはそのせいなのかもしれない。剣がひとりでに動くなんてありえないし、身体が自分の意思の外で動くのも瞬間的にならあるかもしれないけど継続的にはあり得ないだろう。
でもそれがいつも以上に発揮された力に感覚が慣れていなかっただけだと言えば納得がいく。
「……っと」
どうやら騎士団がこちらに向かってきているらしい。ガシャガシャと騒がしい音がどこからか聞こえてきた。
この城の構造はあまり分からないので、俺も窓の外から出ることにする。
四肢に魔力を収束し次第に温まるのを感じながら、ある一定の瞬間、解き放つ。
「フェルドフルーク」
手足から紺色の焔が放出した。硝子を割り、身体は闇の中へと放り出される。
後方を見れば、駆け付けてきたのであろう騎士団数名が窓からこちらを眺め、手の平をこちらに向けていた。
「ってまじかよ……!」
魔力弾の嵐。光る球は頬を擦れ、腰を擦れる。
なんとか火を制御しつつ直撃は回避する。左方に転換、右方へ転換。突如、足に痛みが走った。
魔力が一時的に断絶、炎が消滅し、落下。重力に従い地面が近づいていく。下はどうやら噴水広場らしい。もう陽が落ちてるからだろう、幸いな事に人はいない。
「ケオ!」
詠唱の省略も甚だしいが、無詠唱よりはまだマシだ。咄嗟に地上に向けて火を放射。地面をえぐり取る高速度の焔は落下速度を緩和するも、垂直に放てなかったので俺の身体は地面を転がる羽目になった。
視界の先には月が見える。とうの昔に明星は消え去った事だろう。
「つっ……」
上半身を起こすと、いたるところに軽い痛みを感じるが、幸いな事に骨は折れてなさそうだった。
その代わり、町人変装セットはボロボロにほつれ裂けている。これじゃあ完全に浮浪者だ。
「何があった!?」
突如、誰かの声が聞こえた。騎士団なら今度こそまともにやりあわなきゃならないかもしれない。
覚悟をして声の方を見ると、文官のような服に身を包んだ金髪の男がこちらを驚いたように見ていた。
そしてその姿はひどく見覚えがある。同時に、どうしようもない安堵感に包まれた。
「まさか……アキか!?」
その男、アルドはこちらに駆け寄ると、背中に手を添えてくる。
「アリシア、大丈夫だった、とにかく来てくれ!」
アルドが叫ぶと、今度は三つ編みに眼鏡をかけた知的な子、アリシアが駆けつけてきた。
「え、アキさん? どうしたというのですか!?」
アリシアには珍しく狼狽した様子だ。まぁ確かに空から知り合いが吹っ飛んで来たらびっくりするか。
「まぁ色々な。ところでお前らはなんでこんなとこにいるんだ?」
気になったので聞くと、アルドが答えてくれた。
「たまたまこの街に出張する用事があって滞在していたんだが、城主に呼ばれてはせ参じるところだった」
なるほど、スーザンが言っていた研究員ってこいつらの事だったのか。ともあれ生きててくれて本当に良かったよ。
「そんな事よりアキさんですよ。王都が大変な事になったとのことで心配していたのですが、姿を見たら余計心配になりましたよ? 本当に何があったんです?」
アリシアは半ば呆れの混じった様子で聞いてくる。
まぁ、二人なら別に話してもいいだろ。
「ちょっと今脱獄してきた。騎士団員はもれなく敵だから俺の傍にいると怪しまれるぞ」
「脱獄!? 騎士団が敵って、アキさんも騎士団なのでは……」
「わけありだ。話すと長いからまた今度な。今はゆっくり話してられない」
まだ若干痛む身体をよっこいしょと立たせる。地面を踏んだり手を動かしたりし、再度骨折が無い事を確認した。
「アキお前、そんな姿でどこに……」
「王都だ。じゃあまたな。お前らに会えてよかったよ」
おいとアルドが制止させようとするが、気にせずフェルドフルークを発動させる。
運の良い事にここをまっすぐ行けば城門だ。四肢から炎の噴出と共に、身体が空を切った。
身体の中で急速に魔力が奔流するのを感じる。
うすうす感じてはいた。キアラが少し変わってしまっていた事を。にもかかわらず何も言わなかったのはキアラが変わってしまった事をつきつけられたくなかったからだ。
だが今になって後悔の波が押し寄せる。彼女はもう三人も殺めてしまったのだ。
追わなきゃならない。これ以上キアラには間違えてほしくない。間違えるのは俺だけで十分だ。
「すみません、退いてくれますよね?」
呆然と立ち尽くす騎士団三名に声をかけると、我に返ったか後ろの二名が前に飛び出し剣を構えてきた。
「命を助けた事は礼を言う。しかし貴様も脱獄者には変わりはない。大人しく牢に戻れ!」
イライラが頂点に達し、思わず舌を打つ。
今の俺はお前らを仲間と認識できない。それでも確かに殺したくはない、しかし殺せと心が囁きかけてくる。
ふと、手を誰かに動かされた感覚を覚える。ザラムソラスが騎士団員の方へと向いた。
身体の自制が効かない? その代わり、今の俺ならなんでもできそうだという自信が満ち溢れる。
「クッソ」
悪態と共に大理石を踏み込む。鈍い音が聞こえる頃には剣を構える団員の間に迫っていた。咄嗟に左手で鞘を握ると、真剣を収める。同時、ザラムソラスの斬撃、否、打撃。団員のプレートを砕く。
崩れ落ちる二人の男。戦闘不能を確認し、先ほど剣を折られていた目の前そのの男に視線を移す。
その男は口を開きかけるが、気付けば動いていた俺は即座に間合いを詰め首元に手刀を加えていた。脇でプレートが大理石とぶつかり、ガシャリと耳障りな音を立てる。
「……気のせいか」
身体が意思に関係なく勝手に動いたような気がする。いや、俺の意思で間違い無いけど、俺だけの意思じゃなかったような、なんというか、別の意思も介在していたような妙な感覚だ。
未だに身体を駆け巡る魔力。何を思うでもなく剣を一振りする。想像以上に力が入った。
少し走ってみる。妙に身体が軽い。
この感じ……魔力のおかげか? 筋線維を最大値まで開きでもしたか。人間は通常三割ほどしか筋線維は起きておらず、いざとなった時に残りの筋線維が目覚めるらしい。だからこそ俗に言われる火事場の馬鹿力というものは実は本当に存在するのだと昔誰か言っていた。
もしかしたらさっきの感じはそのせいなのかもしれない。剣がひとりでに動くなんてありえないし、身体が自分の意思の外で動くのも瞬間的にならあるかもしれないけど継続的にはあり得ないだろう。
でもそれがいつも以上に発揮された力に感覚が慣れていなかっただけだと言えば納得がいく。
「……っと」
どうやら騎士団がこちらに向かってきているらしい。ガシャガシャと騒がしい音がどこからか聞こえてきた。
この城の構造はあまり分からないので、俺も窓の外から出ることにする。
四肢に魔力を収束し次第に温まるのを感じながら、ある一定の瞬間、解き放つ。
「フェルドフルーク」
手足から紺色の焔が放出した。硝子を割り、身体は闇の中へと放り出される。
後方を見れば、駆け付けてきたのであろう騎士団数名が窓からこちらを眺め、手の平をこちらに向けていた。
「ってまじかよ……!」
魔力弾の嵐。光る球は頬を擦れ、腰を擦れる。
なんとか火を制御しつつ直撃は回避する。左方に転換、右方へ転換。突如、足に痛みが走った。
魔力が一時的に断絶、炎が消滅し、落下。重力に従い地面が近づいていく。下はどうやら噴水広場らしい。もう陽が落ちてるからだろう、幸いな事に人はいない。
「ケオ!」
詠唱の省略も甚だしいが、無詠唱よりはまだマシだ。咄嗟に地上に向けて火を放射。地面をえぐり取る高速度の焔は落下速度を緩和するも、垂直に放てなかったので俺の身体は地面を転がる羽目になった。
視界の先には月が見える。とうの昔に明星は消え去った事だろう。
「つっ……」
上半身を起こすと、いたるところに軽い痛みを感じるが、幸いな事に骨は折れてなさそうだった。
その代わり、町人変装セットはボロボロにほつれ裂けている。これじゃあ完全に浮浪者だ。
「何があった!?」
突如、誰かの声が聞こえた。騎士団なら今度こそまともにやりあわなきゃならないかもしれない。
覚悟をして声の方を見ると、文官のような服に身を包んだ金髪の男がこちらを驚いたように見ていた。
そしてその姿はひどく見覚えがある。同時に、どうしようもない安堵感に包まれた。
「まさか……アキか!?」
その男、アルドはこちらに駆け寄ると、背中に手を添えてくる。
「アリシア、大丈夫だった、とにかく来てくれ!」
アルドが叫ぶと、今度は三つ編みに眼鏡をかけた知的な子、アリシアが駆けつけてきた。
「え、アキさん? どうしたというのですか!?」
アリシアには珍しく狼狽した様子だ。まぁ確かに空から知り合いが吹っ飛んで来たらびっくりするか。
「まぁ色々な。ところでお前らはなんでこんなとこにいるんだ?」
気になったので聞くと、アルドが答えてくれた。
「たまたまこの街に出張する用事があって滞在していたんだが、城主に呼ばれてはせ参じるところだった」
なるほど、スーザンが言っていた研究員ってこいつらの事だったのか。ともあれ生きててくれて本当に良かったよ。
「そんな事よりアキさんですよ。王都が大変な事になったとのことで心配していたのですが、姿を見たら余計心配になりましたよ? 本当に何があったんです?」
アリシアは半ば呆れの混じった様子で聞いてくる。
まぁ、二人なら別に話してもいいだろ。
「ちょっと今脱獄してきた。騎士団員はもれなく敵だから俺の傍にいると怪しまれるぞ」
「脱獄!? 騎士団が敵って、アキさんも騎士団なのでは……」
「わけありだ。話すと長いからまた今度な。今はゆっくり話してられない」
まだ若干痛む身体をよっこいしょと立たせる。地面を踏んだり手を動かしたりし、再度骨折が無い事を確認した。
「アキお前、そんな姿でどこに……」
「王都だ。じゃあまたな。お前らに会えてよかったよ」
おいとアルドが制止させようとするが、気にせずフェルドフルークを発動させる。
運の良い事にここをまっすぐ行けば城門だ。四肢から炎の噴出と共に、身体が空を切った。
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