異世界転移~俺は人生を異世界、この世界でやり直す~
失態
「おかしい……」
にわかに信じがたい話だ。
あのバリクさんが本当にそんな事を言ったのか。あの人は騎士団全てを壊してセキガン側についたんじゃないのか。いや、俺の知ってるバリクさんならそう言ってるかもしれない。ただ、俺の知ってるバリクさんは本物では無く別に存在したはず。いやその別の存在こそがやはり偽りだったのだろうか? 俺の心は別のバリクさんこそがやっぱり偽物だったと言うのに対し、脳では別の存在こそが本当のバリクさんだと言っている。なんとも妙な感覚だ。バリクさんが余計に分からなくなった。
「何がおかしいのだ?」
見ると、スーザンが訝し気にこちらの様子を窺っていた。
「なぁ、なんで騎士団が負けたのか分かるかスーザン」
 そろそろ話を切り出すべきだろう。
「え、ああ……。セキガンの力が強大だったから、ではないのか?」
急な問いかけにもかかわらずスーザンはしっかりと答えてくれる。
「ああ、確かにそれもある。ただな、騎士団は今回の戦いで十分な力を発揮できなかった」
「どういう事だ?」
なぜだか体内を魔力が勢いよく循環し、動悸を乱そうとするので、なんとか心を落ち着け、事実を告げるため口を動かす。
「三番隊が俺以外ここにきてないのは他でもないバリクさんのせいだからだよ」
「……どういう、ことだ?」
同じように聞き返してくるが、先ほどの声よりも深刻なトーンだ。
「まだ言ってなかったよな、三番隊の生存者で確定してるのは俺とティミー、そしてここにいる人のみ。ハイリは行方不明で他は全滅した。他でもないバリクさんの裏切りに遭ってな」
「馬鹿な……!」
信じられないと言ったように目を丸くしたスーザンが勢いよく立ち上がると、ふと何かに行き当たったのか鋭い目つきなる。
「いや待て、確か作戦に支障をきたした、と言っていたな」
「誰が言ってたんだ?」
「王都の状況を知らせてくれた隊員だ。疎通石から虫の息で連絡があった。結局最後まで聞く事は出来ず、何が支障をきたしたのか分からないままだったが、まさかその支障というのは……」
「確実に俺ら三番隊の事だろうな」
そうか……とスーザンが呟きつつ椅子に腰かける。
「裏切りだと言ったな? いったい貴様らの身に何が起こったというのだ? まさか死者というのは隊長が……?」
「いや違う。きっかけを作ったのはバリクさんだけど直接隊の人たちを殺したのはセキガンの人間だ」
あの時の惨状が脳裏を駆け巡りなおさら身体が熱くなっていく。
「そうか……」
スーザンは呟くと、こちらをしっかり見据えた。
「アキヒサ・テンデル、貴様がここまで至った経緯を話してもらえないか?」
スーザンの言葉に頷く。
バリクさんの独白、『恐』の怪術師が出現しその手によって隊が壊滅にさせられたこと、ハイリとティミーと共に俺が敗走したこと、そしてハイリと音信不通になり、途中で三人のセキガンと遭遇し、ティミーを逃がした事。とにかく全てを話した。
一通り俺が話し終えると、スーザンが考え込むように顔を伏せ、呟く。
「貴様が苦労したのは分かった……だがしかし、隊長に限ってそんな事があるのか?」
「残念ながら本当の事だ」
言うも、未だにスーザンはその顔を上げようとしない。
「スーザン……?」
名前を読んでみるも反応は無い。同時に、嫌な汗が背中を濡らす。
ああそうか。完全に失念してた。バリクさんの信用度は騎士団で右に出る者はいない。作戦の要をあっさりと引き受けさせてくれるほどに。しかもあの人は隊長格だ。それに一隊員の俺が勝てるわけが無いだろう。さらにバリクさんは今まで不穏な動きを見せておらず、かつ有用な情報を二重スパイとして騎士団側に流している。実際あの光景を見た俺ですら未だに信じられないのだから、見てない人たちにとっては尚更信じられない事実に違いない。
せめてティミーでもいればもう少しはマシになったのかもしれない。ここであいつを逃がしたことが裏目に出たか。いやあるいはティミーがいても信用してもらえるかは怪しい。ハイリがいれば話は別かもしれないけど、ティミーもただの平団員だからな。だとすれば間違いではなかったか……。
いや今はそんな事より別の事に焦点を当てるべきだ。この状況をどうすればいいのか、と。
「少し席をはずすから待っていてくれ」
スーザンはそれだけ言うと、応接間を後にした。
「ねぇ、やばいんじゃないこれ?」
黙って話を聞いていたキアラが耳元でささやいてきた。身体が近づいていたので軽くドキリとするも、なんとかその邪念を頭の端においやる。
「キアラ、お前だけでも逃げろ。強行突破しようと思えばできるかもしれないけど、俺としては騎士団員と刃を交えたくない。でもお前ならたぶんその身体能力で戦わないで逃げれると思う」
言うと、キアラはどこか不機嫌そうに顔をしかめる。
「だから言ったでしょ? アキと一緒に行くって」
「それにしたって牢屋まで付いてくることは無いだろ。下手すりゃ異世界転生ライフ全部棒に振るぞ」
「別にいいもん」
「はぁ? 何言ってんだよ、せっかくすげえ身体能力得たんだろ? 第一コリン達は……」
しばらく軽い口論をしていると、おもむろに扉が開く。
スーザンが神妙な面持ちで入ってくると、団員数名も一緒にこの部屋へ入って来た。
「すまない、アキヒサ・テンデル。抵抗はしてくれるな」
その言葉と同時、団員たちの指輪が光を帯びる。
「騎士魔法【cautirictions】」
詠唱と共に光の輪に捕まり動く事ができなくなる。
これを受けたのもこれで二度目か。結局何も思いつくことが出来なかった。
にわかに信じがたい話だ。
あのバリクさんが本当にそんな事を言ったのか。あの人は騎士団全てを壊してセキガン側についたんじゃないのか。いや、俺の知ってるバリクさんならそう言ってるかもしれない。ただ、俺の知ってるバリクさんは本物では無く別に存在したはず。いやその別の存在こそがやはり偽りだったのだろうか? 俺の心は別のバリクさんこそがやっぱり偽物だったと言うのに対し、脳では別の存在こそが本当のバリクさんだと言っている。なんとも妙な感覚だ。バリクさんが余計に分からなくなった。
「何がおかしいのだ?」
見ると、スーザンが訝し気にこちらの様子を窺っていた。
「なぁ、なんで騎士団が負けたのか分かるかスーザン」
 そろそろ話を切り出すべきだろう。
「え、ああ……。セキガンの力が強大だったから、ではないのか?」
急な問いかけにもかかわらずスーザンはしっかりと答えてくれる。
「ああ、確かにそれもある。ただな、騎士団は今回の戦いで十分な力を発揮できなかった」
「どういう事だ?」
なぜだか体内を魔力が勢いよく循環し、動悸を乱そうとするので、なんとか心を落ち着け、事実を告げるため口を動かす。
「三番隊が俺以外ここにきてないのは他でもないバリクさんのせいだからだよ」
「……どういう、ことだ?」
同じように聞き返してくるが、先ほどの声よりも深刻なトーンだ。
「まだ言ってなかったよな、三番隊の生存者で確定してるのは俺とティミー、そしてここにいる人のみ。ハイリは行方不明で他は全滅した。他でもないバリクさんの裏切りに遭ってな」
「馬鹿な……!」
信じられないと言ったように目を丸くしたスーザンが勢いよく立ち上がると、ふと何かに行き当たったのか鋭い目つきなる。
「いや待て、確か作戦に支障をきたした、と言っていたな」
「誰が言ってたんだ?」
「王都の状況を知らせてくれた隊員だ。疎通石から虫の息で連絡があった。結局最後まで聞く事は出来ず、何が支障をきたしたのか分からないままだったが、まさかその支障というのは……」
「確実に俺ら三番隊の事だろうな」
そうか……とスーザンが呟きつつ椅子に腰かける。
「裏切りだと言ったな? いったい貴様らの身に何が起こったというのだ? まさか死者というのは隊長が……?」
「いや違う。きっかけを作ったのはバリクさんだけど直接隊の人たちを殺したのはセキガンの人間だ」
あの時の惨状が脳裏を駆け巡りなおさら身体が熱くなっていく。
「そうか……」
スーザンは呟くと、こちらをしっかり見据えた。
「アキヒサ・テンデル、貴様がここまで至った経緯を話してもらえないか?」
スーザンの言葉に頷く。
バリクさんの独白、『恐』の怪術師が出現しその手によって隊が壊滅にさせられたこと、ハイリとティミーと共に俺が敗走したこと、そしてハイリと音信不通になり、途中で三人のセキガンと遭遇し、ティミーを逃がした事。とにかく全てを話した。
一通り俺が話し終えると、スーザンが考え込むように顔を伏せ、呟く。
「貴様が苦労したのは分かった……だがしかし、隊長に限ってそんな事があるのか?」
「残念ながら本当の事だ」
言うも、未だにスーザンはその顔を上げようとしない。
「スーザン……?」
名前を読んでみるも反応は無い。同時に、嫌な汗が背中を濡らす。
ああそうか。完全に失念してた。バリクさんの信用度は騎士団で右に出る者はいない。作戦の要をあっさりと引き受けさせてくれるほどに。しかもあの人は隊長格だ。それに一隊員の俺が勝てるわけが無いだろう。さらにバリクさんは今まで不穏な動きを見せておらず、かつ有用な情報を二重スパイとして騎士団側に流している。実際あの光景を見た俺ですら未だに信じられないのだから、見てない人たちにとっては尚更信じられない事実に違いない。
せめてティミーでもいればもう少しはマシになったのかもしれない。ここであいつを逃がしたことが裏目に出たか。いやあるいはティミーがいても信用してもらえるかは怪しい。ハイリがいれば話は別かもしれないけど、ティミーもただの平団員だからな。だとすれば間違いではなかったか……。
いや今はそんな事より別の事に焦点を当てるべきだ。この状況をどうすればいいのか、と。
「少し席をはずすから待っていてくれ」
スーザンはそれだけ言うと、応接間を後にした。
「ねぇ、やばいんじゃないこれ?」
黙って話を聞いていたキアラが耳元でささやいてきた。身体が近づいていたので軽くドキリとするも、なんとかその邪念を頭の端においやる。
「キアラ、お前だけでも逃げろ。強行突破しようと思えばできるかもしれないけど、俺としては騎士団員と刃を交えたくない。でもお前ならたぶんその身体能力で戦わないで逃げれると思う」
言うと、キアラはどこか不機嫌そうに顔をしかめる。
「だから言ったでしょ? アキと一緒に行くって」
「それにしたって牢屋まで付いてくることは無いだろ。下手すりゃ異世界転生ライフ全部棒に振るぞ」
「別にいいもん」
「はぁ? 何言ってんだよ、せっかくすげえ身体能力得たんだろ? 第一コリン達は……」
しばらく軽い口論をしていると、おもむろに扉が開く。
スーザンが神妙な面持ちで入ってくると、団員数名も一緒にこの部屋へ入って来た。
「すまない、アキヒサ・テンデル。抵抗はしてくれるな」
その言葉と同時、団員たちの指輪が光を帯びる。
「騎士魔法【cautirictions】」
詠唱と共に光の輪に捕まり動く事ができなくなる。
これを受けたのもこれで二度目か。結局何も思いつくことが出来なかった。
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