異世界転移~俺は人生を異世界、この世界でやり直す~
帰宅
ハイリの元へ戻るとひどく驚いた様子でこちらを眺めてきた。
「おま、紺色!? 青ですらすごいってのに……」
「なんかなったな」
「なんかって……いやほんとすごいぜアキは」
ハイリは呆れかえったような、ほっとしたような、そんな風に褒めてきた。
紺色、正直俺も驚いているところだ。なんとなく力が満ちるなーとか思ってたら放った炎が紺色になってるとか。一瞬何か間違えて使ったかと思って焦ったよほんと。
「ありがとう。でもまぁ俺も未だに信じられなからもう一回見てみるよ」
本当に俺の炎は紺になったのか疑問だったのでフェルドゾイレを何もない場所に発動してみた。すると今までの青とは違ってより濃く、紺色に燃える火柱が出現した。
「すごい……」
ハイリが感嘆したようにつぶやき、俺もその炎を茫然と見つめる。
本当に紺色だよ……。
「紅蓮の炎を燃やしつくす紺色の焔、聞いたことはあるが人生で初めて見たぜ」
「そんな珍しいもんなの?」
「当たり前だろ? そんなもん騎士団でもまぁお目にかかれないだろうからなぁ」
へぇ……。まぁできてしまったもんは仕方が無い。そろそろ話は切り上げてティミーの元へ行かないと。
「ハイリ、歩けるか?」
「そんなもん当たり前だっての。かすり傷だって言っただろ?」
ハイリはそう言いながら汚れを払い立ち上がる。
本当に大丈夫なのか甚だ心配だがとりあえず今はその言葉を信じる事にした。
道中に襲い掛かる魔物も適当に一掃すると、元来た崖まで戻った。ハイリも見た目ほど重傷ではないらしく途中で倒れたりなんてことも無くてホッとしている。
景色を見るとすっかり夕焼けになっていた。ふと遠くに目を向けるとディーベス村らしき集落も発見することができた。
「気づかなかったけど一応村も見えるんだな」
とはいえまだまだ遠そうだ。下手すればもう一日雪山で過ごす羽目になるかもしれない。
俺がつぶやくが黙っているのでハイリを見ると、何やら考えている様子だ。そして何を考えたか、急に顔ををパッとあげると俺の方を向いてニヤリと笑う。
「アキ、風ってのは使いようによっちゃ空だって飛べるんだ」
何どういう意味? よくわからないがこのいたずらをする前の子どもみたいな表情……ろくな事をする気がしない。
「がっちり掴んどくから安心しろ!」
そう言うと、いつものような片手ではなく背後から両腕で俺の身体を抱きかかえる。かすかに何か柔らかいものが背中に触れた気がするがまだまだ発育段階のようだ。でも期待はできなさそうだな……。
ハイリはそのまま崖の向こうへと飛び込むと、瞬間、正面から大きな風圧がかかる。
何事かと思って下を見たところ、広がる雑木林の景色がものすごいスピードで後ろへと駆けていくではないか。……これは空を飛んでいる。
「ハイリ!? どうなってんだこれ!?」
まさかこうも飛行できるなんて思っても無く、気付けばハイリにそう訊ねていた。
「別にどうってことも無い。後ろから強い風を身体に当ててるだけだ。正面からくる風圧は風を前に向けて放出することで打ち消して緩和してる」
「は!?」
おいおい……そりゃどんな芸当だよ。この世界に来て間もない俺にでもわかるけど、並大抵の人間が出来る事じゃない。
「さて、もうすぐで着くぞ!」
ハイリが言うので前を見ると、崖から遠く見えていた村はすぐそばまで来ていた。
そのままどんどんと村に近づくと、最後にはきれいに地面に着地する。
「いやぁ、空っていいなぁ」
などとハイリはのんきに言うが、俺は生きててよかったと心から思う。
「ったくよ……まぁいい、早くティミーにこれを渡さないと」
文句の一つでも言おうかと思ったが、一分一秒でも惜しいのでとりあえずそれは押しとどめ、ポケットから百薬の水が入る小瓶を取り出す。
「だな。でもちょっと先に行っててくれ……」
大して疲れた様子ではなかったハイリだが、急にふっと力が抜けたように片膝をつく。
「大丈夫かハイリ!?」
「いや、ちょっと魔力を使いすぎただけだ。大丈夫すぐ行く」
「本当かよ……」
「ああ。ただでさえゴーレム相手にしてたせいで減ってたのをさらに飛んで使っちまったからな」
そりゃそうだ。どう考えたってあんだけの事をすれば減るに決まってる。無茶をする子だほんとに。
「じゃあ行け」
「わかった。気をつけろよ!」
それだけ言って今は我が家となったティミーのいる家へと向かう。
ティミー、生きててくれよ。
「ティミーは!?」
勢いよくドアを開け放つと、誰に問うわけでもなく叫んだ。
「アキ君!?」
声のした方を向くと、ヘレナさんが驚いた様子でこちらを見るやいなやこちらへ駆け寄ってくると、俺を優しく抱擁してくれた。
「よかった……アキ君まで大変な事になってたらどうしようって」
「……すみません」
悲哀に満ちた声に、黙って山まで言った事を申し訳なく感じたので素直に謝罪する。
「気を付けてね」
「はい」
自分の子供が大変な時にそんな言葉が出るとは、ヘレナさんは本当に良い人だと思う。
改めてヘレナさんの優しさを確認していると、ヘレナさんは思い出したように口を開く。
「そうそう、ハイリちゃんとは会った? 今朝、アキ君を探してくるって言ったきり戻ってないの」
「無事会えたので大丈夫です。すぐに来ると思います」
「よかった……」
それを聞いて安堵したのか、心なしか声音が落ち着いていた。そのまま心安らぐ時間を過ごしたいのはやまやまだが、俺にはまだやるべきことがある。
「ところでティミーは?」
ヘレナさんは俺から身体を離すと、物憂げな様子で後ろを見る。
「昨日からずっと寝てる。熱もまだ下がってないけど大丈夫、明日にはきっと治ってるから」
悲しそうな表情に一瞬ヒヤリとしたが、まだティミーは大丈夫そうでよかった。
ティミーの元まで歩み寄る。
昨日よりもさら身体を火照らせてる彼女はとても苦しそうだ。近くには木の桶があり、額には濡れた布がかぶせてあることから看病していた様子が見て取れる。
小瓶を取り出し、不思議そうにこちらを見るヘレナさんの視線を感じながら百薬の水をティミーに飲ませてやる。
「頼む……」
誰に懇願したというわけでもないが、自然とそう言葉がこぼれた。
「アキ君?」
ティミーを見つめたままずっと動かないので疑問を感じたのか、ヘレナさんが名前を呼んだが俺はただひたすらに目の前の寝顔を見ていた。ここまできてあれがただの水なんてことは絶対やめろよ……。
そしてしばらく長い時間が流れた。もっとも、実際は数分なのだが俺にとってそれは何時間もこうしていたように感じたのだ。
「ん」
かすかに聞こえたこの声。間違いない、ティミーから発せられたものだ。
「ティミー!?」
名前を呼びかけると、彼女はうっすらと目を開けた。
「アキ?」
確かにティミーは俺の名前を言った。百薬の水は本物だったらしい!
「ティミー!?」
ヘレナさんもその様子に気づいたようで、ティミーにひしと身を寄せる。
「熱も、ひいてる……よかった、本当に」
「ど、どうしたのお母さん……」
起きたら急に抱かれるもんだから、ティミーもさぞかし戸惑っている様子だ。
はぁ、でもほんとによかったよ……。
「ねぇ、アキ?」
何がったのか教えてよという風に訊ねてくるティミーに、ただ笑いかけてやる。
「二人ともおかしい……」
ふてくされたように顔をしかめるティミー、すっかり元気になったようだ。
ふと窓に目をやると、人影が去っていく姿を捉えた。
たぶんダウジェスだろうと踏んだ俺は改めて礼をいうために外へと出るが、どこにもその姿は見当たらなくなっていた。
「ありがとなダウジェス!」
まだどこかに潜んでいるかもしれないので、とりあえずそう叫んでみると、向こうからハイリが歩いてきているのが見えたので手を振る。
俺の様子を察したか、ハイリは勢いよくこちらへと駆けて来ると、一緒に家の中へと戻った。
暖炉のおかげかとても部屋の中は暖かい。
「おま、紺色!? 青ですらすごいってのに……」
「なんかなったな」
「なんかって……いやほんとすごいぜアキは」
ハイリは呆れかえったような、ほっとしたような、そんな風に褒めてきた。
紺色、正直俺も驚いているところだ。なんとなく力が満ちるなーとか思ってたら放った炎が紺色になってるとか。一瞬何か間違えて使ったかと思って焦ったよほんと。
「ありがとう。でもまぁ俺も未だに信じられなからもう一回見てみるよ」
本当に俺の炎は紺になったのか疑問だったのでフェルドゾイレを何もない場所に発動してみた。すると今までの青とは違ってより濃く、紺色に燃える火柱が出現した。
「すごい……」
ハイリが感嘆したようにつぶやき、俺もその炎を茫然と見つめる。
本当に紺色だよ……。
「紅蓮の炎を燃やしつくす紺色の焔、聞いたことはあるが人生で初めて見たぜ」
「そんな珍しいもんなの?」
「当たり前だろ? そんなもん騎士団でもまぁお目にかかれないだろうからなぁ」
へぇ……。まぁできてしまったもんは仕方が無い。そろそろ話は切り上げてティミーの元へ行かないと。
「ハイリ、歩けるか?」
「そんなもん当たり前だっての。かすり傷だって言っただろ?」
ハイリはそう言いながら汚れを払い立ち上がる。
本当に大丈夫なのか甚だ心配だがとりあえず今はその言葉を信じる事にした。
道中に襲い掛かる魔物も適当に一掃すると、元来た崖まで戻った。ハイリも見た目ほど重傷ではないらしく途中で倒れたりなんてことも無くてホッとしている。
景色を見るとすっかり夕焼けになっていた。ふと遠くに目を向けるとディーベス村らしき集落も発見することができた。
「気づかなかったけど一応村も見えるんだな」
とはいえまだまだ遠そうだ。下手すればもう一日雪山で過ごす羽目になるかもしれない。
俺がつぶやくが黙っているのでハイリを見ると、何やら考えている様子だ。そして何を考えたか、急に顔ををパッとあげると俺の方を向いてニヤリと笑う。
「アキ、風ってのは使いようによっちゃ空だって飛べるんだ」
何どういう意味? よくわからないがこのいたずらをする前の子どもみたいな表情……ろくな事をする気がしない。
「がっちり掴んどくから安心しろ!」
そう言うと、いつものような片手ではなく背後から両腕で俺の身体を抱きかかえる。かすかに何か柔らかいものが背中に触れた気がするがまだまだ発育段階のようだ。でも期待はできなさそうだな……。
ハイリはそのまま崖の向こうへと飛び込むと、瞬間、正面から大きな風圧がかかる。
何事かと思って下を見たところ、広がる雑木林の景色がものすごいスピードで後ろへと駆けていくではないか。……これは空を飛んでいる。
「ハイリ!? どうなってんだこれ!?」
まさかこうも飛行できるなんて思っても無く、気付けばハイリにそう訊ねていた。
「別にどうってことも無い。後ろから強い風を身体に当ててるだけだ。正面からくる風圧は風を前に向けて放出することで打ち消して緩和してる」
「は!?」
おいおい……そりゃどんな芸当だよ。この世界に来て間もない俺にでもわかるけど、並大抵の人間が出来る事じゃない。
「さて、もうすぐで着くぞ!」
ハイリが言うので前を見ると、崖から遠く見えていた村はすぐそばまで来ていた。
そのままどんどんと村に近づくと、最後にはきれいに地面に着地する。
「いやぁ、空っていいなぁ」
などとハイリはのんきに言うが、俺は生きててよかったと心から思う。
「ったくよ……まぁいい、早くティミーにこれを渡さないと」
文句の一つでも言おうかと思ったが、一分一秒でも惜しいのでとりあえずそれは押しとどめ、ポケットから百薬の水が入る小瓶を取り出す。
「だな。でもちょっと先に行っててくれ……」
大して疲れた様子ではなかったハイリだが、急にふっと力が抜けたように片膝をつく。
「大丈夫かハイリ!?」
「いや、ちょっと魔力を使いすぎただけだ。大丈夫すぐ行く」
「本当かよ……」
「ああ。ただでさえゴーレム相手にしてたせいで減ってたのをさらに飛んで使っちまったからな」
そりゃそうだ。どう考えたってあんだけの事をすれば減るに決まってる。無茶をする子だほんとに。
「じゃあ行け」
「わかった。気をつけろよ!」
それだけ言って今は我が家となったティミーのいる家へと向かう。
ティミー、生きててくれよ。
「ティミーは!?」
勢いよくドアを開け放つと、誰に問うわけでもなく叫んだ。
「アキ君!?」
声のした方を向くと、ヘレナさんが驚いた様子でこちらを見るやいなやこちらへ駆け寄ってくると、俺を優しく抱擁してくれた。
「よかった……アキ君まで大変な事になってたらどうしようって」
「……すみません」
悲哀に満ちた声に、黙って山まで言った事を申し訳なく感じたので素直に謝罪する。
「気を付けてね」
「はい」
自分の子供が大変な時にそんな言葉が出るとは、ヘレナさんは本当に良い人だと思う。
改めてヘレナさんの優しさを確認していると、ヘレナさんは思い出したように口を開く。
「そうそう、ハイリちゃんとは会った? 今朝、アキ君を探してくるって言ったきり戻ってないの」
「無事会えたので大丈夫です。すぐに来ると思います」
「よかった……」
それを聞いて安堵したのか、心なしか声音が落ち着いていた。そのまま心安らぐ時間を過ごしたいのはやまやまだが、俺にはまだやるべきことがある。
「ところでティミーは?」
ヘレナさんは俺から身体を離すと、物憂げな様子で後ろを見る。
「昨日からずっと寝てる。熱もまだ下がってないけど大丈夫、明日にはきっと治ってるから」
悲しそうな表情に一瞬ヒヤリとしたが、まだティミーは大丈夫そうでよかった。
ティミーの元まで歩み寄る。
昨日よりもさら身体を火照らせてる彼女はとても苦しそうだ。近くには木の桶があり、額には濡れた布がかぶせてあることから看病していた様子が見て取れる。
小瓶を取り出し、不思議そうにこちらを見るヘレナさんの視線を感じながら百薬の水をティミーに飲ませてやる。
「頼む……」
誰に懇願したというわけでもないが、自然とそう言葉がこぼれた。
「アキ君?」
ティミーを見つめたままずっと動かないので疑問を感じたのか、ヘレナさんが名前を呼んだが俺はただひたすらに目の前の寝顔を見ていた。ここまできてあれがただの水なんてことは絶対やめろよ……。
そしてしばらく長い時間が流れた。もっとも、実際は数分なのだが俺にとってそれは何時間もこうしていたように感じたのだ。
「ん」
かすかに聞こえたこの声。間違いない、ティミーから発せられたものだ。
「ティミー!?」
名前を呼びかけると、彼女はうっすらと目を開けた。
「アキ?」
確かにティミーは俺の名前を言った。百薬の水は本物だったらしい!
「ティミー!?」
ヘレナさんもその様子に気づいたようで、ティミーにひしと身を寄せる。
「熱も、ひいてる……よかった、本当に」
「ど、どうしたのお母さん……」
起きたら急に抱かれるもんだから、ティミーもさぞかし戸惑っている様子だ。
はぁ、でもほんとによかったよ……。
「ねぇ、アキ?」
何がったのか教えてよという風に訊ねてくるティミーに、ただ笑いかけてやる。
「二人ともおかしい……」
ふてくされたように顔をしかめるティミー、すっかり元気になったようだ。
ふと窓に目をやると、人影が去っていく姿を捉えた。
たぶんダウジェスだろうと踏んだ俺は改めて礼をいうために外へと出るが、どこにもその姿は見当たらなくなっていた。
「ありがとなダウジェス!」
まだどこかに潜んでいるかもしれないので、とりあえずそう叫んでみると、向こうからハイリが歩いてきているのが見えたので手を振る。
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