異世界転移~俺は人生を異世界、この世界でやり直す~
キアラ
ティミーとの待ち合わせ場所に戻ると、見知らぬ女の子が立っていた。ショートヘアでさっぱりとした印象を受けるその子はもしかして同じ編入生かもしれない。ここはお近づきになるために声をかけるとしよう。別にやましい意味ではなくぼっち回避のためだ。
「こんにちは」
何気に言っちゃったけど第一声がこれってどうなんだ? いやまぁでも挨拶すれば挨拶が返ってくるだろうし、なんとかなるだろ。
「え?」
あっれれー? なんで驚いた表情をしてこちらを向いてるのかなー? あ、もしかしてティミーと同じ恥ずかしがりやさんだったかな? 見た目とは少しイメージが違うけどきっとそうに違いない。
などと考えていると、束の間の沈黙が訪れる。
しばらくお互い複雑な目線を送り合っていると、幸いにもそれを破ったのはティミーだった。
「あ、さっきの……」
ティミーは女子部屋へと続く廊下からぱたぱたと駆け寄ってくると、目の前の女の子の目線もそちらへと行く。
「さっきはありがとう」
「いやいやー、全然構わないよ、ノー問題っ!」
どうやらこの子とティミーは知り合いだったらしい。いやそれよりこの女の子の話し方すごいさっぱりしてるし、全然恥ずかしがりやっぽくないよな。あ、なるほど、きっと男性恐怖症に違いない!
都合のいい解釈をしながらも二人の関係は気になったので、とりあえず聞いてみる。
「どっかで会ったのかティミー?」
「うん、さっき部屋の場所忘れて困ってたらこの子が一緒にワードさんの所に聞きに行ってくれたんだよ」
なるほど、確かにティミーが一人で聞きに行くとかできなさそうだしな。この女の子が俺の名前を知ってたのはティミーが俺の名前を言ったのかもしれない。ともあれ保護者としてお礼を言っておかないと。
「ありがとうな」
「ぜ、全然オッケー!」
その子は親しげな笑顔を向けてグッと親指を突き立てる。ただし少しつまり気味ではある。
「そ、そういえば今年から学校に入るのは聞いたけど名前はまだだったよね……わ、私はティミー・テンデル」
お、自分からそういう話を振るのか。
「そういえば忘れてたね。キアラ・アストンだよ。改めてよろしくね、ティミー」
「よ、よろしくキアラちゃん」
遠慮がちに微笑むティミー。
ちょっとは一人でも話したんだな。まだ少しぎこちなさもあるが、昔に比べればティミーもしっかりと前進しているようだ。俺も一応自己紹介しておこう。
「俺はアキヒサ。だいたいの人はアキって呼ぶから、キアラもそう呼んでくれたらいいよ」
「え、あ、うん。よろしくアキ」
どこか戸惑いがあるようだがまぁ彼女もたぶん十二歳の女の子のわけだし、多少の人見知りはあるのかもしれない。
……俺が嫌われたって可能性の方がでかいですよね知ってます。
「それじゃ、いったん部屋に戻るね」
と言ってキアラはそそくさと立ち去ってしまった。
やっぱりそういう事じゃないのこれ……。はっ、今気づいちゃったけど何気に呼び捨てしてしまってたな俺。くそ、相手がついつい年下だからやってしまった。そりゃ嫌われるよ……。 一応同い年って事は忘れちゃ駄目だよな。この調子だと先輩とかできた時にも相手の方を年下として扱っちゃうかもしれないから気をつけないと!
「ふふっ」
先ほどの自分の行動を猛烈に反省していると、ティミーが不意に笑みを零した。その目線の先にはキアラが去った後に向けられている。
……なるほどそう言うこと。
「良かったな、いい奴っぽいし」
嬉しいんだろう、ティミーは。初めて同い年で同性の友達ができた事が。
「……うん」
笑ってしまったことが少し恥ずかしいのか、若干その頬は赤い。
ただ、その表情はとても嬉しそうで、見てるこっちも微笑まずにはいられない。
その後、寮を回ったりちょっと学院を散策したりして暇をつぶしていると、いつの間にか夕飯時になっていた。
「学校って広いんだねぇ」
「そうだな、でも良かったのか?」
「うん」
ティミーにはキアラの所に行ってもいいぞとは言ってやったのだが、やはりまだ羞恥があるのか、俺についてくると言って聞かず行動を共にしている。
「それならいいけどさ……。じゃあとりあえずそろそろ飯いくか」
「そうだね」
寮には寮生が集まる食堂があり、ご飯はそこで食べることになる。
つまりだ、この寮の生徒が必ず顔を合わせることになる場所だ。今のところキアラしか見てないけどもしかしたらまだ他にもいるかもしれない。
「お、アキ、ティミーやっほー!」
ティミーと食堂に入るとすでにキアラが来ており、こちらに笑顔で手を振ってくれた。
うわ、猛烈に感動した。俺の名前も言ってくれたという事は嫌われてないってことになるよな!?
「しかし二人とも一体どんな関係なのかね?」
席につくとキアラがニヤニヤとしながらいきなりそんな質問してきた。とりあえず嫌われてなかったのは確認できたので、至って普通に受け答えする事にする。
「訳あって二年前からティミーの家に居候してるんだ」
「ほう、訳……もしや許嫁!?」
「なんでそうなるんだよ……」
お前もなんか言ってやれと思いティミーに目線を送るが顔を伏せており、頬を赤らめながら許嫁というワードを繰り返しつぶやくだけで反応を示さない。
なるほど、女の子っていうのはそういうのに憧れを抱くものなのかもしれないな。ともあれ加勢は期待にできそうにない。
「まぁなんだ、ほんとそんなんじゃないから」
「ふーん?」
なおもいたずらめいた笑みを浮かべるキアラ。
ったく、まだ疑ってやがる。記憶喪失設定を出したらいいのかもしれないけど、そうじゃないのにそう言うとあとあと面倒くさい事になりそうだから嫌なんだよな。適当に話をそらそう。
「それより他には誰も来ないのか?」
俺達は部屋の中央に一つある大きな長テーブルの一角に座ってるのだがまだまだ他の人が座るスペースがあり、食堂は全体的に閑散としている。
「先輩とかはいないからねー」
「え、なんで?」
「ここは今年から学院で施行された編入者制度のために新設された寮だからだけど……」
「ちょっと待て、やっぱり俺らって編入生なの?」
「そりゃそうじゃん。……え、もしかして知らなかったの!?」
入寮する前にそのワードを聞いてはいたが実際知らなかったので黙っていると、キアラはさもおかしそうに吹きだすと背中をばしばしたたき出す。
「いや、流石だねアキ!」
何も流石じゃないから……。
「でもさ、編入者試験とかあるもんじゃないの? 何も受けてないよな?」
「んー、まぁ普通はあるけどこの学院は無いね」
「マジかよ……大丈夫なのかよこの学院」
これからの事を悲観していると、キアラはまたおかしそうに笑う。
「大丈夫だって、何せウィンクルム屈指の名門校じゃんここ」
「え? 名門なの?」
聞き返すと先ほどまで笑っていたキアラだが急に訝しげにこちらを伺いだした。
「うそ、それも知らないでここに来たの? ルーメリア学院って言えば王国で知らない人はいないけど……」
もはや呆れられる始末だ。悪かったな、俺は生憎この世界に来て二年だしその上育った場所が超ド田舎だったんだよ……。
「なぁ、ティミーは知ってたのか?」
傷を分散するために問いかけてみたがティミー未だに許嫁というワードを呟き続けて俯いている。ちょっと憧れすぎやしませんかね……。そろそろ起こしてやろう。
「おい、ティミー」
「ハッ……ど、どうしたのアキ!?」
どうしたのってこっちのセリフなんだけど。
呆れ混じりにティミーを見ていると、突如いい香りが鼻についた。
ふとその発生源と思われる方向に目を向けると、厨房の部屋から鍋を抱えた寮母のワードさんが出てきた。
「今日はリゾットだよ、あと暇なら厨房から適当に自分たちの容器を持ってくれるかい?」
ワードさんはよっこらせと持っていた鍋を俺らの机に置きながら言う。
「あ、はい」
暇というか手は空いていたのでワードさんの言葉に従う事にする。
そこへ二人も腰を上げようとするので手で制す。ここは男、俺が全部持ってくるのが筋ってもんだよな。
「いいから待っとけ。俺が持ってくるから」
「お、流石だねぇ」
「ありがとうアキ」
次々と上がる女の子たちの感謝の声。フッ、これでこそ紳士ってもんよ。
自己満足に浸りながら適当な食器を選んで持ってくると皆で手を合わせ晩ごはんを食べた。やっぱり卓を囲むのは多いほうが楽しいもんだな。
「こんにちは」
何気に言っちゃったけど第一声がこれってどうなんだ? いやまぁでも挨拶すれば挨拶が返ってくるだろうし、なんとかなるだろ。
「え?」
あっれれー? なんで驚いた表情をしてこちらを向いてるのかなー? あ、もしかしてティミーと同じ恥ずかしがりやさんだったかな? 見た目とは少しイメージが違うけどきっとそうに違いない。
などと考えていると、束の間の沈黙が訪れる。
しばらくお互い複雑な目線を送り合っていると、幸いにもそれを破ったのはティミーだった。
「あ、さっきの……」
ティミーは女子部屋へと続く廊下からぱたぱたと駆け寄ってくると、目の前の女の子の目線もそちらへと行く。
「さっきはありがとう」
「いやいやー、全然構わないよ、ノー問題っ!」
どうやらこの子とティミーは知り合いだったらしい。いやそれよりこの女の子の話し方すごいさっぱりしてるし、全然恥ずかしがりやっぽくないよな。あ、なるほど、きっと男性恐怖症に違いない!
都合のいい解釈をしながらも二人の関係は気になったので、とりあえず聞いてみる。
「どっかで会ったのかティミー?」
「うん、さっき部屋の場所忘れて困ってたらこの子が一緒にワードさんの所に聞きに行ってくれたんだよ」
なるほど、確かにティミーが一人で聞きに行くとかできなさそうだしな。この女の子が俺の名前を知ってたのはティミーが俺の名前を言ったのかもしれない。ともあれ保護者としてお礼を言っておかないと。
「ありがとうな」
「ぜ、全然オッケー!」
その子は親しげな笑顔を向けてグッと親指を突き立てる。ただし少しつまり気味ではある。
「そ、そういえば今年から学校に入るのは聞いたけど名前はまだだったよね……わ、私はティミー・テンデル」
お、自分からそういう話を振るのか。
「そういえば忘れてたね。キアラ・アストンだよ。改めてよろしくね、ティミー」
「よ、よろしくキアラちゃん」
遠慮がちに微笑むティミー。
ちょっとは一人でも話したんだな。まだ少しぎこちなさもあるが、昔に比べればティミーもしっかりと前進しているようだ。俺も一応自己紹介しておこう。
「俺はアキヒサ。だいたいの人はアキって呼ぶから、キアラもそう呼んでくれたらいいよ」
「え、あ、うん。よろしくアキ」
どこか戸惑いがあるようだがまぁ彼女もたぶん十二歳の女の子のわけだし、多少の人見知りはあるのかもしれない。
……俺が嫌われたって可能性の方がでかいですよね知ってます。
「それじゃ、いったん部屋に戻るね」
と言ってキアラはそそくさと立ち去ってしまった。
やっぱりそういう事じゃないのこれ……。はっ、今気づいちゃったけど何気に呼び捨てしてしまってたな俺。くそ、相手がついつい年下だからやってしまった。そりゃ嫌われるよ……。 一応同い年って事は忘れちゃ駄目だよな。この調子だと先輩とかできた時にも相手の方を年下として扱っちゃうかもしれないから気をつけないと!
「ふふっ」
先ほどの自分の行動を猛烈に反省していると、ティミーが不意に笑みを零した。その目線の先にはキアラが去った後に向けられている。
……なるほどそう言うこと。
「良かったな、いい奴っぽいし」
嬉しいんだろう、ティミーは。初めて同い年で同性の友達ができた事が。
「……うん」
笑ってしまったことが少し恥ずかしいのか、若干その頬は赤い。
ただ、その表情はとても嬉しそうで、見てるこっちも微笑まずにはいられない。
その後、寮を回ったりちょっと学院を散策したりして暇をつぶしていると、いつの間にか夕飯時になっていた。
「学校って広いんだねぇ」
「そうだな、でも良かったのか?」
「うん」
ティミーにはキアラの所に行ってもいいぞとは言ってやったのだが、やはりまだ羞恥があるのか、俺についてくると言って聞かず行動を共にしている。
「それならいいけどさ……。じゃあとりあえずそろそろ飯いくか」
「そうだね」
寮には寮生が集まる食堂があり、ご飯はそこで食べることになる。
つまりだ、この寮の生徒が必ず顔を合わせることになる場所だ。今のところキアラしか見てないけどもしかしたらまだ他にもいるかもしれない。
「お、アキ、ティミーやっほー!」
ティミーと食堂に入るとすでにキアラが来ており、こちらに笑顔で手を振ってくれた。
うわ、猛烈に感動した。俺の名前も言ってくれたという事は嫌われてないってことになるよな!?
「しかし二人とも一体どんな関係なのかね?」
席につくとキアラがニヤニヤとしながらいきなりそんな質問してきた。とりあえず嫌われてなかったのは確認できたので、至って普通に受け答えする事にする。
「訳あって二年前からティミーの家に居候してるんだ」
「ほう、訳……もしや許嫁!?」
「なんでそうなるんだよ……」
お前もなんか言ってやれと思いティミーに目線を送るが顔を伏せており、頬を赤らめながら許嫁というワードを繰り返しつぶやくだけで反応を示さない。
なるほど、女の子っていうのはそういうのに憧れを抱くものなのかもしれないな。ともあれ加勢は期待にできそうにない。
「まぁなんだ、ほんとそんなんじゃないから」
「ふーん?」
なおもいたずらめいた笑みを浮かべるキアラ。
ったく、まだ疑ってやがる。記憶喪失設定を出したらいいのかもしれないけど、そうじゃないのにそう言うとあとあと面倒くさい事になりそうだから嫌なんだよな。適当に話をそらそう。
「それより他には誰も来ないのか?」
俺達は部屋の中央に一つある大きな長テーブルの一角に座ってるのだがまだまだ他の人が座るスペースがあり、食堂は全体的に閑散としている。
「先輩とかはいないからねー」
「え、なんで?」
「ここは今年から学院で施行された編入者制度のために新設された寮だからだけど……」
「ちょっと待て、やっぱり俺らって編入生なの?」
「そりゃそうじゃん。……え、もしかして知らなかったの!?」
入寮する前にそのワードを聞いてはいたが実際知らなかったので黙っていると、キアラはさもおかしそうに吹きだすと背中をばしばしたたき出す。
「いや、流石だねアキ!」
何も流石じゃないから……。
「でもさ、編入者試験とかあるもんじゃないの? 何も受けてないよな?」
「んー、まぁ普通はあるけどこの学院は無いね」
「マジかよ……大丈夫なのかよこの学院」
これからの事を悲観していると、キアラはまたおかしそうに笑う。
「大丈夫だって、何せウィンクルム屈指の名門校じゃんここ」
「え? 名門なの?」
聞き返すと先ほどまで笑っていたキアラだが急に訝しげにこちらを伺いだした。
「うそ、それも知らないでここに来たの? ルーメリア学院って言えば王国で知らない人はいないけど……」
もはや呆れられる始末だ。悪かったな、俺は生憎この世界に来て二年だしその上育った場所が超ド田舎だったんだよ……。
「なぁ、ティミーは知ってたのか?」
傷を分散するために問いかけてみたがティミー未だに許嫁というワードを呟き続けて俯いている。ちょっと憧れすぎやしませんかね……。そろそろ起こしてやろう。
「おい、ティミー」
「ハッ……ど、どうしたのアキ!?」
どうしたのってこっちのセリフなんだけど。
呆れ混じりにティミーを見ていると、突如いい香りが鼻についた。
ふとその発生源と思われる方向に目を向けると、厨房の部屋から鍋を抱えた寮母のワードさんが出てきた。
「今日はリゾットだよ、あと暇なら厨房から適当に自分たちの容器を持ってくれるかい?」
ワードさんはよっこらせと持っていた鍋を俺らの机に置きながら言う。
「あ、はい」
暇というか手は空いていたのでワードさんの言葉に従う事にする。
そこへ二人も腰を上げようとするので手で制す。ここは男、俺が全部持ってくるのが筋ってもんだよな。
「いいから待っとけ。俺が持ってくるから」
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