異世界転移~俺は人生を異世界、この世界でやり直す~
疑念
何も考えず走ってきちゃったけどカルロスって普段どこにいるんだろ……。とりあえずかたっぱしから寮を当たってみればいいか。基本全寮制の学校のはずだからどこかに住んでるに違いない。
しらみつぶしに寮を当たっていこうと考えていたところ、ふと誰かが後ろから走ってるような足音が耳に届いた。
振り返ってみると、向こうから食堂で会った時の小太り野郎がこちらに向かって走ってきていた。
「ひぃ、本当にごめん、ごめん……」
何か仕掛けてくるかと身構えたものの、ここまで走って来るやいなやその小太り野郎は汗を垂れ流し息を切らしながらそんな事を言ってきた。終始高慢な態度をとり続けたこの男が何度も土下座するその姿に思わず身がたじろぐ。
「な、なんですか……」
「か、花壇の件だよぅ、ほ、ほんとにごめん。全て僕の独断でやったんだ……」
花壇……こいつがアレをやったってことか? でも妙だ、何故急にこんなにも謝る? こいつの感じだと、たとえどれだけ問い詰めたとしてもしらを切り続けそうなものだが。
「もしかしてカルロスの身代わりになってるのでは?」
「ボ、ボス……いや、カ、カルロスさんはそんな事しないよ、全て僕一人でやったんだ! あの後こっぴどく怒られた腹いせでね……」
「本当ですか?」
「ど、どうやったら信じてくれるんだよぅ!」
「そう言われましても」
気になるのは何故実行してすぐに謝ってきたのかだ。こいつの事はそこまで知ってるわけではないが実は根はいい奴で罪悪感が芽生えたのか、それとも俺がさっき聞いたことが事実なのか。はたまたそれ以外か。とは言え現状だと身代わりの線が一番大きい。
「お、お願いだぁ……信じてくれぇ、いや信じてください!」
しまいには俺の足にすがりつく始末だ。ちょ、汗。
あまりにも激しい勢いと、制服が汚れるのが嫌だったのでとりあえず信じるフリをすることにした。
「……分かりました、でも俺に謝るのはお門違いです。とりあえず来てください」
「あ、ありがとうございます」
そう、誰よりも悲しかったのはティミーのはずだ。俺が謝られても大した意味をなさない。まぁもっとも、この犯人が本物なのか分からないが。
学院の加護のおかげで暴力沙汰になっても傷ついて痛む事は無いはずではあるが、何か無いとも限らないので終始警戒をしつつ小太り野郎を皆の前に連れてきた。泣いていたティミーだが今はなんとか持ち直したらしい。
「許せない!」
「ひ、ひぃ、すみません、すみません!」
事の成り行きを説明するとキアラが飛びかかろうとしたのでアリシアがそれを制する。
「落ち着いてくださいキアラさん、この人に何かしても無駄です。痛みを与えるにもここは学院内、加護に守られます」
「だったら外に引っ張り出してけじめをつけさせる!」
「そんな事をすれば外傷が残り暴力問題に発展します。下手すれば退学です」
「でもティミーが!」
「ありがとう、でも大丈夫だよキアラちゃん」
なおも言い募ろうとするキアラをティミーが押しとどめると軽く微笑む。どこかそれはヘレナさんに通じるものを感じてまた少し成長を実感する。
「えと、先輩。謝ってくれたので今回は許します。でもこれから絶対にあんなことはしないでくださいね」
「あ、ありがとう……ありがとうございます!」
目に涙を浮かべながら何度もティミーに礼をする小太り野郎。これが何かしらの演技なのだとしたらかなりの才能がありそうだ。そう思わざるを得ないほどその男の様子は迫真に満ちていたのだ。
「あの、アキさんこの人」
アリシアが耳元でささやくので俺は頷く。
「分かってる、とりあえず後で聞いとく」
恐らくアリシアも引っかかっているのだろう、何故あんなまでに高慢だった奴がいきなり謝罪などする気になったのか。十二歳にしてなかなか頭の切れる子だ。
アリシアも頷くとまた元の立ち位置に戻る。
「じゃあとりあえずこの件は済んだという事で、陽もかなりかなり傾いてますし先輩も寮に戻ってください。見送りますよ」
そう言い俺は小太り野郎を引き連れて寮から出ると少し歩いて話を振った。
「それで、本当の事を言ってくれませんか?」
「ほ、本当の事?」
「はい、カルロスに何かされたんでしょう? 例えばあなたは実行犯で主犯はカルロスだったり、もしくはカルロスがあれをやって先輩が代わりになっているとか」
単刀直入に聞くと、小太り野郎は急に立ち止まった。もっと遠回しの方がよかったかな。
「ほんとに、ほんとに僕がやったんだよ……」
顔を俯かせているので表情はうかがい知れないが、小太り野郎からはポツリと汗が一滴地面に落ちる。
「ここには俺しかいないですから本当の事を……」
「だから僕がやったって言ってるだろ!? 本当にやったんだよ! でも、ボス……カルロスさんは!!」
「ちょっと!」
急に大きな声を上げると、止めるのも聞かずそのままどこかへ走り去ってしまった。
なんでそこまで黙り続ける必要があるんだろうか? もっと普通の話題から入って話を振ればよかったかもしれないな。ちょっと反省。とは言え、現状本人が罪を認めているのならどうにもできない、とりあえずそれはまたの機会に置いておくしかなさそうだ。
あまり釈然とはしないものの、とりあえず寮に戻ることにした。
********
今日は魔術応用の講義が午前中に二回連続で入っている。昨日の一件についてはまだ釈然とはしてないがとりあえず考えても仕方が無いので機会があれば探ってみようという事にした。帰り道の事を話したところアリシアも暇があれば動いてくれるらしい。念のためだが、直接カルロスに会って話をするなんて危ない真似はしないようにと釘はさしておいた。
ふと前に目を向けると、そこには薄いピンク色の物を俺の脳内にちらつかせさせる後ろ姿を見つけた。そういえばこっちの一件もあったよな……。
「よ、ようミア」
しどろもどろになりながらもとりあえず挨拶をする。が、返事は無い。
「あのー……ミアさん?」
少し遠慮を感じながらも訊ねてみるが俺の事など見えてないという風にミアはただ黙々と無表情で前を向いて歩き続ける。まぁ、そりゃそうだよな。
「ほんと悪い。昨日は流石に調子乗りすぎた」
反応が無い、歩くしかばねのようだ。これはかなりお怒りの様子だな。
どうしたものかと考えているとミアが急に立ち止まりだすので俺も慌てて立ち止まる。
「決闘」
「え?」
「あんたが決闘で私に勝てたら許してあげるわ」
なるほど確かにこれは願っても無い提案だ。だけどでも女の子相手に戦うのはなぁ……いやでも今の俺は全世界の女の子を敵に回しかねない事をしてしまったわけで、つまり今更女の子相手がどうとか言って紳士ぶってもまったく意味をなさないかもしれない? それでもこれから紳士し続けていればもしかしたら許される日がいつか来るかも……いやいやどうにもなぁ。
「それでどうするの? 嫌なら私は別にいいわよ? ……グレンジャー家が黙ってないかもしれないけど」
「やります、やりますとも! さぁ、一緒に切磋琢磨しようじゃないか!」
迷っているところ、由緒あるらしいグレンジャー家の名前を出してまで脅してきたので反射的に承諾してしまった。
「じゃ、決まりね! 時間は講義が終わった後、場所は武道場よ! 火の使い手で一番強いのはこの私なんだから覚悟しなさい!」
先ほどの無表情とは一転、笑みを浮かべながら指さし告げるミア。もうこれは致し方あるまい……。
「あ、言っとくけどあんたが負けたら私の下僕なんだからね?」
待ってそれは聞いてないんだけど。
「ちょっと待て、それは不平等すぎじゃないか!?」
「あら、じゃあ仕方ないわね。この決闘は無効、そのうちグレンジャー家から使いが……」
「わ、わかった、わかったから!」
グレンジャー家とかどうせすごいところに決まってる。そんなところを敵に回してせっかくの異世界に来たというのに一生地下牢なんて事にもなりかねない。 くっ、今回はこのお嬢様にいっぱい食わされたな。非常に嬉しそうで何よりですね……。まぁ自分がまいた種でもあるんだけどね!
しらみつぶしに寮を当たっていこうと考えていたところ、ふと誰かが後ろから走ってるような足音が耳に届いた。
振り返ってみると、向こうから食堂で会った時の小太り野郎がこちらに向かって走ってきていた。
「ひぃ、本当にごめん、ごめん……」
何か仕掛けてくるかと身構えたものの、ここまで走って来るやいなやその小太り野郎は汗を垂れ流し息を切らしながらそんな事を言ってきた。終始高慢な態度をとり続けたこの男が何度も土下座するその姿に思わず身がたじろぐ。
「な、なんですか……」
「か、花壇の件だよぅ、ほ、ほんとにごめん。全て僕の独断でやったんだ……」
花壇……こいつがアレをやったってことか? でも妙だ、何故急にこんなにも謝る? こいつの感じだと、たとえどれだけ問い詰めたとしてもしらを切り続けそうなものだが。
「もしかしてカルロスの身代わりになってるのでは?」
「ボ、ボス……いや、カ、カルロスさんはそんな事しないよ、全て僕一人でやったんだ! あの後こっぴどく怒られた腹いせでね……」
「本当ですか?」
「ど、どうやったら信じてくれるんだよぅ!」
「そう言われましても」
気になるのは何故実行してすぐに謝ってきたのかだ。こいつの事はそこまで知ってるわけではないが実は根はいい奴で罪悪感が芽生えたのか、それとも俺がさっき聞いたことが事実なのか。はたまたそれ以外か。とは言え現状だと身代わりの線が一番大きい。
「お、お願いだぁ……信じてくれぇ、いや信じてください!」
しまいには俺の足にすがりつく始末だ。ちょ、汗。
あまりにも激しい勢いと、制服が汚れるのが嫌だったのでとりあえず信じるフリをすることにした。
「……分かりました、でも俺に謝るのはお門違いです。とりあえず来てください」
「あ、ありがとうございます」
そう、誰よりも悲しかったのはティミーのはずだ。俺が謝られても大した意味をなさない。まぁもっとも、この犯人が本物なのか分からないが。
学院の加護のおかげで暴力沙汰になっても傷ついて痛む事は無いはずではあるが、何か無いとも限らないので終始警戒をしつつ小太り野郎を皆の前に連れてきた。泣いていたティミーだが今はなんとか持ち直したらしい。
「許せない!」
「ひ、ひぃ、すみません、すみません!」
事の成り行きを説明するとキアラが飛びかかろうとしたのでアリシアがそれを制する。
「落ち着いてくださいキアラさん、この人に何かしても無駄です。痛みを与えるにもここは学院内、加護に守られます」
「だったら外に引っ張り出してけじめをつけさせる!」
「そんな事をすれば外傷が残り暴力問題に発展します。下手すれば退学です」
「でもティミーが!」
「ありがとう、でも大丈夫だよキアラちゃん」
なおも言い募ろうとするキアラをティミーが押しとどめると軽く微笑む。どこかそれはヘレナさんに通じるものを感じてまた少し成長を実感する。
「えと、先輩。謝ってくれたので今回は許します。でもこれから絶対にあんなことはしないでくださいね」
「あ、ありがとう……ありがとうございます!」
目に涙を浮かべながら何度もティミーに礼をする小太り野郎。これが何かしらの演技なのだとしたらかなりの才能がありそうだ。そう思わざるを得ないほどその男の様子は迫真に満ちていたのだ。
「あの、アキさんこの人」
アリシアが耳元でささやくので俺は頷く。
「分かってる、とりあえず後で聞いとく」
恐らくアリシアも引っかかっているのだろう、何故あんなまでに高慢だった奴がいきなり謝罪などする気になったのか。十二歳にしてなかなか頭の切れる子だ。
アリシアも頷くとまた元の立ち位置に戻る。
「じゃあとりあえずこの件は済んだという事で、陽もかなりかなり傾いてますし先輩も寮に戻ってください。見送りますよ」
そう言い俺は小太り野郎を引き連れて寮から出ると少し歩いて話を振った。
「それで、本当の事を言ってくれませんか?」
「ほ、本当の事?」
「はい、カルロスに何かされたんでしょう? 例えばあなたは実行犯で主犯はカルロスだったり、もしくはカルロスがあれをやって先輩が代わりになっているとか」
単刀直入に聞くと、小太り野郎は急に立ち止まった。もっと遠回しの方がよかったかな。
「ほんとに、ほんとに僕がやったんだよ……」
顔を俯かせているので表情はうかがい知れないが、小太り野郎からはポツリと汗が一滴地面に落ちる。
「ここには俺しかいないですから本当の事を……」
「だから僕がやったって言ってるだろ!? 本当にやったんだよ! でも、ボス……カルロスさんは!!」
「ちょっと!」
急に大きな声を上げると、止めるのも聞かずそのままどこかへ走り去ってしまった。
なんでそこまで黙り続ける必要があるんだろうか? もっと普通の話題から入って話を振ればよかったかもしれないな。ちょっと反省。とは言え、現状本人が罪を認めているのならどうにもできない、とりあえずそれはまたの機会に置いておくしかなさそうだ。
あまり釈然とはしないものの、とりあえず寮に戻ることにした。
********
今日は魔術応用の講義が午前中に二回連続で入っている。昨日の一件についてはまだ釈然とはしてないがとりあえず考えても仕方が無いので機会があれば探ってみようという事にした。帰り道の事を話したところアリシアも暇があれば動いてくれるらしい。念のためだが、直接カルロスに会って話をするなんて危ない真似はしないようにと釘はさしておいた。
ふと前に目を向けると、そこには薄いピンク色の物を俺の脳内にちらつかせさせる後ろ姿を見つけた。そういえばこっちの一件もあったよな……。
「よ、ようミア」
しどろもどろになりながらもとりあえず挨拶をする。が、返事は無い。
「あのー……ミアさん?」
少し遠慮を感じながらも訊ねてみるが俺の事など見えてないという風にミアはただ黙々と無表情で前を向いて歩き続ける。まぁ、そりゃそうだよな。
「ほんと悪い。昨日は流石に調子乗りすぎた」
反応が無い、歩くしかばねのようだ。これはかなりお怒りの様子だな。
どうしたものかと考えているとミアが急に立ち止まりだすので俺も慌てて立ち止まる。
「決闘」
「え?」
「あんたが決闘で私に勝てたら許してあげるわ」
なるほど確かにこれは願っても無い提案だ。だけどでも女の子相手に戦うのはなぁ……いやでも今の俺は全世界の女の子を敵に回しかねない事をしてしまったわけで、つまり今更女の子相手がどうとか言って紳士ぶってもまったく意味をなさないかもしれない? それでもこれから紳士し続けていればもしかしたら許される日がいつか来るかも……いやいやどうにもなぁ。
「それでどうするの? 嫌なら私は別にいいわよ? ……グレンジャー家が黙ってないかもしれないけど」
「やります、やりますとも! さぁ、一緒に切磋琢磨しようじゃないか!」
迷っているところ、由緒あるらしいグレンジャー家の名前を出してまで脅してきたので反射的に承諾してしまった。
「じゃ、決まりね! 時間は講義が終わった後、場所は武道場よ! 火の使い手で一番強いのはこの私なんだから覚悟しなさい!」
先ほどの無表情とは一転、笑みを浮かべながら指さし告げるミア。もうこれは致し方あるまい……。
「あ、言っとくけどあんたが負けたら私の下僕なんだからね?」
待ってそれは聞いてないんだけど。
「ちょっと待て、それは不平等すぎじゃないか!?」
「あら、じゃあ仕方ないわね。この決闘は無効、そのうちグレンジャー家から使いが……」
「わ、わかった、わかったから!」
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