異世界転移~俺は人生を異世界、この世界でやり直す~
再会
洞穴からは抜けたが、未だに薄暗い森は続いていた。
風すら鳴き声すらない、静まり返った空間には靄がかかっている。しっかりと景色を見る事が出来た。
怪術の効果は消えたという証拠だ。とりあえず降ろしてもらおうと声をかける。
「……もう大丈夫」
「お、よかったよかったっ」
あかりは陽気に言いながらそっと降ろしてくれる。
地面にしっかりと足をつけ、白いフードを外したあかりの姿を改めて見る。
声の調子もいつものように明るく、さっぱりとして長くない髪、澄んだ瞳、華奢な身体つき、外見も以前とほとんど変わっていないようだ。まぁ数か月ほどで大きくも変わるものでもないか。
唯一、目立って変わってると言えば、槍を二本携えているという事くらいか。一つは九年生になってから使用し続けていた黄金色の槍。もう一方は紅みがかり、妖美に映える槍。あと、白ローブというのは今まで類を見ない服装だ。
「ここあの人達が知ってたら駄目だし、もうちょっと走ろっかー」
あかりがストレッチしながら森の奥を見据える。
再会できた事は嬉しい、何故ここにいるのか、何をしてたのか、聞きたい事も山ほどある。
でも俺はその前にちゃんと言わなくてはならない。一刻でも早く伝えなくてはならない。
「あかり」
「んー?」
あかりが微かな笑みを湛え、顔をこちらに向ける。
前と変わらない笑顔のはずなのに、何故か思わずたじろぎそうになるが、堪え、声を絞り出す。
「本当にごめん!」
刹那の沈黙の後、
「へ?」
キアラは間の抜けたような声を発した。
この反応は素なのか、それともわざとなのかは分からない。でも俺は約束を破り、その上傷つけた、それだけは変わらないんだから今はとにかく謝る。
「……俺さ、約束破った上にあんな酷い事言って。ほんと、最低だよな。自暴自棄になって、取り返しのつかない事した。本当は嬉しかったんだよ、贈ってくれた言葉の一つ一つが嬉しかったんだ。どうしようも無い俺に檄を飛ばしてくれてさ。でも俺はそれを拒み続けて挙句にはあんな事言った。結局のところ、俺はあかりに甘えてたんだよな。ほんとにごめん」
あかりは表情を崩さず黙って聞いてくれている。
「それで……」
この先が言えない。
だって俺にこれを言う資格なんて無いんじゃないのか、今更勝手すぎやしないか? 元気をもらっておいて、励まされておいてあんな事を返したというのに、傷つけたというのに。
束の間の沈黙を破ったのはあかりだった。
「まぁまぁそんな気になさんなアキヒサさん、確かにあの時はちょっと悲しかったけど、もうだいぶ前の事だし。それに、私の言葉に嬉しく感じてくれてたんならそれは良かった良かった」
言い終えるとうんうんと頷く。一つも非難の言葉が無かった。せめて憎まれごとの一つでも言ってくれれば……。
「でも」
「やれやれー、ただでさえこの森しめっぽいんだから、もっとこう揚々と行こうよー、せっかく久しぶりに会えたんだからさっ」
「え、ああ」
言い募ろうとしたが遮られてしまい、思わずうなずいてしまう。
「ほら、怪術師達が追ってくる前にとりあえずここを離れよ?」
「……そう、だな」
憎まれ口は一つも無しか。
まぁでも、気にするなと言ってるんだからそうごちゃごちゃと引きずるのは返って失礼だろう。
そもそも、非難の言葉を求める事自体が自己満足、甘えなんだよな。まったく、我ながら情けないよほんと。結局言えなかったし。とは言えやっぱり言うべきでは無い気もするからいいんだけども。
「あ、そうだ、言い忘れてた」
何かを思い出したのか、不意にあかりが口を開いた。
「今はあかりじゃなくてキアラ、他の人たちが聞いたら混乱しちゃうよ?」
「……まぁ確かにそうか。すまんキアラ」
「はいはい謝るのはいいから、とにかくレッツゴー! 早く来ないと置いて行っちゃうからねっ」
キアラが先だって暗い森の中へと走りだすのでそのあとを追う。
あかりじゃなくてキアラ、その言葉がどうにも頭で渦巻きながら。
恐らく今頃、陽はかなり傾いている事だろう。
************
どれくらい走っただろうか、未だに森の中だが、そもそも出ないように走って来たのでさして問題は無い。森の外は出る地点にもよるがおおむね平原だ。そこへ出るよりもこの広く混沌とした森の中の方が怪術師達に見つかる可能性が低いと考えの事だ。早急にハイリと連絡を取りたいところだが、死んでしまっては元も子もない。とは言え、いずれ出なきゃならないのは変わらないけど。
「ふう、走った走ったー。流石にここまでは追ってこないよね?」
「たぶんな」
「そっかそっかー、なら一安心」
キアラが額の汗をぬぐうような動作をすると、これ暑いんだよねーと白いローブを脱ぎ捨てる。
一瞬ヒヤリとしたが、もちろん杞憂で、中にはきちんと動きやすそうな服を身に纏っていた。少し肩が出てるけど何も考えない。
「でもまだ安心はできない」
雑念を振り払おうとあえて緊迫感を誘ってみる。
「そう?」
「何せここは不帰の森だからな。当然魔物も生息する」
「まぁそっかー。あ、魔物と言えばヒスケの依頼の時も大変だったよねー」
「ああ……」
確か、いたちっぽい魔物が複数で襲い掛かって来たんだっけな。あと食虫植物。
フフフ、あの日見た柄の名前を僕はまだ忘れない! ……っといけないいけない、最近息をひそめていた第二の人格が云々。
「ま、まぁ実際一年も経ってないけど、かなり昔の事に感じるよな」
純白の記憶を呼び起こしていたせいで少し言葉が詰まってしまったけど気にしない。
しかし少し俺が隙を見せればそこをつつくのがキアラである。今回も目ざとくそれを嗅ぎ付け立ち上がり接近してきた。
「うぬ? どうして少し噛んだのかな~アキヒサさん?」
「べ、別に噛んでませんケド?」
やばい、俺としたことがあからさまに棒読みになってしまった。
「おやおや、今度は詰まった上に棒読みですねぇ? もしやこれかな?」
キアラはすかさずスカートを上下にひらひらしてくる。目線を外そうにも視界の端では度々あらわになる白く細いそれが丁度際どく見え隠れするのを確認してしまう。駄目だ、精神的徒労で死んでしまう。
「と、ところでキアラ、一年じゃないとはいえ、半年くらいじゃないか? 一体どこで何をやってたんだよ?」
「おや、話そらしましたね? やっぱりそうなんですよねぇ? ねぇ?」
「クッ、見てましたよすみません! でもね、あれは不可抗力なんですよ! いやマジでね!?」
「ほっほう……?」
ニヤニヤと身体をつついてくるキアラ。久しぶりにこうもからかわれるとかなりきつい……。
「この話は終わりだ! それで、何してたんだよ?」
「うーんそうだなー」
少し考える素振りをするキアラに、聞いても良かったのかと不安になる。
「とりあえず世界各地の名産品を食い荒らしてた、かなっ」
「そうかい……」
心配して損した。
「ま、待って、それだけじゃないよ!?」
「ほう、例えば?」
問うと、キアラは少し間を置き、先ほどよりは真面目なトーンで答える。
「まぁ大きくは怪術師の事、とかかな」
怪術師、そのワードに思い切り平手打ちされた錯覚に陥る。
「……そうか。どれくらい知ってる?」
もしかしたら騎士団よりも有効な情報を持ってるかもしれない。いずれ怪術師とは戦わなくてはならないだろうから、できるだけ情報は欲しい。
「その様子だとアキも情報を持ってるみたいだね」
「まぁせいぜいあいつらが弥国人で怪術とかいう訳の分からん能力を持ってることくらいだけどな。あとあの光を一回でも見なけりゃ怪術は効かないって事もだ」
まぁ、目を瞑りながら戦うなんか流石にできる芸当じゃないからあまり使える情報じゃないけども。
「ふむふむ……。まぁもうちょっと昔話に花をさせたい気もしたけど、そうも言ってられなさそうだね」
キアラは少し音を吟味するかのように目を閉じると、
「よし、おっけー! 実際弥国に渡った私が、もう少し詳しい事を伝授してあげようっ」
ビシリと自信ありげに指を突き出した。
これは新たな情報が期待できそうだ。でもあれ? そういえば今なんて言ったこいつ。
「待て、弥国に行ったのか」
「うん、定期船でちょちょいとね」
「おお……」
隣国にも行くとか行動力半端ないなこの子……。何せ唯一の大陸外の国だもんな。思い立ったが吉日というやつか。まぁあの時点で旅に出るくらいの屈強さは持ってるから納得できるか。てか定期船とかあったんだな、色々落ち着いたら行ってみようかな。
「ああでも、情報って言っても多いわけじゃないし、不確定なものもあるけどそれでもいい?」
「もちろんだ」
今は少しでもいいから怪術師の情報が欲しい。
キアラは改めて切り株に座ると、怪術師について話し始めた。
風すら鳴き声すらない、静まり返った空間には靄がかかっている。しっかりと景色を見る事が出来た。
怪術の効果は消えたという証拠だ。とりあえず降ろしてもらおうと声をかける。
「……もう大丈夫」
「お、よかったよかったっ」
あかりは陽気に言いながらそっと降ろしてくれる。
地面にしっかりと足をつけ、白いフードを外したあかりの姿を改めて見る。
声の調子もいつものように明るく、さっぱりとして長くない髪、澄んだ瞳、華奢な身体つき、外見も以前とほとんど変わっていないようだ。まぁ数か月ほどで大きくも変わるものでもないか。
唯一、目立って変わってると言えば、槍を二本携えているという事くらいか。一つは九年生になってから使用し続けていた黄金色の槍。もう一方は紅みがかり、妖美に映える槍。あと、白ローブというのは今まで類を見ない服装だ。
「ここあの人達が知ってたら駄目だし、もうちょっと走ろっかー」
あかりがストレッチしながら森の奥を見据える。
再会できた事は嬉しい、何故ここにいるのか、何をしてたのか、聞きたい事も山ほどある。
でも俺はその前にちゃんと言わなくてはならない。一刻でも早く伝えなくてはならない。
「あかり」
「んー?」
あかりが微かな笑みを湛え、顔をこちらに向ける。
前と変わらない笑顔のはずなのに、何故か思わずたじろぎそうになるが、堪え、声を絞り出す。
「本当にごめん!」
刹那の沈黙の後、
「へ?」
キアラは間の抜けたような声を発した。
この反応は素なのか、それともわざとなのかは分からない。でも俺は約束を破り、その上傷つけた、それだけは変わらないんだから今はとにかく謝る。
「……俺さ、約束破った上にあんな酷い事言って。ほんと、最低だよな。自暴自棄になって、取り返しのつかない事した。本当は嬉しかったんだよ、贈ってくれた言葉の一つ一つが嬉しかったんだ。どうしようも無い俺に檄を飛ばしてくれてさ。でも俺はそれを拒み続けて挙句にはあんな事言った。結局のところ、俺はあかりに甘えてたんだよな。ほんとにごめん」
あかりは表情を崩さず黙って聞いてくれている。
「それで……」
この先が言えない。
だって俺にこれを言う資格なんて無いんじゃないのか、今更勝手すぎやしないか? 元気をもらっておいて、励まされておいてあんな事を返したというのに、傷つけたというのに。
束の間の沈黙を破ったのはあかりだった。
「まぁまぁそんな気になさんなアキヒサさん、確かにあの時はちょっと悲しかったけど、もうだいぶ前の事だし。それに、私の言葉に嬉しく感じてくれてたんならそれは良かった良かった」
言い終えるとうんうんと頷く。一つも非難の言葉が無かった。せめて憎まれごとの一つでも言ってくれれば……。
「でも」
「やれやれー、ただでさえこの森しめっぽいんだから、もっとこう揚々と行こうよー、せっかく久しぶりに会えたんだからさっ」
「え、ああ」
言い募ろうとしたが遮られてしまい、思わずうなずいてしまう。
「ほら、怪術師達が追ってくる前にとりあえずここを離れよ?」
「……そう、だな」
憎まれ口は一つも無しか。
まぁでも、気にするなと言ってるんだからそうごちゃごちゃと引きずるのは返って失礼だろう。
そもそも、非難の言葉を求める事自体が自己満足、甘えなんだよな。まったく、我ながら情けないよほんと。結局言えなかったし。とは言えやっぱり言うべきでは無い気もするからいいんだけども。
「あ、そうだ、言い忘れてた」
何かを思い出したのか、不意にあかりが口を開いた。
「今はあかりじゃなくてキアラ、他の人たちが聞いたら混乱しちゃうよ?」
「……まぁ確かにそうか。すまんキアラ」
「はいはい謝るのはいいから、とにかくレッツゴー! 早く来ないと置いて行っちゃうからねっ」
キアラが先だって暗い森の中へと走りだすのでそのあとを追う。
あかりじゃなくてキアラ、その言葉がどうにも頭で渦巻きながら。
恐らく今頃、陽はかなり傾いている事だろう。
************
どれくらい走っただろうか、未だに森の中だが、そもそも出ないように走って来たのでさして問題は無い。森の外は出る地点にもよるがおおむね平原だ。そこへ出るよりもこの広く混沌とした森の中の方が怪術師達に見つかる可能性が低いと考えの事だ。早急にハイリと連絡を取りたいところだが、死んでしまっては元も子もない。とは言え、いずれ出なきゃならないのは変わらないけど。
「ふう、走った走ったー。流石にここまでは追ってこないよね?」
「たぶんな」
「そっかそっかー、なら一安心」
キアラが額の汗をぬぐうような動作をすると、これ暑いんだよねーと白いローブを脱ぎ捨てる。
一瞬ヒヤリとしたが、もちろん杞憂で、中にはきちんと動きやすそうな服を身に纏っていた。少し肩が出てるけど何も考えない。
「でもまだ安心はできない」
雑念を振り払おうとあえて緊迫感を誘ってみる。
「そう?」
「何せここは不帰の森だからな。当然魔物も生息する」
「まぁそっかー。あ、魔物と言えばヒスケの依頼の時も大変だったよねー」
「ああ……」
確か、いたちっぽい魔物が複数で襲い掛かって来たんだっけな。あと食虫植物。
フフフ、あの日見た柄の名前を僕はまだ忘れない! ……っといけないいけない、最近息をひそめていた第二の人格が云々。
「ま、まぁ実際一年も経ってないけど、かなり昔の事に感じるよな」
純白の記憶を呼び起こしていたせいで少し言葉が詰まってしまったけど気にしない。
しかし少し俺が隙を見せればそこをつつくのがキアラである。今回も目ざとくそれを嗅ぎ付け立ち上がり接近してきた。
「うぬ? どうして少し噛んだのかな~アキヒサさん?」
「べ、別に噛んでませんケド?」
やばい、俺としたことがあからさまに棒読みになってしまった。
「おやおや、今度は詰まった上に棒読みですねぇ? もしやこれかな?」
キアラはすかさずスカートを上下にひらひらしてくる。目線を外そうにも視界の端では度々あらわになる白く細いそれが丁度際どく見え隠れするのを確認してしまう。駄目だ、精神的徒労で死んでしまう。
「と、ところでキアラ、一年じゃないとはいえ、半年くらいじゃないか? 一体どこで何をやってたんだよ?」
「おや、話そらしましたね? やっぱりそうなんですよねぇ? ねぇ?」
「クッ、見てましたよすみません! でもね、あれは不可抗力なんですよ! いやマジでね!?」
「ほっほう……?」
ニヤニヤと身体をつついてくるキアラ。久しぶりにこうもからかわれるとかなりきつい……。
「この話は終わりだ! それで、何してたんだよ?」
「うーんそうだなー」
少し考える素振りをするキアラに、聞いても良かったのかと不安になる。
「とりあえず世界各地の名産品を食い荒らしてた、かなっ」
「そうかい……」
心配して損した。
「ま、待って、それだけじゃないよ!?」
「ほう、例えば?」
問うと、キアラは少し間を置き、先ほどよりは真面目なトーンで答える。
「まぁ大きくは怪術師の事、とかかな」
怪術師、そのワードに思い切り平手打ちされた錯覚に陥る。
「……そうか。どれくらい知ってる?」
もしかしたら騎士団よりも有効な情報を持ってるかもしれない。いずれ怪術師とは戦わなくてはならないだろうから、できるだけ情報は欲しい。
「その様子だとアキも情報を持ってるみたいだね」
「まぁせいぜいあいつらが弥国人で怪術とかいう訳の分からん能力を持ってることくらいだけどな。あとあの光を一回でも見なけりゃ怪術は効かないって事もだ」
まぁ、目を瞑りながら戦うなんか流石にできる芸当じゃないからあまり使える情報じゃないけども。
「ふむふむ……。まぁもうちょっと昔話に花をさせたい気もしたけど、そうも言ってられなさそうだね」
キアラは少し音を吟味するかのように目を閉じると、
「よし、おっけー! 実際弥国に渡った私が、もう少し詳しい事を伝授してあげようっ」
ビシリと自信ありげに指を突き出した。
これは新たな情報が期待できそうだ。でもあれ? そういえば今なんて言ったこいつ。
「待て、弥国に行ったのか」
「うん、定期船でちょちょいとね」
「おお……」
隣国にも行くとか行動力半端ないなこの子……。何せ唯一の大陸外の国だもんな。思い立ったが吉日というやつか。まぁあの時点で旅に出るくらいの屈強さは持ってるから納得できるか。てか定期船とかあったんだな、色々落ち着いたら行ってみようかな。
「ああでも、情報って言っても多いわけじゃないし、不確定なものもあるけどそれでもいい?」
「もちろんだ」
今は少しでもいいから怪術師の情報が欲しい。
キアラは改めて切り株に座ると、怪術師について話し始めた。
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