レイニー・デイズ・ストーリー

神城玖謡

スノー・デイズ・ストーリー

    番外


「私さ、こっちに成ってから寒がりになったんだよ」
「フムフム、それは女の体温が基本的に高いからだね」

 12月25日、雪の降る冬休み、文芸部の部室での会話。

「いやだからさぁ……」
「ストーブが何故無いのかっ! ……って思ってるんでしょ?」

 膝掛けを肩から被り、パイプ椅子の上で体育座りをしている小柄な少女と、
 それを見て、ネコの様に目を細めて笑うオカマ口調の少年の会話。

「……相変わらず人の心を読むのが上手いね…」
「まあ彼氏ですから……これ前にもやったね」
「うん、デジャブ」

 ──そう言いながら文芸部部長は何を思ったのか、流れる様にもう1人の部員の膝に座った。

「……温かぃ」
「そうだねぇ……って、どうしたの急に?」
「どうしたって……座って欲しそうな顔してたじゃん」
「……どんな顔さ」
「……別に嫌なら降りるけど」
「えっ!」
「え?」

 何故か驚く彼氏……

「えーと……降りる?」
「いやいやっ! 良いよ、そのままでっ!」

 改めて聞くと、慌てた様に否定する。

「ふふーん……じゃあ、まだ寒いから暖めて」
「…………」

 もしやと思い、仕掛けてみると……図星か…………

「全く、一丁前に色気付いちゃって……これだからおとこ共は……」
「いやいや、そんなキャラじゃないでしょ? きみ……」
「分かってる、それが男の宿命さがって事は……」
「くっ……すごいデジャヴ」

 ……成る程、コレは癖にナリソウダ

「な、何か悪寒が……」
「気のせいだろ」

 閑話休題。

「そっそうだ、プレゼント持って来てるんだけど」

 しばらく弄っていると、話をそらす様に言って来た。

「ん、なに?」
「うん……クリスマスプレゼント。はい、これ」

 そう言って手渡されたのは、ネコミミ・ネコシッポが飛び出した可愛いブックカバーだった。

「こ、これはぁ! ──いまはやりの文学少女ぶんがくしょぅじょ向けのしょうひんをうりだしてるめぇかぁが、ことしのあきはつばいしたばかりの2899えんの“にゃんにゃんブックカバー”! ……か、かわいぃぃぃ!!」
「う、うわぁ……いきなりのロマン乙……」

 若干……いや、かなり引いた様子の彼氏に気付く事なく、ロマン乙モードで大興奮する彼女。

「す、す、すごい! かわいぃ! もふもふっ!?」
「落ち着いて落ち着いて……」
「あ、うん……あーあー────よし、戻った」
「相変わらず凄いね、ソレ……って言うかさ、ロマン乙って自分でコントロール出来ないの?」

 そう聞かれた彼女は、う~ん……とんだ、可愛い声で唸りながら苦笑いした。

「出来無い事も無いけど……こう、何て言うの……思わず感情が昂ぶっちゃって、ハイテンションに成ってからの、だから」
「……難しい、と」
「うん……」

 ナルホド……と呟く彼氏に、部長少女は恐る恐る尋ねる。

「も、もしかして、私の事嫌いになっちゃった……?」

(う、上目遣いぃっ!?)
「な、何で?」

 こと彼女は若干震える声でその理由を言った。

「ほら、女の人って同性がブリっ子してたらイラッてくるだろ?」
「あー、そう言う事ね………」

 確かに、と彼氏は考えた。

 まだ女だった頃、部室での妖艶さ(?)はどこへやら、クラスでの彼女は文芸部らしく物静かで、教室の隅で1人本ばかり読んでいた。
 そしてクラス内のどんちゃん騒ぎや、女子が甲高い声で騒ぐのを見て、
(教室でブリっ子してないで、トイレでブリブリしてろや!)
 等と思ったりしたものだ。

 それに男になった今でも、あまりにブリっしている女子を見るとイラッと来る事もある。

 しかしまぁ……

(自分の彼女のブリっ子見て、イラッと来る彼氏はいないでしょ)

「ううん、大丈夫。そんなので嫌いなったり何てしないよ。……それに、キミのだったら可愛いしね」
「そ、そっか……」

 嫌われないかドキドキしている時に、いきなりコレだ。………全く、顔が真っ赤になるじゃないか。

 膝の上に居るおかげで、この顔が見られなくて良かった…………あれ? これも前にやったな。

 そこまで考えて可笑しくなって……ようやく勇気がでた。

「あれ、どうしたの?」

 急に膝を降りた彼女を不思議に思った彼氏が訊く。

 その肝心の彼女は答えずに、鞄から包みを取り出し、真っ赤な顔をして彼氏に向かいあった。そして………

「そ、その……私も、クリスマスプレゼント用意したんだ。…………ま、マフラー編んだんだけど、何か変になっちゃって……う、受け取ってくれる?」


 その後の彼氏の反応は言うまでもなく……………

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