ひみつの宝石
第三十一話 ご想像の通り
空が白み始めた頃、藤原幸也が美琴たちのいる部屋から出て行った。美琴がそっとドアの方に近づいて耳を寄せると、幸也の不機嫌そうな声が聞こえる。
「運び込む施設が二つとも壊された?間違いないのか?」
「はい。西の方の施設も全壊だそうです。石人も奪還されて、上層部も逃げ腰に…」
「チッ…綾め…」
美琴は眠る佳也子の側に戻ると、もう一度彼女の背中を撫でた。綾が少しずつ自分に近づいていることはわかる。あとは三人が無事でいてくれればいい。銃で撃たれた彼らを、どうか綾が助けてくれますように、と祈るのみだった。
美琴と佳也子の処遇について、幸也や部隊長が集まって話していた時、突然その部屋のガラスが割れて何かが投げ込まれた。害虫駆除用の家庭用の燻煙剤のようだが、幸也はサッと顔色を変える。燻煙剤の近くにいた一人が膝から崩れ落ちた。
「神経毒ガスだ!離れろ!」
幸也の言葉を掻き消すようにジャージ姿の中島が入って来た。ニヤリと笑った口から、シューシューと細い舌を覗かせている。
「いい判断だね。さあ、ガスで死にたくなかったら散った散った」
慌てて部屋から出た敵を待ち構えていたのは巨大なシロクマだった。次々と銃をグニャリと曲げていく。そして敵をその大きな掌でなぎ倒していた。
騒ぎを聞いた美琴が佳也子を起こした。どうやら三人が迎えに来てくれたようである。佳也子は寝ぼけ眼をこすりながら美琴の手をぎゅっと握った。
その時、幸也が入ってきた。険しい表情で美琴の額に銃をつきつける。
「…来なさい」
「嫌!」
「なら今、契約をするんだ、僕と」
「…な…」
「さあ、早く」
幸也は銃を佳也子の方に向けると、空いている左手を差し出した。
「君の石をよこしなさい。飲み込んで契約をする」
「嫌です!」
「三匹も四匹も一緒だろう!!」
「違う!!」
美琴は生まれて初めてと言っていいほど、大きな声で否定をした。それは幸也を驚かせるには十分で、幸也は動きを止めた。
「私は、須見くんのことも中島先輩のことも、尾関先輩のことも大切なんです!!」
「……」
「あなたはわかっていません。私たち四人がどれだけお互いが大事かを。こんなことをして沢山の人を怖がらせたあなたを護人に選ぶわけにはいきません」
「…これだから…世の中は不公平なんだ」
バキィッ!!
ドアが蝶番ごと折れて倒れた。そこから黒い素早いものが中に入る。
体長は大型犬よりも大きく、その毛並は黒鉄。瞳は左右違う色のその姿は狼だった。
初めて見る姿だが、美琴には確信があった。これは
「…須見くん…」
『なんだよ、もうちょい驚くかと思ったのに』
「だって…すぐわかるよ…」
泣きそうな声を出す美琴の目尻をぺろりと舐めてから、大きな黒い狼は美琴と佳也子を庇うように立ちはだかると、グルグルと唸り声を上げた。頼もしく成長したその姿に、幸也が口を開く。
「そうか…契約をしたんだね」
「そう、なの?」
『ああ。お前が俺に投げてくれたアレでな…勝手にやって悪かった』
「…ううん」
『…さっきの言葉、ありがとな』
狼が照れたように幸也の方を向いた。そこにいたのは黒い豹だった。しなやかな体躯を低く屈めて、いつでもこちらに飛びかかれるようにしている。美琴が佳也子をきつく抱きしめた。
豹はこうして狩りをする。ぐいと身体を屈めて、驚くほどの跳躍力で一気に獲物の喉元にかぶりつくのだ。警戒する豹がふと真横に跳んだ。さっきまでいた床に銀の大蛇の牙が落される。大蛇は鎌首を持ち上げて、笑った。
『僕と同じ予備の先生。きっと僕も美琴ちゃんに出会わなければ、あなたのようなことを仕掛けたかもしれない。…もっと首尾よく完璧な作戦でね』
『何が言いたい?』
『バカで可哀想な人だってことさ』
『…君は運がよかっただけだろう』
『いいや、運じゃない。欲しいものに素直に手を伸ばしたからだ』
尾関の声だった。白い体毛に血液がついていて、美琴は小さく悲鳴をあげたが、どうやら自分の血ではないらしい。その足取りはしっかりとしていた。
『あなたも素直になればよかったんだ。ただただ手をこまねいて見ているだけではなく』
狼が地を蹴った。狼の牙が黒豹の首あたり目がけて立てられる。二匹の獣が団子になるように組み合って転がる。美琴と佳也子にゆっくりと巻き付いた大蛇が、楽しそうにチロチロと舌を出した。
『会いたかったよ、美琴ちゃん』
「中島先輩の瞳も左右違う色になってますね」
『これは契約のしるし。片方が美琴ちゃんの石と同じ色になるんだ』
「…そうですか…」
美琴は鼻先をすり寄せてきた尾関に頬擦りして、二匹の戦いを見守った。土煙と血液が二匹を汚していたその時、空から轟音がした。
『…おや、迎えが来たね』
『随分と気が立ってるらしいな、立花さんは』
「そこまでよ、お兄様」
『…綾』
「あっちで伸びてる連中も含めて、特別な刑務所に入ってもらうわ」
『…司法も動かしたのか』
「だからこんなに時間がかかったのよ。この国のトップと話がついたわ。石人と護人の保護を国が確約した。この先石人や護人に危害を加えるような輩が出た場合、ユキは国を滅ぼすほど暴れますからそのおつもりで、と進言させていただいたわ。よって今回の事件にほんの少しでも加担した者はすべて無期懲役として特別な刑務所に入ることになりました」
『僕に死ねというんだな』
「ええ。あなたはやりすぎました。本来ならユキが殺してもよかったのだけれど、妹として大切なお兄様を手にかけたくはありませんでした。石人がいなければお兄様の命はおそらく半年ともたないでしょう。どうか安らかに」
最後に微笑んで言った綾に、豹は牙を収めた。もしかしたら綾が幸也も護人にしていればこんなことにはならなかったのかもしれない。
しかし、綾にはユキ以外と契約することはどうしてもできなかったのだ。
綾は三匹を振り返ると、ふふと笑ってみせた。
「あら須見くん、こんなに立派になっちゃって」
『…どうも』
「全員瞳の色が違うってことは…そういうことなのね?」
『ご想像の通りですよ』
中島の言葉にそれぞれは笑って頷きあった。長い長い夜が終わりを告げ、朝が来ようとしていた。
二学期も始まり、美琴はいつもの学校生活に戻っていた。と言っても両親とまた暮らすようになったわけではなく、綾の生家に居候をしながら、訓練の日々である。先日のことを教訓として、いざという時に足がすくんで動けないということにならないようしたいのだ。
両親にも以前より安全が増したこと、高校卒業を目途に一緒に暮らせるようになりそうなことを伝えた。二人ともとても喜んでくれたが、護人が三人になったことを話すと驚いていた。
「美琴、お前古典の宿題やってきたか?」
「うん。尾ぜ…お兄ちゃんが教えてくれたから」
「理数系は中島さんが教えるし…お前最近自分で宿題やってないんじゃねーか?」
「そんなこと……」
「ま、いいけどな。お前が留年になったら俺らまで留年しなきゃならねーし」
「りゅ、留年するほど頭悪くないです!」
口をとがらせる美琴の頭を優しく撫でて、須見は友達のところに行った。友達に囃し立てられてはいるが、当の須見も美琴も特に動じなかった。本人たちが応じなければ大して騒がれないのはわかっていたから。
「美琴」
「お兄ちゃん」
「今日俺と須見は部活で遅くなるから今日は要と帰れ。いいな?」
「はい」
「いい子だ」
尾関が頬を撫でると一部の女子が黄色い声を出した。最近、学校内での尾関の人気がすさまじく、しかも妹(ということになっている美琴)への溺愛ぶりが、それはそれは羨ましく見えるらしい。昨今の男子高生にはない尾関の包容力が人気の秘密なのだろう。
「あー、いたいた修吾。担任が探してたよ~?」
「そうか」
尾関が廊下の人波に消えるのと入れ替わりで、中島が美琴のところに寄って来た。ニタニタと得意の笑みを浮かべて美琴の小指に自分の人差し指を絡める。
「修吾に聞いた?今日は僕と二人でデートだって」
「デートとは言われませんでしたけど、聞きました」
「せっかくだもん、遊んでいこうよ~」
「でも今日は綾さんが」
「綾さん、急に用事ができたらしくて訓練は中止だって」
「…本当に?」
「うん。僕が嘘ついたことある?」
「結構ありますけど」
「今度は本当。ね?スイーツバイキング行こうよ。美琴ちゃん、行きたがってたでしょ?」
「…スイーツ…バイキング」
「ね?」
「…じゃあ部活終わるの待って四人で行きません?」
「ええー?それじゃデートに…」
「私と中島先輩は先に街に行って、映画を見ましょう。終わる頃に須見くんたちが合流したらバイキングに行くっていうのじゃ…ダメですか?」
「…仕方ないなぁ…そんな可愛い顔で言われたら聞いてあげるしかないよね」
言って中島は素早く美琴のこめかみあたりにキスをした。友人の麻里がキャッと小さな悲鳴を上げる。美琴が硬直していると、須見が持っていたペンケースを中島めがけて投げつけた。中島が上手に受け止めて須見に投げ返す。そして手をヒラヒラ振りながら逃げて行った。
真赤になってこめかみを押さえる姿に、須見の中の何かが自分も美琴に飛びつきたい衝動に駆られたが、始業ベルが鳴り響いたためになんとか堪えた。これが護人としての獣の本能なのか、一人の男としての気持ちなのかはまだ須見には判断つかない。
この奇妙な関係が周りから見たら歪でおかしいことだとわかっている。
「須見くん、じゃあ部活終わったら合流してね」
「…ああ」
けれど大切な美琴が笑顔でいられるならば、それでいい。
それは最初から変わらない須見の願いだった。
それはずっとずっと昔から
そっと伝えられてきたこと
石人として生まれたら
決して自分の石を悟られてはならない
身を守る術を見つけなさい
護人を探しなさい
それはきっとかけがえのない
たいせつな宝物になるから
終
「運び込む施設が二つとも壊された?間違いないのか?」
「はい。西の方の施設も全壊だそうです。石人も奪還されて、上層部も逃げ腰に…」
「チッ…綾め…」
美琴は眠る佳也子の側に戻ると、もう一度彼女の背中を撫でた。綾が少しずつ自分に近づいていることはわかる。あとは三人が無事でいてくれればいい。銃で撃たれた彼らを、どうか綾が助けてくれますように、と祈るのみだった。
美琴と佳也子の処遇について、幸也や部隊長が集まって話していた時、突然その部屋のガラスが割れて何かが投げ込まれた。害虫駆除用の家庭用の燻煙剤のようだが、幸也はサッと顔色を変える。燻煙剤の近くにいた一人が膝から崩れ落ちた。
「神経毒ガスだ!離れろ!」
幸也の言葉を掻き消すようにジャージ姿の中島が入って来た。ニヤリと笑った口から、シューシューと細い舌を覗かせている。
「いい判断だね。さあ、ガスで死にたくなかったら散った散った」
慌てて部屋から出た敵を待ち構えていたのは巨大なシロクマだった。次々と銃をグニャリと曲げていく。そして敵をその大きな掌でなぎ倒していた。
騒ぎを聞いた美琴が佳也子を起こした。どうやら三人が迎えに来てくれたようである。佳也子は寝ぼけ眼をこすりながら美琴の手をぎゅっと握った。
その時、幸也が入ってきた。険しい表情で美琴の額に銃をつきつける。
「…来なさい」
「嫌!」
「なら今、契約をするんだ、僕と」
「…な…」
「さあ、早く」
幸也は銃を佳也子の方に向けると、空いている左手を差し出した。
「君の石をよこしなさい。飲み込んで契約をする」
「嫌です!」
「三匹も四匹も一緒だろう!!」
「違う!!」
美琴は生まれて初めてと言っていいほど、大きな声で否定をした。それは幸也を驚かせるには十分で、幸也は動きを止めた。
「私は、須見くんのことも中島先輩のことも、尾関先輩のことも大切なんです!!」
「……」
「あなたはわかっていません。私たち四人がどれだけお互いが大事かを。こんなことをして沢山の人を怖がらせたあなたを護人に選ぶわけにはいきません」
「…これだから…世の中は不公平なんだ」
バキィッ!!
ドアが蝶番ごと折れて倒れた。そこから黒い素早いものが中に入る。
体長は大型犬よりも大きく、その毛並は黒鉄。瞳は左右違う色のその姿は狼だった。
初めて見る姿だが、美琴には確信があった。これは
「…須見くん…」
『なんだよ、もうちょい驚くかと思ったのに』
「だって…すぐわかるよ…」
泣きそうな声を出す美琴の目尻をぺろりと舐めてから、大きな黒い狼は美琴と佳也子を庇うように立ちはだかると、グルグルと唸り声を上げた。頼もしく成長したその姿に、幸也が口を開く。
「そうか…契約をしたんだね」
「そう、なの?」
『ああ。お前が俺に投げてくれたアレでな…勝手にやって悪かった』
「…ううん」
『…さっきの言葉、ありがとな』
狼が照れたように幸也の方を向いた。そこにいたのは黒い豹だった。しなやかな体躯を低く屈めて、いつでもこちらに飛びかかれるようにしている。美琴が佳也子をきつく抱きしめた。
豹はこうして狩りをする。ぐいと身体を屈めて、驚くほどの跳躍力で一気に獲物の喉元にかぶりつくのだ。警戒する豹がふと真横に跳んだ。さっきまでいた床に銀の大蛇の牙が落される。大蛇は鎌首を持ち上げて、笑った。
『僕と同じ予備の先生。きっと僕も美琴ちゃんに出会わなければ、あなたのようなことを仕掛けたかもしれない。…もっと首尾よく完璧な作戦でね』
『何が言いたい?』
『バカで可哀想な人だってことさ』
『…君は運がよかっただけだろう』
『いいや、運じゃない。欲しいものに素直に手を伸ばしたからだ』
尾関の声だった。白い体毛に血液がついていて、美琴は小さく悲鳴をあげたが、どうやら自分の血ではないらしい。その足取りはしっかりとしていた。
『あなたも素直になればよかったんだ。ただただ手をこまねいて見ているだけではなく』
狼が地を蹴った。狼の牙が黒豹の首あたり目がけて立てられる。二匹の獣が団子になるように組み合って転がる。美琴と佳也子にゆっくりと巻き付いた大蛇が、楽しそうにチロチロと舌を出した。
『会いたかったよ、美琴ちゃん』
「中島先輩の瞳も左右違う色になってますね」
『これは契約のしるし。片方が美琴ちゃんの石と同じ色になるんだ』
「…そうですか…」
美琴は鼻先をすり寄せてきた尾関に頬擦りして、二匹の戦いを見守った。土煙と血液が二匹を汚していたその時、空から轟音がした。
『…おや、迎えが来たね』
『随分と気が立ってるらしいな、立花さんは』
「そこまでよ、お兄様」
『…綾』
「あっちで伸びてる連中も含めて、特別な刑務所に入ってもらうわ」
『…司法も動かしたのか』
「だからこんなに時間がかかったのよ。この国のトップと話がついたわ。石人と護人の保護を国が確約した。この先石人や護人に危害を加えるような輩が出た場合、ユキは国を滅ぼすほど暴れますからそのおつもりで、と進言させていただいたわ。よって今回の事件にほんの少しでも加担した者はすべて無期懲役として特別な刑務所に入ることになりました」
『僕に死ねというんだな』
「ええ。あなたはやりすぎました。本来ならユキが殺してもよかったのだけれど、妹として大切なお兄様を手にかけたくはありませんでした。石人がいなければお兄様の命はおそらく半年ともたないでしょう。どうか安らかに」
最後に微笑んで言った綾に、豹は牙を収めた。もしかしたら綾が幸也も護人にしていればこんなことにはならなかったのかもしれない。
しかし、綾にはユキ以外と契約することはどうしてもできなかったのだ。
綾は三匹を振り返ると、ふふと笑ってみせた。
「あら須見くん、こんなに立派になっちゃって」
『…どうも』
「全員瞳の色が違うってことは…そういうことなのね?」
『ご想像の通りですよ』
中島の言葉にそれぞれは笑って頷きあった。長い長い夜が終わりを告げ、朝が来ようとしていた。
二学期も始まり、美琴はいつもの学校生活に戻っていた。と言っても両親とまた暮らすようになったわけではなく、綾の生家に居候をしながら、訓練の日々である。先日のことを教訓として、いざという時に足がすくんで動けないということにならないようしたいのだ。
両親にも以前より安全が増したこと、高校卒業を目途に一緒に暮らせるようになりそうなことを伝えた。二人ともとても喜んでくれたが、護人が三人になったことを話すと驚いていた。
「美琴、お前古典の宿題やってきたか?」
「うん。尾ぜ…お兄ちゃんが教えてくれたから」
「理数系は中島さんが教えるし…お前最近自分で宿題やってないんじゃねーか?」
「そんなこと……」
「ま、いいけどな。お前が留年になったら俺らまで留年しなきゃならねーし」
「りゅ、留年するほど頭悪くないです!」
口をとがらせる美琴の頭を優しく撫でて、須見は友達のところに行った。友達に囃し立てられてはいるが、当の須見も美琴も特に動じなかった。本人たちが応じなければ大して騒がれないのはわかっていたから。
「美琴」
「お兄ちゃん」
「今日俺と須見は部活で遅くなるから今日は要と帰れ。いいな?」
「はい」
「いい子だ」
尾関が頬を撫でると一部の女子が黄色い声を出した。最近、学校内での尾関の人気がすさまじく、しかも妹(ということになっている美琴)への溺愛ぶりが、それはそれは羨ましく見えるらしい。昨今の男子高生にはない尾関の包容力が人気の秘密なのだろう。
「あー、いたいた修吾。担任が探してたよ~?」
「そうか」
尾関が廊下の人波に消えるのと入れ替わりで、中島が美琴のところに寄って来た。ニタニタと得意の笑みを浮かべて美琴の小指に自分の人差し指を絡める。
「修吾に聞いた?今日は僕と二人でデートだって」
「デートとは言われませんでしたけど、聞きました」
「せっかくだもん、遊んでいこうよ~」
「でも今日は綾さんが」
「綾さん、急に用事ができたらしくて訓練は中止だって」
「…本当に?」
「うん。僕が嘘ついたことある?」
「結構ありますけど」
「今度は本当。ね?スイーツバイキング行こうよ。美琴ちゃん、行きたがってたでしょ?」
「…スイーツ…バイキング」
「ね?」
「…じゃあ部活終わるの待って四人で行きません?」
「ええー?それじゃデートに…」
「私と中島先輩は先に街に行って、映画を見ましょう。終わる頃に須見くんたちが合流したらバイキングに行くっていうのじゃ…ダメですか?」
「…仕方ないなぁ…そんな可愛い顔で言われたら聞いてあげるしかないよね」
言って中島は素早く美琴のこめかみあたりにキスをした。友人の麻里がキャッと小さな悲鳴を上げる。美琴が硬直していると、須見が持っていたペンケースを中島めがけて投げつけた。中島が上手に受け止めて須見に投げ返す。そして手をヒラヒラ振りながら逃げて行った。
真赤になってこめかみを押さえる姿に、須見の中の何かが自分も美琴に飛びつきたい衝動に駆られたが、始業ベルが鳴り響いたためになんとか堪えた。これが護人としての獣の本能なのか、一人の男としての気持ちなのかはまだ須見には判断つかない。
この奇妙な関係が周りから見たら歪でおかしいことだとわかっている。
「須見くん、じゃあ部活終わったら合流してね」
「…ああ」
けれど大切な美琴が笑顔でいられるならば、それでいい。
それは最初から変わらない須見の願いだった。
それはずっとずっと昔から
そっと伝えられてきたこと
石人として生まれたら
決して自分の石を悟られてはならない
身を守る術を見つけなさい
護人を探しなさい
それはきっとかけがえのない
たいせつな宝物になるから
終
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