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ひみつの宝石

柳 一

第二十六話  秘密の共有

 美琴が寝静まったのを確認して、三人は山小屋の外に出た。美琴を起こさないように話をするためである。ランタンを囲んで山小屋の入口にそれぞれが腰かけた。

「何さ、話って」
 中島があくびをかみ殺して尾関の方を向いた。尾関は険しい表情で立ったまま中島を見下ろしている。
「要、何故この山を選んだ」
「……」
「山小屋があったから…じゃないんすか」
 中島が昼間言っていたことを、おそるおそる須見が口にする。しかし尾関は納得せずに尚も中島を見下ろしている。中島が溜息をついて肩を竦めた。両手を軽く挙げ、降参ポーズをとっている。
「やっぱり修吾のレーダーは鋭いね。誤魔化せないや」
「…やはりそうか」
「何の話ですか?」
「山の裏側に小さな神社があっただろう。あそこに石人がいる」
「えっ…!?」
 須見は慌てて思い出した。確か小さい女の子や男の子、それに家族の気配があった。自分がうすうす感じていた気配はそれだったのかと一人納得する。
「…何故この山を選んだのか、お前の口から聞きたい」
「僕らを追っているのは組織だ。しかもそこそこ規模がある。もしかしたら僕たちを見つけ出すかもしれない。そういう組織は得てして末端の人間を送り、幹部はそれこそ本拠地を出もしないだろう。命令を出して、遂行するまで帰ってくるなと言えばいい」
 中島は持っていたナイフで手近にあった木を削り始めた。器用に細く尖らせていく。
「一方僕らも戦えば強い。余程のことがない限りは善戦するだろう。でも増員されて数で圧されたら危ないと思う。…できれば一度追い返したらすぐにでも移動をして逃げたほうがいい。その時の保険だよ」
「追手の注意をあの石人に向ければ時間が稼げるというわけか」
「僕らに撤退を余儀なくされた末端の奴らは態勢を立て直すには戻る必要があるのに、何か手土産を見つけなければ戻れない。その手土産を用意しただけさ」
 卑怯な手だと思う。以前の須見ならば激昂して反対しただろう。おそらく尾関の性格からしても反対したいに違いない。だが。

「綺麗ごと、言うかい?僕にとっては何よりも大事なのは美琴ちゃんだ。美琴ちゃんの安全のためなら迷いなく他人を犠牲にするね」

「……くっ…」
 尾関の口から悔しそうな声が漏れた。自分の護人としての本性がそうしろと言っている。美琴の笑顔が浮かぶ度にそれでいいのだと思ってしまう。
「ここに石人がいるのはどうやってわかったんだよ」
「前に綾さんの部屋で読んだ資料にここが載っていたんだ。大きな石をご神体にした神社があるってね。その宮司の一族が石人なんじゃないかと書いてあった。綾さんの実家には石人や護人の伝承が記録として残ってるから信憑性はあった」
「……俺はともかく…尾関さんやアンタは綾さんがいれば生きていけるだろ。自分の石人がいるかもしれない。杜田が死んでも困らないんじゃねぇのかよ」
 他の石人を犠牲にしてまで、美琴を護るのはどうしてなのか。
 それが純粋に聞きたかった。

「もう僕は美琴ちゃん以外と契約する気がないから」

 それが一番聞きたかったのかもしれない。
 契約や、護る意味、もしかしたら現れるかもしれない存在。それら全てが自分たちをあやふやにしていた。
 だが、根底にある自分の気持ちと向かい合ったら、これほど簡単に答えは出ていたのだ。
「俺も…本当は現実を見ないようにしていたのかもしれんな」
「…修吾」
「俺の石人は美琴だ。運命ではなく、俺が決めた。俺も美琴を護るためなら何でもしよう」
 実を言うと須見も心のどこかで自分を含めたこの三人は、実はそれぞれ石人がいるのではないかと疑っていた。もしもその石人が現れた時、自分はどちらを選ぶのだろう。どちらか選べるのだろうかと不安でもあった。
 けれど自分ももうすでに心に決めていた。
 美琴と契約がしたい。
「このことは美琴ちゃんには内緒にしよう。あの子は責任感が強いからきっと気に病む」
「ああ」
「わかった」
 こうして三人は秘密を共有した。


「須見くん、あっちに小さい池みたいなのがあるの。すごく綺麗だよ」
「お前、一人で行ったのか?」
「うん。…ダメだった?」
「危ないから一人で行動するなよ。必ず誰か連れて行け、な?」
「…はい」
 見るからにしゅんとする美琴に、須見は眉尻を下げて頭を撫でた。
「で?どこにあるんだ?」
「こっち」
 須見の柔らかい声にすぐに元気を取り戻した美琴が、山の中を指さした。獣道のようなところ少し歩くと平面に拓けた場所に出る。そこは池というより泉のようなところだった。
 すくってみると透明で綺麗な水だ。
「綺麗だけど一応飲むなよ」
「うん」
 ほとりで腰を下ろすと、なんとも言えない涼しさが頬を撫でた。静まりかえった森の中で、泉から聞こえる水の音が二人の耳を通る。
「…なんだか大変なことになっちゃったね…」
「ああ」
「ごめんね、須見くん。巻き込んで…」
「巻き込まれたとは思ってねぇよ」
 須見がぼそりと呟くと、美琴はそっか、と呟いてまた泉を見つめた。
「…杜田はさ」
「ん?」
「…三人の中で誰がいいんだ?契約するの…」
「…え…?」
 その時の美琴の声があまりにも意外そうで、か細かったので、須見は急に自分がつい言ってしまったことの恥ずかしさを実感した。
「わ、悪い。決められるわけねぇよな」
「…もしも許されるならこのままみんな一緒がいい。…でもそうはいかないよね、きっと」
「…そうか?」
「どこかに本当の石人がいるかもしれないし…。私も須見くんに出会う前は本当に心細くて怖かったからよくわかる」
「……杜田…」
「一人で頑張ってる人から護人を取り上げることなんてできない」
 そう言った美琴の表情は凛として美しかった。ほんの少し前まではオドオドして、気弱で、いつも誰かの顔色を窺ってるような少女だったのに。
「強くなったな」
「……そう?」
「ああ。でも無理はしなくていいから」
「…どうして?」
「俺が追いつけなくなるから」
 須見はそう言って微笑み、また泉の方を見つめた。美琴は赤くなった頬を隠すように俯くと、ごくごく小さく『はい』とだけ返した。
 木々の後ろに気配を殺して立っていた中島と尾関が肩を竦める。
 その時だった。
「…そういえば、さっき一人でここに来た時に小さい女の子と会ったの」
 須見も中島も尾関も目を瞬かせた。多分それはあの神社の少女に違いない。山の裏側だからと安心していたが、まさか美琴と接触してしまうとは思わなかった。
「…へぇ、村の子かもな」
「キャンプに来たの?って聞かれたからそうよって答えたの。少し話したけど、可愛い子だった」
「そ、そうか…」
 もしもその女の子を囮にする時、美琴に感づかれたら。そう思うと須見はやけに心臓がドキドキとうるさかった。きっと美琴は自分たちを許さないだろう。
 それがどうしようもなく怖かった。








 

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