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ひみつの宝石

柳 一

第十九話 護ること、護られること

 施設と学校の往復も数回こなし、ようやくこのリズムに身体が慣れてきた頃。

「あの…杜田さん」

 下駄箱付近で誰かに呼び止められて振り向くと、クラスの男子がいた。須見ともあまり親しくないような大人しい男子。以前同じ係になって何度か話したりはしたが。
「何?」
「も、もしかして杜田さん…その…須見と…」
「須見くんと?」
「付き合ってるの?」
「…ううん、付き合ってないよ」
「でも毎日一緒に登校して…毎日一緒に帰ってるよね…!?」
 目の焦点が合わないその男子は、美琴の肩に手を置いて力を込める。夏服のブラウスに彼の爪が食い込んできた。
「それは…お兄ちゃんと一緒に登下校してるだけで…」
「それで須見も?もう一人三年も一緒にいるよね?僕も頼めば一緒に帰ってくれる?」
「それは…い、痛いから離して」
「僕は…僕は…」
 尋常じゃない力と常軌を逸した態度に美琴の脚が震えだした瞬間、その手をはねのけた人物がいた。
「何してるの?」
「な…中島先輩…!」
 救い出した美琴を自分の方へと引き寄せて、中島はいつものニタニタ笑いを浮かべた。表情はいつもと変わらないが確実に気配が違う。怒っているのだ。
「美琴ちゃんが僕たちと一緒にいるから、こっちも振り向け?バカも大概にしなよ」
「…ぼぼぼくは…」
「美琴ちゃんはお兄さんと一緒にいるだけ。僕はそのお兄さんの友達だし、須見くんは後輩。わかるよね?」
「ででで…でもっ…」
「…誰に入れ知恵された?誰が君を勇気づけた?」
 中島がその男子に顔を近づけて聞いてみるが、彼は支離滅裂なことを呟きながら天井を見上げている。後から来た尾関と須見が状況を見て驚いた。
「何事だ、要」
「…美琴ちゃんに近づいたんだけど…多分誰かに誘導されて僕たちのことを探りにきたみたい」
「こいつ…同じクラスの北島じゃねぇか」
「多分もう何聞いても何も答えられないね。催眠術とか暗示とかそんな感じに近い」
 美琴は北島を見ながら恐怖で震えた。彼をこんなにしてまで、美琴のことを知りたい人間がいる。それは十分に恐ろしいことだった。須見がすぐに気づいて美琴の背中に手をあてる。背中のあたりを温めるようにしてやると、美琴がもっとも安心するのだ。
「…大丈夫か?」
「…う、うん…。その人は…どうするんですか?保健室に…」
「放っておけ。そこまでしてやる義理は我々にはない」
 尾関が冷たく言い放った。須見も同意見らしく、美琴のローファーを出してくれる。三人に引かれるように昇降口から外に出た。
 
 もうすっかり夏の暑さをはらんだ空気が、美琴の頬を撫でていく。
 さっきのクラスメートは怖かった。中島が来なかったらどうなっていたかわからない。でも同時に申し訳ない気もした。自分と関わらなければきっと彼はこんなことにはならなかっただろう。
「…杜田」
「……?」
「余計なこと考えるなよ?悪いのはお前じゃない。北島を誘導した相手だ」
「……須見くん…」
「お前は何も悪くない」
「須見くん…」
 自分のワイシャツにしがみつく美琴の頭をくしゃりと撫でて、須見は美琴の肩を抱いたまま歩き続けた。美琴は決して涙を見せないようにする。それを知っていた須見は美琴を自分から引き離すことはしなかった。
 バスに乗り込むといつもは美琴を一番後ろの端席に座らせて囲むように座る。だが今日は須見にしがみついたままなので、二人席に座って抱きしめた。尾関と中島がそのすぐ後ろに座る。
 程なくして美琴から寝息が聞こえてきた。
「…やはり須見といる時が一番安心するようだな」
「悔しいけどね」
「…要、やはり敵は学校にいるようだな」
「だね。あの男が美琴ちゃんに好意を抱いているのを知ってる人物なんてかなり限られる。前に美琴ちゃんが校舎の窓から落ちた時も、そいつの手が加わっていたと思う」
「校舎?なんだそれは」
「前に美琴ちゃんが四階の窓から落ちたんだよ」
 そこまで黙って聞いていた須見が、驚いたように後ろを振り返った。
「見てたのかよ!?」
「しー、美琴ちゃんが起きる」
「っと…」
 慌てて自分の口元を覆う須見に中島が頷いて見せた。
「見てたっていうか…美琴ちゃんが窓から乗り出してるの見て、慌てて助けに行こうと思って四階についた時には君が助けた後だったし」
 肩をすくめるジェスチャーをしながら中島はいつも細めている目を開けた。
「後から調べたらあの窓は美琴ちゃんの身長じゃ乗り越えづらい高さだった。おそらく足を持ち上げられたんだろうね。だから僕は急を要すると思って綾さんに報告したんだ」
「…いずれにせよ、夏休み入るまでのこの三週間は気が抜けない。夏休みに入れば相手も手が出しづらくなるだろう。俺たちの護りが固くなるからな。その前に仕掛けてくるかもしれない」
「…はい」
「学校にいるのは多分単独犯。でも協力者がいるだろうね。…あとは前に美琴ちゃんを攫おうとした組織っぽい奴ら…。どれがどう動くやら…」
 三人は眉根に皺を刻んで考えていたが、やがてすぐにその皺が緩む。美琴が寝ながらクスクスと笑いはじめたからだ。なんの夢を見てるかはわからない。でも今この瞬間は幸せそうだ。
「可愛いね~」
「こら、顔をいじるな。起きたらどうするんだ」
「でもどっちにしろもうすぐ着きますよ。その先30分歩くんスから」
「いい。俺が美琴を背負って歩く。だから起こすなよ、要」
「はいはい」

 こうして三人は夕焼けの山道を歩いていた。美琴は尾関の背中で気持ち良さそうに眠ったままだ。

「美琴、俺たちが必ず護るからな」




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