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ひみつの宝石

柳 一

第十五話  新しい生活

 その場所についたのは夜の九時過ぎだった。
 ユキの運転する車に乗って二時間ほどいった山間の場所に、その家はポツンと建っていた。どこにでもありそうな中古住宅。ここで生活するのかと思いながら、綾の後について中に入る。
 居間の隣にある客間の押入れの中に入って行く綾に、美琴は思わず須見を振り返る。須見が先に入ると中から声がした。
『杜田、大丈夫そうだから入ってきていいぞ』
 そう言われて中に入ると、そこには階段があり、地下へと続いている。しばらく降りていくと、静脈認証つきの大きな自動ドアがある。綾が手をかざすと、その扉は簡単に開いた。
 白い廊下は明るい照明に照らされて、地下とは思えないほどだった。
「B2は女子の部屋と大浴場と食堂。B1は男子の部屋とトレーニングルームね。今のとこあなた達入れて女子は7人、男子は9人」
「…けっこう…いるんですね」
「私たちが迎えに行った子、街をフラフラしてた子、病院で発覚してそれが運よく私の息がかかった病院だった子。事情はそれぞれだからあまり詮索しないであげてね」
 しばらく後ろを歩いていた須見が、ユキに持ってもらっていた荷物から服を出している。人間に戻りそうになっているようだ。
「須見くんはユキに案内してもらって。美琴ちゃんは私ね」
「はい」

 案内された部屋に入ると、同じ年頃の女の子が二人いた。独りはショートカットで、もう一人はロングヘアー。二人は興味深そうに美琴と綾を見比べる。
「新しいルームメイトよ。杜田美琴ちゃん」
「綾さん、どっち!?」
「…石人。雅と一緒ね」
 するとロングヘアーのほうがぺこりとお辞儀をした。
初川雅はつかわみやびです。よろしく」
「杜田美琴です」
「私は須藤琉花すどうるか。護人なの。よろしくね」
 ショートカットの方にニッコリ笑顔を向けられ、美琴もぎこちなくだが笑み返した。思ったよりも明るい雰囲気で少し安心した。綾がそんな人間とは思わないけれど、もし非人道な実験が行われてるような施設なら彼女たちはここまで明るくはないだろう。
 まるで修学旅行のようだと、美琴は心中で呟いた。

 夜は結局遅くまで眠れなかったが、今日は月曜日だが祝日であることを思い出して美琴は安心した。七時ぐらいに人の気配がするので起きると、雅が寝ぼけ眼でベッドから降りて身支度を整えてる。
 そうか、朝食かと美琴もつられて起き上がった。雅も琉花も部屋着のままのようなので、美琴もそれにならう。
 同じフロアの食堂に入ると、先に席についていた須見が立ち上がった。
「杜田」
 美琴の方へ歩み寄ってきて、美琴の髪を撫でながら優しげな表情を見せた。須見自身も慣れない場所で緊張していたらしく、美琴の顔を見たらホッとしたと、後になって聞いた。
「…よく眠れたか?」
「あまり…でも大丈夫。須見くんは?」
「俺は…」
 須見が昨夜を思い出しながら険しい表情になった時、素早い動きで美琴に抱き付く人物がいた。
「おはよ、美琴ちゃん」
「な…中島、先、輩?」
 驚きのあまり固まってる美琴の顔に自分の顔をすり寄せる中島に、須見が引きはがそうと手を伸ばすより早く。
「要、やめておけ」
 もっと大きな手が中島を美琴から引き離した。それはあのゲームセンターで美琴にぬいぐるみをくれた男だった。
「修吾だって美琴ちゃんに触れたみたいくせに」
「俺はお前みたいに自制心がないわけではないからな」
「シロクマの…ぬいぐるみの…」
「…尾関修吾おぜきしゅうごだ。護人で要や須見と同室だ。よろしくな」
 美琴はよろしくと言いながらお辞儀をすると、尾関の言葉を反芻していたのかバッと顔を上げた。その顔は驚きの表情で中島を見ている。
「中島先輩…どっちなんですか?」
「僕?僕は護人だよ」
「もしかして…私のこと気づいて…ました?」
「うん。オリエンテーリングのあたりからね~」
「じゃあ…綾さんに私のことを話したのって…」
「お、美琴ちゃん鋭いね~。綾さんに知らせたのは僕だよ」
 ご褒美、と言いながら美琴の手に飴を握らせる中島から、須見が美琴を遠ざけた。須見の警戒は一向に緩まない。美琴は須見の腕の中で大人しくしていたが、やがて須見の喉元で犬の声で唸りが聞こえてきたので慌てて須見を見上げる。須見の頭に黒い耳が伸びてきていた。
 美琴が困ったように眉を下げると、尾関がひとつ溜息をついて、須見と中島の頭を軽く小突いた。
「痛っ…」
「いたた…」
「昨日から思ってたんだが…もう少し仲良くしろ。彼女を挟んでにらみ合うな」
 尾関が須見の腕の中から美琴を救出した。美琴の身体が緊張で固まると、尾関はすぐに腕をゆるめてくれた。須見には悪いが、須見や中島より精神的に大人なんだろうなと思ってしまう。
 食事はその四人でとることになった。美琴にくっつく中島を牽制する須見、二人を仲裁する尾関という構図のままだったので随分賑やかになったことだろう。しかし美琴はそんな賑やかさもありがたかった。今は家のことを少しでも頭の中から薄れさせたかったから。

「朝食が済んだら美琴ちゃんと須見くん、要と修吾の四人は私の部屋に来て」

 綾の一言で結局また緊張する羽目になってしまったけれど。




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