ひみつの宝石
第九話 風と再会
それは突然のことだった。
美琴は窓から転落した。
ことの発端は何だっただろう。いつもの学校、いつもの授業。掃除の時間になって、割り振りで担当になったのが社会科資料室だった。埃っぽくて暗くてどうにも息苦しい。一緒に当番のはずの子が二人とも部活の顧問に呼び出された。
「ごめん、杜田ちゃん。私たちちょっと行ってくるね」
「うん」
「私たちが戻るまで適当にやるんだよー」
そんな友達を見送って、まず空気を入れ替えようと窓を開けた。そうしたら窓際に置かれていたプリントの山が風で一斉に舞ったのだ。慌てて外を見ると、すぐそばの木に引っかかってるプリントを見つけた。
美琴は長い棒を見つけて、先端にガムテープを両面テープにして貼り、その粘着でプリントをとろうと考えた。窓から身を乗り出して、プリントをとろうとする美琴を最初に見つけたのは須見だ。
「…杜田!危ないからやめとけ!」
風が強いせいか須見の声は届いていないらしい。4階の美琴は聞こえなくても、2階にいた中島には聞こえたらしく、中島が上を見てギョッとした。慌てて美琴のところへ行こうと走り始める。
その瞬間、美琴の脚は誰かによって掬いあげられ、あっという間に窓の外へ投げ出されたのである。
「杜田!!」
美琴を受け止めたのは須見だった。衝撃を受け止めきれずに須見は地面にスライディングするような形だったが、美琴のことはしっかりと受け止めた。あまりのことに二人とも茫然となってしまっている。
「お、お前な…」
須見が美琴を叱ろうと声を荒げたが、須見も美琴も訪れた変化に驚きを隠せないでいた。美琴への心配と驚きと色んな感情がないまぜになって、須見は完全に獣化してしまったのである。
そう、ショコラに。
「ショコラ…?」
『お前があんなことするから!獣化しちまったじゃねぇか!』
「須見くんの声で話してる…」
『おい!ちゃんと聞いて…ってあれ?俺の声で聞こえるのか?犬の鳴き声じゃなく?』
「うん。聞こえる。聞こえるよ、ショコラ!」
美琴は涙を浮かべてショコラとなった須見を抱きしめた。久しぶりの美琴の温もりに一瞬目を伏せて味わっていたが、すぐに今の状況を思い出した。
『と、とりあえず人のいない方へ連れてってくれ。服も持ってな』
「あ、そうだよね。わかった…!」
美琴は落ちている須見の制服と靴を拾い上げると、須見を抱き上げて校舎の裏へと走って行った。美琴の様子を4階の窓から眺めてホッとしているのは中島である。
「…助けたのは…あいつだろうな…」
中島が4階にたどり着いて見た時にはすでに美琴はショコラを抱きしめていた。ということはあの小さな黒い子犬が須見の姿だということになる。
子犬でよく助けられたと感心もする反面、同情もした。
「…君じゃおそらく護りきれない…」
「ショコラ、怪我はない?大丈夫?」
『俺はなんとも…多少制服は土で汚れたかもしれねぇけど…』
「助けてくれて本当にありがとう」
『…お前さ、ちょっとは怒ったりしないのか?俺が…ショコラだったことに』
「…怒らないよ。きっと須見君にとって一番の秘密だったんだろうし…私にだって秘密はあるから」
『そうか…』
「でも須見君の秘密を私は知ってるのに、公平じゃないよね」
『…杜田?』
本当は誰かに聞いて欲しかった。
誰にも言えず悩むのが嫌だった。
血が出ることを恐れ、具合が悪くても怖くて誰にも言えなかった。
須見になら もういい
「私ね、石人みたいなの」
もしも須見が自分を利用しようとするならそれでもかまわない。
このまま誰にも言えないまま苦しい思いをするぐらいなら。
『…そんなこと俺に言っていいのかよ』
「うん」
『じゃあ…俺がお前を護っていいか?』
「護って…くれるの?」
『ショコラの時…助けてもらったからな。…今もショコラだけど』
「…ショコラ…」
石人と護人は必ず出会う。護人が石人に引き寄せられるのだ。護人は石人がいなければ生きていけないのだから。
美琴は窓から転落した。
ことの発端は何だっただろう。いつもの学校、いつもの授業。掃除の時間になって、割り振りで担当になったのが社会科資料室だった。埃っぽくて暗くてどうにも息苦しい。一緒に当番のはずの子が二人とも部活の顧問に呼び出された。
「ごめん、杜田ちゃん。私たちちょっと行ってくるね」
「うん」
「私たちが戻るまで適当にやるんだよー」
そんな友達を見送って、まず空気を入れ替えようと窓を開けた。そうしたら窓際に置かれていたプリントの山が風で一斉に舞ったのだ。慌てて外を見ると、すぐそばの木に引っかかってるプリントを見つけた。
美琴は長い棒を見つけて、先端にガムテープを両面テープにして貼り、その粘着でプリントをとろうと考えた。窓から身を乗り出して、プリントをとろうとする美琴を最初に見つけたのは須見だ。
「…杜田!危ないからやめとけ!」
風が強いせいか須見の声は届いていないらしい。4階の美琴は聞こえなくても、2階にいた中島には聞こえたらしく、中島が上を見てギョッとした。慌てて美琴のところへ行こうと走り始める。
その瞬間、美琴の脚は誰かによって掬いあげられ、あっという間に窓の外へ投げ出されたのである。
「杜田!!」
美琴を受け止めたのは須見だった。衝撃を受け止めきれずに須見は地面にスライディングするような形だったが、美琴のことはしっかりと受け止めた。あまりのことに二人とも茫然となってしまっている。
「お、お前な…」
須見が美琴を叱ろうと声を荒げたが、須見も美琴も訪れた変化に驚きを隠せないでいた。美琴への心配と驚きと色んな感情がないまぜになって、須見は完全に獣化してしまったのである。
そう、ショコラに。
「ショコラ…?」
『お前があんなことするから!獣化しちまったじゃねぇか!』
「須見くんの声で話してる…」
『おい!ちゃんと聞いて…ってあれ?俺の声で聞こえるのか?犬の鳴き声じゃなく?』
「うん。聞こえる。聞こえるよ、ショコラ!」
美琴は涙を浮かべてショコラとなった須見を抱きしめた。久しぶりの美琴の温もりに一瞬目を伏せて味わっていたが、すぐに今の状況を思い出した。
『と、とりあえず人のいない方へ連れてってくれ。服も持ってな』
「あ、そうだよね。わかった…!」
美琴は落ちている須見の制服と靴を拾い上げると、須見を抱き上げて校舎の裏へと走って行った。美琴の様子を4階の窓から眺めてホッとしているのは中島である。
「…助けたのは…あいつだろうな…」
中島が4階にたどり着いて見た時にはすでに美琴はショコラを抱きしめていた。ということはあの小さな黒い子犬が須見の姿だということになる。
子犬でよく助けられたと感心もする反面、同情もした。
「…君じゃおそらく護りきれない…」
「ショコラ、怪我はない?大丈夫?」
『俺はなんとも…多少制服は土で汚れたかもしれねぇけど…』
「助けてくれて本当にありがとう」
『…お前さ、ちょっとは怒ったりしないのか?俺が…ショコラだったことに』
「…怒らないよ。きっと須見君にとって一番の秘密だったんだろうし…私にだって秘密はあるから」
『そうか…』
「でも須見君の秘密を私は知ってるのに、公平じゃないよね」
『…杜田?』
本当は誰かに聞いて欲しかった。
誰にも言えず悩むのが嫌だった。
血が出ることを恐れ、具合が悪くても怖くて誰にも言えなかった。
須見になら もういい
「私ね、石人みたいなの」
もしも須見が自分を利用しようとするならそれでもかまわない。
このまま誰にも言えないまま苦しい思いをするぐらいなら。
『…そんなこと俺に言っていいのかよ』
「うん」
『じゃあ…俺がお前を護っていいか?』
「護って…くれるの?」
『ショコラの時…助けてもらったからな。…今もショコラだけど』
「…ショコラ…」
石人と護人は必ず出会う。護人が石人に引き寄せられるのだ。護人は石人がいなければ生きていけないのだから。
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