それはきっと、絵空事。

些稚絃羽

Epilogue

あの日から俺達の関係は、仕事仲間から恋人へと形を変えた。
伝えたい気持ちも知りたい気持ちも溢れる程にあって、昨日話せなかった分を今日、今日話せなかった分を明日、とそうやって飽きることなく2人の時間を過ごしていた。

そうしている間に年末年始の休みに入り、大晦日には彼女特製の年越し蕎麦を食べながら、新たな年を一緒に迎えた。
来年も再来年も、これからずっと、同じ様に何でもない日を一緒に過ごしていけたら。
そう言ったら、私は一緒に過ごすつもりですよ、と隣の彼女が呟いた。


「オープン、おめでとう。」
「おめでとうございます。」
「ありがとうございます。こちらへどうぞ。」
1月半ば。予定通りオープン初日を迎えたCafé for Partner。梶野インテリアの面々からの祝辞に礼を言いつつ、奥へと先導していく。
オープン初日は関係者を招いて慰労会を行なう事になった。建設に携わってくださった源さんと幾人かの男性達。内装を手掛けてくださった上尾さん。コラボ商品のインテリアを手掛けてくださった梶野インテリアの5人。招いた方々は良い店だと口々に褒めてくれる。その様子を見ながら社長は優しい顔で頷いてくれた。その顔に笑って応えた。

「こんな風になるとはなぁ。
 やっぱりあんたにしてもらって良かった。」
「ありがとうございます。建物が良かったですから。」
「まぁな。」
源さんと上尾さんは嬉しそうにそう話して目を細めた。

「おしゃれなカフェですね!」
「本当。可愛いよね。」
「自分たちがつくったソファを店で自分が使うって、
 なんか変な感じだなぁ。」
奥のソファ席で小鳥遊と重郷は感嘆の声を上げ、岸本さんは少し照れ臭そうにしている。守屋と庭はどぎまぎと若干居心地悪そうにしながらも、きょろきょろと店内を見回している。
「岸本さん。座り心地抜群でしょう?」
「それは勿論。自慢の出来だからね。」
金城が声を掛けると、岸本さんは誇らしげにはっきりと答えた。


コーヒーや紅茶、ケーキを配る。漂う香りに皆一様に穏やかな笑みを見せた。
「立花さん。」
重郷が紅茶を運んできた俺に小声で呼び掛ける。
「幸せになれたみたいで、良かったです。」
そう微笑む。
「……分かる?」
「はい。表情が、なんだかとっても優しいです。」
そう言う重郷は、会わない間に前より綺麗になった気がする。
「私も、幸せを見つけられたので。」
「そっか。良かった。」
幸せそうなその顔を見たら、愛する自分の彼女を抱き締めたくなった。



どれほど言葉を重ねても、想いは伝えきれなくて。
どんな言葉を重ねても、全てを表しきれなくて。

君と恋人になる日。それはきっと、絵空事。
そう思っていた。
あまりにも優しい日々。
俺の隣には君がいて、柔らかい笑顔を見せてくれる。
繋いだ手からは温もりが伝わって、
君を愛していると、また再確認する。

君以上に愛せる人はいないから、
いつまでも俺の隣にいて。

上手く言葉に出来ないけれど、
きっと陳腐な言葉でしか表せないけれど、
それでもやっぱり、いつまでも伝えたい。


「私は貴方を、愛しています。」
―シーグラスの2人が、きらりと光った。

 

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