それはきっと、絵空事。

些稚絃羽

58.イベントにて

イベント会場は土曜日という事もあり、カップルや女性達で予想以上の盛り上がりを見せていた。
「立花さんのおかげですよ!!
 いやぁ、正直こんなに集まるとは思いませんでした。」
「……お力になれたなら良かったです。」
集客に大いに喜ぶ担当者を尻目に、溜め息をつく。
「晒し者の気分だ……。」
そう言ってもステージに上がれば話さなくてはいけないし、記者や参加者からの質問に答える事になっている。憂鬱だが仕事と思って割り切るしかないか。
「外、雪降ってきましたよ!会場が中で良かったですね。
 しかし、まだまだ集まってますね。
 やっぱり女性達は立花さん目当て、」
「天馬?」
「ごめんなさい。」
はしゃいでいる天馬を黙らせて、最終チェックの輪に加わる。
「まず立花さん先頭で出ていただきますので。
 商品お披露目と撮影がある程度終わった後、
 司会が振りますので概要を説明してください。
 後は質問がでましたら順次お答えください。」
「分かりました。」
事前に聞いていた通りなので大丈夫だろう。
「始めますんで、皆さん集まってくださーい。」
担当者の声に従い、準備を整える。このイベントが来週末からの販売に影響する。しっかりと良さを見てもらおう。
気合を入れて、ステージへと上がる階段に足を掛けた。

「―――『愛を繋げるクリスマス』をコンセプトに、
 今年のクリスマスが多くの方々にとって
 より大事な日となる様願って考えました。」
「より大事な日、と言いますとプロポーズでしょうか?」
「それも勿論あります。
 ですが他にも友人同士で、又ご両親へのプレゼント等、
 様々なシチュエーションにお使いいただきたいですね。」
イベントは滞りなく進んでいく。
ジュエリーを身につけたモデルが出た時の反応も
良いもので、手応えを感じた。
司会者が度々質問を挟んでくれ、迷うことなく話が進む。

「―――では続いて、皆様からのご質問を承ります。
 ご質問のある方は挙手をお願い致します。」
司会者の言葉に前列の記者やリポーター達が手を挙げる。質問は補足的な事が多く、俺以外の皆が主立って答えていく。こういう場はあまり経験がなくてどうなるかと思ったが、何とか無事に終えられそうだ。
「―――立花さんに質問ですが、宜しいですか?」
突然、名指しで質問をされる。隣の竜胆からマイクを受け取り、はい、と答える。
「愛を繋げる、という事で企画段階でやはり
 ご自身の大切な方を思い浮かべられたのしょうか?」
何だ、その質問は。
ライフに『好きな人はいるか、との問いに訳あり顔で「ノーコメントで……。」と答えた』とあったのを思い出す。一般人の恋愛事情を追って何が楽しいのか。
「そうですね。大切な友人達が沢山いるので。」
「ご友人、」
「ご質問はお一人につきお一つでお願いします。」
司会者が良いところで止めてくれる。助かった。

と思ったのに。
「―――ご自身のプロポーズの際にも、
 このジュエリーをお使いになるご予定ですか?!」
「予定ができたら考えます……。」
「―――お渡ししたい方はもうおられるのですか?!」
「お世話になっている御夫婦に……。」
「―――女性のタイプは!?」
「ジェリーについての質問にしてください……。」
怒涛の質問攻めに合い、身も心もヘトヘト。司会者も呆気に取られて止めることができなかった様だ。我に返って、
「し、質問をこの辺で終了したいと思います!!
 イベントは以上になります。参加者の皆様には、
 お帰りの際にプレゼントがございますので、
 是非お受け取りになってください。
 ありがとうございました!!」
と締め括った。会場内の拍手を聞きながら袖へと入る。
この後参加者にプレゼントを配る仕事が残っている。顔が引き攣りそうになるのを必死で堪える。

「大丈夫ですか?」
菅野が心配して声を掛けてくれる。
「ありがとう。もうちょっとだから頑張るよ。
 ……悪いけど、背中叩いてくれる?
 気合入れたいから。」
俺のお願いに少しきょとんとして、それから真剣な顔でパンッ、と両手で叩く。……意外と強いんだな……。
「ごめんなさい!思いっきりしすぎました!」
「いや、大丈夫。気合入った。」
ニカッと笑って言うと、焦り顔を解いて優しく摩ってくれる。本当に気合が入った。流石だな。


「ありがとうございました。どうぞ。」
「ありがとうございます。」
「お気を付けてー。」
参加者用出口で出て行く人達に声を掛けながら、手渡しで袋を渡していく。
途中で参加者の若い男性から声を掛けられる。
「プロポーズしたいと思ってるんですけど、
 どういう風に伝えたら良いですかね?」
未婚の俺に聞かれても正直分からないが、
「ご自分の素直な気持ちを正直に言ったら良いと思います。
 大切に思ってる事、これからも一緒にいたい事、
 飾らずに自分の言葉で言えば、きっと伝わりますよ。」
と、告白する時に言われた事を言ってみる。
男性はうんうん、と頷きながら最後に、
「そうですね。正直に気持ち、伝えたいと思います。
 ありがとうございました!」
と笑顔で去って行った。きっと彼なら成功するだろう。そんな気がした。
俺も頑張ろう。正面で俺の視線に気が付いてふわりと笑う彼女を、いつまでも守っていける様に。

 

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