それはきっと、絵空事。

些稚絃羽

54.ヘビーな取材

11時を過ぎた頃、島崎が顔を出した。
少し申し訳なさそうな顔で、俺の様子を伺いながら
「生活情報誌ライフの取材を受けて頂きたいんですが……。」
と例のお願いとやらをしてくる。腕を組んで考える。
「それって、」
「あぁぁ、すみません、顔出るんですぅ……。」
「もう、」
「すみません、新しい奴がちゃんと確認せずに勝手に
 OK出しちゃったんです……。」
「他の、」
「先方は立花さんを取材したいと言って聞かないんです。
 本当にすみません……。」
はぁ、と大きな溜め息をつく。島崎は俺の質問を全て分かっていて、先回りして答えていく。その答えは俺の望むものではなかった。逃げ場がない。

「立花さん、取材くらい受けたらいいのに。」
「てんちゃん、バカ!」
金城が止めようとするが、隠す様なことじゃない。
「俺は表に出る人間じゃないから。
 入社してすぐチームで取材を受けた事がある。
 LTPは若い人の集まりだが、その時18歳だった俺が
 このチームにいたせいで会社がバカにされた。
 ガキが商品出してんのか、どんな頭してんだ、って。」
「ひどい……。」
「それが現実だ。今はガキって言われる年齢じゃないけど、
 未だに抵抗がある。」
ちらと見ると、島崎は今にも泣きそうになっている。
あれ以来取材は受けない事にしてもらっていたが、一昨年、この島崎が取材を受けてしまった。その時新入社員だった島崎は俺の取材NGを知らなかった。まさに今回はあの時を再現しているかの様だ。
まぁ、前回は何とかお断りができたが。
「分かった。やるよ。」
「え?」
「最近島崎には助けてもらってるからな。礼だ。」
「……あ、ありがとうございます!!」
俺が受けると思っていなかったのだろう。
驚いた顔をしていたが、今度は本当に泣いて頭を下げた。
「棚橋に後で書類を持って来させますので!
 失礼しますッ!!」
島崎の勢いがちょっと面白かった。

その10分後、地響きの様なドスドスという音が聞こえた。
と思ったらドアがダンッと力強く開く。
「すみませんでしたッ!!」
背が高く、横も大きく、まるで相撲取りの様な男が、開け放ったドアをそのままに大声で謝罪をしてくる。せめて入ってきてくれたらいいものを。他のチームが何事かと見ているじゃないか。
すかさず菅野がドアに近づき、
「とりあえず入ってください。」
と言いながら、外にお騒がせしましたと声を掛ける。
「広報課所属のた、棚橋と申します。
 この度は本当に、」
「いいから、いいから。受けるって決めたし。
 とりあえず書類くれる?」
「あ、はい。失礼します!」
少し素っ気無くなったのは、菅野にフォローされた棚橋に若干嫉妬したからではない。


「本当に良かったんですか?取材受けて。」
約束通り仕事の後、以前林田と行ったあいつの友人の東野君の店で、菅野と向かい合っている。
「一昨年、でしたっけ。
 結構揉めたって聞きましたけど。」
当時SLPにいた彼女まで知っているとは。
「揉めたと言えば揉めたなぁ。
 違う人にって言ったら半ば脅されたし。」
「え、大丈夫だったんですか?」
「うん。社長が追い払ったし、その後すぐに
 その雑誌の出版社は潰れたから。
 どうも他でも手荒な事してたみたいで。」
本当に受けなくて良かったと、心底ほっとしたのを覚えている。
「……写真も載るんですよね?」
「ん?あぁ、らしいな。
 取材中のを使うらしいけど、嫌だな。」
無防備な状態を写真にされるのが、一番恥ずかしい。
「きっと雑誌に載ったら、有名になっちゃいますね……。」
「あの雑誌、読者多いからな。」
「そういう事じゃないんですけど……。」
「え?」
聞き返したら何でもないです、と誤魔化された。

「そうでした。質問しないと!」
「無理に質問しなくても良いんだけど。」
やけに意気込むのが面白い。聞きたい事があるのだろうか。
「……何を聞きましょう?」
「それ、最初の質問かな?」
何も考えていなかったのが分かる。思わず吹き出した。
「あ、何でも良いんですよね?
 元カノさんについて教えてください。」
「ぶっ!!」
口にした水を本当に吹き出しそうになった。
最初からすごいところを行くな。実は彼女は天然だ。
「良いけど、面白い事ないよ?」
「私が聞いてみたい事なんですから良いんです。
 今まで何人の方とお付き合いしましたか?」
記者の様に質問を始める。この取材は聞いてなかったな。
「えっと、3人。」
「時期とどんな方だったか教えてください。」
予想外にぐいぐい来るな。
「最初は高校3年、同級生でずっと同じクラスだった。
 2人目は、21かな。千果の大学の1つ先輩。
 3人目は―24か。家の近所の定食屋で働いてた人。」
懐かしいな、と思い出す。
「どうして別れたんですか?」
そこまで聞くのか。なかなかヘビー。
「高校の時の子は、母さんが死んでから自然消滅。
 あとの2人は仕事にかまけてたら、さよならって。
 いつも仕事優先だったから愛想尽かされたんだ。
 な、面白くないだろ?」
おどけて聞くと、
「興味深いですね。」
と、とんちんかんな答えが返ってきて戸惑う。君が良いなら良いけど。

「今まで沢山告白とかされてきましたよね?」
「いや、まぁ高校の時はそれなりにあったけど。」
「会社で誰にも言われなかったですか?」
「うん。そんなモテる様な男じゃないし。」
「え、じゃあのアンケートに書いてあったのは、
 何だと思ってるんですか?」
アンケート。あぁ名前付きで、頑張ってくださいってやつか。
「何って、応援してくれてるんだろ?」
「立花さんってすごい鈍感なんですね……。」
哀れんだ様な目を向けられて、むっとする。どういう事だ。しかも自分を棚にあげて。
「そう言う菅野は、会社の男がご飯に誘おうとしてるの
 知ってるのか?」
「え、私と食事してもあまり楽しくないと
 思いますけど…。」
「いや、楽しいよ。
 楽しいけど気にするところ、そこじゃない。」
やっぱり分かってない。あんなにも狙われてる事。
「立花さんは広報の方に露骨にご飯、
 誘われてましたよね。」
「男なら誰でも良いんだろうな。」
「違うでしょう……!」
肉食系ってやつだろうか。あれは怖い。

「それにこの前誘われた男性の方、覚えてます?」
「あぁ、最初行った時、君と食事をしたがってたぞ。」
ちゃんと言っておいて良かった。
「その日笑って頭撫でるから、
 あの方立花さんが好きになっちゃったんですよ!」
「え、俺男だしあっちも男だし。」
ないってそれは。
「でも、惚れたかもって言ってましたし。
 次の時には赤い顔で食事に誘ってましたよ!?」
それは……確かに。
「危ないので広報に行く時はちゃんと言って
 くださいね。責任持って守ります。」
「格好良いね。この前も思ったけど。
 でも菅野だって危ないんだから
 ちゃんと言ってくれよ?」
「私は大丈夫ですけど……分かりました。」
不本意だという風に言ってから、笑って承諾した。
「あと、男を相手にする時は十分気を付ける事。
 あんまり優しくすると勘違いさせるし、
 力では勝てないんだから、絶対油断しないで。」
「立花さんこそ、女性だって勘違いするんですからね。
 女性のいざって時の力が強いのは忘れないでください。」
お互い注意点を口にする。結果、男も女も危険かもしれない。

「そういえば、上尾さんが君も勘違いしやすい人だって
 言ってたけど、何か勘違いしてたの?」
素朴な疑問をぶつけると、顔が赤くなった。え、何だろう。ますます気になる。
「教えてよ。」
じっと目を見て言う。彼女がこれが苦手なのを知っているから。
「……秘密ですッ!!」
残念、逃げられた。

 

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