それはきっと、絵空事。

些稚絃羽

49.謎は迷宮入り?

アイディアというものは、十人十色あるもので。
「カラーボックスを床に置かないってすごい発想。」
「それって壁に打ち付けるんですかね?」
「多分な。この照明は逆さにしても大丈夫なのか?」
「元々吊るすタイプだから大丈夫だと思いますよ。」
「ハンカチをランチョンマットに使うってのもなかなか。」
「この角を子供用スペースにするって意見多いです。」
「思ったんスけど、子供のとこに梶野とのローテーブル
 置いたらどうスか?」
「それいいね。宣伝にもなるし。」
「それなら引き出しに紙とか文房具入れておいて、
 実際に使ってもらうのもいいかも。」
「おし、メモメモっと。」


500枚程のアンケート用紙を手分けして確認しながら、使えそうなアイディアをピックアップしていく。
この作業を始めてもう3日になる。
新たな発見をする度、口々に話し合ってしまうからなかなか全ての確認が終わらないのだ。
「お、これ最後か?皆終わったか?」
「はい。こっちは終わりです。」
「こっちもっス。」
やっと全ての確認が終了したらしい。
「やっとか……。」
「こう見ていくと面白いですね。」
「企画課じゃない人のアイディアが新鮮でしたね。」
確かにそうだ。
日頃商品の開発に携わっていない部署の社員達も、この会社にいて感化されるのか、良いアイディアが多かった。商品の新たな使い方も出ていて興味深いものもあった。今後の参考になりそうだ。

「でももっと面白かったのは。あははっ。」
「ん?何だ?」
「そっちの山にはなかったっスか?こういうの。」
林田が笑いながら1枚の用紙を寄越す。
女性のものであろう、丸みを帯びた文字が書き込まれている。特に変わったところはなさそうだが。
「立花さん、図のとこじゃなくて一番下っスよ。」
一番下?
言われた通り視線を移すと、他の字よりずっと小さな字で
『立花さん。お仕事頑張ってください。販売課 西村より』
と書き込まれていた。
顔を上げると向かいでニヤニヤした顔と目が合う。
「そんなのいっぱいあったんスよ?」
「これじゃ無記名のアンケートの意味ないな。」
「そこっスか?!」
「これ、次あったらお礼言わなきゃいけないのかな?」
「別に良いんじゃないですか?」
菅野の声が被さる様に隣から発せられる。
「1人に言うと皆に言わないといけなくなりますし。」
立ち上がって給湯室へ向かう後ろ姿を見つめた。
少し尖って聞こえた声に悪い事をしている様な気分になった。どんな表情をしているのか、見る事はできなかった。
「じゃ、いっか。」
そう呟くと周りから笑いを堪えている様な目で見られた。
「何だよ。」
聞いてみても誰も答えてくれない。すると竜胆から小さな紙を渡される。
無言での受け渡しを不思議に思いながら、見てみる。
そこには竜胆の達筆な字でこうあった。
<完全に部下に翻弄されてますね。リーダーは。>
これはつまり。―リーダーでありながら、菅野の一言で決定を下す程、菅野にのめり込んでいるんですね―と言いたいのだろう。
敢えてこういう言い方をして馬鹿にするのが、こいつの嫌なところ。思わずイラっとして、
「うるせー!悪いか!」
と大きな声を出してしまい、
「何も言ってませんよ?」
と冷静に返されてしまった。なんて鬱陶しい。
正論で返されると何も言えない。あぁ、面倒臭い。


出た候補を更に吟味していると、携帯が着信を知らせた。見ると上尾さんから。
昼にこちらから電話した時に出られなかったから、折り返してくれたのだろう。
「もしもし。」
「あ、もしもし。上尾です。お電話頂いてたみたいで。」
「はい。お忙しい時に失礼しました。」
「それで、何かありました?」
「先日お伝えしていたアンケートが返ってきまして。」
「あぁ、話し合いの件ね。ごめんなさい。
 今週は立て込んでて。来週でも良いかしら?」
「大丈夫ですよ。月曜はどうでしょう?」
「えーと……あ、大丈夫。」
「ではこちらも月曜までにある程度決めておきますので。」
「はい、お願いしますね。」
「それでは、失礼します。」
「はいはい、失礼します。」
電話を切って暫し考える。
今日は水曜だから、あと2日あるな。
コンセプト考えて良いのを挙げて…時間は足りそうだな。
「皆、上尾さんは月曜に来られるそうだ。
 明日明後日で使うものとか配置とか決めていこうと思う。
 大丈夫だよな?」
一様に考える様な仕草をしつつも、
「大丈夫でしょー。どうせこれしか仕事ないですし。」
という答えが返ってきた。


ただ俺が気になったのは、その答えじゃない。
そう答えた金城の隣で、菅野が探る様な目でこちらを見ていた事だ。
不思議に思ってじっと見つめ返すと、それに気付いてさっと目を伏せた。
何だろう?考えてみても分からないけれど、気になる。
今日、ご飯に誘って聞いてみようか。片付けだした皆の中、声を掛けようとしたところで
「はるちゃん、これから一緒にご飯食べに行こう?」
と金城に先を越されてしまった。
「え、あ、うん。いいよ。行こうか。」
菅野もそう言って、楽しげにお疲れ様でした、と出て行った。
俺はこのもやもやを抱えたまま、明日を迎えないといけないのか?
肩を落としていると、
「立花さん、ご飯行きますか?話聞きますよ。」
と竜胆が声を掛けてくれる。
良い奴だな、と顔を見た瞬間馬鹿にされた事を思い出して
「……いらん。お前なんか嫌いだ。」
と子供じみた言葉を返して、鞄を掴んで出て行く。その所為で、背中にあいつの笑い声を受けてしまった。
やっぱり、あいつ嫌いだ。

 

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