それはきっと、絵空事。

些稚絃羽

48.予想外な事

それから2週間の間。
俺達6人は参考になりそうなカフェを廻ったり、内装を担当してくださる空間デザイナーの上尾瑠璃かみおるりさんとの話し合いを進めていた。
最初に会った時、社長の紹介で来られる専門家というのがまさか女性とは思わず、驚きで二の句を継げなかった。
「女じゃご不満かしら?」
それが馬鹿にされていると勘違いした様でつり目を更に上げて、怒りオーラを全開にさせた。
「とんでもない。私達のチームも半分は女性ですし、
 今の社会は女性の方が良い仕事をされますからね。
 ただ社長のお知り合いなので、勝手に頑固親父の様な人を
 想像してしまいまして。
 不快な思いをさせてしまった様で申し訳ありません。」
何とか思っている事を伝えると、警戒を緩めてくれた様だ。
「こちらこそ初対面で失礼な事をしました。この会社の
 方々は男尊女卑の概念がない様で安心しました。
 時代錯誤な人間を相手にする事が多いもので。」
どうやら相当嫌な事があったらしい。デザイナーという専門職に就いていると、女性である事が受け入れられない場合も多いのだと言う。
第一印象は気難しい人かと思っていたが、話してみると論理的ではあるがセンスのある人で、なかなかに話が弾んだ。
内装を手掛ける上では、
「どうしてもできない事以外は何でもできます。
 なのでとりあえず何でも提案してください。」
と言われている。
アンケートの結果をある程度まとめたら、また上尾さんを含めて話し合いの場を設ける事になった。
この2週間の間で1つ良かった事は、菅野が誰にも誘われなかった事だ。


そしてあれから2週間後の月曜日。
11月に入ってぐっと冷え込む様になった。社内だからと油断すると風邪を引いてしまうだろう。
「くしゅん!」
「大丈夫か?風邪引かないでくれよ?」
「大丈夫です。すみません……。」
朝のエレベーターの中はまだフロア程暖房が効いていない。サーモンピンクのセーターも効き目は薄いらしい。
少しでも暖まればと肩を寄せる。触れ合った肩がじわりと熱を帯びる。俺だけかと思ったけれど、隣から小さく
「ありがとうございます。」
と聞こえて安堵する。
そうしていると12階でエレベーターが止まる。
この時間だし当然と言えば当然だが、誰も乗ってこなくて良かったと、それにも息をついた。


「立花さん!おはようございます!」
島崎が俺達に一番に気付いて挨拶をくれる。
「おはよう。」
「期待しててくださいね。結構良いと思うんで。」
「ありがとう。ただな……。
 無記名だからどれが島崎のか分からないぞ?」
「……あ、あぁ!そっか、忘れてた……。」
がっくり肩を落としてショックを受けている。
言い辛かったけれど今後もし、良かったでしょう?と聞かれて嘘をつくのも心苦しいから正直に伝えてしまった。
申し訳ない事をしたかな、と2週間前の発言を悔やむ。
でも悪いとは思いつつ、笑ってしまいそうになる。
ちらと見ると菅野も同じ様で、目が合った瞬間、
「ぶ、ははははは!」
「ふふふ、はは!」
我慢していた分、吹き出してしまった。笑われている本人はというと、呆気にとられている様だ。
「あぁ、可笑し……。ごめんごめん。
 島崎って結構天然なんだな。」
「え、いや、そうですか?」
「私も思わず笑ってしまって、すみません。」
「いや、それは良いんですけど……。
 急に笑い出すからびっくりしましたよー。」
事態が把握できたらしい島崎が苦笑いする。
「お二人が笑うから、注目の的ですよ。」
その言葉に周りを見ると結構な範囲の人達が、じっと俺達を見ていた。
顔を見合わせてこの状況に恥ずかしくなった俺達は、2人して耳を赤くしてそそくさと課長の元へと急いだ。

「何だか楽しそうだったね。」
俺達を見るなり笑顔でそう言われるから益々恥ずかしい。
槇課長の事だしからかうつもりでもなさそうだから、余計にタチが悪い。
「騒がしくしてしまって、すみません。」
「いや、そんな事はないよ。
 ただ皆君達の事が気になってしまうみたいでね。
 仕事そっちのけになるから少し困っているかな。」
今度は冗談交じりで言うが、槇課長の口から出ると冗談かどうか分りづらい。苦笑いで謝っておいた。
「じゃ、これね。全員分挟んであるから。」
「ありがとうございました。
 皆さん、ご協力ありがとうございました。」
早々に切り上げる事にしてエレベーターまで戻っていく。


が、呼び止められる。
「立花さん、今日お昼ご一緒できませんか?」
「ちょっと抜けがけしないでよ!」
「お弁当作りすぎたので食べてください。」
「それ作りすぎたんじゃなくて余分に作ってきたのね!」
「私、夜空いてます!!」
女性社員がわらわらと集まってきて一斉に話し始める。
お昼の誘いには謝り、押し付けられた弁当はそっと押し返す。夜空いてます、に対してはそうですかと返しておいた。
「はい、ストッープ!!」
見かねた島崎が喧嘩を始めだした女性社員達を止めてくれた。
「島崎君、邪魔しないで!」
「邪魔も何も、立花さんが引いてますから!」
その言葉に俺へと視線が集まる。どうやら相当な顔をしていたらしい。すみません、と言いながらおずおずと下がって行った。
「ありがとう。助かった。」
「いえいえ、お安い御用です。」
今度こそ、と呆然としていた菅野を連れて進んでいく。

そしてもうすぐというところで行く手を塞ぐ男が。よく見ると前回菅野をデートに誘おうとしていた男だ。
顔を緊張で強ばらせつつ、頬には赤みが。性懲りもなくまた誘おうとしているのか?
本来なら俺が止めたりしちゃいけないのだろうが、気分はさながら姫を守る騎士で、大きな任務が課せられているのだと自己暗示。
「あの一度お食事に行っていただけませんか、」
直球できたな。
「だから、」
「立花さん!!」
「行かせないって、え、俺?」
「はい!」
どういう展開だよ。菅野じゃないのか?
それならそれで良いけど、どうして俺が誘われてる?
「えっと、」
「だめです。誘わないでください。」
「え?」
どう答えようかあぐねていると、菅野が前に出ていて。その後ろ姿を見ていると珍しく尖った声が。
「誘われても行かせません。行きませんよね?」
振り返った厳しい顔に確認されて、
「は、はい、行きません……。」
と答えるしかなかった。
「そういう事ですので失礼致します。」
一礼して、俺に行きましょうと促す。
目の前の男同様、展開に頭が着いて行けていないが促されるままにエレベーターに乗り込む。扉が閉まってしまった頃、やっと思考が追いついた。
「さっきはありがとう。何か……びっくりしたな。」
「立花さん、気を付けてくださいね。
 誰に狙われてるか分かりませんから。」
真剣な顔でそう言われると何とも言えない。先程のやり取りをもう一度思い返す。
まるで俺を守るかの様に前に出て、はっきり発言する姿は有無を言わせぬ強さがあって。
…格好良かったな。
いつもは見せない姿にまたも惚れてしまうのだった。

 

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