それはきっと、絵空事。

些稚絃羽

34.お揃い

上司として旅行中も統率を取らねば、と思っていたものの、驚く程俺自身もはしゃいでいる事に気付く。朝の足の痛みなんか、どこに行ったのやら。
6人の荷物は相当な量になった。金城が大量にお菓子を買い込んでいた事に驚いたが
「これは今日無くなっちゃうんで、荷物にはなりません。」
という台詞には、更に驚かされた。
店を端から端まで見て回って満足した俺達は、一度旅館に戻ることにした。
「お客様、花火大会には行かれるんで?」
番頭と思しき年配の男性に、後ろから呼び止められた。
「はい。そのつもりですが。」
「実は、本日お泊りのお客様で花火大会に行かれる方には
 サービスで浴衣の貸し出しと着付けをしておるんです。
 皆様、良かったら着られませんか?」
そう言われて、どうだろうと先を歩いていた皆を振り返ると全員俺の方を見ていて、女性3人のその目は、勿論着せてくれますよね?と言っていたし、男性2人のその目は、浴衣姿見たいですよね?と言っていた。
……いやまぁそりゃ、見たいけど。
「じゃ、お願いします。」
「はいはい。
 ではご用意ができましたら季の間にお越し下さい。
 そこで浴衣をお選びいただけますので。」
「はい、ありがとうございます。」
部屋へとまた廊下を歩き始めた。
「一回温泉入っていこうかなぁ。」
「そうですねー。」
という話から温泉に入ってまた合流する事になった。


「うわー、沢山ありますね!迷っちゃいます。」
天馬がはしゃぐのも無理はない。聞くと女性用は80着、男性用も50着用意されているという。
「立花さん、着ないんですか?」
皆が選んでいるのを傍観していると、菅野から声を掛けられる。手には既に浴衣を持っている。
「ん?まぁ、どっちでもいいかなって。」
「折角なんで着ましょうよ。
 その、浴衣姿、見たいです。」
一気に浴衣を着なければ、という思いが湧いてきた。
「……そうか?じゃ、着よう、かな。」
「はい、是非。」
そう言って、着替えに部屋を出て行く。俺は言われたからには、と浴衣に手を伸ばす。
「立花さん、簡単ですね。」
後ろで金城が出がけにぼそっと言うから、
「うるせー!」
と声を荒らげたら、竜胆に目で叱られた。俺が悪いのか?いや、今のは確実に金城が悪いんだぞ。

「立花さんはこれが良いと思うんスけど。」
隣に来た林田は既に着替えていて。明るめの紺が髪の色とも良く合っている。
「それ、似合うな。」
「本当っスか!?嬉しいっス!」
素直に喜ぶ姿は犬の様で、思わず頭を撫でてしまった。
「ちょ、ちょっと恥ずかしいっス!
 それより、これ!これ着てください!!」
叫ぶように言って、浴衣を一着押し付ける様に渡してくる。
「あぁ。白か?意外だな。」
「絶対似合うっス。」
「折角そう言ってくれるなら、これにする。」
そう告げて襖を開けると、竜胆が着付けをしているところだった。
灰色に黒や青のストライプが入ったもので、竜胆のシャープさとよくマッチしている。
「やっぱり、格好良いな。」
「俺はおちませんよ?」
「おとすつもりもねーよ。」
竜胆も意外と冗談を言う奴だったんだ、と最近気付いた。これも金城の影響だろうか。
俺も着付けをしてもらうと、渡された浴衣はどうやらただの白ではなく、袖口と首元に赤のラインが入っていて、足の方には赤い蜻蛉が飛んでいた。
「やっぱ似合うっス!
 俺の中の立花さんのイメージは赤!
 黒は確実に似合うから、敢えて白を
 選んでみました。」
「あ、確かに似合う。」
褒められて、今後赤と白の服が増えそうな気がした。
「ささ、見せてあげましょー。」
女性達は先に外に出させたんス、と背中を押される。
玄関に近付くにつれ、何だか緊張している自分に気付く。彼女の浴衣姿を見る事と、俺の浴衣姿を見られる事に。


「お待たせー。」
林田が言うと、談笑していたらしい3人の目がこちらを向く。
「わぁお、やっぱり浴衣ってすごいですね。」
そんな天馬の声は殆ど聞こえていなくて。ただ目の前の彼女に釘付けで、瞬きも呼吸さえも忘れた。
白い浴衣に手書き風の大輪の黄色い花。全てを吸収する様な白に、真っ直ぐ力強い黄色。鮮やかなそれらの色彩は、守りたくなる様な、それでいて強い芯を持った、彼女自身を体現している様だ、と思った。
よく見ると結い上げた髪には、黄色い花をあしらった着物の生地で作られたバレッタが。それは見覚えのある、俺からのプレゼント。
見つめ合った2人。この瞬間、確かに時間が止まった。
「行きますよー。」
金城の声に肩を震わせて我に返る。4人は既に歩き始めていて、俺達はそそくさと追いかけるのだった。それでも前と少し距離を置いて話す。
「……良く似合ってる。浴衣も、バレッタも。」
「……素敵なものをありがとうございます。
 バレッタの色に合うのを見つけたので、
 これにしました。」
という事はバレッタありきで考えてくれたという事だ。何だろう、この胸のむず痒さは。
「立花さんもとても似合ってます。
 白を選ばれるのは、何だか意外です。」
「林田が絶対似合うって薦めてくれたから。」
「そう、ですか。」
少し表情が寂しげに見えて、どうした、と聞こうとした時、前を歩いていた天馬がこちらを振り返り、
「あ、お二人共白で、並んでると何だかお揃いみたい。」
なんて爆弾を無邪気に投げてくるものだから、2人して恥ずかしさに口を噤んでしまった。

 

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