それはきっと、絵空事。

些稚絃羽

33.贈り物

結局土産物や特産品の店が並ぶ通りを目指した。
「思うんですけど、やっぱり本当に格好良い人って
 着飾ってないのにオシャレですよね。」
通りまでぞろぞろ歩きながら、後ろから天馬が言う。隣の竜胆を見て、確かに、と呟く。
「いや、立花さんも入ってますからね。」
「いやいや、普通な格好だし。」
オシャレと言われても、そんなに気は遣っていない。好みにあったものを選んでいるだけだ。
「お二人共、モデルみたいですよ。」
「いいなー、俺もそんな事言われたい!」
林田が拗ねている。
「身内の贔屓目だな。」
「ですね。」
さらっと受け流しておく。目的の通りを見つけた。
長く伸びる石畳の道を挟んで、食べ物は勿論、民芸品や日用品等、様々な専門店が所狭しと並んでいる。思い思いに散らばり、土産を選ぶ事にした。
千果に「買って来ないと、ある事ない事あの子に喋るわよ。」と脅されているため、まずはその店を探す。
「ん、ここか。」
入口でまず、煌びやかな着物の数々が目を引く。奥から上品な、いらっしゃい、という声が聞こえた。
「あ、こんにちは。
 帯締めと簪を見せていただきたいのですが。」
「はいはい、それでしたらこちらどうぞ。」


この地は温泉同様、古くから和を大事にしている事で有名だ。その中でもこの店は、老舗中の老舗だという。
促されるまま奥に進むと、小物類がずらりと並んでいる。色も形も種類がありすぎて、どれにすれば良いか分からない。
「こういうのって、何を基準に選べば良いんですか?」
「そうですねぇ。
 普段服をお選びいただく様に選んでいただければ。
 着物の色や帯の色に合わせたり。
 着物に使われている一色をとってもいいですし。」
「そうですか。んー。」
千果っていつもどんなの着てるっけ?本人に直接聞くと多分怒られるな。で、変なの買って帰っても確実に機嫌を損ねる。
「……ちょっと連れ、呼んで来ます。」
「はい。」
店を出てすぐ向かいの店の入口に、菅野を見つける。
「菅野、ちょっと助けて。」
「え?」
「俺の生命の危機だから。」
「へ?」
驚く菅野を連れて戻る。店の人が笑顔で待っていた。
「そちらの方への贈り物でしたか。」
「え?」
「いえ、違うんです。
 ……千果に帯締めと簪を買ってこいって言われてんだけど
 どれ買っていいか分かんなくて。
 あいつ、いつもどんな着物着てるっけ?」
何故か不満そうな顔をしていた菅野が、事のあらましを聞いて驚く。
「何度も見てるのに、覚えてないんですか?」
「幼馴染みの服装を一々記憶なんてしないだろ。
 着物とか更に覚えにくいし。」
あ、溜め息つかれた。呆れられてる。
「基本的に青とか紫のはっきりした色が多いです。
 帯は反対に白とか銀ですね。」
そういうところまで見てるものなんだな。
「そうか。そうなると暖色系かな。」
「そうですね、この朱色のとかどうですか?
 金糸が使ってあって千果さんに似合いそうです。」
「その帯締めは限定品なんですよ。」
やっぱりセンスが良いと思う。俺なんか同じ様な色ばかりで違いが分からなかった。
「その色に合わせて簪も選んでくれ。」
「私が選んで良いんですか?」
「俺じゃ千果を怒らせそうだ。」
「ふふ、どれがいいですかねー。」
簪を前に、嬉しそうに眺めている姿はいつか見たものと同じで。こういうものも好きなんだな、と気付く。
「うーん、これかこれ、どっちが良いと思います?」
2つを手に、こちらを振り向く。恋人にする様なそれが自分に向けられていて、どきりと胸が跳ねた。
「……菅野が良い方でいいよ。」
「だめです。立花さんからのお土産なんですから。」
「気にしないと思うけどな。
 そうだなぁ、こっちの方が千果っぽいかな。」
「じゃ、これとこれですね。
 うん、千果さんにとっても似合うと思います。」
帯締めと簪をきらきらした目で見つめながら、嬉しそうに言う。まるで自分がプレゼントを貰ったみたいだ。
そう思ったら、彼女に何かプレゼントしたくなった。
「助かった。会計するから、買い物してきていいぞ。」
「?はい。」
不思議そうにしながらも、素直に店を出て行った。
「あの、普段着でも使える様な和柄のものってありますか。」
「えぇ、最近はヘアゴムやピンなんかに取り入れてます。
 こちらにあるのがそうです。」
こっちも沢山種類がある。でも意外にも全く迷わなかった。
「じゃ、これも。別に包んでください。」
「はい。ありがとうございます。」


「ありがとうございました。
 またのお越しをお待ちしております。」
見送られながら会計中の会話を思い出していた。
「お連れさん、喜ばれるでしょうね。」
「え?」
「こちらはさっきのお連れさんへの贈り物でしょう?
 帯締めなんかは悩んでおられたのに、
 こちらは即決でしたねぇ。」
見透かされた様に言われるから、恥ずかしくなってしまった。何も言えず頬を掻く俺を見て、更に後ろを楽しそうに見ながら、
「でもサプライズは大切ですが、
 内緒にしすぎるのは良くないですからね。
 ……はい、ではこちら。」
意味ありげな言葉を告げられ、考えている内に商品を渡されて急かされる様に、ありがとうございました、と言われたら出て行くしかなくなった。


入口前に掲げられた着物を過ぎると、こちらを見ている菅野と目が合った。
そしてさも見ていなかったかの様に天を仰いでいる。面白いがかなり不思議だ。
「……買い物してて良かったのに。」
「えっと、立花さんが1人はぐれちゃいけない
 と思いまして。」
「おいおい、俺そんなに子供じゃないぞ。」
彼女の言い訳があまりに可愛くて笑みが溢れる。本人は恥ずかしいのかそっぽを向いた。
「さっきはありがとな。」
「いえ。お力になれて良かったです。」
「はい、これ。」
そう言って包みを手渡す。
「何ですか?」
「プレゼント。」
今になってちょっと照れくさくなって先に歩き出す。
「そんな悪いです!」
焦ったように追いかけてくる。
「君に似合うと思ったから。
 店員さんに笑われたんだから、責任取って受け取って。」
「え、笑われた?」
「千果のは悩んでたのに、それは悩まなかったって。
 あ、ちょっと恥ずかしいから、今開けるのなしね。」
歩みの遅くなった彼女を振り返ると、包みをギュッと握って、恨めしそうにこちらを見ている。彼女は意味なくプレゼントを貰う事に引け目を感じる様だ。
「じゃあ、それあげる代わりに、俺の買い物
 付き合ってくれる?」
交換条件を出してみた。ふー、と大きく息をついて少し意地悪な顔になる。
「いいですよ。変なの買わせますからね?」
「……それはやだな。」
太陽の光が石畳に反射して、俺達の笑い声さえ光った気がした。

 

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