それはきっと、絵空事。

些稚絃羽

23.褒められて、からかわれ

あれから更に約1ヶ月。
学生も会社員も多くの人が夏休みを満喫している中、何度も何度も会議を重ね、時にはジュエリーショップにも足を運んだ。
一度経験した押しの強い店員がいないような店を選んで、LTPとして、また一消費者としての両面から商品を見定め、構想を吟味・改良していった。
街を行き交うカップルや家族連れを見ては、来月末には俺達にも夏休みがある、寧ろ休みがずれてるのはラッキーじゃないか、とポジティブに励まし合った。というより、俺が励ましていた。
「じゃ、これで決定だな。」
「はい。」
「めっちゃいいっスよね!」
「本当に素敵です。」
「形になるのが楽しみですね!!」
最終会議。本当に良いデザインになったと自負している。皆同じ気持ちの様で、顔に喜びが滲み出ている。
「うぅ……わだし、ここに来゛て良かっだですぅ……。」
天馬は涙も滲み出ているが。
「あらま、これ実物が出来たらどうなっちゃうのかな。」
苦笑いで言う金城の言葉に激しく同意だ。
「まだまだ、これから色んな企画が入ってくるんだぞ。
 気を引き締めて、頑張れよ。」
「はい!!」
泣きながら元気に返事をした天馬の顔はぐちゃぐちゃで、それでもいつもより輝いて見えた。


「相席、良いですか?」
昼休み。近くに新しくできた定食屋に来ていた。
声のする方を振り返ると、そこには天馬がいた。
「あぁ。何だ、珍しいな。」
「付いて来ちゃいました。」
へへ、と笑うその顔には、先程の涙の跡はもうなかった。
付いて来たというからには話があるのかと思いきや、注文した定食が運ばれて来るまで、ただ黙っていた。その間、正面に座ってじっと何かを考えている様だった。
沈黙の苦手な俺は耐え切れなくなって、
「今回、初めて正式に加わってどうだった?」
と話題を振ってみた。すると、箸を置いて姿勢を正し、
「ありがとうございました!!」
と深々と頭を下げた。突然の事に目を丸くする。
「おいおい、何だよ。どうしたんだ?」
「……梶野インテリアの工場見学をした時、
 『自分達の商品ができる過程を知らずにいるのは、
 君達にも消費者にも不敬な事だ』って言われて
 ましたよね。私が最初の会議に遅刻した時には、
 主任が来られる事はどうでもいいって、
 『天馬とって大事な日だろ』って言ってください
 ましたよね。立花さんの言葉を聞いて、この仕事の事、
 全然理解していなかったんだって気付きました。
 偉い人相手だからとか分野じゃないからとか
 そうやって選ぶんじゃなくて、
 商品1つ1つ、消費者1人1人、そして携わる1人1人に、
 敬意と誠意を持っていないといけないだって事。
 考えて終わりの仕事じゃないって事。
 その事をきちんと理解して携わらないといけないって、
 やっと分かりました。ありがとうございます。」
真剣な眼差しで言われて、嬉しいような恥ずかしいような、何ともむず痒い気持ちになった。
「……そこまでよく覚えてるな。」
ポツリとそんな事しか言えなかった。
「胸をぐっと掴まれた感じがしました。
 遅刻ばっかでだめだめなのに、
 そんな私の事まで見ていてくださっていた事、
 本当に嬉しかったんです。」
「そんな事初めて言われたよ。」
「皆さん言わないだけですよ。」
母親に褒められている様に、照れくさくなってしまった。
その後は天馬の家族の話をしながら、皿をからにした。

「ご馳走様。美味しかったです。」
2人分の支払いをして、店員に声を掛けて店を出る。
肌が焼け付くような暑さに顔を顰める。
「すみません。ご馳走様です。」
「いや。記念すべき日だからな。」
ニッと笑っておどけて言うと、天馬がありがとうございますと笑う。
「立花さんって素でできちゃう人ですよね。」
「ん?何が?」
意味が分からなくて聞き返す。
「私の分の伝票スッと持って行って払ってくださったり、
 店員さんにも美味しかったって声掛けられたり。
 しかもそういうのをさり気なく、当たり前の様に
 やっちゃえる人ですよね。」
「やっちゃえるって、当たり前の事だろ。
 特に店員には美味いご飯食わせてもらったら、
 礼言うのが普通じゃないか?」
寧ろそんな事を褒められるなんて謎すぎる。
「いやいや。そうでもないですよ。
 お客様は神様でしょって態度の客とかいっぱい
 いますし。俺が奢ってやるよ、みたいな
 あからさまなのもいますから。」
男がそれでいいのか。自慢する様な態度は、どうなのかなぁ。
「だから立花さん、余計にモテちゃうんですよ。」
「はぁ?」
大きな声が出てしまった。
モテちゃうって何だ、モテちゃうって。
「そんな訳ないだろう。
 俺のどこを見てモテてる様に見えるんだ。」
好きな人に振られてるのに、とは言わない。
拗ねるぞ、こら。

「え、自覚なしですか?どの部署の人も、
 『立花さんって格好良くて優しくて素敵』とか、
 『同じ部署で一緒に仕事したい、LTP羨ましい』
 とか色々言ってますよ?
 特に楽しそうに笑ってる時なんか周りの女性は
 大体ぽーっとなってます。」
それ、何情報だよ。
「仮にそうだとして、誰にも言われた事ないけど。」
「告白とかですか?それは無理ですよ。
 皆牽制し合ってて、近付こうとする人がいたら
 即刻阻止されてますもん。」
「……何だ、それは。漫画の読みすぎだ。」
そんなバトルみたいな事が俺の周りで起こるはずないだろ。
天馬はまだまだ子供だな。
「もー、本当なのに。」
「はいはい。ちゃんと午後も仕事しろよ。」
「うわ、聞き流された。分かってますッ!!」
そんな冗談を言いながら会社へと戻って行く。珍しく天馬とゆっくり話ができたな。最近、前よりもメンバーと話ができてる気がする。
こうやって繋がりを大切にしてないといけないよな。
……近々、林田ともご飯行こうかな。

 

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