それはきっと、絵空事。

些稚絃羽

17.プレゼントは真実

和解してそのまま休憩室を出ようとして、ふと思い出した。
「あの、これ。……良かったら貰ってくれないか?」
想いを打ち明ける前ならもっと普通に言えたのに。たった数ヶ月前の事が、もうずっと昔の事の様に思えた。
「え、これって……!!」
あの時こっそり買って、後で渡そうと思っていたのに、感情に押し流されて渡し忘れていたもの。家でポケットの中を見て自分の不甲斐なさに更に落ち込んだ。
「一番長く見てたから。気に入ったのかなって。」
それは小さなコンパクト。子供用にも見えたが、よく見るとキャラクターではなく舞台となっている丘の国の景色が描かれていて、大人っぽいデザインだった。
きっとこういう雰囲気が好きなんだろうと思ったし、何より食い入る様に見ている姿を見て、喜んでほしいと思った。
「こんな素敵なもの、頂いて良いんですか?」
目を輝かせながら、それでいて申し訳なさそうに聞いてくる。
「当たり前だろ。菅野のために買ったんだから。
 逆に貰ってくれないと、俺が使う訳にいかないし。」
「ふふ、そうですね。本当にありがとうございます。」
この笑顔が俺だけに向いていると思うだけで、体温が1℃位上がった気がした。
「何かお返ししたいんですが、好きなものはありますか?」
「いいよ、お返しなんて。
 勝手にプレゼントしただけなんだから。」
「でも……。」
分かってない。相手が自分を好きな男なんだって事。
「お返しなんてしてもらったら、
 次を期待しそうになるから。」
そう言うと、菅野は顔を赤らめて俯いた。
「さ、そろそろ戻らないと。」
「そ、そうですね。私はお手洗いに行ってから戻ります。
 お先に失礼します。」
なんて律儀なんだ、本当に。
珍しくパタパタと音を鳴らしながら出て行くのを見送って、俺は直接ブースへ戻る事にした。


終業時間が来て、菅野と金城はコソコソ話しながら一番に帰って行った。
本当に仲が良いな、あの2人。
林田は今日は販売課の子とご飯だと嬉々として出て行った。千果に一途とか、それでよく言えたな。
「天馬、今日はゆっくりなんだな。」
「はい。母が休みなのでお迎え行ってくれてるんです。
 代わりにスーパーの特売に行きますよー。」
天馬の家は母親と天馬と幼稚園に通う妹の3人だという。母親は昼から夜遅くまでパートをしている様で、毎日天馬が妹のお迎えに行っているのだ。
「では、お先に失礼します!!」
「あぁ、お疲れ。」
「お疲れ様。」
その声を聞いて、珍しく2人きりになったな、と思う。異動してきた頃はよく一緒に行動していたが、最近は仕事を任せる事が多いため、必然的に別行動が多くなった。

「竜胆はいつまで残る?」
「もう上がります。」
それなら俺も帰るかな。
「あの、立花さん。」
「ん?どうした?」
呼び掛けられて隣の席に目を移すと、射抜くような目が俺を見ていた。
「お聞きしたい事があるんですが、いいですか?」
何だよ、こんな改まって。もしかして……菅野絡みか?
「……なんだ?」
「……菅野と付き合ってるんですか?」
来た、来た、来た。唾がごくりと音を立てた。
「付き合って……ない。」
この目は苦手だ。逃げる事を許してくれない目。
「そう、なんですか。」
どうしてだ。どうしてそんな微妙な顔するんだ。ここはほっと笑顔になるところだろう?そう思っても、言えずにいた。
「立花さんは菅野が好きなんですよね?」
「へ?」
少しの沈黙の後、竜胆から出たのはど直球の質問だった。
質問、というより確認か?思わず声が裏返った。
「えっと……あぁ、菅野が好きだ。」
確認という事はバレてるという事だし、隠すのは男らしくない。
宣戦布告なら受けてやる。
「それなら、金城の事何とも思ってないんですよね?」

「へ?」
ここで急に金城?また声が裏返った。
「金城の事何とも思ってないんですよね?」って、普通に聞くと竜胆が金城を好き、みたいに聞こえるけど。
「……って、え?!」
「え、もしかして金城にも気があるんですか?」
ただ驚いただけなのに、竜胆は勘違いして俺を睨んでくる。
「違うよ!金城の事は何とも思ってない。」
「本当ですね?」
「本当だ。」
ここでやっと最初に予想していた、ほっとした笑顔が出た。
もう少しで俺の部下からの好感度と信頼度がだだ下がりするところだった。
「竜胆、金城が好きだったのか。」
「はい。失礼な事言ってすみませんでした。」
誰もが憧れる竜胆も、ただの男だったと分かって安心した。

「いや。俺こそ悪かった。」
「え?何がですか?」
「竜胆は菅野の事好きなんだと思ってた。
 ほら、同期だし仲良かったから。」
恥ずかしいけど金城を想ってる竜胆に、正直に話したかった。
「菅野は話しやすいですけど、そういう気持ちは
 一切ないんで。」
「いや、竜胆って俺から見ても良い男だから、
 菅野が惚れちゃうんじゃないかって。」
うわ、口に出すと恥ずかしいな。しかも本人に。
「はは、それはないですよ。
 ……それを言ったら、俺だってそう思ってますよ。
 今までもそうでしたけど最近特に金城と仲良さそうですし
 今日だって金城、立花さん追って出て行ったし。」
勘違いしちゃ困る。
「俺と菅野のキューピットになるって意気込んでんだ。
 今日なんか、態度が悪いってボロクソに怒られて
 怖かったぞ?」
「はは、そうだったんですか。」
お互い恋のライバルでない事を確認して、胸を撫で下ろした。
「良かったです、ライバルじゃなくて。」
「俺もだ。」
しかし、まさか竜胆が金城を好きだったとは。菅野に向けてだと思っていたあの眼差しは、金城にだったのか。金城は好きな人いるみたいだしな。
……でもそれが竜胆じゃないとも限らないよな。
「竜胆、俺応援するからな。」
「はは、ありがとうございます。
 菅野の事、何か知りたかったら言ってくださいね。」
「あぁ。……いや、いい。負けた気がするから。」
「はは、立花さんも普通の男なんですね。」
「……その言葉、そっくりそのまま返してやるよ。」
何故か俺の周りには、一言多い奴が多い。

 

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