それはきっと、絵空事。
11.女の秘話
あれから1週間。
新しい企画が入ったものの、珍しく2ヶ月も期間があるとなると他に急ぐ仕事もない今、暇である事は言うまでもない。でも仕事が暇という事は、今の俺にとって好都合とも言える。
「……今日、ご飯に誘うつもりですね?」
「うわっ!!」
ブースの外にある共同のコピー機を使いながら、どう誘おうか考えていたところに下から聞き慣れた声で不躾な言葉が飛んできて、思わず大きな声で叫んでしまった。
「金城……。」
「こっちがびっくりするくらい驚いてくれて嬉しいです。」
肩を竦めて悪びれずに言うのを見て、げんこつをお見舞いする。
「いだっ!!ひどいじゃないですかー。」
「お前が悪いんだろ。」
「でも今日、誘うつもりでしたよね?」
図星を突かれて、うっ、と口篭る。
使い終わったコピー機を後にし、誰もいないブースへ戻る。
皆、昼休憩で出払ってしまっている。
前もこんな事があったなと、忙しかった期間の向こうに思いを馳せて、気が付く。
「俺、そんなに分かりやすいのか?」
「というより、私が気付いちゃう感じですかね。」
頭を抱える俺に、金城は平然と言う。
「私結構キューピッド役、やってるんですよ?
販売課の瀬戸さんときよちゃんとか、
広報課のもろさんと峯内さんとか、
SLPのこんちゃんとOLPのみなもこの私が
くっつけました!!」
自信満々に言われても、渾名とか入ると誰だか分からない。とりあえずいっぱいくっつけてる、って事でいいのだろう。呆れる俺を他所に、金城は話を続ける。
「この前の飲みの帰りなんですけどね。
はるちゃんに、立花さんとの事知ってるって
言ったんですよ。」
唐突に爆弾発言をぶっこむのはやめてほしい。
止める間もなく、金城はあの日の夜を回想していた。
***
タクシーの中。手を振る立花さんが見えなくなって。
「はるちゃん、立花さんから告白されたよね?」
いつこの話をしようか迷って、今だって思った。
「え?何で知ってるの?」
「立花さんがはるちゃんを好きなのは前から知ってて。
早く告白しろって焚きつけたの。」
「そう、なんだ……。」
「フッちゃったんでしょ?立花さんの事、嫌い?」
「ううん、違うよ。嫌い、とかじゃ、ないんだけど。
……今まで誰かを好きになった事なくて、
どうしたらいいか分からないの。」
呟くはるちゃんの横顔が外のライトに照らされて、今にも泣きそうな表情がくっきり見えた。
「傷付けるのも怖くてお断りしたんだけど、
これからも伝えていくって。
勝手に想ってるのはいいよなって言われて……。」
告白の内容もはるちゃんからの返事も、何も教えてくれなかった立花さん。
格好良い事言ってるなー。
返事を教えてくれなかったのも、はるちゃんの事を想ってだったんだな。
「そっかー。そう言われて、どうだった?」
「そんな風に言ってもらうの初めてだったし、
……嬉しかったけど、私でいいのかなって。」
確かに立花さんモテるからなー。
本人は全く気付いてないけど、それも皆が牽制し合ってるからなんだよね。
まぁ、はるちゃんも同じ立場ではあるけど。
「でも立花さん、本気ではるちゃんを好きだよ。
あの敏腕で動じない立花さんが、
上手く伝える自信ないって弱音吐いてたもん。」
「本当に?」
目をまん丸にしてこっちを見るはるちゃん。
「ホントだよ?ほら、さっきだって。」
結李ちゃんとてっちゃんから突っつかれていたのを思い出す。
「好きなところは本人の前だけで言いたいって。」
「やっぱりあれ、私の事だったんだ…。」
「当たり前でしょー。他に誰がいるって言うんですかい?」
暗い車内でもはるちゃんが顔を赤くしてるのが分かる。
年上だけど、ホントに可愛いなー。
「はるちゃん。」
「何?」
「私ね、立花さんを応援してるの。
あんな仕事ができて優しくて格好良い人が、
恋に悩んでるのを見て、素敵だなって思って。
その相手が私の憧れのはるちゃんで。」
「憧れだなんて。」
「ホントに。私の憧れの2人がくっついてくれたら、
最高にハッピーだなーって思ったから。
だからね、立花さんを応援してるの。
あ、だからって無理やりくっつけようとは思って
ないよ?私ははるちゃんの事も応援してるから。
相手が立花さんじゃなくても相談に乗るからね!!」
伝えたかった事が伝えられて満足、満足。
そう。私は2人の味方なんだから。
「沙希ちゃん、ありがとう。
……でもそんなにするって、立花さんの事……」
「違ーう。他に好きな人いるもん。
立花さんはただの憧れだよ!!」
「……そっか。」
そう呟いたはるちゃんの口元が緩んでいたのは、私の気のせいなんかじゃないはず!!
立花さんには教えてあげないけど。
***
「相手が立花さんじゃなくても、相談に乗るからねって。」
「それ、何か複雑なんだけど。」
立花さん本人としては、相談は立花さん絡みであって欲しい。なんて思ってしまう俺はかなりの重症だ。
「大丈夫ですよ。私としても第一目標は
立花さんとはるちゃんのカップルをつくる事です!!」
「そんな意気込まれても……。」
嬉しいような、やめてほしいような。
「という訳でですね。
はるちゃんも私というキューピッドの存在に気付いてくれたので、
恋を意識せざるを得ない状況にあると思うのですよ。」
自分から公表したんだろ、と言えない弱い俺。
「なので、この暇な間にあとひと押しふた押し、
頑張ったら結構いけんじゃないかと思うのです!!」
「そうっスか。まぁ言われなくても頑張るつもりだったし。」
「立花さん、可愛げないですね。」
「男に可愛げ必要ないだろ。」
と言いつつ、背中を押されたのも事実だから、
コピーした書類を確認する振りをしながら、
「……ありがとな。」
と小さな声でぶっきらぼうに言う。
「立花さん……。可愛げありますね!!」
余計に恥ずかしい事になってしまった。
新しい企画が入ったものの、珍しく2ヶ月も期間があるとなると他に急ぐ仕事もない今、暇である事は言うまでもない。でも仕事が暇という事は、今の俺にとって好都合とも言える。
「……今日、ご飯に誘うつもりですね?」
「うわっ!!」
ブースの外にある共同のコピー機を使いながら、どう誘おうか考えていたところに下から聞き慣れた声で不躾な言葉が飛んできて、思わず大きな声で叫んでしまった。
「金城……。」
「こっちがびっくりするくらい驚いてくれて嬉しいです。」
肩を竦めて悪びれずに言うのを見て、げんこつをお見舞いする。
「いだっ!!ひどいじゃないですかー。」
「お前が悪いんだろ。」
「でも今日、誘うつもりでしたよね?」
図星を突かれて、うっ、と口篭る。
使い終わったコピー機を後にし、誰もいないブースへ戻る。
皆、昼休憩で出払ってしまっている。
前もこんな事があったなと、忙しかった期間の向こうに思いを馳せて、気が付く。
「俺、そんなに分かりやすいのか?」
「というより、私が気付いちゃう感じですかね。」
頭を抱える俺に、金城は平然と言う。
「私結構キューピッド役、やってるんですよ?
販売課の瀬戸さんときよちゃんとか、
広報課のもろさんと峯内さんとか、
SLPのこんちゃんとOLPのみなもこの私が
くっつけました!!」
自信満々に言われても、渾名とか入ると誰だか分からない。とりあえずいっぱいくっつけてる、って事でいいのだろう。呆れる俺を他所に、金城は話を続ける。
「この前の飲みの帰りなんですけどね。
はるちゃんに、立花さんとの事知ってるって
言ったんですよ。」
唐突に爆弾発言をぶっこむのはやめてほしい。
止める間もなく、金城はあの日の夜を回想していた。
***
タクシーの中。手を振る立花さんが見えなくなって。
「はるちゃん、立花さんから告白されたよね?」
いつこの話をしようか迷って、今だって思った。
「え?何で知ってるの?」
「立花さんがはるちゃんを好きなのは前から知ってて。
早く告白しろって焚きつけたの。」
「そう、なんだ……。」
「フッちゃったんでしょ?立花さんの事、嫌い?」
「ううん、違うよ。嫌い、とかじゃ、ないんだけど。
……今まで誰かを好きになった事なくて、
どうしたらいいか分からないの。」
呟くはるちゃんの横顔が外のライトに照らされて、今にも泣きそうな表情がくっきり見えた。
「傷付けるのも怖くてお断りしたんだけど、
これからも伝えていくって。
勝手に想ってるのはいいよなって言われて……。」
告白の内容もはるちゃんからの返事も、何も教えてくれなかった立花さん。
格好良い事言ってるなー。
返事を教えてくれなかったのも、はるちゃんの事を想ってだったんだな。
「そっかー。そう言われて、どうだった?」
「そんな風に言ってもらうの初めてだったし、
……嬉しかったけど、私でいいのかなって。」
確かに立花さんモテるからなー。
本人は全く気付いてないけど、それも皆が牽制し合ってるからなんだよね。
まぁ、はるちゃんも同じ立場ではあるけど。
「でも立花さん、本気ではるちゃんを好きだよ。
あの敏腕で動じない立花さんが、
上手く伝える自信ないって弱音吐いてたもん。」
「本当に?」
目をまん丸にしてこっちを見るはるちゃん。
「ホントだよ?ほら、さっきだって。」
結李ちゃんとてっちゃんから突っつかれていたのを思い出す。
「好きなところは本人の前だけで言いたいって。」
「やっぱりあれ、私の事だったんだ…。」
「当たり前でしょー。他に誰がいるって言うんですかい?」
暗い車内でもはるちゃんが顔を赤くしてるのが分かる。
年上だけど、ホントに可愛いなー。
「はるちゃん。」
「何?」
「私ね、立花さんを応援してるの。
あんな仕事ができて優しくて格好良い人が、
恋に悩んでるのを見て、素敵だなって思って。
その相手が私の憧れのはるちゃんで。」
「憧れだなんて。」
「ホントに。私の憧れの2人がくっついてくれたら、
最高にハッピーだなーって思ったから。
だからね、立花さんを応援してるの。
あ、だからって無理やりくっつけようとは思って
ないよ?私ははるちゃんの事も応援してるから。
相手が立花さんじゃなくても相談に乗るからね!!」
伝えたかった事が伝えられて満足、満足。
そう。私は2人の味方なんだから。
「沙希ちゃん、ありがとう。
……でもそんなにするって、立花さんの事……」
「違ーう。他に好きな人いるもん。
立花さんはただの憧れだよ!!」
「……そっか。」
そう呟いたはるちゃんの口元が緩んでいたのは、私の気のせいなんかじゃないはず!!
立花さんには教えてあげないけど。
***
「相手が立花さんじゃなくても、相談に乗るからねって。」
「それ、何か複雑なんだけど。」
立花さん本人としては、相談は立花さん絡みであって欲しい。なんて思ってしまう俺はかなりの重症だ。
「大丈夫ですよ。私としても第一目標は
立花さんとはるちゃんのカップルをつくる事です!!」
「そんな意気込まれても……。」
嬉しいような、やめてほしいような。
「という訳でですね。
はるちゃんも私というキューピッドの存在に気付いてくれたので、
恋を意識せざるを得ない状況にあると思うのですよ。」
自分から公表したんだろ、と言えない弱い俺。
「なので、この暇な間にあとひと押しふた押し、
頑張ったら結構いけんじゃないかと思うのです!!」
「そうっスか。まぁ言われなくても頑張るつもりだったし。」
「立花さん、可愛げないですね。」
「男に可愛げ必要ないだろ。」
と言いつつ、背中を押されたのも事実だから、
コピーした書類を確認する振りをしながら、
「……ありがとな。」
と小さな声でぶっきらぼうに言う。
「立花さん……。可愛げありますね!!」
余計に恥ずかしい事になってしまった。
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