それはきっと、絵空事。

些稚絃羽

10.6人になったLTP

久々に白飯と味噌汁、焼き魚といった純和風な朝食を食べ、
「昨日教えた事、彼にもそれとなく伝えといてね。」
という声に送られ、みのりから会社へ向かう。
今日からはとりあえず通常業務へ戻る。早々に新しい商品企画が入ってきているが、今回は期間が長いため少しはゆっくりできるだろう。
「問題は天馬か。」
1人の車内で呟く。ここで考えても仕方ない事だが、やはり心配だ。
その反面、あいつがどう化けるか楽しみでもある。勝負はここからだ。

「おはよう。」
「おはようございます。」
ブースに到着すると全員が揃っていた。昨日は皆大人しく家に帰った様だ。
「立花さーん。今日は千果さんとこからっスか?」
「ん?あぁ。」
「もしや美味しい朝食も頂いて来ちゃったんスか?」
「あぁ。」
林田は女、特に千果が絡むと面倒くさい。
「いいなー。俺も千果さん家泊まって、朝食頂きてー!!」
「千果さんの前でそれ言ってみたら?」
「沙希よ。こんな事言ったら引かれるに決まってるだろ。」
「下心が丸見えだもんな。」
「竜胆さーん……。」
菅野と天馬はクスクス笑い合っている。
3人のコントみたいな会話を聞きつつ、ふと思い出す。
「そう言えば、俺の知り合いが言ってたんだけど。」
「お!今回は何ですか?」
金城が食いつく。唯一金城だけが、この知り合いが千果である事を知っている。
「その話聞いたら千果さんに近付けるっスか?」
林田は何も知らず疑いの目を向ける。
「今よりはな。その知り合いが言うには、
 『格好付けた時程、格好悪くなる。気取らない自然体の
  ままの方が、女には格好良く映る』そうだ。」
昨日の千果の言葉を復唱する。ちゃんと伝えたぞ。
「…つまり格好付けずそのままの自分でいろと。」
「そういう事だな。」
「うー、頑張ります…。」
目をらんらんに輝かせた林田が、しゅんと小さくなる。
元の軟派な性格では千果を落とせないと思っている林田には、そのままの自分でいるのは千果と付き合えないに等しいのかもしれない。
だが千果本人がこの事を林田に伝えたかったという事は、かなり脈有りだろうと思う。
林田にわざわざ教えたりはしないが。

「9時になったな。仕事始めるぞ。」
「はーい。」
皆が席に着いたのを確認し、口を開く。
「コラボ企画の案件がとりあえず昨日で一段落した
 という事で、また新しい仕事が入った。」
「もうですか!?
 ちょっとゆっくりできると思ったのに…。」
「俺もー。」
金城と林田が文句をたれる。いつもの事だ。
「とは言っても今回は期間が2ヶ月ある。」
「んー。まぁ、ちょっと長めか。何やるんスか?」
文句言ったって結局は仕事が好きなんだ。書類を回しながら説明する。
「ジュエリーだ。クリスマスシーズンに発売予定。
 企画するのはリングとネックレス。
 どちらもペアで出す事になっている。
 キャッチコピーは【愛を繋げるクリスマス】。」
金城がふふっと笑う。
「……何かベタですね。」
「俺に言うなよ。アンケートで応募したらしい。」
「クリスマスにプロポーズって事ですね?」
「あぁ。まぁ、限定しなくてもいいがとりあえず
 プロポーズの時のプレゼントとして考えてくれ。」
「ふーん。なんで伝えるじゃなくて繋げるなんスか?」
「……未来に愛を繋げるという意味合い、だそうだ。」
言っていて少しむず痒い。
「立花さん、照れないで下さいよー。」
「照れてねーよ。」
金城のこのねちっこいいじり方はやはり誰かと似ている。
同じキャラクターが近くに2人もいるなんて。

「それで今回から天馬も参加する。」
金城の横で資料を読んでいた天馬が顔を上げる。
「へ?」
ぽかんとした幼い顔にはっきりと伝える。
「天馬。今回のこの企画から、正式に
 Life Total Producerだ。1年間よく頑張ったな。」
そして天馬に近付き、真新しい名刺の束を手渡す。まず最初に貰える、チーム名入りの名刺だ。補佐の間は持つ事のできない、チームメンバーの証。
手元の名刺の束を握り締めて見つめたまま、正式に、LTP、と何度も反芻しながらようやく理解に至った時。
「うぅ、うぅ……。」
人目を憚らず、天馬は大粒の涙を流し始めた。
「てんちゃん、おめでとう!!」
「かよちゃん、頑張ろうね。」
両サイドの2人が優しく背中を摩りながら声をかける。
3人の男はというと、少々呆気に取られていたが天馬の気持ちを思うと、何だかほっこり笑みが溢れた。
「わ、私、私、頑張りますっ!!
 改めてよろしくお願いしますっ!!」
天馬の必死な姿に皆で笑い合って、よろしくと言い合う。
泣き顔で笑う天馬と、それにつられて菅野と金城がもらい泣く。
竜胆はそんな3人を見て笑みを深くし、林田は隠れて涙を拭く。
そんな柔らかい雰囲気の中、俺は笑顔を崩せないまま、
「大変なのはこれからだからな。気引き締めろよ。」
釘を刺す事は忘れない。

 

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