それはきっと、絵空事。

些稚絃羽

8.飲みの席で、雑多な会話

「私はウーロン茶で。」
「あれ、岸谷さん飲まないんスか?」
「あぁ、帰りの運転をしないといけないからね…。」
「本当は、酒1滴も飲めないからなんですよ?」
「守屋君、余計な事は言わない。」

PM5:30。行きつけの小料理屋・みのりにて。
明日も皆仕事だし、半数は1時間以上かけて帰らないといけないため、早く始めようという事になり、店の開店と同時に始める形となった。店は貸切にしてくれたらしい。座敷のテーブルを3つ繋げて、女将の鈴村千果すずむらちかに飲み物を頼み、料理はおまかせで。
「今晩はいつもより賑やかなんですねぇ。」
猫の様なキリリとした目と着物姿とゆったりとした話し方。
どれもが相まって妖艶な雰囲気を醸し出している千果に、
虜になっている男性客はとても多い。
「千果さん。今日も素敵な着物ですね!!」
「あら。着物しか褒めてくださいませんの?」
「え、でも前は着物も褒めてって。」
「てっちゃん。それは女の遠慮ってもんだよ。」
「え、そうなんですか?」
「ふふ。」
林田もその1人だ。しかもかなり本気らしい。
『年上女性を落とす一言特集』を読む位に。

「この煮付け、美味しいですね。」
「本当ね。こんなに美味しいの初めてだわ。」
「でしょでしょ!!
 千果さんの料理はどれも美味しいんだなぁ。」
「何で金城が自慢気なんだ。」
「立花さん、行きつけのお店の料理褒められたら
 嬉しいじゃないですか。」
分からないでもない。
小鳥遊と重郷の言葉に俺だって嬉しくなったから。

「焼酎頂けますか?」
「庭さん、焼酎派っスか?」
「うん。父が好きで、付き合ってたら自分も、ね。」
「へぇ。守屋君は?」
「自分はビールばっか飲んでます。」
「俺もだなぁ。」
「林田はあんまり飲めないだろ。」
「竜胆さん、そんな白ける様な事言わないで下さいよー。」
「醜態、晒すなよ。」
「立花さんまでひどい!!」
「俺はもうお前を担いで階段上がりたくないし。」
「何でそれ、ここで言っちゃうんですかぁ…。」
ここでも林田は適度に皆に話を振っていく。
最終的にいじられてしまうが。
「実際、一番弱いのはてっちゃんだもんね。
 逆に強いのは立花さんとはるちゃん。」
「そんな事ないよ。」
「いや、2人共最後まで顔色変えずに介抱してるし。」
「それは林田と天馬が飲み過ぎるから仕方なくだ。」
「てんちゃんも弱いもんね。」
「いまいちどこで止めたら丁度良いか分からないんです。」
「俺もー。」
「俺がやめろって言ったところで止めろっての。」
「だって……。」
ブーブー言っている2人を放っておく事にする。

「五月蝿くてすみません。」
「いやいや、本当に皆仲が良いんだね。」
みのりに来てから、岸谷さんは大分くだけてきて話しやすくなった。
「そうですね。上司という概念はないみたいですけど。」
「はは。それだけ立花君が信頼されているって事だよ。
 若い君達があの会社で大きな役割を担っている理由が
 分かった気がするな。」
「ありがとうございます。」
今日初めて会ったとは思えない打ち解け様で盛り上がる彼等を見て、若いからではない、彼等の人間性だろうなと思った。
「それにしても、商品の案があんなに考え抜かれている
 とは思わなかったな。色1つにも意味があるんだね。」
「はい。カラーセラピーってご存知ですか?」
「いや。アロマテラピーなら知ってるが。」
「同じ様なものです。アロマと同じ様に、
 色にも人を癒したり力を与える効果があるんです。
 ……働く独身女性の多くは、仕事に力を注ぎたいと思う
 反面、周りが結婚していくのを見て、虚しさを感じて
 いる様なんです。毎日、会社と家の往復だけという
 生活をしている人も少なくない様ですから、家という
 リラックスする空間を、明日への力をチャージする
 空間にもしたいと思って。色のそれぞれの意味を
 知っているだけでも、きっと力になる。
 そういう思いでいつも以上に悩みました。」
「そうか。私が知らなかっただけで、うちの商品にも
 沢山の思いが詰まっているんだろうな。
 そういう思いをちゃんと知らなければ、本当に良い
 商品はつくれないよな。
 ……大切な事を教わったよ。ありがとう。」
「とんでもないです。
 これから大変なのは皆さんの方ですから。うちの
 チームは文句が多いですから、覚悟して下さいね?」
「はは。頑張らせてもらうよ。」

「千果、鯖寿司。」
「はいはい。」
「え、立花さんと千果さんって……。」
「ん?」
「結李ちゃん、違うよー。」
「何の話してるんだ?」
「結李ちゃんが立花さんと千果さんの仲を
 疑ってるんです。」
一瞬ぽかんとしてしまった。大好物の鯖寿司を咥えたまま。
「はぁ?」
「あらあら。」
「だって呼び捨てだし、
 客と女将の感じじゃないっていうか。」
「幼馴染みだからな。」
「そうなんですか!?」
「親同士が友達で、同い年だから産まれた時から一緒だ。」
「好きになったりしなかったんですか?」
「ないよ。兄妹みたいな感じかな。」
「千果さんも?」
「居心地はいいですけどねぇ。
 恋人にするには仕事が好きすぎるかしら。
 あ、でも最近はかなりハマってる方がいる様ですけど。」
「おい。」
カウンターの向こうで余計な事を言う幼馴染みを睨む。
……だからこいつを恋人にはしたくないんだ。

「えー!どんな方なんですか?」
「社内の人っスか?!」
興味津々の小鳥遊と林田に聞かれ、気付かれない様に菅野の方を見やる。少し俯いたまま、困った様な恥ずかしそうな表情をしている。
「秘密。」
「どんなところが好きなんですか?!」
「何で教えないといけないんだよ。
 第一、そういう事は本人の前だけで言いたいし。」
「リーダー、格好良いー!!」
「お相手の女性が羨ましいです…。」
「立花さん、そのイケメン具合分けて下さい。」
「意味が分からないぞ。」
ガヤガヤと言い合いつつ彼女を見ると、酒に強い彼女が少し頬を染めていた。
……酒の所為じゃないといいな。

「さぁ、お開きにしよう。」
「もうっスかー?」
「明日も仕事なの忘れてないだろうな?
 それに岸谷さんが大変だろう。」
「はぁい。」
「すまないね。本当に楽しかったよ。
 美味しい料理も食べられたし。」
「ありがとうございます。またいつでもお越し下さい。」
「ありがとう。幾らになるかな?」
律儀に皆が財布を出す。
「いいですよ。明日から頑張ってもらいますので。」
「でも……。分かった、今度はこちらが紹介するよ。」
「楽しみにしてます。」
「ごちそうさまでーす。」
「金城と林田は、もうちょっと申し訳なさそうにしろ。」
わぁっと皆が笑って、飲み会はお開きとなった。



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