それはきっと、絵空事。

些稚絃羽

7.本格始動、恋の方はまた後で

彼女への想いが消えるか、彼女から拒絶されるか。
他に好きな人ができるか、彼女が誰かを好きになるか。
そのどれかが起こるまでは、好きでいよう。
そう思ったところで、起こるまでは止められたって好きだろうな、と気付く。
あの日、断られはしたものの、帰りの車内は気まずいものではなく、寧ろ和やかな雰囲気だった事が嬉しかった。
ただ悩んでいた以前と、想いを伝え諦めないと宣言した今とでは、気持ちの在り方も、彼女との距離も、大きく変化している様に思う。堂々と何度だって、彼女に気持ちを伝えられる。そしてあわよくば、俺を好きになってくれたら。
アパートの前で、ありがとうございました、と柔らかく笑った彼女を思い出す。永遠にその笑顔が近くにあるといいな。

あれから2週間。思いに耽る間もなく、LTPは大忙し。
コラボ企画のため、その他の仕事は終わらせていたが、他の課からの確認の連絡や他社との交流会など、急に対応しなければならない仕事が入る事はしょっちゅう。
コラボ企画の方はアンケート結果を参考にしつつ、5人がそれぞれ2パターンずつ出し、その後は会議に会議を重ねる。
対象は2、30代の独身女性だが、どういうテーマにするか。
皆の案から中心にする案はどれがいいか。
変更するところ、組み合わせられるところはないか。
細部のデザイン、形、素材等はどうするか。
会議は女性陣、特に天馬の意見を中心に進めていく。
どの案にも直接関与していない天馬だからこそ、率直で消費者の声を代弁する意見を出せるからだ。
一度会議を始めると時間を忘れる程白熱するのが、Partnerの社員の特徴。それだけこの仕事に熱意と誇りを持っている証拠だ。
そうして最終案が決定したのが、2回目の合同ミーティングの前日。
皆思いがけない多忙さに、顔には疲れが見えるがそれでもその目は輝いていて、翌日のミーティングに想いを馳せていた。

11人が集まるブースの中。
簡単な自己紹介を済ませ、本格的なミーティングが始まる。
1階の受付前で迎えた梶野インテリアの面々は、初めて足を踏み入れる会社に顔を激しく硬直させていたが、明るい会社の様子と林田の軽いトークに笑みが溢れるまでになっていた。
「―――テーマは、“恋を呼び込む、大人フェミニン”。
 2、30代の働く女性という大人っぱさを出しつつ、
 恋に前向きになれる様な女性らしさを加えたものを、
 と考えました。家は疲れた体を休め、新たに
 エネルギーをチャージして出て行く場です。
 仕事も頑張って、恋もしたい。
 そんな女性達の頑張る姿を応援するインテリアを
 コンセプトにしました。」
金城が説明する。テーマは金城の案だ。
シンプルにまとめつつ、且つ力を与えるカラーリングを考えた。
考案した6案のプレゼンが始まる。スクリーンには3D映像が映し出され、金城や林田が説明を加える。聞き入っていた彼等も、最年少だという小鳥遊が
「このテーブルはどれくらいのサイズになるんですか?」
と質問したのを皮切りに積極的に参加してくれた。前回のミーティングでの言葉が功を奏した様だ。特に小鳥遊と重郷は自分に重ねて、意見を出してくれている。
案は1つずつに集約されていく。プロの製作者達の専門的な話も加わって、映像上のインテリア達はほぼ完成に近くなっている。

中心となっていた金城が視線を投げてくる。終わりの合図だ。
「これで決定という事で宜しいでしょうか?」
質問に全員が笑顔で頷いてくれる。社に足を踏み入れた時のあの顔が嘘の様に、生き生きとした表情をしている。
「本当に良いコラボ商品が出来そうですね。」
この一言に、岸谷は前回のミーティングを思い出したのだろう。
恥ずかしそうに、それでいて誇らしそうに笑った。
「本来ならもう1、2週間頂いて最終決定案を出すのですが、
 十分な話し合いでここまで煮詰まりましたから、
 このまま梶野インテリアさんにバトンをお渡ししようと
 思います。宜しいでしょうか。」
「はい。私達も早く作りたくてうずうずしてますよ。」
冷静そうな岸谷の言葉が意外ながら、この人も製作者なのだと感じさせた。
「この映像以上の物をお作りします。
 自社の方の仕事もありますから、完成までに3ヶ月程
 かかると思います。
 うちでは縮小版のサンプルを作って完成版を作るので、
 まずサンプルを皆さんに確認して頂きたいと思います。
 その時はこちらにまた伺います。大体1ヶ月後ですかね。
 庭か重郷から連絡させますので。」
「分かりました。宜しくお願い致します。」

確認を済ませたところで、
「よし!今日は皆で飲み行きましょう!!」
という林田の張り切った声が響く。
「自分が飲みたいだけだろう。
 あとは重郷さんと小鳥遊さん目当てか。」
竜胆の厳しい言葉が飛ぶ。実際その通りだが。
「ち、違うっスよー。
 そんな事言ったら警戒しちゃうでしょ。」
名前を出された女性2人は目を合わせてクスクス笑っている。
「林田の事は放っておいても、良かったら
 皆さんどうですか?」
林田を甘やかす訳ではないが、ここから本格的にチームになるのだからより交流を深めた方が良い。
梶野インテリアの5人は、というより若い4人は岸谷のOK待ちの様だ。
岸谷もその様子に気付いて苦笑いしながら頷いた。
「ではお願いします。」
「やったー!!」
林田と金城の喜びの声が重なって、2回目のミーティングは終わった。

 

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