それはきっと、絵空事。

些稚絃羽

4.強力な助っ人

伝えよう。そう思っていた矢先。
本人に伝える前に、厄介な奴に知られてしまった。
「立花さん。想いは言わなきゃ伝わんないですよ?
 男ならバシッと決めないと。」
金城だ。どうして知られたという特別なものは無く、金城に言わせると
「前から気づいていたんですけどね?
 はるちゃんを見る目が最近ますます変わってきたなと。
 なんか優しい中に切なそうな感じが混ざってるような。」
という事らしい。
しらばっくれようかとも思ったが、金城はなかなか鋭い。
どうせバレてるんだ。認めた方が潔い、男としては。
「あぁ、好きだよ。悪いか。」
男としての最後の抵抗が、何とも子供じみた言葉になった。

「伝えないんですか?」
「伝えるよ、そろそろ。
 ……でも、上手く伝えられる自信が、ない。」
そう言った所で、はっとなる。
俺、何言ってんだ。しかも金城相手に。
こんなんじゃ、絶対からかわれる。
「今のは、」
「上手く伝えられなくても良いじゃないですか。」
「えっ?」
他の4人の出払った静かなブースで。大きなデスクを挟んだあちらとこちらで。いつになく真剣な表情でこちらを見据える金城と、そんな金城の様子に戸惑う俺。

「上手く、なんて伝えられる訳ないですよ。
 色んな想いが沢山、沢山あって、
 その沢山の想いが1つになって、大きな“好き”になるのに。
 持ち合わせた言葉で全部を伝えられる程、
 簡単で、単純なものじゃないと思います。
 私なら寧ろ、上手く伝えて欲しくないな。
 逆に上手い方が、なんか作り物みたいじゃないですか?
 ちょっと不器用な位の方が、
 その人の心のままを聞いてる感じがします。」
まぁ、私個人の意見ですけど、と右手でお団子頭に触れる。
金城がそうする時は決まって、恥ずかしかったり照れたりする時だと知っている。神経質になっていた心が丸く、穏やかになっていく。
「そう、だな。そうかもしれない。
 好きな人の前ではどうしたって格好付けたくなるけど、
 金城の考えの方が正しい気がするな。ありがとう。」
いつもは俺をからかって楽しむ問題児が、こうやって真剣に考えて大切な事を教えてくれた。俺にとってきっと強力な助っ人になる。そんな気がした。
「お礼はmarieのフルーツタルトで良いですよ?」
これも照れ隠しだと知っている。
「あとGraceのハーブティーの茶葉も欲しいんですよね。」
……見直したのは間違いだったか。

「冗談はさておき。」
冗談だった様だ。財布の中身を確認しなくて良かった。
「はるちゃんは素敵すぎますからね。
 早くしないと誰かに先越されちゃいますよ?」
分かってるよ、そんな事は。
彼女を好きになった俺だから、嫌というほど理解している。
「彼氏はいないらしいですけど。」
「そうなのか?」
「お。食いついた。」
思いの外、明るい声で尋ねた自分に恥ずかしくなる。だって、仕方ないだろ。結構切実な問題なんだから。
恥ずかしさを隠して、金城に厳しい目を向ける。
「彼氏いないのは本当ですよ。
 この前はるちゃんに直接聞きましたから。」
「……そうか。」
彼氏がいないというだけで少し安堵する。だからといって、俺が彼氏になれるかは別問題だが。
「はるちゃんって、全然恋バナしてくれないんですよ。
 聞いても上手くかわされるし。
 秘密主義なのか、事情があるのか。」
「あんま人のこと詮索するなよ。」
「あら、優しーい。
 やっぱり好きな人の事は守りたいですよね。」
二の句が継げなくなりそうになったが、冷静を装って、
「今俺は、人としての在り方を君に説いているのだが。」
と、やけに硬い言葉で応戦した。
「立花さんとはるちゃん、お似合いだと思うなぁ。
 私、上手くいくように協力しますからね。」
猪突猛進型のコイツには、話が通じない。お似合いという言葉には思わず反応したが、コイツの協力が果たしてプラスになるのか甚だ疑問だ。

よし、仕返しをしてやろう。
「ところで、お前はどうなんだ。」
「何がですか?」
「好きな奴、いないの?」
きょとんとした顔を真剣な顔にしたのを見て、お?と思う。
大人げないが、一度くらい形勢逆転したい。
「実は……。」
もじもじしながら、ちらと目線をこちらに向ける。
「立花さんの事が……」
「嘘だな。」
「……へ?」
口をぽかんと開けたまま、金城が固まった。面白い。
「お前が恥ずかしがった時の癖が出てない。」
「癖?どんなのですか?」
「教えない。」
「そんな、」
「いつも俺をからかうお返しだ。
 これを期に上司を敬う精神を身に付けろ。」
「むー。」
金城の悔しがる顔を見て、上司らしい事を言ってみる。
やっている事は小学生並みだが。黙り込んでいた金城が口を開く。
「……いいんですね?」
「何がだ。謝罪はいつでも聞いてやるぞ。」
「折角、はるちゃんに立花さんの事売り込んであげようと思ったのに。」
こうして立ち位置は元に戻ってしまうのだ。

 

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