ずるい君とずるい僕

些稚絃羽

ずるい君とずるい僕

戸惑う僕を背にして、君が放った言葉は、
涙もろい僕の涙腺を簡単に崩壊した。


「私は一緒に、幸せになりたいな。」


一緒に、なんて望めないと思ってた。
君は君の、僕は僕の、全く違う道の上にいて。
それぞれの道がただちょっと、たまたま重なっただけだろうから。
君の道の上に僕も立てるだなんて思いもしなかった。


今よりずっと、幸せになってね。
そう言ったはずなのに。
君のたった一言で、僕が幸せになってしまったよ。
涙が、止まらない。


「君は、ずるいよ。」


「あら。ひどい言い草ね。」


くるん、とスカートを翻しながらこちらを向いた君が、拗ねた様に言う。


「僕より格好良い事、言わないでよ。」


顔を濡らしていた涙を、着古した紺のシャツの袖で拭う。
たちまち、そこだけ異様に濃い色に染まって。
僕を一層切なくさせた。


「何言ってるの?
出逢ってから今より、これからの方がうんと長いのに。」


キョトンとした顔で君がそう言うから。
止まりかけていた涙がまた、流れ出したじゃないか。


「やっぱり君は、格好良いよ。」


そう言って更に涙を溢れさせている僕に、
そっとハンカチを差し出す君の柔らかな表情は、
今まで見たどんな君より美しくて。


「やっぱり君は、綺麗だ。」


思わず呟いた言葉に、君は目を丸くして。
それから顔を赤くして。


「あなただって、ずるい。」


目を泳がせながら呟いた。




そうか。僕ばかりが君を好きな訳じゃないんだね。
僕が君の素敵な所を見つけた様に。
君も僕に良い所を見い出してくれたんだね。




これから、いつまでも。
君は僕の。僕は君の。


素敵なずるい人で居続けよう。

コメント

  • りとサマ

    リアルっぽくて。すごい胸にささりました。

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