銀河を、この手のひらに。
第12話
地下にあるアマテラスのスイッチまでそう遠くなかった。
「アマテラスのスイッチがこんなに近いならば……直ぐにでも起動すればよかったんじゃあないのか? それこそ私を待つ前に」
「それではいけないのだよ。それでは出来ないのだよ」
エルムは回りくどく私の発言を否定した。
「……どういうことだ?」
「言ったまでのことだ。人間だけではアマテラスを起動することは出来ない。人間とロボットが協力することでアマテラスは漸く起動するのだ」
「ただスイッチを入れればいいのではないか……?」
「電力をどうするのだ。電力は発電所から持ってこないといけないだろう?」
「まさか繋がっていないなどとは」
「そいつは心配いらない。繋がっているよ。アマテラスの直ぐにあるレバーを引けばいい。ただ場所が悪いのか、使っていないからかは知らないがうまく行かなくてね……」
つまりそれを私にやらせようというわけか。
エルムたちがアマテラスの起動スイッチを作動させ、私が発電所からの電力供給スイッチを作動する。
これ以上ない共同作業だ。
「……解った。即ち私がそのレバーに向かえばいいということだな?」
「そういうことになる」
エルムは頷くと、目の前にある古い扉を開けた。
そこにあったのは巨大な柱だった。
その柱は機械だった。私たちにつけられているような計器ばかりが柱の表面に接着していた。
「これが、アマテラスだ」
エルムはそう言って、アマテラスに触れた。
それよりも私が気になっていたのは、本当にこれを使うことで人間が生きていけるというのだろうか。
アマテラスは、こんな古い機械なのに、動くというのか。
――そこでふと、私はあるロボットの存在を思い出した。
あの夜景が綺麗な丘で見た、ロボットの存在だ。
恐ろしいほど昔に開発されたというのに、それでも『彼』は動いていた。
だから、アマテラスも動くのだ。そうに違いない。そうでなければ、私がこれを選択した意味がまったくもって無いのだ。
だから、私は諦めたくない。諦めてはならないのだ。
「君がいくのはあの通路だ」
エルムが指差した先にはぽっかりと穴が開いていた。あれが通路の入口だというのか。
「老朽化が進んでいるようだ。私たち人間が巧く進んでもその先には私たちには動かせないレバーがある。それを動かすには人間にはエネルギーが足りないんだ」
「……ふむ。つまり、そこに行くには危険だと」
「あぁ。高圧電流が流れるケーブルがある。それを巧く避けようとすると力がかからない。かといって力をかけようとするとケーブルにぶつかって感電死する」
どっちにしろダメじゃあないか……私は思ったが、それを口に出すことはしなかった。ならば、私は死なないから、命がないからロボットの私が、選ばれたのだろうか。
命がある無しで重要度の高い任務を受ける。かつて人間が主体だった時代には、ロボットは人間が扱えない部分を重点的に扱ってきていた。
それだけのこと、たったそれだけのことだった。
「……行こう」
だったら私は歩み出す。
彼女を救うために。人間を救うために。
物語の結末は――近い。
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