銀河を、この手のひらに。

巫夏希

第9話


「……まぁ、これを信じるかどうかは君次第だがね。何も人間の感性をロボットに押し付けようなんて思っちゃいない」
「あなたみたいに……ロボットに擬装した人間は他にも?」
「私が知っている限りなら十人くらいだ。ほかは皆別の星に移ってしまったからな」
「なるほど。……しかし、今話したことと私を助けてくださったこと、まったく話が見えて来ないのですが」
 私は矢継ぎ早にそう言った。自覚こそしていなかったが、苛立っていたのかもしれない。
 それが誰についての怒りなのかは、私自身も解らないことだったが。
「……問題はここからだ。この世界には、巨大な空気清浄システムがあることを聞いたことはないか?」
 唐突に話題が変更され、一瞬私はそれに対処出来なかった。
 しかしそれでもエルムの話は続いた。
「その名前はアマテラスという、かつてこの星にいた民族が信仰していたカミの名前を取ったものらしい。このシステム、莫大な電力を必要とする代わりに汚れた空気も極限まで……とはいかないが、少なくとも私たち人間が普通に住んでいた頃まで綺麗にすることが出来るという」
 私はエルムの言葉のなかで、『莫大な電力』というワードが引っかかった。
「なあ……エルムといったな。その『莫大な電力』とは具体的にどれくらいだ?」
 私たちロボットは非常に省電力に設計されているが、それでも電力の供給なしに長く動けるわけではない。
 その供給は星の一地区にある発電所によって賄われる。発電所から産み出されるエネルギーとロボットを長く動かすために供給し続けねばならないエネルギーはほぼ同量だ(その他生活などに使われる電力は別の発電所から供給されている)。
 エルムの言った『莫大な電力』を供給することが出来るのはそこでしかあり得ないだろう。
 だとしたら、そのエネルギーはどれほどの量なのだろうか? ということが疑問に残るのである。
「……まだ解らんが恐らく凡てのロボットが停止するのではないかと思う。その時間は約五分と短いが……起動させればこちらのもの。ロボットは殆ど停止される」
「ということは私もとまる可能性があるのか」
 その言葉にエルムは頷く。
 つまりエルムは人間を取るかロボットを取るか、それをロボットの私に聞いているのだ。それを考えるとひどく滑稽である。
 今直ぐここでエルムを倒せばそんな煩わしいことを考えなくて済むだろう。しかしその場合待っているのは絶望だ。破壊されるまでの時間を、固唾を飲んで待つだけなのだ。
 ならばエルムの計画に協力するべきか? しかしそのシステムがどこにあるのかも解らないし、リスクが非常に高い。それに五分経ったらロボットは再び動き出す。その後私たちを待っているのは――考えたくない。
 とどのつまり、どちらを選択しても結果は変わらない可能性が充分にあるということだ。
 そんな中、私が何を選択すればよいか――もうその答えは、既に決まっていた。


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