無謀な賭け
無謀な賭け
「賭け事をしよう」
そう言ってきたのはこのスポーツバーで飲んだくれている爺だった。その爺はふらふらと今にも倒れそうな老人だった。草臥れた服装だった。
ストレートをちびちびと飲んでいた男はそれを聞いて、ニヒルな笑みを浮かべる。
「いいですよ、何で賭けます?」
男の言葉を聞いて、爺は壁にあるテレビを指差した。
そこはフィギュアスケートが映っていた。男が酒を飲みながら見たかった、オリンピックのその競技だった。
「誰が一位を取るか、賭けようじゃあないか」
それを聞いて男は失笑した。
「そんな解りきったことを賭けるんですか?」
「ああ。あんたから言っていい」
「考えるまでもなく、あの子ですよ」
そう言って、男は指差した。
テレビには女性が映っていた。実力・知名度共にナンバーワン。主催国から出ている少女も「彼女を尊敬しています」と言うほどだった。
それを見て爺は「なるほど、なるほどなあ」と顎鬚をねじるだけだった。
「あなたは誰に賭けるんです?」
「わしはあの子だよ」
そう言って、爺は指差す。
テレビに映っていた女性は、先程男が賭けた女性と比べると実力があまり芳しくない選手だった。主催国から出ている少女も「彼女は今季一回しか勝っていない」と言うほどだった。
「そんな、彼女に賭けるんですか?」
それを聞いて、「ああ、そうだよ」と爺は言った。
男は話を続ける。
「だって彼女は実力も負けているじゃあありませんか。実力じゃあ勝てませんよ」
「そうだな、そうかもしれんな。でも勝てるよ」
爺の言葉は、はっきりとした自信があったのか、確信をもっていた。
爺はそう言うと、酒を一気飲みし、
「おい、店主! 焼酎くれ、焼酎!」
そう叫んだ。
「それで……賭ける材料は」
「そりゃあ……飲んだお金だろう。ちなみにわしはもう一万円以上飲んじまってる」
「こっちはまだ三千円くらいだ。ということは負けたほうが一万三千円+アルファということか」
爺は男の話を聞いてニヤリと笑った。
――食えない男だ。
男はそう思うと、テレビの画面に集中した。
結果、爺が賭けた選手が僅差の上、一位を手に入れた。
「それじゃあ、二万八千円はあんたのもんだ。ご馳走さんじゃな」
あのあと、爺は一万円分、男は五千円分飲んでいたので、合計二万八千円分を男が支払うことになる。男の財布は給料日前だったので、痛い打撃である。
「あの、」
爺が満足げな表情で帰ろうとしたその時、男は声をかけた。
「なんだ?」
「どうして……彼女が勝つって解ったんですか?」
「お前さん、わしに何て言ったか覚えているか?」
疑問を疑問で返され、男は少し怒りを覚えたが、爺は話を続けた。
「お前さんが賭けた方は実力は勝っていたよ。実力は……な」
それだけを言って、爺はスポーツバーを後にした。
そう言ってきたのはこのスポーツバーで飲んだくれている爺だった。その爺はふらふらと今にも倒れそうな老人だった。草臥れた服装だった。
ストレートをちびちびと飲んでいた男はそれを聞いて、ニヒルな笑みを浮かべる。
「いいですよ、何で賭けます?」
男の言葉を聞いて、爺は壁にあるテレビを指差した。
そこはフィギュアスケートが映っていた。男が酒を飲みながら見たかった、オリンピックのその競技だった。
「誰が一位を取るか、賭けようじゃあないか」
それを聞いて男は失笑した。
「そんな解りきったことを賭けるんですか?」
「ああ。あんたから言っていい」
「考えるまでもなく、あの子ですよ」
そう言って、男は指差した。
テレビには女性が映っていた。実力・知名度共にナンバーワン。主催国から出ている少女も「彼女を尊敬しています」と言うほどだった。
それを見て爺は「なるほど、なるほどなあ」と顎鬚をねじるだけだった。
「あなたは誰に賭けるんです?」
「わしはあの子だよ」
そう言って、爺は指差す。
テレビに映っていた女性は、先程男が賭けた女性と比べると実力があまり芳しくない選手だった。主催国から出ている少女も「彼女は今季一回しか勝っていない」と言うほどだった。
「そんな、彼女に賭けるんですか?」
それを聞いて、「ああ、そうだよ」と爺は言った。
男は話を続ける。
「だって彼女は実力も負けているじゃあありませんか。実力じゃあ勝てませんよ」
「そうだな、そうかもしれんな。でも勝てるよ」
爺の言葉は、はっきりとした自信があったのか、確信をもっていた。
爺はそう言うと、酒を一気飲みし、
「おい、店主! 焼酎くれ、焼酎!」
そう叫んだ。
「それで……賭ける材料は」
「そりゃあ……飲んだお金だろう。ちなみにわしはもう一万円以上飲んじまってる」
「こっちはまだ三千円くらいだ。ということは負けたほうが一万三千円+アルファということか」
爺は男の話を聞いてニヤリと笑った。
――食えない男だ。
男はそう思うと、テレビの画面に集中した。
結果、爺が賭けた選手が僅差の上、一位を手に入れた。
「それじゃあ、二万八千円はあんたのもんだ。ご馳走さんじゃな」
あのあと、爺は一万円分、男は五千円分飲んでいたので、合計二万八千円分を男が支払うことになる。男の財布は給料日前だったので、痛い打撃である。
「あの、」
爺が満足げな表情で帰ろうとしたその時、男は声をかけた。
「なんだ?」
「どうして……彼女が勝つって解ったんですか?」
「お前さん、わしに何て言ったか覚えているか?」
疑問を疑問で返され、男は少し怒りを覚えたが、爺は話を続けた。
「お前さんが賭けた方は実力は勝っていたよ。実力は……な」
それだけを言って、爺はスポーツバーを後にした。
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