ブレイブ!

桃楓

2

 ユリアはレイを追いかけた。時間を置いたせいで姿は全く見えない。キョロキョロと辺りを見渡しても、やっぱり姿は見えなかった。
(そういえば、レイさんヘッドホンしてたなっ!その音をたどれば、行けるんじゃない?)耳をすますと、少しだけ音が聞こえてきた。雑音も多い中でその音だけを辿る。
(ここは…?最初にレイさんに会った場所?)ユリアが音を辿って着いた先は『防魔室』だった。中をコッソリ覗くと、やっぱりレイがそこにいた。出会った時と全く同じで、何だか面白くなって1人で笑ってしまった。
「あのー、すみません。」ユリアがヘッドホンを外して呼びかけた。あの時と同じ様に驚いた表情を見せた。それがおかしくて、ユリアはクスクス笑った。
「あの時は、お世話になりました。お陰で、無事入学することが出来ました。」
「……」レイは黙って外を見つめたままだ。
「レイさん?」ユリアは不思議そうにもう一度問いかけた。
「…もしかして、テルが何か失礼な事しました?そうだよね!あいつ失礼だから。でも、根は優しくて良いやつだから、許してあげて下さい!」それでも、レイは黙っていた。
「テルとは全然違って、レイさんの妹のアスカちゃんも、良い人だね。このクラスで、始めて話しかけてくれたの。レイさんと一緒で、すごく優しかった。」
「…何が分かる…」そう言って、レイは持っていたヘッドホンをもう一度つけた。寂しそうな声…。ユリアにはレイの痛みが声を通して伝わる…胸が痛い。ユリアは、そのヘッドホンをまたはずして、レイのホッペを両手ではさみ、グッと顔を向けた。
「何も知らないかもしれないけど、あの時の優しいレイさんが、私の知ってるレイさんだよ!優しいって、感じた事、今でも間違えだなんて思わない。」
レイはユリアの手を振り払った。
「…言えるのかよ。」
「え?」レイは、ユリアを悲しそうな目で見つめた。
「あんたさ、全てを知っても、こんな風に近くに来れるのかよ?俺の過去に、何があったか…聞いても怖がらないのか?」声がかすれていた。ユリアは何も言わずに、レイを見つめた。
「どうせ、すぐに分かるだろうから、教える。俺は、悪魔族の中でもその力が強いんだ。この目、見れば分かるだろ。普通の悪魔族よりも、目が赤い。」
レイは、ユリアの目を見つめた。
「俺の中の悪魔が強いんだ。10年前、魔力を操れ無かった俺は…魔力を暴走させたんだ。」そう言って自分の手を見た。
「…止めに入った親友の両手を焼き尽くした。意識なんてなかった。気づいたら、青い炎がそいつの腕に巻きついていま。そいつは、その後俺の前から消えた。また、いつ魔力が暴走するかわからないんだ。」レイは開いていた手をグッと握った。
「だから、俺はこの防魔室にいる。ここは、魔法の実践研究する場所だから、暴走しても、俺だけしか被害が出ない。わかっただろ?もう俺には…」ユリアは、レイの手を握った。レイの辛い気持ち。痛み。全てがユリアの心に入ってきた。
 親友を失った辛さ。そうしてしまったのは自分だという、もどかしい自分に対する怒り。その感情がユリアの心を締め付ける。
「何で、あんたが泣くんだ?」レイに言われてハッとした。涙が溢れて止まらない。
「何でだろっ?わからないけど、怖くない。私は大丈夫。」ユリアはそれだけ言うと、レイを抱きしめた。レイは、ユリアの言葉に嘘は無いと何故か感じた。ユリアの言葉が胸に響いた。
 レイの目から、涙が一筋流れた。こんなに、心がほぐれたのは、いつぶりだろう。そんな事を、ユリアの胸で考えた。


    テルは救護室にシュウを連れて行った。シュウの怪我を見た先生が青ざめた。
「また、シュウが怪我したの?急いでそのベッドに寝かせて‼︎‼︎出血が多過ぎるわ。輸血の準備と、血圧計‼︎あと、天使族でも、成績優秀なこ!すぐ呼んで!」
救護室は一気にばたついた。テルとアスカは救護室の椅子に座って、そのようすをみた。
「そんな大事だったの?」アスカは呆然としていた
「当たり前だろ?教室の床が血まみれだったし、その状態で回復術つかってたし。…なぁ、シュウはいつもこんな感じなのか?」アスカはため息を付いた。
「そうなの。危なっかしいでしょ?」
「本当に。でも、嫌いじゃないな。まっすぐで、自分の意見曲げない奴。」テルは笑いながら言った。
「笑いごとじゃないわよ。あ、でもさっきはありがと。セイヤにケンカ売ってくれて。スッキリした!」
「ああ、てか、あんな奴にやり捨てされたん?」
「そうなの笑。でも、もう2年も前だし。今更気にもしてないけどね。」アスカは笑いながら話した 。
「へー、趣味悪いんだな。」
「うるさいなあ。趣味は悪くないわよ。見る目が無かっただけ。」
「あんたなら、もっと良いやついっぱいいそうだけど?」テルはさらっと言った。別に、口説こうとかそんな事を考えてるわけではなさそうだった。アスカはため息をついた。
「テル…あんたって、素でそれなの?モテるでしょ?」
「モテるよ。」笑いながら言うテルを見て、アスカはまたため息をついた。
「二人とも、シュウも大丈夫だから、戻っていいわよ。シュウはもう少し休ませてあげて。」救護室の先生はそう言って
ふたりを戻した。
「午後の授業って何だっけ?」
「午後は実技。」
「じゃあ、授業が終わったら、迎えに来ます。」テルはそう言うと、おじぎをして救護室を出た。

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